「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第7部
蒼天剣・火風録 8
晴奈の話、第446話。
夢の始まり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
「ねえ、陛下。ウインドフォートの件は……」「あぁ? ……任せる」
「ヘブン」が誕生して1ヶ月が経ち、フーはだらけきっていた。かねてより「世界の王になったら娶る」と宣言した通り、央中ネール公国の主だったランニャ・ネール6世を迎え、フーは毎日甘く暮らしていた。
政務に関しては半ば側近に任せ、フーは今日も玉座でランニャにべったりとしている。その甘ったるい空気に辟易しながら、巴景は書状を掲げた。
「ジーン王国から抗議文、来てるわよ」
「……んー。見せてみ」
フーは巴景から受け取った書状を眺め、「……めんどくせえ」とつぶやいた。
「適当に処理しといてくれよ」
「そう言うわけには行かないわよ。あっちはあっちで、大変なことになってるんだから」
「って言うと?」
「トラックス少尉とブライアン曹長が裏切って、ナイジェル博士の監禁が発覚したのよ。で、あなたが独断専行で軍と中央政府を私物化したことも、怒りを買ってるみたい」
「っつっても、中央政府攻めろって言ったのは」
「私だけどね。……ま、適当にって言うなら、適当に処理しておくわ」
巴景の言葉にうなずき、フーはまたランニャとイチャイチャし始めた。
(あー……、何か複雑な気分ね)
このところすっかり政務処理を任され、巴景のストレスはじわじわと溜まっていた。元々の性分が剣士であり、こうした机仕事は彼女の性に合わないのだ。
(偉くはなったけど、何か違う。……もうある程度名声と金は得たし、また風来坊になるのもいいかしらね)
そう思い、机に座ってため息をついた瞬間だった。
「ならば私が後を継ごうか、トモエ・ホウドウ」
「……!?」
その声に、巴景はのどから心臓が出るかと思うほどに驚いた。
「……そんな。あなたはあの島で、……確かに」
「どうする?」
巴景は席を立ち、声をかけた男に向き直る。予想通りの姿が、そこにあった。
「なぜあなたが、ここに?」
巴景は恐怖を押さえ込み、落ち着いた声でその男に尋ねた。
「アラン。なぜ、生きているの?」
王の間。
「あー……。幸せだなぁ」
「そうね、うふふ……」
フーがランニャに抱きつき、甘い言葉をささやいていたその時だった。
「陛下、案件が……」
「あぁ? 適当に処理しとけ、って、……」
巴景の声に顔を上げたフーは凍りついた。
巴景の横に、見知ったフードの男が立っていたからだ。
「……アラン……?」
「案件は2つだ。
一つ、参謀を務めていたホウドウに代わり、私が元通り、参謀を務めることとなった。
そしてもう一つ。『ヘブン』勢力拡大のため、北方を侵略するぞ」
「ば……バカ……な」
フーは立ち上がり、呆然とした目でアランを見つめた。
その「バカな」と言う台詞が、アランが現れたことに対してだったのか、巴景が解任されたことに対してだったのか、それともアランが、故郷に対して戦争を引き起こそうとすることに対してだったのか――それは誰にも分からなかった。
520年、末。
世界に再び、戦乱の相が訪れた。
フーの夢は、悪夢となり始めた。
蒼天剣・火風録 終
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夢の始まり。
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8.
「ねえ、陛下。ウインドフォートの件は……」「あぁ? ……任せる」
「ヘブン」が誕生して1ヶ月が経ち、フーはだらけきっていた。かねてより「世界の王になったら娶る」と宣言した通り、央中ネール公国の主だったランニャ・ネール6世を迎え、フーは毎日甘く暮らしていた。
政務に関しては半ば側近に任せ、フーは今日も玉座でランニャにべったりとしている。その甘ったるい空気に辟易しながら、巴景は書状を掲げた。
「ジーン王国から抗議文、来てるわよ」
「……んー。見せてみ」
フーは巴景から受け取った書状を眺め、「……めんどくせえ」とつぶやいた。
「適当に処理しといてくれよ」
「そう言うわけには行かないわよ。あっちはあっちで、大変なことになってるんだから」
「って言うと?」
「トラックス少尉とブライアン曹長が裏切って、ナイジェル博士の監禁が発覚したのよ。で、あなたが独断専行で軍と中央政府を私物化したことも、怒りを買ってるみたい」
「っつっても、中央政府攻めろって言ったのは」
「私だけどね。……ま、適当にって言うなら、適当に処理しておくわ」
巴景の言葉にうなずき、フーはまたランニャとイチャイチャし始めた。
(あー……、何か複雑な気分ね)
このところすっかり政務処理を任され、巴景のストレスはじわじわと溜まっていた。元々の性分が剣士であり、こうした机仕事は彼女の性に合わないのだ。
(偉くはなったけど、何か違う。……もうある程度名声と金は得たし、また風来坊になるのもいいかしらね)
そう思い、机に座ってため息をついた瞬間だった。
「ならば私が後を継ごうか、トモエ・ホウドウ」
「……!?」
その声に、巴景はのどから心臓が出るかと思うほどに驚いた。
「……そんな。あなたはあの島で、……確かに」
「どうする?」
巴景は席を立ち、声をかけた男に向き直る。予想通りの姿が、そこにあった。
「なぜあなたが、ここに?」
巴景は恐怖を押さえ込み、落ち着いた声でその男に尋ねた。
「アラン。なぜ、生きているの?」
王の間。
「あー……。幸せだなぁ」
「そうね、うふふ……」
フーがランニャに抱きつき、甘い言葉をささやいていたその時だった。
「陛下、案件が……」
「あぁ? 適当に処理しとけ、って、……」
巴景の声に顔を上げたフーは凍りついた。
巴景の横に、見知ったフードの男が立っていたからだ。
「……アラン……?」
「案件は2つだ。
一つ、参謀を務めていたホウドウに代わり、私が元通り、参謀を務めることとなった。
そしてもう一つ。『ヘブン』勢力拡大のため、北方を侵略するぞ」
「ば……バカ……な」
フーは立ち上がり、呆然とした目でアランを見つめた。
その「バカな」と言う台詞が、アランが現れたことに対してだったのか、巴景が解任されたことに対してだったのか、それともアランが、故郷に対して戦争を引き起こそうとすることに対してだったのか――それは誰にも分からなかった。
520年、末。
世界に再び、戦乱の相が訪れた。
フーの夢は、悪夢となり始めた。
蒼天剣・火風録 終
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第7部終了。
次話から、またスピンオフ。……と言うか、第2.9部と言うか。
双月世界的「ミッションインポッシブル」、なお話になります。
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2016.10.09 修正
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次話から、またスピンオフ。……と言うか、第2.9部と言うか。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
この辺が国が衰退する一途になるわけですが。
意外に独裁でも政治をしっかりやっていると内乱がおきにくいですからね。腑抜けているのが一番の害悪か。。。
意外に独裁でも政治をしっかりやっていると内乱がおきにくいですからね。腑抜けているのが一番の害悪か。。。
- #1691 LandM
- URL
- 2013.07/31 16:12
- ▲EntryTop
NoTitle
おっとと、失礼しました。
修正しておきました。ご指摘ありがとうございます。(;´∀`)
フーは最初から、アランの傀儡として仕立てられてきましたからねぇ。
帝王学や、君主としての心得なんか、誰からも教わってないわけで。
一から自分で学ぶしかないわけですが、これではねぇ……。
修正しておきました。ご指摘ありがとうございます。(;´∀`)
フーは最初から、アランの傀儡として仕立てられてきましたからねぇ。
帝王学や、君主としての心得なんか、誰からも教わってないわけで。
一から自分で学ぶしかないわけですが、これではねぇ……。
NoTitle
あれ。
目次の上では第8部に入ってるのに(^^;)
まあ気にしない気にしない!
それにしてもフーくん、君主の柄じゃないなあ。これならうちの変態男爵サシェル・イルミールのほうがまだマシかと(笑)
目次の上では第8部に入ってるのに(^^;)
まあ気にしない気にしない!
それにしてもフーくん、君主の柄じゃないなあ。これならうちの変態男爵サシェル・イルミールのほうがまだマシかと(笑)
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NoTitle
フーは自分の器量と素質を測り間違えましたね。