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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第7部

    蒼天剣・風評録 4

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    晴奈の話、第414話。
    ちっちゃい姐さん。

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    4.
     ミラ、バリー、ハインツ、ルドルフの4人と仲良くなった後も、さらに巴景は懐柔を続けた。
     今度は兎獣人の魔術師、ドール・ホーランド大尉。何でもフーの、北方における最近の「お気に入り」だと言う。

     会ってみた巴景は、内心「なるほど」と納得した。
    「アナタが最近ウワサのサムライさん? へー、……ふーん」
     ドールは少女かと見紛うほど背が低かったが、どう考えても子供ではなかった。なぜなら非常に魅力的な体型と仕草をしており――同性の巴景でさえ、その妖艶さに一瞬目を奪われた――その声も、非常になまめかしかった。
    「ヒノカミ君、女だから雇ったってワケじゃなさそうね」
    「ええ。紛れもなく、剣の腕で、よ」
    「そのようね。仮面と厚着で隠れてるケド、何か強そうな雰囲気があるもの」
     ドールはにっこり笑って巴景に握手を求める。巴景もそれに応じ、彼女の手を握った。
     するとドールは、「あら?」と小さくつぶやいた。
    「……? どうかしたの?」
    「いえ……。ねえアナタ、魔術も使えるの?」
     そう問われ、巴景は素直にうなずく。
    「ええ。風の魔術剣を、ね」
    「それだけ? ホントに?」
     何故か、ドールは疑い深そうに見上げてくる。
    「どう言う意味かしら?」
    「風の魔術だけ、って感じがしないわ、アナタの雰囲気が。他に何か……、誰も知らないよーなモノも、使えるんじゃない?」
    「……」
     鋭く指摘され、巴景は一瞬戸惑った。
    (強化術のことを言ってるのかしら? ……そうね、あの術は間違いなく、殺刹峰以外の人間は知る由も無い術のはず。
     ……でも、それをこの女に言うメリットがあるかしら?)
     言えば恐らく、フーと親しいドールはこのことを話すだろう。そこでフーが「頼もしいな」と思ってくれれば巴景にとってプラスになるが、「怪しい術を使う……?」といぶかしがれば、マイナスになる。
     何より会って二言目の発言で、「フーが巴景を雇った理由」を、「新しい夜伽を得たのか」と邪推したことを暗に示している。
    (割と独占欲が強いっぽいし、ここで変にアピールすれば、逆に彼女、『あの女を使わないで』とかアイツに頼みかねないわね。
     不用意な真似は、しないに越したことないわ)
     巴景は正直に言わず、ごまかしておくことにした。
    「……さあ? 思い当たるようなことは無いわね。まあ、魔術剣だから、正統派の魔術に比べたら異質に思えるのかも」
    「……そーね。そーかも」
     どうやら、ドールは納得してくれたらしい。にこっと笑い、椅子にちょこんと腰掛けた。
    「それで、アタシに何か用だったの?」
    「あ、まだちゃんと挨拶もできてないと思って、これを」
     ハインツたちに渡したように、巴景はケーキが入った箱をドールに差し出す。
    「あら、『ビーナス』のショートケーキ?」
     中身を見た途端、ドールの顔は嬉しそうにほころんだ。
    「嬉しいわぁ。大好きなの、コレ」
    「喜んでもらえて嬉しいわ、ドール」
    「うふふっ……。2個あるから、一緒にお茶しましょ」
     疑いも晴れたらしい。ドールは終始ニコニコしながら、巴景とケーキを食べていた。

     話しているうちに、ドールは別の側近のことも教えてくれた。
    「ふーん、ミラちゃんとはもう仲良しなのね。んじゃさ、もう一人魔術師がいるんだけど、その子のコトは聞いてる?」
    「もう一人? あなたと、ミラの他にもいるの?」
    「ええ。ノーラ・フラメルって言うエルフで、アタシのサポート。あ、でも魔術師って言ったケド、格闘術も割と得意だし、結構万能な子よ。実力で言えば、側近の中で3位以内じゃないかしら。
     ま、ちょっと前に……」
     言いかけて、ドールは言葉を切る。
    「前に?」
    「……あー、うん、ま、色々あってね。基本、人間ギライだから、ヒノカミ君も重用してないのよ、あんまり」
    「そんな子が、何故側近に?」
    「……色々、よ。ま、一応声だけかけてみたらどうかな、って」

     ケーキを食べた後、ドールはそのノーラと言うエルフのところに案内してくれた。
     ちなみにノーラは砦の宿舎ではなく、市街地の外れに住んでいる。そのことだけでも、彼女が軍に溶け込んでいないと言うことが良く分かる。
    「こんにちはー、ノーラちゃん。ドールよ」
    「……」
     玄関前から呼びかけたドールに、わずかに応じる声が返ってきた。
    「……何の用ですか?」
     扉越しに、やや高めの女性の声が返ってきた。
    「ノーラちゃんに会いたいって人がいるのよ。ホラ、この前そ、……軍に入った、トモエ・ホウドウって子」
    「そうですか。……今、鍵を開けます」
     カチャ、と軽い音を立てて、扉が開く。
    「はじめまして、ホウドウさん」
     出てきたのはどこか暗い印象を与える、銀髪に銀目のエルフだった。

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    2016.09.25 修正
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