「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第7部
蒼天剣・風立録 4
晴奈の話、第426話。
悪魔との出会い。
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4.
フーは何もかもを失い、絶望の淵にいた。
だが――その無限の寂寥感、真っ暗な絶望感が、まるでブラックホールのように、悪魔を吸い寄せたのかも知れない。
フーは絶望のあまり、吹雪の吹き荒れる夜道を、当ても無くさまよっていた。
(このままずっと、こうやってうろついていたら。そのうち、凍死するかな)
この頃になると、既に軍では空気扱いされており、最早圧力をかけてくるような者もいなかった。だが逆に、温かい言葉をかけてくれるような者もいない。そう、肉親を亡くしたばかりだと言うのに、軍でも、街中でも、お悔やみの声ひとつかからなかったのだ。
彼はまさしく、空気同然となっていた。
(……消えたい……)
そんな状態だったから、突然後ろから肩を叩かれた時、フーは非常に驚いた。
「……探したぞ、『4番目』」「……!?」
フーは後ろを振り返った。そこには、「怪しい」としか言いようの無い者が立っていた。
「だ……、誰だ、アンタ!?」
「私の名はアル、……アラン・グレイだ」
「アラン? 俺なんかに、何か用なのか?」
「『なんか』、だと? ……謙遜するな、御子よ。お前ほどの人物が、何と矮小なものの言い方をするのか」
「……何言ってんだ?」
フーはただぽかんと、そのフードの男、アランを眺めていた。
他にどうしようもないので、フーはその異常に怪しい男を家へと招き入れた。
「んで、その、アランさん、だっけ。俺が、何ですって?」
「お前は御子なのだ」
「……はあ、そうスか」
フーはこの時、頭の中で「やべーコイツ、頭おかしいぜ」と警戒していた。
「えーと、まあ、今日くらいは泊めてもいいんで、明日になったら病院行ってくださいね」
「私の言が信じられんようだな」
「はいはい、病院行ってくださいっスね、……明日と言わず、今からでもいいっスけどね」
「信じられないのも無理は無い。突然押しかけた男に、『お前は救世主だ』などといきなり言われて、誰が信じようか」
「……分かってんなら、さっさと帰ってほしいんスけどね」
会話の成り立たないこの男と延々話し続けるのに精神的限界を感じ、フーはそっと、剣を手に取った。
「その剣で私を斬るつもりか?」
「……だったらどーなんスか。このまま素直に帰ってくれるんスか?」
「まずは、話を聞いてもらわねばな」
アランはそう言うと、フーの前からふっと姿を消した。
「……!?」
突然消えたアランに面食らい、フーは辺りをきょろきょろと見回す。
「ここだ」「……ッ」
背後からアランの声がする。振り向こうとした瞬間、剣を握っていた右手に一瞬、電気的な痛みが走った。
「いだ……っ」
痛みに耐え切れず、フーは剣から手を離してしまう。アランは宙に浮いた剣を、がっしりと握り締める。
「ともかく、攻撃手段は封じさせてもらう。冷静な話し合いに、剣は不要だ」
アランがそう言った次の瞬間、ビキッと言う異様な音が響いた。
「な、……!?」
アランが握っていた剣が、まるで紙粘土をねじったように、グズグズに折られていた。
「話をしてもいいか?」
「……わか、った」
フーはそれ以上何も言えず、素直に話を聞くしかなかった。
フーが大人しくなったところで、アランはとんでもないスケールの話をし始めた。
「北方神話は知っているか?」
「知ってる、って言えば知ってます。その、大体の、さわりって部分くらいは」
「ならば『神の御子』の伝説も聞いているな?」
「ええ、まあ。世界が危機に見舞われた時に現れて、平和をもたらすってアレでしょ?」
フーの回答に、アランは短くうなずく。
「概ね、その通りだ。世界に悪がはびこり、混乱するその時に降臨し、悪を滅ぼし世界を善く導く存在。それが『御子』だ。
今、この世界は混乱に満ちている。中央大陸では各地で戦乱、混乱が起こり、他の地域においても騒乱が絶えない。お前が巻き込まれたこの度の騒動も、こうした混乱の一つと言ってもいいだろう」
「そんなもんっスかねぇ……」
「思い返してみるといい。常識的な展開だったか?」
「……まあ、言われてみりゃ、一軍人がいきなり軍に反旗を翻すなんて、並の出来事じゃないっスけど」
「そうだろう? 並々ならぬことが次々に起こることこそ、混乱の世の常だ」
眉唾くさい話の展開に辟易しながらも、フーは尋ねてみる。
「それで、その御子が俺って言うんスか?」
「そうだ」
「そーは思えないんっスけどねぇ。俺、はっきり言ってカスみたいなもんですし」
フーの言い方に、アランは大きく頭を振り、嘆息する。
「……ああ、何と萎縮したものの考え方だ!」
「普通だと思うんスけど……」
「何が普通なものか! 周りからの圧力に精神がねじれ、縮こまっているではないか! これではまるで、雨に怯える子羊だ!」
そう言うなりアランは、フーの頭をがしっとつかんだ。
「な、何するんスか」
「本当のお前はそんな小さな器ではない――今、本当の『虎』にしてやろう」
「へっ……?」
次の瞬間、フーの脳内が煮えたぎった。
「……がッ……かっ……くぁ……ッ……」
頭の中を、尋常ではない電撃が走り抜ける。
(なんだなんんだんあなんだこおえらこえれはこれはなんだ)
まるで脳みそが頭蓋の中で爆発し、耳目や口から噴き出したのではないかと思うほどの衝撃だった。
(いったいたいいたいなにななにいがぎがどううづどうなって)
そしてそのまま、フーの意識はそこで途切れた。
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フーは何もかもを失い、絶望の淵にいた。
だが――その無限の寂寥感、真っ暗な絶望感が、まるでブラックホールのように、悪魔を吸い寄せたのかも知れない。
フーは絶望のあまり、吹雪の吹き荒れる夜道を、当ても無くさまよっていた。
(このままずっと、こうやってうろついていたら。そのうち、凍死するかな)
この頃になると、既に軍では空気扱いされており、最早圧力をかけてくるような者もいなかった。だが逆に、温かい言葉をかけてくれるような者もいない。そう、肉親を亡くしたばかりだと言うのに、軍でも、街中でも、お悔やみの声ひとつかからなかったのだ。
彼はまさしく、空気同然となっていた。
(……消えたい……)
そんな状態だったから、突然後ろから肩を叩かれた時、フーは非常に驚いた。
「……探したぞ、『4番目』」「……!?」
フーは後ろを振り返った。そこには、「怪しい」としか言いようの無い者が立っていた。
「だ……、誰だ、アンタ!?」
「私の名はアル、……アラン・グレイだ」
「アラン? 俺なんかに、何か用なのか?」
「『なんか』、だと? ……謙遜するな、御子よ。お前ほどの人物が、何と矮小なものの言い方をするのか」
「……何言ってんだ?」
フーはただぽかんと、そのフードの男、アランを眺めていた。
他にどうしようもないので、フーはその異常に怪しい男を家へと招き入れた。
「んで、その、アランさん、だっけ。俺が、何ですって?」
「お前は御子なのだ」
「……はあ、そうスか」
フーはこの時、頭の中で「やべーコイツ、頭おかしいぜ」と警戒していた。
「えーと、まあ、今日くらいは泊めてもいいんで、明日になったら病院行ってくださいね」
「私の言が信じられんようだな」
「はいはい、病院行ってくださいっスね、……明日と言わず、今からでもいいっスけどね」
「信じられないのも無理は無い。突然押しかけた男に、『お前は救世主だ』などといきなり言われて、誰が信じようか」
「……分かってんなら、さっさと帰ってほしいんスけどね」
会話の成り立たないこの男と延々話し続けるのに精神的限界を感じ、フーはそっと、剣を手に取った。
「その剣で私を斬るつもりか?」
「……だったらどーなんスか。このまま素直に帰ってくれるんスか?」
「まずは、話を聞いてもらわねばな」
アランはそう言うと、フーの前からふっと姿を消した。
「……!?」
突然消えたアランに面食らい、フーは辺りをきょろきょろと見回す。
「ここだ」「……ッ」
背後からアランの声がする。振り向こうとした瞬間、剣を握っていた右手に一瞬、電気的な痛みが走った。
「いだ……っ」
痛みに耐え切れず、フーは剣から手を離してしまう。アランは宙に浮いた剣を、がっしりと握り締める。
「ともかく、攻撃手段は封じさせてもらう。冷静な話し合いに、剣は不要だ」
アランがそう言った次の瞬間、ビキッと言う異様な音が響いた。
「な、……!?」
アランが握っていた剣が、まるで紙粘土をねじったように、グズグズに折られていた。
「話をしてもいいか?」
「……わか、った」
フーはそれ以上何も言えず、素直に話を聞くしかなかった。
フーが大人しくなったところで、アランはとんでもないスケールの話をし始めた。
「北方神話は知っているか?」
「知ってる、って言えば知ってます。その、大体の、さわりって部分くらいは」
「ならば『神の御子』の伝説も聞いているな?」
「ええ、まあ。世界が危機に見舞われた時に現れて、平和をもたらすってアレでしょ?」
フーの回答に、アランは短くうなずく。
「概ね、その通りだ。世界に悪がはびこり、混乱するその時に降臨し、悪を滅ぼし世界を善く導く存在。それが『御子』だ。
今、この世界は混乱に満ちている。中央大陸では各地で戦乱、混乱が起こり、他の地域においても騒乱が絶えない。お前が巻き込まれたこの度の騒動も、こうした混乱の一つと言ってもいいだろう」
「そんなもんっスかねぇ……」
「思い返してみるといい。常識的な展開だったか?」
「……まあ、言われてみりゃ、一軍人がいきなり軍に反旗を翻すなんて、並の出来事じゃないっスけど」
「そうだろう? 並々ならぬことが次々に起こることこそ、混乱の世の常だ」
眉唾くさい話の展開に辟易しながらも、フーは尋ねてみる。
「それで、その御子が俺って言うんスか?」
「そうだ」
「そーは思えないんっスけどねぇ。俺、はっきり言ってカスみたいなもんですし」
フーの言い方に、アランは大きく頭を振り、嘆息する。
「……ああ、何と萎縮したものの考え方だ!」
「普通だと思うんスけど……」
「何が普通なものか! 周りからの圧力に精神がねじれ、縮こまっているではないか! これではまるで、雨に怯える子羊だ!」
そう言うなりアランは、フーの頭をがしっとつかんだ。
「な、何するんスか」
「本当のお前はそんな小さな器ではない――今、本当の『虎』にしてやろう」
「へっ……?」
次の瞬間、フーの脳内が煮えたぎった。
「……がッ……かっ……くぁ……ッ……」
頭の中を、尋常ではない電撃が走り抜ける。
(なんだなんんだんあなんだこおえらこえれはこれはなんだ)
まるで脳みそが頭蓋の中で爆発し、耳目や口から噴き出したのではないかと思うほどの衝撃だった。
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そしてそのまま、フーの意識はそこで途切れた。
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はじめまして
初めまして、ブログ村からやって来ました。
蒼天剣という題名に反応しました。
うちも、蒼剣と云う題名がついているんですよ。
壮大なお話ですね。
伝説の御子ですか、凄いです。期待大です。
また来ます♪
蒼天剣という題名に反応しました。
うちも、蒼剣と云う題名がついているんですよ。
壮大なお話ですね。
伝説の御子ですか、凄いです。期待大です。
また来ます♪
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蒼つながりですね、よろしくです。
実は「フーが御子だ」と言う話、アランの方便だったりします。
でも、与えた力は絶大でした。
詳しくは、本日の更新分にて。