「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・風砦録 2
晴奈の話、第448話。
親友の評判と宿敵の影。
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2.
「……む?」
晴奈は突然向けられた多数の視線に戸惑う。すると近くにいた客の一人が、恐る恐る声をかけてきた。
「……アンタ、老ナイジェル博士を知ってるのか?」
「え? ああ、まあ。昔、交友があった」
「いつだ? アンタ、若く見えるが……」
「そうだな、4、5年ほど前だ」
「5年前……」
客たちと店主は顔を見合わせ、ボソボソと内輪で話す。
「5年前って言ったら」
「ああ。515年の、兵器強奪事件の後だ」
「まさか老ナイジェル博士、央南に亡命を?」
「かも知れん。あの方は昔、央南に留学していたそうだから」
店の空気が変わったことを察し、晴奈は小声で小鈴に尋ねる。
「私は何か、まずいことを?」
「……さあ? あたし、北方のコトは良く分かんないし」
「なあ、おサムライさん」
店主が皆を代表し、質問してきた。
「アンタは老ナイジェル博士……、エドムント・ナイジェル博士を知っているんだな?」
「ああ。話したことも何度かある」
「それは5年前、515年くらいのことだな?」
「そうだ」
「その……、博士は、何か武器を、持っていなかったか?」
晴奈は彼らが何を聞こうとしているのか、ピンと来た。
(『バニッシャー』か)
「どうなんだ?」
「……いや? 護身用に魔杖は持っていらっしゃったが、それ以外には特に何も」
「そ、そうか」
また、客と店主が内輪で話す。
「博士、兵器は何も持って無かったって」
「そうか……」
「じゃあもしかして、博士は無実?」
「じゃやっぱり、リロイ・グラッドの仕業か」
(リロイ?)
呼び名は違うが、苗字から恐らくエルスのことだろうと推察できた。
「博士は弟子の不始末に巻き込まれた、ってことか」
「なんて恩知らずだ!」
「ジーン王国の恥だな、つくづく」
友人を悪く言われ、晴奈の気分は悪くなる。
(エルスたちの考えも知らずに、何と言う言い草だ!)
晴奈は内心穏やかではなかったが、それでも冷静を装って、静かに食事を平らげた。
店主と客たちはその後も根掘り葉掘り、晴奈に質問してきた。それに答えるうち、気がかりな情報を耳にした。
「そう言えば俺、聞いたんだけどさ」
「うん?」
「その、老ナイジェル博士のお孫さん。今、ナイジェル家の宗主になってるんだけどさ、今行方不明になってるって言われてるんだけど、実はヒノカミ中佐が自分の砦に監禁してるって、そう聞いたことがあるんだ」
「日上だと?」
ほぼ1年半ぶりの標的の情報に、晴奈は強く反応した。
「ああ。どうも仲違いしたとか、何とか。ま、噂だから何とも言えないけどさ」
「ふむ……。その砦と言うのは、どこにある?」
「ウインドフォートって言う街さ。この街、中佐の砦ができてから作られた街なんだけどね」
客たちは親切に、ウインドフォートまでの道のりを教えてくれた。
3日かけ、晴奈と小鈴はグリーンプールから海岸沿いに南東へ移動し、ウインドフォートに到着した。
「そう言えば……」
街に着いたところで、晴奈が口を開く。
「ん?」
「央中のミッドランドで、この国の出身のホーランド教授に会ったことがあったな」
「あー、そんなコトもあったわねぇ」
「その時確か、ナイジェル博士のお孫さんには優秀な人物が一人いるとか聞いた覚えが。もしかすれば、その人物が現在監禁されていると言う、ナイジェル家の宗主かも知れぬな」
「何だっけ、名前」
二人は顔を見合わせ、記憶を掘り返す。
「……オスカー?」
「何か違うような……。ベアトリクスとか言っていたような」
「それ女性名じゃん。男だったはずよ、確か。……何だったっけ?」
「うーむ……」
2年も前の話なので、二人ともすっかり忘れていた。
ともかく、ここでも情報収集のために、二人は酒場に寄ってみた。
「いらっしゃ……、お?」
「うん?」
よほど央南人が珍しいのか、この国に入ってから晴奈と小鈴はよく、周りから反応される。店主もまた、同様に珍しがっているのだろうと晴奈は思っていたのだが、どうも反応の仕方が違う。
「アンタ……、央南の人?」
「ああ、そうだが」
「へー……。央南の人って、そんな顔立ちなんだ」
「は?」
店主はポリポリと頭をかきながら、皿を一枚顔の前に掲げる。
「いやね、この街にも一人央南人が住んでるんだけどさ、その人いーっつもこんな風に、お皿みたいにのっぺりした仮面を着けてるからさ、どんな顔してるんだろうなーって。
……いやいやすみません、初対面のお客さんに失礼なこと言っちゃって」
「ああ、いや……」
晴奈の脳裏に一瞬、巴景の顔(と言うか仮面)が浮かんだが、「それは無い」と打ち消した。
(いくらなんでも北方まで来られるわけがない。特別便に乗った私たちでさえ半年近くかかった道のりを、私たちよりずっと早く到着するなど、常識的にありえぬ)
巴景が実際ここに来ており、しかも非常識な手段を用いていたことなど、晴奈には知る由もない。
「少し聞いてもいいか?」
「ああ、はい、どうぞ」
「この街に、日上中佐がいると聞いたのだが」
「はいはい、いらっしゃいますよ。ほら、あのおっきな砦。あそこを軍から任されてまして、その最上階に住んでらっしゃいます」
「ふむ。会うにはどうすればいい?」
「ははは、ご冗談を」
店主はパタパタと手を振って、晴奈の質問に答える。
「砦の最高責任者ですし、そうそう簡単にはお会いできませんよ」
「なるほど」
その後も二、三尋ねたが、あまり有益な情報は得られなかった。
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親友の評判と宿敵の影。
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「……む?」
晴奈は突然向けられた多数の視線に戸惑う。すると近くにいた客の一人が、恐る恐る声をかけてきた。
「……アンタ、老ナイジェル博士を知ってるのか?」
「え? ああ、まあ。昔、交友があった」
「いつだ? アンタ、若く見えるが……」
「そうだな、4、5年ほど前だ」
「5年前……」
客たちと店主は顔を見合わせ、ボソボソと内輪で話す。
「5年前って言ったら」
「ああ。515年の、兵器強奪事件の後だ」
「まさか老ナイジェル博士、央南に亡命を?」
「かも知れん。あの方は昔、央南に留学していたそうだから」
店の空気が変わったことを察し、晴奈は小声で小鈴に尋ねる。
「私は何か、まずいことを?」
「……さあ? あたし、北方のコトは良く分かんないし」
「なあ、おサムライさん」
店主が皆を代表し、質問してきた。
「アンタは老ナイジェル博士……、エドムント・ナイジェル博士を知っているんだな?」
「ああ。話したことも何度かある」
「それは5年前、515年くらいのことだな?」
「そうだ」
「その……、博士は、何か武器を、持っていなかったか?」
晴奈は彼らが何を聞こうとしているのか、ピンと来た。
(『バニッシャー』か)
「どうなんだ?」
「……いや? 護身用に魔杖は持っていらっしゃったが、それ以外には特に何も」
「そ、そうか」
また、客と店主が内輪で話す。
「博士、兵器は何も持って無かったって」
「そうか……」
「じゃあもしかして、博士は無実?」
「じゃやっぱり、リロイ・グラッドの仕業か」
(リロイ?)
呼び名は違うが、苗字から恐らくエルスのことだろうと推察できた。
「博士は弟子の不始末に巻き込まれた、ってことか」
「なんて恩知らずだ!」
「ジーン王国の恥だな、つくづく」
友人を悪く言われ、晴奈の気分は悪くなる。
(エルスたちの考えも知らずに、何と言う言い草だ!)
晴奈は内心穏やかではなかったが、それでも冷静を装って、静かに食事を平らげた。
店主と客たちはその後も根掘り葉掘り、晴奈に質問してきた。それに答えるうち、気がかりな情報を耳にした。
「そう言えば俺、聞いたんだけどさ」
「うん?」
「その、老ナイジェル博士のお孫さん。今、ナイジェル家の宗主になってるんだけどさ、今行方不明になってるって言われてるんだけど、実はヒノカミ中佐が自分の砦に監禁してるって、そう聞いたことがあるんだ」
「日上だと?」
ほぼ1年半ぶりの標的の情報に、晴奈は強く反応した。
「ああ。どうも仲違いしたとか、何とか。ま、噂だから何とも言えないけどさ」
「ふむ……。その砦と言うのは、どこにある?」
「ウインドフォートって言う街さ。この街、中佐の砦ができてから作られた街なんだけどね」
客たちは親切に、ウインドフォートまでの道のりを教えてくれた。
3日かけ、晴奈と小鈴はグリーンプールから海岸沿いに南東へ移動し、ウインドフォートに到着した。
「そう言えば……」
街に着いたところで、晴奈が口を開く。
「ん?」
「央中のミッドランドで、この国の出身のホーランド教授に会ったことがあったな」
「あー、そんなコトもあったわねぇ」
「その時確か、ナイジェル博士のお孫さんには優秀な人物が一人いるとか聞いた覚えが。もしかすれば、その人物が現在監禁されていると言う、ナイジェル家の宗主かも知れぬな」
「何だっけ、名前」
二人は顔を見合わせ、記憶を掘り返す。
「……オスカー?」
「何か違うような……。ベアトリクスとか言っていたような」
「それ女性名じゃん。男だったはずよ、確か。……何だったっけ?」
「うーむ……」
2年も前の話なので、二人ともすっかり忘れていた。
ともかく、ここでも情報収集のために、二人は酒場に寄ってみた。
「いらっしゃ……、お?」
「うん?」
よほど央南人が珍しいのか、この国に入ってから晴奈と小鈴はよく、周りから反応される。店主もまた、同様に珍しがっているのだろうと晴奈は思っていたのだが、どうも反応の仕方が違う。
「アンタ……、央南の人?」
「ああ、そうだが」
「へー……。央南の人って、そんな顔立ちなんだ」
「は?」
店主はポリポリと頭をかきながら、皿を一枚顔の前に掲げる。
「いやね、この街にも一人央南人が住んでるんだけどさ、その人いーっつもこんな風に、お皿みたいにのっぺりした仮面を着けてるからさ、どんな顔してるんだろうなーって。
……いやいやすみません、初対面のお客さんに失礼なこと言っちゃって」
「ああ、いや……」
晴奈の脳裏に一瞬、巴景の顔(と言うか仮面)が浮かんだが、「それは無い」と打ち消した。
(いくらなんでも北方まで来られるわけがない。特別便に乗った私たちでさえ半年近くかかった道のりを、私たちよりずっと早く到着するなど、常識的にありえぬ)
巴景が実際ここに来ており、しかも非常識な手段を用いていたことなど、晴奈には知る由もない。
「少し聞いてもいいか?」
「ああ、はい、どうぞ」
「この街に、日上中佐がいると聞いたのだが」
「はいはい、いらっしゃいますよ。ほら、あのおっきな砦。あそこを軍から任されてまして、その最上階に住んでらっしゃいます」
「ふむ。会うにはどうすればいい?」
「ははは、ご冗談を」
店主はパタパタと手を振って、晴奈の質問に答える。
「砦の最高責任者ですし、そうそう簡単にはお会いできませんよ」
「なるほど」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
Pastel
今年は遊びにきていただいてありがとうございました。
コメントとかもうれしかったですーふふッ
これからもよろしくおねがいしますね。
よいお年をー
(☆´ー`)ノ
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来年も見に来てくださいね。
良いお年を(*゚ー゚)ノシ