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    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    黒エルフの騎士団 10

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    スピンオフ、10話目。
    ミューズたちの逆襲。




    10.
     ミューズ一行が旧王城を訪れてから、一週間後。
    「……ん、がっ」
     現在の王となっていたペルシェの大叔父、アジム・ペルシャーナは妙な空気を感じ、目を覚ました。
    「うん……?」
     部屋中に、甘ったるい香りが漂っている。
    「この臭いは……」
     ふらりと起き上がり、燭台に火を灯す。と、床に煙を上げる何かが転がっているのが目に入る。
    「こ、これは……」
     アジムは近くにあったハサミで、それを拾い上げた。
    「なっ……」
     茶色いその塊を見て、アジムの顔から血の気が引いた。
    「な、何故こんなものがここに!? ……ひっ!?」
     良く見れば、寝室中にその塊が散らばっている。
    「だ、誰がこんな、……っ」
     アジムは大慌てで、その塊を捨てた。

     しかし、翌朝。
    「なっ……、ち、違う! わしはそんなもの、知りもしない!」
     現在対立していたアジムの息子(ペルシェにとっては従兄弟違)、サダトが兵士を引き連れ、目覚めたばかりの父を糾弾しに訪れた。
    「何を仰いますか! 執務室にも、おまけに父上専用の大浴場にまで、大麻樹脂がゴロゴロと出て参りました! これで吸っていないなどと、寝言を仰るおつもりか!」
    「何を言うか! わしはそんな、目に付く場所で吸ったりはせんわ! もっと別のところで……」
    「別のところで、……何ですか?」
    「……吸ってない! 吸ってないぞ!」
     語るに落ちたアジムに、サダトと兵士たちは侮蔑の表情を浮かべた。
    「これ以上の申し開きをなさりたいなら、弾劾裁判を開きましょう。そこできっちりと、己の潔白を証明なさい」
    「……く、う、うう」
     あっと言う間に、王は失脚した。



    「本当に、あなた方の仰る通りでございました」
     サダトは目の前に座っていたミューズ一行に、深々と頭を下げた。
    「いやいや、礼など……」
     ミューズたちは旧王城から一旦戻った後、情報収集を行った。
     そこで現在の王となっていたアジムと、その息子サダトが対立していたことを聞き、彼の協力を得ようと考え、訪問したのだ。
     初めは突然の訪問をいぶかしがっていたサダトだったが、ミューズから「アジムを失脚させるいい手がある」と提案され、それに乗ったのだ。
    「しかし何故、父上が大麻中毒と分かったのですか? 傍目には健康そうに見えていましたし、吸っている様子は見られなかったのですが……」
    「突然怒鳴り出したり、大騒ぎしたりする反面、極度に塞ぎこむことが度々あったと聞いています。恐らく、禁断症状による躁鬱状態の表れでは無いかと踏んでいました。
     相手に決定的な弱点があれば、それを徹底的に突くのが上策です」
     ちなみに麻薬を撒いたのは、ミューズの仕業である。
     アジムをうろたえさせられるだけの大麻樹脂は旧王城に腐るほど置いてあったし、罠にはめさえすれば、情緒不安定なアジムは必ずぼろを出すだろうと踏まえての行動だった。
    「なるほど。……ところで、聞いておきたいのですが。
     何故、私に協力を? あなた方にどのようなメリットがあるのか、さっぱり分からないのですが……」
     そこでミューズは、ペルシェに目配せする。
     ペルシェは意を決し、自分の出自と、これまでの経歴を明かした。
    「……それを信じろと?」
    「(信じる、信じないはお任せします。ただ私は、父上の無念を晴らしたいだけなのです。今さら、王族に復縁・復籍しようとは考えていません)」
    「(……なるほど。その言葉は、信じるとしましょう)」
     サダトは再度、ミューズの方に向き直った。
    「それで、もう一つ私に頼みたいことと言うのは……?」
    「はい。この島の西にある砂漠、それを大々的に調査していただきたいのです。
     名目は、『アジム国王が秘密裏に蓄えていた大麻樹脂の倉庫が存在する疑いがある。その真偽をはっきりさせるため』とでも。
     そして我々も、その調査に同行させていただきたいのです」



     これを聞いて焦ったのは、他ならぬハッシュ卿である。
     アジムが麻薬を手に入れたのは彼の持っていた販売ルートであるし――もっとも、そこを辿って行っても彼に行き着かないようには手配されているが――そもそも、現在のペルラ王国の貿易政策の陰に隠れて麻薬密売を行っていたのも、彼なのだ。
     当然、ペルラ島内に蓄えている麻薬も彼の管理下にある。これらが明らかにされれば、彼は失脚しないまでも、莫大な損害を被るのは明らかだった。
     しかし、調査をやめさせるわけにも行かない。前王が行方不明になって棚ぼた的に王位に就いたアジムの評判は元々からあまり良くなかった上に、今回の騒ぎである。世論的にも「調査を行うべき」「王の不正を正すべき」と言う声は非常に高まっていたし、それを自分一人だけが異を唱えては、露骨に怪しくなる。

    「……そうなると、ハッシュ卿の取る行動は一つ。
     何が何でも調査団に参加し、証拠を揉み消そうとするだろう」
    「そうさせないためにー、あたしたちが一緒に行動するんだねー」
     ペルシェの言葉に、ミューズはニヤリと笑った。
    「いいや。……我々の目の前で、醜態をさらしてもらうためさ」
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