「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第7部
蒼天剣・風来録 2
晴奈の話、第408話。
もう一人の女傑。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「……それで、そいつは?」
砦の主、日上風――フーは、私室の豪奢な椅子で斜に構えたまま、青ざめた顔のハインツに尋ねた。
「はっ……。何と言うか、その、……吾輩ではまったく歯が立ちませんで」
「そうか。で、今は?」
「まだ困惑しておりますが、取り急ぎ、こちらに伺った次第でして。まったく、面目ない」
「あのな」
フーはハインツをにらみつけ、いらだたしげに尋ね直した。
「お前のことなんか知ったこっちゃねーんだよ。そいつが、今、どこにいるのか、って聞いてんだよ」
「あ、しっ、失礼しました! ……その、ともかく砦に連行し、現在1階の、食堂に」
「そうか。分かった」
フーは恐縮するハインツを尻目に、食堂へと向かった。
フーが食堂の扉を開けた途端、ざわざわと騒ぐ兵士たちの姿が視界に入る。
「本当に海から?」
「そう言ってるじゃない、しつこいわね」
「シュトルム中尉を倒すなんて、アンタ何者だ?」
「ノーコメント」
「なーなー、顔見せてくれよー」
「イヤ」
「何でそんな仮面かぶってんだ」
「ノーコメント」
「さっきからそればっかりだなぁ」
「何で私がアンタたちの質問に、一々真面目に答えなくちゃいけないのよ?」
フーは兵士たちと女のやり取りをじっと見ていたが、一向に収まる気配が無いので大声を出してさえぎった。
「お前ら、邪魔だッ! さっさとどけッ!」
「あっ、か、閣下!」
「し、失礼いたしました!」
兵士たちはフーの姿を確認するなり、バタバタと食堂から出て行った。
「やれやれ……」
人払いをしたところで、フーは女の前に座った。フーの服装と徽章を見て、女が声をかける。
「あなたが、フー・ヒノカミ中佐?」
「そうだ。……いくつか質問させてもらうぜ。まず、お前の名前は?」
「巴景よ。トモエ・ホウドウ」
「央南人なのか?」
「ええ。あなたも血を引いていると聞いたけど」
「そうだ。生まれも育ちも、北方だけどな」
フーは巴景の仮面をじっと眺め、尋ねてみる。
「仮面、取らないのか?」
「ええ。閣下さんの前で悪いけれど、昔大ケガをしてしまったのよ。その跡がまだ、残っているから」
「取らなきゃ美人かどうか分かんねーなぁ……」
女好きのフーは、ひょいと仮面に手を伸ばそうとする。だがその手を、巴景につかまれた。
「ん……?」
振りほどこうとしたが、異様に力が強く、離れない。
「お前、本当に女か? 力、すげえ強えな……?」
「ええ。正真正銘、女性よ。この腕力は、修行と魔術の賜物」
「……へぇ。まんざら、海を歩いて渡ったってのも嘘じゃなさそうだな」
フーは巴景の体を上から下に、なめるように眺める。
「コート、脱げよ」
「イヤよ。寒いもの」
「あ、そうだな。ずっと吹雪の中、歩いてきたんだからそりゃ、凍えてるよな。……俺が暖めてやろうか?」
「あなた、女を枕か何かだと思ってない? お生憎様、私はそんなつもりであなたに会いに来たんじゃないのよ」
「……って言うと?」
巴景はフーから手を離し、立ち上がった。
「私は武者修行をしているの。それでこの戦争で直接戦ってるこの軍閥を率いている閣下さんに、傭兵として雇ってもらおうと思ってね」
「へぇ……?」
好奇の目で巴景を見ていたフーは、今度は品定めをするように注意深い目を向けた。
「腕は……、確かだろうな。
さっきお前が倒した奴、あれは俺の側近だ。この砦内でも有数の実力を持ってたんだが……」
「あの程度で?」
鼻で笑った巴景に、フーも苦笑して返す。
「まあ、そう言ってやるなよ。……それで、だ。お前はそれよりも、確かに強い。
よし、採用だ」
フーの言葉を受け、巴景は小さく頭を下げかけた。
「よろしく……」「待て待て待てぇーい!」
ドタドタと足音を立てて、何者かが食堂に飛び込んできた。
「ハインツか? 何の用だ?」
フーはうざったそうに振り返り、ゼェゼェと荒い息を立てるハインツに目を向けた。
「その女の採用、異議申し立てます!」
「は?」
「先程は吾輩の不覚によって、押し切られる形となってしまいました、がっ!」
ハインツはゴツゴツと足音を立てて、巴景の前に立つ。
「正面から正々堂々戦えば、この吾輩が負けることなど万に一つもありません! この女は不意打ちで勝ったに過ぎません! 不意打ちで勝つなど、騎士道にあるまじき……」「あ?」
唾を散らして言い訳するハインツに、フーは斜に構えてにらみつける。
「お前、頭がマヌケか?」
「なっ……」
「戦場のど真ん中で同じこと言ってみろよ。お前みたいな馬鹿、一瞬で蜂の巣だぞ?」
「いやいや、それはありません!」
ブルブルと首を振るハインツの態度に、フーは呆れ返った。
「お前なぁ……。ま、いいか。
そんなにギャーギャー言うなら、戦ってみろよ」
「……むっ?」
「このトモエ・ホウドウって女武芸者と戦って、正々堂々となら勝てるってことを証明してみろよ」
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「……それで、そいつは?」
砦の主、日上風――フーは、私室の豪奢な椅子で斜に構えたまま、青ざめた顔のハインツに尋ねた。
「はっ……。何と言うか、その、……吾輩ではまったく歯が立ちませんで」
「そうか。で、今は?」
「まだ困惑しておりますが、取り急ぎ、こちらに伺った次第でして。まったく、面目ない」
「あのな」
フーはハインツをにらみつけ、いらだたしげに尋ね直した。
「お前のことなんか知ったこっちゃねーんだよ。そいつが、今、どこにいるのか、って聞いてんだよ」
「あ、しっ、失礼しました! ……その、ともかく砦に連行し、現在1階の、食堂に」
「そうか。分かった」
フーは恐縮するハインツを尻目に、食堂へと向かった。
フーが食堂の扉を開けた途端、ざわざわと騒ぐ兵士たちの姿が視界に入る。
「本当に海から?」
「そう言ってるじゃない、しつこいわね」
「シュトルム中尉を倒すなんて、アンタ何者だ?」
「ノーコメント」
「なーなー、顔見せてくれよー」
「イヤ」
「何でそんな仮面かぶってんだ」
「ノーコメント」
「さっきからそればっかりだなぁ」
「何で私がアンタたちの質問に、一々真面目に答えなくちゃいけないのよ?」
フーは兵士たちと女のやり取りをじっと見ていたが、一向に収まる気配が無いので大声を出してさえぎった。
「お前ら、邪魔だッ! さっさとどけッ!」
「あっ、か、閣下!」
「し、失礼いたしました!」
兵士たちはフーの姿を確認するなり、バタバタと食堂から出て行った。
「やれやれ……」
人払いをしたところで、フーは女の前に座った。フーの服装と徽章を見て、女が声をかける。
「あなたが、フー・ヒノカミ中佐?」
「そうだ。……いくつか質問させてもらうぜ。まず、お前の名前は?」
「巴景よ。トモエ・ホウドウ」
「央南人なのか?」
「ええ。あなたも血を引いていると聞いたけど」
「そうだ。生まれも育ちも、北方だけどな」
フーは巴景の仮面をじっと眺め、尋ねてみる。
「仮面、取らないのか?」
「ええ。閣下さんの前で悪いけれど、昔大ケガをしてしまったのよ。その跡がまだ、残っているから」
「取らなきゃ美人かどうか分かんねーなぁ……」
女好きのフーは、ひょいと仮面に手を伸ばそうとする。だがその手を、巴景につかまれた。
「ん……?」
振りほどこうとしたが、異様に力が強く、離れない。
「お前、本当に女か? 力、すげえ強えな……?」
「ええ。正真正銘、女性よ。この腕力は、修行と魔術の賜物」
「……へぇ。まんざら、海を歩いて渡ったってのも嘘じゃなさそうだな」
フーは巴景の体を上から下に、なめるように眺める。
「コート、脱げよ」
「イヤよ。寒いもの」
「あ、そうだな。ずっと吹雪の中、歩いてきたんだからそりゃ、凍えてるよな。……俺が暖めてやろうか?」
「あなた、女を枕か何かだと思ってない? お生憎様、私はそんなつもりであなたに会いに来たんじゃないのよ」
「……って言うと?」
巴景はフーから手を離し、立ち上がった。
「私は武者修行をしているの。それでこの戦争で直接戦ってるこの軍閥を率いている閣下さんに、傭兵として雇ってもらおうと思ってね」
「へぇ……?」
好奇の目で巴景を見ていたフーは、今度は品定めをするように注意深い目を向けた。
「腕は……、確かだろうな。
さっきお前が倒した奴、あれは俺の側近だ。この砦内でも有数の実力を持ってたんだが……」
「あの程度で?」
鼻で笑った巴景に、フーも苦笑して返す。
「まあ、そう言ってやるなよ。……それで、だ。お前はそれよりも、確かに強い。
よし、採用だ」
フーの言葉を受け、巴景は小さく頭を下げかけた。
「よろしく……」「待て待て待てぇーい!」
ドタドタと足音を立てて、何者かが食堂に飛び込んできた。
「ハインツか? 何の用だ?」
フーはうざったそうに振り返り、ゼェゼェと荒い息を立てるハインツに目を向けた。
「その女の採用、異議申し立てます!」
「は?」
「先程は吾輩の不覚によって、押し切られる形となってしまいました、がっ!」
ハインツはゴツゴツと足音を立てて、巴景の前に立つ。
「正面から正々堂々戦えば、この吾輩が負けることなど万に一つもありません! この女は不意打ちで勝ったに過ぎません! 不意打ちで勝つなど、騎士道にあるまじき……」「あ?」
唾を散らして言い訳するハインツに、フーは斜に構えてにらみつける。
「お前、頭がマヌケか?」
「なっ……」
「戦場のど真ん中で同じこと言ってみろよ。お前みたいな馬鹿、一瞬で蜂の巣だぞ?」
「いやいや、それはありません!」
ブルブルと首を振るハインツの態度に、フーは呆れ返った。
「お前なぁ……。ま、いいか。
そんなにギャーギャー言うなら、戦ってみろよ」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
特にほかの理由は無く、本当に自分の疵顔が嫌いだからですね。
因縁の相手に付けられた、屈辱的な傷ですし。
見られるのも話題にされるのも、心底嫌なんだと思います。
素顔を晒すくらいなら、仮面を付けてた方がマシ、
というくらいに考えてるんでしょう。
因縁の相手に付けられた、屈辱的な傷ですし。
見られるのも話題にされるのも、心底嫌なんだと思います。
素顔を晒すくらいなら、仮面を付けてた方がマシ、
というくらいに考えてるんでしょう。
NoTitle
逆に仮面をつけているほうが目立つような・・・。
・・・というツッコミはなしですね。
実は怪我でなくて別の理由で隠している!!!・・・なんてこともあるんでしょうか。
・・・というツッコミはなしですね。
実は怪我でなくて別の理由で隠している!!!・・・なんてこともあるんでしょうか。
- #1627 LandM
- URL
- 2013.05/22 18:39
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