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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第7部

    蒼天剣・風来録 4

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    晴奈の話、第410話。
    したたかな剣姫。

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    4.
     ウインドフォートに来てから3日が経ち、巴景は側近の一人と仲良くなった。
    「それでですねぇ、そのお店のタルトが本当に美味しくてぇ……」
     ハインツと闘った時に審判を勤めた、あの紫髪の短耳である。名前はミラ・トラックス。水と土を得意とする魔術師である。
    「へぇ……」
     おっとりした性格を裏付けるかのように、彼女の体型もややふっくらしている。とは言え――。
    「良くそれだけ食べて、……そこだけしか太らないわね」
    「えへへ、よく言われますぅ」
     ミラは話題に上った胸をぽよ、と隠す。晴奈同様――こう比較されるのも、彼女にとっては不愉快だろうが――巴景もそれほど魅力的な体型ではないので、その仕草は多少イラつかせるものがあったが、それを態度には出さない。
    「ねぇ、今度一緒に行きましょうよぉ、トモエさぁん」
    「ええ、機会があれば是非、ね」
     巴景はいかにも「共感した」「興味を持った」と言う口ぶりで、ミラに応えた。

     巴景はこうした点において、非常にしたたかで狡猾な面を見せる。
     本来の楓藤巴景と言う人物の性格は、一言で言うなら「唯我独尊」である。自分の身、自分の利益がいつ、いかなる時においても最優先であり、他人への興味や情など、無いも同然である。
     フーのことは「閣下」と敬称で呼んではいるが、内心では「粗暴でスケベなクズ」と見下しているし、他の側近にもまったく敬意を抱いていない。今、目の前にいるミラに対しても、「とろくさい胸デブ」としか思っていない。
     だが、巴景はそんな感情をまったく、表に出したりはしない。出せば嫌われることを、十二分に理解しているからだ。勿論、巴景個人は他人からどう思われようと知ったことではないし、気にも留めない。嫌われたところで、それ自体は構わないのだ。
     しかし緊急時――例えば、実力が拮抗した者との死闘を続け、疲弊しきったところで、自分に悪感情を抱く味方がその場に現れた時など――味方が寝返るかも知れないし、見て見ぬ振りをする可能性もある。そうなれば、自分は決定的な逆境に立たされることになる。
     極限状態で「嫌われる」ことは、即ち死を意味する。

     が――逆にその極限状態で「好かれて」いれば、どうだろうか?
    「それにしてもぉ、トモエさんってぇ、もっと怖い人かなって思ってましたぁ」
    「あら、そう?」
    「はぁい、あ、でもですねぇ、今はいい人だと思ってますよぉ」
    「ふふ、ありがと」
     ミラは嬉しそうな笑顔を、巴景に向けてくる。
    「良かったらまた、お茶しましょぉ?」
    「ええ、今度は私が誘うわね。……それじゃ、今日はこの辺で」
     巴景が席を立ったところで、ミラはまた人懐こい笑顔になった。
    「はぁい、またよろしくですぅ」
     その笑顔を見て、巴景は仮面の裏でほくそ笑んでいた。
    (コイツも私の味方――『駒』、ね。
     ……ふふ、ふ。コイツもバカよね。私が『いい人』のわけないじゃない)



     こんな風にして、巴景は着実に砦内での味方を増やしていった。とは言え、(今のところ)己の主人であるフーにたてついたりも、反目したりもしない。
    「よお、トモエ。最近、調子乗って……」「ええ、調子は上々ですよ」
     巴景の人気が高まっていることに不安を覚えたらしいフーが探りを入れようとする前に、巴景は口を挟んだ。
    「お、おう。そっか」
    「閣下には非常に感謝しております。私のような余所者にこんな活躍の機会を与えてくださった恩、必ずや次の戦いで報いて見せます」
    「……うん。なら、まあ、……いいや。じゃ、頑張ってくれ」
    「はい」
     出鼻をくじかれ、口を開く間も与えられずに忠誠の言葉を聞かされたフーは、そのまま帰ってしまった。
    (余計な勘繰りしてんじゃないわよ。アンタは戦争のことだけ考えてりゃいいのよ)
     フーをやんわりと追い返した巴景は、仮面の裏で彼の背中をにらみつけていた。

     と――。
    「私をだませると思うな、ホウドウ」
     まったく気配を感じなかった背後から、低い男の声がかけられた。
    「……!?」
     振り向いた先には、フーの参謀であるフードの男、アランが立っていた。
    「な、……コホン。何のことかしら?」
    「独りになった途端、邪心を浮かべたな?」
    「さあ?」
     巴景はごまかすが、アランの追及は続く。
    「いいか、出し抜こうなどとは考えるな」
    「だから、何のこと? 変な邪推はやめてほしいわね」
    「……ふん」
     アランはそれ以上何も言わず、巴景の前から姿を消した。
    「……」
     アランの姿が見えなくなったところで、巴景の額に汗が浮き出す。
    (何なの……? 気配がまったく無いなんて、あいつは、……人間なの? この私が、欠片も気配を感じられないなんて)
     巴景は戦慄していたが、その様子も分厚い仮面に隠されていた。



     中央政府との戦闘再開まで、後二ヶ月を切っていた。

    蒼天剣・風来録 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    巴景とナミ、確かに気が合いそうですが、一方で、ものっすごく対立しそうな気も。
    この二人でギャンブルをしたら、それだけで権謀術数、陰謀と野心の渦巻く、スペクタクルなお話ができそうですね。

    NoTitle 

    トモエちゃん、うちのナミと思考パターンが似てる、とも思いましたが、「他人をある程度自分が操作できる駒と見る」かと、「他人を、決定的なところで自分には制御できないもののある程度行動パターンを予測できる不確定要素」と見るかで決定的な違いがありますな。要するにトモエちゃんは「自分で事態をコントロール」しようとする能動的な人物なのに対し、うちのナミは「ランダムに飛び回っている隕石をどう軌道予測して避け、そこかしこに落ちているコインを得るか」みたいなゲームをしているやつではないかと。

    でももし出会ったとしたら話は合いそうであります(笑)

    まあまだここまでしか読んでいないので感想は今後修正されると思いますけど(^^;)
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