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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・風砦録 1

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    晴奈の話、第447話。
    楽しくて、馬鹿馬鹿しくて、切ない夢。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「おかーさーん」
     誰かが呼んでいる。
    「ん……」
     目を開けると、白い猫耳と、同じく白地で茶色い斑の付いた猫耳の男の子二人が、自分を見上げている。二人の顔は良く似ており、どうやら双子らしかった。
    「どうした……?」
    「ねぇねぇ、ご本読んでー」
    「ああ、うん……。何を読んで欲しい?」
    「これー」
     と、後ろから声がする。振り向くと、自分に良く似た三毛耳の女の子が立っている。男の子たちよりは2、3歳ほど年下のようだ。
    「あ、月乃ずるーい」
    「えー、おにーちゃんたちこそお母さん独り占めしよーとしてるしー」
    「独り占めじゃないぞ、二人占めだ」
    「ヘリクツ言わなーい」
    「こら、こら」
     何だかおかしくなって、クスクスと笑いがこみ上げてきた。
    「母さんは春司のものでも、秋也のものでも、月乃のものでもないぞ」
    「えー」「えー」「えー」
     子供たちは3人そろって、口を尖らせる。またおかしくなって、笑みがこぼれてくる。
    「ふふふ……。お母さんはな、みんなのものだよ」
     そう言った途端、子供たちはみんな満面の笑みを浮かべた。
     その6つの瞳には、随分表情が柔らかくなった、自分の顔が――。



    「にゃがっ!?」「ふぎゃぅ!?」
     飛び起きた弾みで、横で眠っていた小鈴の頭を叩いてしまった。
    「な、何すんのよ晴奈……」
    「……あ、失敬。……いや、その。……変な夢、を、見てしまった」
    「夢ぇ……? あ、……あー……」
     小鈴が切なそうな声を上げる。
    「ど、どうした?」
    「夢の中で、でっかい桃まん食べてたのにぃ……」
    「……すまぬ」
    「……うー……桃まん……兄さんの……桃まん……すー」
     そのまま、小鈴は寝入ってしまった。
     晴奈の方はしばらく横になっていたが、眠気が訪れる気配が無い。すっかり目が冴えてしまったようだ。
    「……仕方ない」
     もぞもぞと毛布を抜け出し、船室を出た。

     まだ日の差さない甲板に出て、早朝の風を吸うことにした。
    (にしても、面妖な夢だったな。
     子供に囲まれていた、夢の中の自分。状況から考えて、あの3人の子はどうやら自分の子供らしい、……が。
     ははっ、そんな馬鹿な)
     思い出せば思い出すほど、馬鹿馬鹿しく――そしてなぜか、切なくなってきた。
    「……あれ……?」
     潮風が妙に冷たい。
     頬に手を当てると、涙を流していたことに気付いた。
    「何で……?」
     誰もいない甲板でそうつぶやいてみたが、答えてくれる者はいるはずも無かった。



     双月暦520年5月17日。
     晴奈たちは、北方の玄関口であるグリーンプールに到着した。

     北方の海は、非常に澄んでいる。
     海水が冷たいせいで、不純物が溶けにくいのだろう。そのため港から海を眺めると、綺麗なエメラルドグリーンの海水を眺めることができる。
     それが、グリーンプールの由来である。
    「魚が美味そうな海だな」
    「そーねー」
     グリーンプールに到着した晴奈と小鈴は、情報収集と腹ごしらえのために、港近くの大衆食堂に入った。
    「さて、ここの名物は、と」
     メニューを眺めてみると、やはり港町のせいか、魚料理が目に付く。端から端まで、魚の名前がズラリと並んでいた。
    「それじゃ、あたしは鮭のクリームシチューと海老マリネのサラダ、それからパンで。晴奈は?」
    「同じものを」
     食事が運ばれてくるのを待つ間、晴奈は小鈴から北方についての話を聞いていた。
    「央南は『仁徳と礼節の世界』。央中は『狐と狼の世界』。央北は『天帝と政治の世界』。
     では、北方は何の世界でしょう?」
    「ふむ……。寒いから、雪と氷の世界かな」
    「半分当たり。正解は、『雪と星の世界』。この地方の文化は雪と星、この2つに集約されるのよ。
     現在、北方の大部分を支配しているジーン王国。その開祖と言われているのが、自らを『天星』と呼んだレン・ジーン王。その後一度、別の王家に権力を奪われたんだけど、復権させたのが『地星』と呼ばれたクラウス・ジーン王。ジーン王家の主要な人物にはみんな、『~星』と言う呼び名が付けられていたの。
     んで、そこから派生して、この国の優れた武人には『武星』、優れた学者には……」
     小鈴がそこまで言ったところで、晴奈はある話を思い出した。
    「『知星』か?」
    「あら、ご名答。知ってた?」
    「あ、いや。私の知り合いに、北方人で『知多星』と呼ばれた人がいたから」
     晴奈が何の気なしにそう言った途端、ざわついていた店内が静まった。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    始まりました、第8部。
    当初の予定からどんどん長くなっていった本作ですが、
    ようやく終わりが仄見えてきましたよ。
    どうか最後まで、よろしくお付き合いください。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.10.16 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    8部まで通読していただき、ありがとうございます。

    自分にも今作の基礎となった未公開の別作品で、似た経験があります。
    はじめは冒険者の話をしようとしていたのに、
    いつの間にか政治と戦争と国家の話になってしまい、
    自分自身続けて書きたくも、読みたい作品でも無くなってしまいました。
    一冒険者の視点を維持して物語を描き続けるのは、
    なかなか難しいです。

    NoTitle 

    お、久々の晴奈ですね。やはりこういう冒険家視点も必要ですよね。私の作品はいささか、国家単位が多いですからね。こういう冒険家ものも書きたいですね。。。といいつつ、未だに書けていない。
    終わりが近づいてきましたね。もう8部か・・・ここまでよく読んだものです。
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