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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第7部

    蒼天剣・風評録 3

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    晴奈の話、第413話。
    ギャンブラー、トモちゃん。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     続いて巴景は、来訪してすぐに痛めつけた側近、ハインツ中尉の所を訪れた。
    「ふむ、では吾輩は雷と土の5、それから水の6と氷の6で2ペアだ」
    「へっへ、じゃ俺の勝ちだ。こっちは3、4、5、6、7でストレート」
    「うぬっ……」
     ハインツは食堂で狐獣人の男とカードゲームに興じていた。と、その狐獣人が巴景に気付いた。
    「お。仮面女だぜ、ハインツの旦那」
    「何? ……ぬう、貴様は」
     ハインツは巴景を見た途端、不機嫌そうに額にシワを寄せる。
    「何の用だ?」
    「ええ、少し謝らなくちゃと思って」
    「……何だと?」
     巴景はぺこりと頭を下げ、ハインツに謝罪の言葉をかけた。
    「あなたのおかげでこの砦に入れたのに、ずっとお礼もしなくて。ごめんなさいね」
    「あ、う、うむ」
     下手に出られ、ハインツの怒りは行き先を失ったらしい。複雑な表情を浮かべ、ぎこちなくうなずいている。
    「あの、もし良かったらこれ、どうぞ」
    「む……?」
     巴景は先程喫茶店で購入したケーキを、ハインツに渡す。
    「む、む、これは……」
    「おわび、……って言ってしまうのはおこがましいけれど、せめてこれくらいはしないと、と思って。嫌いだったかしら、甘いもの」
    「あ、いや。……うむ、喜んでいただくとしよう」
     横で二人のやり取りを見ていた狐獣人が、呆れた顔で煙草をふかす。
    「鼻の下伸びてんぜ、ハインツの旦那」
    「うっ? ……いやいや、失敬」
    「そんでさトモちゃん、俺には何かないの?」
     巴景は口元をにっこりと曲げて、その狐獣人――こちらもバリー同様、ハインツのサポート役で、ルドルフ・ブリッツェン准尉と言う――に包みを渡した。
    「ええ、会った時に渡そうと思ったんだけど、丁度良かったわ。はい、これ」
    「お、ありがとよ。……でも旦那のに比べりゃ、ちっちぇえな」
    「ええ。ハインツさんにはおわびも込めて、だから」
    「そか。……じゃ、俺もオイタしてもらおっかなぁ、へへっ」
     ニタニタ笑うルドルフに向かって、巴景はクスクスと愛想笑いをしてやる。
    「まあ、ご冗談。……ところで、ゲーム中だったみたいね。私も混ぜてもらっていいかしら?」
    「ん? いいぜ。トモちゃん、ルール分かるか?」
    「ええ。ポーカーでしょ?」
    「知ってるみたいだな。んじゃ、軽くやりますか、っと」

     ルドルフはカードを切り、席に付いた巴景とハインツ、それから自分に配る。
    「あ、そう言えばどうする? 賭けるか?」
    「ええ、その方が面白いでしょう?」
    「いいねぇ、いいノリだ。……よし、それじゃチェック」
     ルドルフのかけ声に合わせ、ハインツと巴景は配られた手札を見る。
    (火の4、水の4、雷の6と7、それと風の5。……どうしようかしら?)
     ハインツはいつも通りのしかめっ面をしている。どうやらあまり手は良くないらしい。対して、ルドルフはニヤニヤしている。そこそこいい手が入っているようだ。
    (ワンペアとか、そんな安い手じゃ無さそうね。さっきもストレート出してたみたいだし。……となると、ワンペアじゃ多分負けるわね)
    「むう……、3枚チェンジだ」
     ハインツがカードを捨てる。
    (あら……。雷の4と8、それと水の3ね。確率としては、4のスリーカードとストレート、それから雷のフラッシュは出にくくなりそうね)
    「トモちゃん、アンタの番だぜ。捨てるか?」
     ルドルフが依然、ニヤニヤしながら尋ねてくる。
    「そうね……」
     相槌を打ちながら、巴景はカードを捨てるかどうか考える。
    (ま、勝負すること自体は問題じゃないし、適当でいいわ)
    「ええ、3枚交換で」
     巴景は「4」以外のカードを捨てた。
    「ほい、3枚と」
     ルドルフがカードを渡す。
    「俺はこのまんまで行くぜ。……それじゃ、セット」
     どうやらルドルフは相当の好手らしい。交換せず、そのまま勝負に出た。
    「吾輩は……、ううむ……」
     逆に、ハインツは3枚交換したにもかかわらず、手は良くないらしい。
    「……ドロップ」
     ハインツはカードを机に置き、銀貨を1枚出した。これは勝負を降りた時の罰金、100ステラ――北方大陸で使われる通貨――である。
    「トモちゃんは?」
    「セット。賭けさせてもらうわ、100ステラ」
     巴景も銀貨を1枚出した。
    「よっしゃ。じゃ俺は300ステラで。……オープン」
     ルドルフが見せたカードは火と氷の2、そして雷と土、風の9――フルハウスである。
    「んでトモちゃん、アンタは?」
    「……ふふっ」
     巴景もカードを開ける。
    「火の4、氷の4、水の4、風の4、あと氷の8。フォーカードよ」
    「あちゃ、負けたぁ……」
     ルドルフは天井を仰ぎ見て、銀貨を3枚机に投げ出した。



     ここでも、晴奈に対抗心を燃やしているのか――勝負運も、巴景は強かった。結局、巴景は1500ステラの大勝を収めた。
     さらにこの二人との仲も円満にすることができ、巴景の「下準備」も着々と進んでいた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    また出た地域通貨。
    1クラム(基軸通貨)=10ステラ(北方通貨)くらいです。
    164話目で言っていたレートで換算すると、
    巴景はそこそこ搾り取ったようです。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.09.25 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    こっちのポーカー、使ってるカードからして違いますからねぇ。
    (カード自体についての説明は『火紅狐』参照のこと)
    基本ルールとしては、
    ①プレイヤーに5枚配る
    ②カードを交換(1回のみ、5枚まで)するか選択
    ③勝負する場合は賭金を積む、しない場合は罰金支払い
    ④カードを見せ合い勝敗を確認、勝ったプレイヤーが賭金と罰金を総取り
    仲間内でゆるーくやるギャンブルなので、このくらいの簡単ルールです。

    トモちゃんは大体負けず嫌いで、自分を上位に見せたがるタイプ。
    サマをやっていても不思議はないですね。

    NoTitle 

    ポーカーいうのは「配られた時点」でまず一回目のベットが行われるのですが、こちらのポーカーは違うようですな。

    それにしてもフォーカードとは……トモエちゃん、サマをやったな(^^) 強運がついているならここまで不幸になるわけないし(^^)
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