「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第7部
蒼天剣・風立録 6
晴奈の話、第428話。
ドールの好みの子。
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6.
そしてトマスの予想通り双月暦516年の5月、北方ジーン王国と中央政府との戦争が始まった。
開戦の大まかな口実としては、「中央政府の権力者であるカツミ討伐を考えており、また、その実行手段も手に入れているジーン王国を看過することはできない。実力行使により、その手段・戦力の奪取、封印を行う」と言うものである。
行間にチラホラと中央政府側の思惑が見て取れる内容であり、仕掛けたのは間違いなく、中央政府側だった。
開戦の前日。
フーの元に、再びアランが現れた。
「いよいよ活躍する時が来たな、フー」
「……お久しぶりっスね、アランさん」
フーにそう呼ばれ、アランはわずかに首を振った。
「御子たるお前が、私に敬語を使う必要はない。アランで構わない」
「そうっスか。……アラン、何の用だ?」
「そう、それでいい。
これより私は、お前を導く参謀となろう。私の指示に従い、その通りに動けば、お前はこの世の王、英雄、偉人――御子になれる」
「……でー、それから4年間、ヒノカミ君はアランの指示に従い、軍閥を形成したり、央中に飛んでネール大公から神器をもらったり、央南から『バニッシャー』を取り返したり、色々やったワケよ」
「ふうん……」
巴景はうなずきかけたが、話の最後にさらっと言われたことが気にかかった。
「……え、じゃあ。もう『バニッシャー』って武器は、中佐のところに?」
「ええ。アタシも一緒に行って取ってきたから、確かよ」
「そんな話、聞いたことないわ。その、何だっけ、リロイって人が奪って、そのままになってるって」
「そうよ。公には、ね。軍本部は、まったく関与してないわ」
「……それは、軍務規定違反になるんじゃないの? 中佐といえど、そんな武器を隠し持ってたら……」
「そーよ。バレたら大問題になるわね」
「……何でそれを私に言うの?」
巴景はドールの思惑が分からず、当惑する。
「ふふ……。アナタが気に入ったからかしら、ね」
そう言って、ドールはひょいと巴景の仮面に手をかけ、取りさらった。
「あっ……」
「アラ、キレイな顔してるじゃない。フェイスペイントみたいでかっこいいわよ、その傷跡も」
「ちょ、ちょっと、返してよ」
巴景は慌てて手を伸ばすが、ドールはひょいひょいと仮面を持った手を振り、返そうとしない。
「いいじゃない、今ここには、アタシとアナタしかいないんだもの」
「そう言う問題じゃ……」
顔を真っ赤にする巴景に、ドールは仮面を持っていないもう一方の手を近付けた。
「な、何?」
「アタシはね、トモエ」
ドールは巴景の首に手を回し、引き寄せる。互いの顔が触れそうなところにまで近付けたところで、熱っぽく口を開いた。
「いつもニコニコヘラヘラしてる人より、そうやって感情的に動く人の方が好きなの。だからヒノカミ君とも付き合ってるし、『おかしくなっちゃう』前のリロイも好きだった。
アナタも……、なかなか魅力的よ」
そう言ってドールは、巴景の頬に口付けした。
「な、なっ……」
「うふふふ……。はい、仮面」
「……っ!」
仮面を返され、巴景は慌てて付け直した。
「アナタ、可愛いわね。クスクス……」
「かっ、からかわないでよ、もおっ!」
巴景はその場にへたり込み、仮面を押さえつけるように両手で顔を覆った。
「……はぁ」
何とか平静を取り戻し、巴景は顔を伏せたまま、椅子に座り込んだ。
「……それにしても、リロイって人。あなたの話によく出てくるけれど、いったいどんな人だったの?
聞いた感じでは、いつもヘラヘラしてる人って言う印象しかないんだけど、そんな人が黒鳥宮に侵入したり、『バニッシャー』を軍から盗み出したりするなんて、私には思えないわ」
「ああ……。そこが、リロイのすごいトコよ。あの人は感情を押し殺せる。そのヘラヘラした笑顔の裏に、ね。その点は仮面で感情を隠すアナタにも、どこか似てるわね」
「でも、その話。他の人に聞くと、何かおかしいのよ。別の人は、エルスって人がやったとか」
「『エルス(L‘s)』って言うのは、リロイのコードネームよ。
本名が『リロイ・リキテン・グラッド(Lliroy Liquiten Glad)』だから。Lばっかりでしょ?」
「なるほど……」
「ま、そのコードネームもらってから、リロイは『自分の長い本名をサインしたり名乗ったりするのは面倒だから』って、エルスって名乗ってたけどね」
ドールの昔話は、リロイ――エルスの話へと移っていった。
蒼天剣・風立録 終
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ドールの好みの子。
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そしてトマスの予想通り双月暦516年の5月、北方ジーン王国と中央政府との戦争が始まった。
開戦の大まかな口実としては、「中央政府の権力者であるカツミ討伐を考えており、また、その実行手段も手に入れているジーン王国を看過することはできない。実力行使により、その手段・戦力の奪取、封印を行う」と言うものである。
行間にチラホラと中央政府側の思惑が見て取れる内容であり、仕掛けたのは間違いなく、中央政府側だった。
開戦の前日。
フーの元に、再びアランが現れた。
「いよいよ活躍する時が来たな、フー」
「……お久しぶりっスね、アランさん」
フーにそう呼ばれ、アランはわずかに首を振った。
「御子たるお前が、私に敬語を使う必要はない。アランで構わない」
「そうっスか。……アラン、何の用だ?」
「そう、それでいい。
これより私は、お前を導く参謀となろう。私の指示に従い、その通りに動けば、お前はこの世の王、英雄、偉人――御子になれる」
「……でー、それから4年間、ヒノカミ君はアランの指示に従い、軍閥を形成したり、央中に飛んでネール大公から神器をもらったり、央南から『バニッシャー』を取り返したり、色々やったワケよ」
「ふうん……」
巴景はうなずきかけたが、話の最後にさらっと言われたことが気にかかった。
「……え、じゃあ。もう『バニッシャー』って武器は、中佐のところに?」
「ええ。アタシも一緒に行って取ってきたから、確かよ」
「そんな話、聞いたことないわ。その、何だっけ、リロイって人が奪って、そのままになってるって」
「そうよ。公には、ね。軍本部は、まったく関与してないわ」
「……それは、軍務規定違反になるんじゃないの? 中佐といえど、そんな武器を隠し持ってたら……」
「そーよ。バレたら大問題になるわね」
「……何でそれを私に言うの?」
巴景はドールの思惑が分からず、当惑する。
「ふふ……。アナタが気に入ったからかしら、ね」
そう言って、ドールはひょいと巴景の仮面に手をかけ、取りさらった。
「あっ……」
「アラ、キレイな顔してるじゃない。フェイスペイントみたいでかっこいいわよ、その傷跡も」
「ちょ、ちょっと、返してよ」
巴景は慌てて手を伸ばすが、ドールはひょいひょいと仮面を持った手を振り、返そうとしない。
「いいじゃない、今ここには、アタシとアナタしかいないんだもの」
「そう言う問題じゃ……」
顔を真っ赤にする巴景に、ドールは仮面を持っていないもう一方の手を近付けた。
「な、何?」
「アタシはね、トモエ」
ドールは巴景の首に手を回し、引き寄せる。互いの顔が触れそうなところにまで近付けたところで、熱っぽく口を開いた。
「いつもニコニコヘラヘラしてる人より、そうやって感情的に動く人の方が好きなの。だからヒノカミ君とも付き合ってるし、『おかしくなっちゃう』前のリロイも好きだった。
アナタも……、なかなか魅力的よ」
そう言ってドールは、巴景の頬に口付けした。
「な、なっ……」
「うふふふ……。はい、仮面」
「……っ!」
仮面を返され、巴景は慌てて付け直した。
「アナタ、可愛いわね。クスクス……」
「かっ、からかわないでよ、もおっ!」
巴景はその場にへたり込み、仮面を押さえつけるように両手で顔を覆った。
「……はぁ」
何とか平静を取り戻し、巴景は顔を伏せたまま、椅子に座り込んだ。
「……それにしても、リロイって人。あなたの話によく出てくるけれど、いったいどんな人だったの?
聞いた感じでは、いつもヘラヘラしてる人って言う印象しかないんだけど、そんな人が黒鳥宮に侵入したり、『バニッシャー』を軍から盗み出したりするなんて、私には思えないわ」
「ああ……。そこが、リロイのすごいトコよ。あの人は感情を押し殺せる。そのヘラヘラした笑顔の裏に、ね。その点は仮面で感情を隠すアナタにも、どこか似てるわね」
「でも、その話。他の人に聞くと、何かおかしいのよ。別の人は、エルスって人がやったとか」
「『エルス(L‘s)』って言うのは、リロイのコードネームよ。
本名が『リロイ・リキテン・グラッド(Lliroy Liquiten Glad)』だから。Lばっかりでしょ?」
「なるほど……」
「ま、そのコードネームもらってから、リロイは『自分の長い本名をサインしたり名乗ったりするのは面倒だから』って、エルスって名乗ってたけどね」
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今日の旅岡さん

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NoTitle
なんか、ストーリー上の重要人物でありながら、最後まで「ゲームプレーヤー」にはなれそうもないですねトモエちゃん……。
一生、誰かに使われる駒で終わる中間管理職みたいな予感がするんですけど気のせいですか(^^;)
一生、誰かに使われる駒で終わる中間管理職みたいな予感がするんですけど気のせいですか(^^;)
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NoTitle
……と言ってみたものの、確かにそういう面も色濃い。
誰かに振り回されるか、さもなくば孤立するか。
そういう人生ですね。