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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・風砦録 3

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    晴奈の話、第449話。
    白猫からの真剣な預言。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     まっすぐ向かって会うことは難しいと分かったので、晴奈たちは忍び込むことにした。
    「小鈴、モール殿に以前『インビジブル』と言う術を使ってもらったことがあるのだが、使えるか?」
    「『インビジブル』? ……うーん、使ったコトないわ。一応、モールさんから教えてもらったんだけどね」
     そう言って小鈴は手帳を開き、ぺらぺらと流し読む。
    「ま、やってみるけど」
     小鈴は「鈴林」を握り締め、ブツブツと呪文を唱え始めた。小鈴の姿はじわじわと透け始めたが、完全な透明にはならなかった。
    「……出力的にコレが限界かも。ま、夜だったら見つからないかもね」
    「ふむ」
    「とりあえず夜まで、その辺の宿でも取ってゆっくりしましょ」
    「そうだな。多少、疲れもあるし」
     晴奈たちは宿を取り、暗くなるまで眠ることにした。



    「……いるんだろう、白猫」《おわっ》
     夢の中――いつもならどこからか現れ、突然声をかけてくる白猫に、今回は晴奈が先制した。
    《段々鋭くなってくるなぁ、セイナ》
    「そうそう鈍(なまくら)ではいられぬ、と言うことだ。それで、今回は何の用だ?」
    《あ、えっとね。キミ、ウインドフォート砦に忍び込むつもりでしょ?》
    「ああ、そうだ。止めても無駄だぞ」
     晴奈はキッと、白猫をにらむ。ところが白猫は、プルプルと首を振って否定した。
    《く、ふふっ……。止めやしないって。むしろ、行ってほしいんだ。ある人を助けるためにね》
    「ある人?」
    《そう。トマス・ナイジェル博士。今、砦の地下2階の牢屋に監禁されてるんだ》
    「トマス……。ああ、そうだ。確かトマスだったな」
    《忘れてたんでしょ》
    「ああ。正直、どうでもいいと思って聞いていたからな、ホーランド教授の話は」
    《だろうねぇ。……でもねセイナ、その話、よーく思い出しておいて》
    「え?」
     白猫はいつもの飄々とした態度をまったく見せず、ひどく真剣なまなざしで晴奈に訴えた。
    《大変なコトなんだよ。ホーランド教授は、大変なコトをしてしまうんだ。
     あるコトがきっかけで、この世界の『あるシステム』が明日、停止するんだ。そのせいでホーランド教授は、大変な発見をしてしまう。そして『発見したソレ』に、取り込まれてしまうんだ》
    「システム? それ? ……一体、何のことだ?」
    《いずれ分かるさ》
    「……?」
     晴奈の頭には次々と疑問符が浮かんでくるが、白猫は説明しない。
    《それからセイナ、もう一度言うよ。トマス博士を、絶対に助け出してね。
     それはキミにとって、非常に大事な、大切なコトになるから》



     5月20日、深夜。
     晴奈と小鈴は「インビジブル」を使い、砦に侵入した。やはり完全に透明にはならなかったが、それでも夜の闇の中ではほとんど目立たない。
     堂々と門をくぐり、砦の中に入る。
    「……さて」
     術を解除し、晴奈たちは物陰に隠れた。
    「最上階へ、……と言いたいトコだけど、けっこー手強いわよ」
    「そうだな」
     砦は敵の侵入と制圧・占拠を阻むために、複雑な構造になっている。うかつに進めば、すぐに行き詰まってしまうのは明白だった。
    「誰かこの砦に詳しい人がいなきゃ、昇れないわよ」
    「ふむ。……あ」
     そこで晴奈は、白猫が言った言葉の意味を推理した。
    (『非常に大事な』、とはこのことか。なるほど、軍事顧問のナイジェル博士ならば、この砦の構造を知っていてもおかしくない。助け出さねば、進むのは難しいだろうな)
    「どしたの?」
    「あ、いや。……この地下に、ナイジェル博士は監禁されていると言っていたな。彼なら、この砦に詳しいかも知れぬ。助けに行こう」
    「んー……、そうね。そうしましょ」

     地下は占拠する意味の無い区画のためか、地上よりも簡単な造りになっていた。警備の数は上より少なく、薄暗い通路では半透明の晴奈たちはまったく気付かれない。
    「この辺りが……、牢屋か」
    「多分、ね」
     小声でボソボソと話しながら、通路を進んでいく。
     と――。
    「……!? こ、小鈴!」
    「どしたの?」
    「術が……!」
    「え?」
     きょとんとする小鈴の顔が「見える」。
    「……あ」
     なぜか術が解け、二人の姿が鮮明になり始めた。
    「何で!? 解除してないのに!?」
    「おい、お前ら!」
     二人に気付いた兵士が、立番をしていた門の前からつかつかと歩み寄ってくる。
    「く……!」
     晴奈は刀に手をかけ、兵士を倒そうとした。
    「そこで何を、して、い、……る」
     ところが、わずかな灯りでも顔が見える程度に兵士が近付いてきたところで、相手は突然立ち止まった。
    「……おほぅ」
     兵士は小鈴の顔を凝視している。いや、良く見ればその目線は顔よりずっと下、豊かな胸の方に向いており、にんまりした表情を浮かべている。
     それに気付いた小鈴の額に、ぴきっと青筋が浮き出た。
    「……ドコ見てんのよ、この変態!」
     晴奈の代わりに、小鈴が兵士を殴り倒した。
     ちなみにこの兵士――以前、巴景がミラと共にこの場所を訪れた際に、ミラを凝視していた看守である。

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    2016.10.16 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    「導かれている」と言うことが、
    後々の物語で非常に重要な意味を帯びてきます。
    それが何なのかは、ずっと後で分かりますが。

    新連載、おめでとうございます。
    また読ませていただきますね。

    NoTitle 

    良いこと悪いことはともかくとして、晴奈は基本的に誰かに教えてもらって行動する機会が多いですよね。まあ、一介の冒険者としては当たり前のことになっちゃいますが。情報が制限されるので。
    こちらの世界の魔王とユキノみたいな人がいればいいんですけどね。
    あ、連載始めました。
    またよろしくお願いします。時間がかかりましたが、要望どおりグッゲンハイムです。
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