「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第7部
蒼天剣・風評録 2
晴奈の話、第412話。
おっとり&のっそり。
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2.
うわさ好きの住民が集まるこの街では、情報を集めるのもたやすい。
が、その真偽となると話は別である。
「アラン・グレイ参謀? ……ああ、あのフードの。ええ、……まあ、ここだけの話ですけどね、側近の皆さん、嫌ってるみたいですよ。
何でって? うーん、嫌味が多いとか、人の都合を考えないとか、ま、よくあるヤな上司の典型みたいな人みたいだから、嫌われるのも当然じゃないんですか?」
誰に聞いても、ここまでは皆、異口同音に答えてくれる。
「なるほど……。それじゃ、もう一つ質問なんだけど。グレイ参謀って、どこの人なのかしら?」
「え、……うーん、さあ?」
ところが彼の出自や個人情報となると、突然情報が途絶えてしまう。
「北方人じゃないの?」
「そうかも知れませんけど、何しろ顔を見たことが無いし」
「うわさじゃあの人、人間じゃないって」
「うんうん、聞いたことあるよー」
「ええ、悪魔とか何とか言う人もいますしね」
聞いた話のどれもが根拠の無い、信憑性に欠ける情報ばかりであり、1週間かけて情報収集を行ってもなお、アランの素性はまるで判明しなかった。
しかし、その性格と評判については十分過ぎるほど情報が集まった。誰も彼も、口を揃えてこう言っていたからである。
「自分の主君も含めて、すべての人間を見下している、すごく嫌な奴」
巴景はアランに取り入ることを諦めた。
アランが非常に冷徹、排他的で、結局他人を利用しようとしか考えていないことが分かり、取り入ったところで、特にメリットが無さそうだったからである。
(でも、……逆にアリね、こう言う奴も)
誰からも嫌われる権力者――他人の信用を集めるには、非常に利用できる人材だった。
巴景は側近たちの元を訪れ、友好関係を築くことにした。
「こんにちは、バリー」
「あ、……ども」
手始めに訪ねたのは、ミラのサポート役をしている寡黙な熊獣人、バリー・ブライアン軍曹。
この時も都合のいいことに、ミラが彼の横にいた。
「あれぇ、トモエさんじゃないですかぁ」
「こんにちは、ミラ」
「どしたんですかぁ?」
「ええ、……そうね、あなたを探してたの」
「ふぇ? アタシですかぁ?」
とっさに口実を作り、自然な会話に持って行く。
「ええ。ほら、この前言ってた喫茶店。あそこ、行ってみたいなって」
「あ、そうですねぇ。ちょうど今日、アタシ暇だったんで、行っちゃいましょうかぁ」
「ええ、お願いね。そうだ、バリーも行かない?」
「俺? えっと、喫茶店、に?」
話を振られ、バリーは目を白黒させている。
「ええ。一度、あなたともお話してみたいと思ってたんだけど。何か予定、あった?」
「え、いや、ない、けど」
「それなら行きましょう、ね? 三人の方が、話も弾むし」
「あ、う、うん、分かった」
バリーは困惑した顔をしながらも、小さくうなずいた。
喫茶店に場所を移したところで、巴景は話を切り出した。
「ねえ、ミラ、バリー。私のこと、どう思う?」
「え?」
「いきなり、どしたんですかぁ?」
巴景は声を落とし、やや悲しげな口調を作る。
「実はね、グレイ参謀から疑いを掛けられてるみたいなの」
「えぇ?」
人のいいミラは、それを聞いて悲しそうな顔になる。
「そんな、ひどい……」
「きっと私が外国人だからね。中央のスパイとでも思ってるんじゃないかしら」
「そんなわけないじゃないですかぁ……。央北と央南じゃ、全然別のところだし」
ミラは明らかに、巴景の話に憤慨してくれている。巴景は内心ほくそ笑みながら、依然悲しそうな口調は崩さない。
「そう言ってくれて嬉しいわ。でも、みんなはそう思ってくれないかも知れないわ」
「そんなコトないですよぉ。アタシ、トモエさんはいい人だって分かってますもん」
「ありがとね、ミラ」
巴景は仮面の端から見える口をわずかに曲げ、嬉しそうな笑みを二人に見せた。それを見たミラは、ますます優しく接してくる。
「もし何かあっても、アタシはトモエさんの味方ですからね。ねぇ、バリー?」
「え?」
ぼんやりと話を聞いていたバリーは目を丸くし、ミラと巴景の顔を交互に見る。
「バリーも、トモエさんの味方ですよねぇ?」
「あ、え、……うん。味方だ」
困った顔をしつつも、バリーはうなずいた。
(よし……。やっぱり、バリーはミラに流されてるわね。ミラを抱き込んでおけばきっと、コイツは私に協力するわ)
その後2時間ほど、巴景は二人とじっくり歓談し、ミラと、そしてミラに付いているバリーの友好関係、信頼を築いた。
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うわさ好きの住民が集まるこの街では、情報を集めるのもたやすい。
が、その真偽となると話は別である。
「アラン・グレイ参謀? ……ああ、あのフードの。ええ、……まあ、ここだけの話ですけどね、側近の皆さん、嫌ってるみたいですよ。
何でって? うーん、嫌味が多いとか、人の都合を考えないとか、ま、よくあるヤな上司の典型みたいな人みたいだから、嫌われるのも当然じゃないんですか?」
誰に聞いても、ここまでは皆、異口同音に答えてくれる。
「なるほど……。それじゃ、もう一つ質問なんだけど。グレイ参謀って、どこの人なのかしら?」
「え、……うーん、さあ?」
ところが彼の出自や個人情報となると、突然情報が途絶えてしまう。
「北方人じゃないの?」
「そうかも知れませんけど、何しろ顔を見たことが無いし」
「うわさじゃあの人、人間じゃないって」
「うんうん、聞いたことあるよー」
「ええ、悪魔とか何とか言う人もいますしね」
聞いた話のどれもが根拠の無い、信憑性に欠ける情報ばかりであり、1週間かけて情報収集を行ってもなお、アランの素性はまるで判明しなかった。
しかし、その性格と評判については十分過ぎるほど情報が集まった。誰も彼も、口を揃えてこう言っていたからである。
「自分の主君も含めて、すべての人間を見下している、すごく嫌な奴」
巴景はアランに取り入ることを諦めた。
アランが非常に冷徹、排他的で、結局他人を利用しようとしか考えていないことが分かり、取り入ったところで、特にメリットが無さそうだったからである。
(でも、……逆にアリね、こう言う奴も)
誰からも嫌われる権力者――他人の信用を集めるには、非常に利用できる人材だった。
巴景は側近たちの元を訪れ、友好関係を築くことにした。
「こんにちは、バリー」
「あ、……ども」
手始めに訪ねたのは、ミラのサポート役をしている寡黙な熊獣人、バリー・ブライアン軍曹。
この時も都合のいいことに、ミラが彼の横にいた。
「あれぇ、トモエさんじゃないですかぁ」
「こんにちは、ミラ」
「どしたんですかぁ?」
「ええ、……そうね、あなたを探してたの」
「ふぇ? アタシですかぁ?」
とっさに口実を作り、自然な会話に持って行く。
「ええ。ほら、この前言ってた喫茶店。あそこ、行ってみたいなって」
「あ、そうですねぇ。ちょうど今日、アタシ暇だったんで、行っちゃいましょうかぁ」
「ええ、お願いね。そうだ、バリーも行かない?」
「俺? えっと、喫茶店、に?」
話を振られ、バリーは目を白黒させている。
「ええ。一度、あなたともお話してみたいと思ってたんだけど。何か予定、あった?」
「え、いや、ない、けど」
「それなら行きましょう、ね? 三人の方が、話も弾むし」
「あ、う、うん、分かった」
バリーは困惑した顔をしながらも、小さくうなずいた。
喫茶店に場所を移したところで、巴景は話を切り出した。
「ねえ、ミラ、バリー。私のこと、どう思う?」
「え?」
「いきなり、どしたんですかぁ?」
巴景は声を落とし、やや悲しげな口調を作る。
「実はね、グレイ参謀から疑いを掛けられてるみたいなの」
「えぇ?」
人のいいミラは、それを聞いて悲しそうな顔になる。
「そんな、ひどい……」
「きっと私が外国人だからね。中央のスパイとでも思ってるんじゃないかしら」
「そんなわけないじゃないですかぁ……。央北と央南じゃ、全然別のところだし」
ミラは明らかに、巴景の話に憤慨してくれている。巴景は内心ほくそ笑みながら、依然悲しそうな口調は崩さない。
「そう言ってくれて嬉しいわ。でも、みんなはそう思ってくれないかも知れないわ」
「そんなコトないですよぉ。アタシ、トモエさんはいい人だって分かってますもん」
「ありがとね、ミラ」
巴景は仮面の端から見える口をわずかに曲げ、嬉しそうな笑みを二人に見せた。それを見たミラは、ますます優しく接してくる。
「もし何かあっても、アタシはトモエさんの味方ですからね。ねぇ、バリー?」
「え?」
ぼんやりと話を聞いていたバリーは目を丸くし、ミラと巴景の顔を交互に見る。
「バリーも、トモエさんの味方ですよねぇ?」
「あ、え、……うん。味方だ」
困った顔をしつつも、バリーはうなずいた。
(よし……。やっぱり、バリーはミラに流されてるわね。ミラを抱き込んでおけばきっと、コイツは私に協力するわ)
その後2時間ほど、巴景は二人とじっくり歓談し、ミラと、そしてミラに付いているバリーの友好関係、信頼を築いた。
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