「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・風砦録 5
晴奈の話、第451話。
またも逃した剣。
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5.
三人は砦の最上階、フーの部屋へと到着した。
既に立番をしていた兵士も倒し、警備は解除されている。
「入るぞ」
「ええ……」「うん……」
三人は緊張した面持ちで、部屋の扉を開けた。
ところが、部屋の中には誰もいない。
「……あれ?」
「フー、は?」
三人は肩透かしを食った気分で部屋中を探すが、やはり部屋の主はどこにもいなかった。
と、トマスが部屋を見回し、一人ブツブツとつぶやきながら、晴奈に尋ねる。
「砦内には兵士が少ない。そして責任者も不在、……と。
えっと、セイナ。今、……4月だっけ?」
「5月だ。5月20日……、ああ、もう日が変わっていたな。5月21日だ」
「そっか。じゃあもう、中央政府との戦争が再開されている頃か。
となると恐らく、フーは兵士を引き連れて北海に出てるんだろうね」
「なるほど……。
中央政府との戦いに出ている以上、『バニッシャー』も彼奴の手元にあるのは間違いないだろう。……一足遅かったか」
晴奈はがっくりと肩を落とす。
と、その様子をなぜか、トマスがしげしげと見つめている。それに気付き、晴奈はいぶかしんだ。
「……何だ? 私の顔に何か付いているか?」
「あ、ううん。……何でも」
「……?」
晴奈は首を傾げたが、他に気になることはいくらでもある。それ以上は特に、深く聞かなかった。
と、晴奈はまた視線を感じ、振り返った。
「誰だッ!?」「ひゃう!?」
部屋の扉の陰から、おどおどとした女の声が聞こえてきた。
「あ、あのぅ、どなたさんでしょうかぁ?」
「その声……、トラックス少尉、かな」
トマスが声の主に気付き、呼びかける。
「あんまり騒いでほしくないんだ。そっと、こっちに入ってきてくれるかな」
「は、はぁい……」
きー、と音を立てて、扉が開く。トマスの予想していた通り、ミラが顔を出した。
「は、博士ですかぁ? 何でここに……」
ミラが入ってくる直前に扉の側に隠れていた小鈴が、ミラの体を羽交い絞めにする。
「ひゃあ!」「動かないでね」
ミラを拘束したところで、晴奈が素早く近寄り刀を抜く。
「まず名前を聞かせてもらおうか」
「あれ?」
真剣な晴奈たちとは逆に、トマスが緊張感の無い質問をする。
「央南人って自分から名乗るのがしきたりじゃなかったっけ」
「……一々、話の腰を折るな」
晴奈はイラついた目をトマスに向けながら、ミラに再度質問する。
「私はセイナ・コウだ。後ろの女性はコスズ・タチバナ。これで満足か、トマス?」
「あ、うん。変なこと言ってごめんね」
「……」
ミラが晴奈とトマスを交互に見ながら、恐る恐る口を開いた。
「あ、えっとぉ、アタシはミラ・トラックスですぅ。お二人さんとも、央南の方なんですかぁ?」
「そうだ。私は央南からはるばる、日上風が奪った剣を取り戻すためにここまで来たのだ」
「そうなんですかぁ……。その、えっと、何て言ったらいいのか、残念でした、って言えばいいのか……」
「何だ?」
「ヒノカミ中佐、北海に出ちゃってるんですよぉ」
「やはりそうか……」
晴奈は小鈴に目配せし、ミラの拘束を解かせた。無理矢理に腕を極めたせいか、ミラは痛そうに腕をさすっている。
「いた、た……」
「ゴメンね、ミラちゃん」
「いえ、お構いなくぅ」
ミラは豊かな胸元から杖を出し、ボソボソと呪文を唱え始める。どうやら治療術で痛みを和らげようとしているらしい。
「あ、あたしがやったげるわよ。ケガさせたのあたしだし」
「いえ、これくらいは……」
なぜか小鈴とミラは気さくに話し始める。
その間に、晴奈はトマスと今後のことを相談することにした。
「目的がここにいない以上、長居する理由は無い。
フーが北海から戻るのは、いつぐらいだろうか?」
「うーん……、早くても補給が切れる間際、6月半ばまでだろうなぁ。それまでは戻ってくる理由が無いと思うよ。万が一、フーが死んだりでもしない限り、だけど」
「なるほど。……では先に、お主をフェルタイルまで送るとするか。いい時間潰しにはなりそうだ」
「ありがとう、セイナ。
そうだ、もしフーが戻って来るまでにもっと時間がかかりそうなら、それまで僕の家でゆっくりしていくといい。元々祖父の邸宅だったから、部屋だけは一杯あるんだ」
「ふむ、ではお言葉に甘えるとしようか」
話がまとまったところで、晴奈は小鈴に声をかけた。
「小鈴、出発するぞ」
「あ、うん。ソレなんだけどさ、晴奈」
小鈴はミラの肩を持ち、もう一方の手で拝むような仕草を見せた。
「この子も一緒に連れてってあげましょうよ」
「は?」
思いもよらない提案に、晴奈は目を丸くした。
「この子最近、フーからの扱いが悪いらしいんだって。今回の戦いでも、同行させてもらえなかったって言うし」
「そう言えば、そうだよね。側近なのにこの砦に残ってるって言うのは……。
まだ側近のはずだよね、トラックスさん?」
トマスの言葉に泣きそうな顔をしながらも、ミラはうなずいた。
「まだちゃんと側近ですよぉ……。でも中佐、アタシのコトを陰で『とろくさい胸デブ』だって言ってるみたいでぇ……」
「ナニソレ」
小鈴の額に青筋が浮かぶ。
「信じらんない暴言ね、ソレ。そーゆーコト言う奴、ガツンと張り倒してやりたいわ!」
「さっきやっただろう、小鈴……」
晴奈に突っ込まれるが、小鈴の怒りは収まらない。
「ミラちゃん、あたしはアンタの味方だからねっ」
「ありがとうございますぅ、コスズさぁん」
二人はがっしりと手を握り合った。
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またも逃した剣。
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5.
三人は砦の最上階、フーの部屋へと到着した。
既に立番をしていた兵士も倒し、警備は解除されている。
「入るぞ」
「ええ……」「うん……」
三人は緊張した面持ちで、部屋の扉を開けた。
ところが、部屋の中には誰もいない。
「……あれ?」
「フー、は?」
三人は肩透かしを食った気分で部屋中を探すが、やはり部屋の主はどこにもいなかった。
と、トマスが部屋を見回し、一人ブツブツとつぶやきながら、晴奈に尋ねる。
「砦内には兵士が少ない。そして責任者も不在、……と。
えっと、セイナ。今、……4月だっけ?」
「5月だ。5月20日……、ああ、もう日が変わっていたな。5月21日だ」
「そっか。じゃあもう、中央政府との戦争が再開されている頃か。
となると恐らく、フーは兵士を引き連れて北海に出てるんだろうね」
「なるほど……。
中央政府との戦いに出ている以上、『バニッシャー』も彼奴の手元にあるのは間違いないだろう。……一足遅かったか」
晴奈はがっくりと肩を落とす。
と、その様子をなぜか、トマスがしげしげと見つめている。それに気付き、晴奈はいぶかしんだ。
「……何だ? 私の顔に何か付いているか?」
「あ、ううん。……何でも」
「……?」
晴奈は首を傾げたが、他に気になることはいくらでもある。それ以上は特に、深く聞かなかった。
と、晴奈はまた視線を感じ、振り返った。
「誰だッ!?」「ひゃう!?」
部屋の扉の陰から、おどおどとした女の声が聞こえてきた。
「あ、あのぅ、どなたさんでしょうかぁ?」
「その声……、トラックス少尉、かな」
トマスが声の主に気付き、呼びかける。
「あんまり騒いでほしくないんだ。そっと、こっちに入ってきてくれるかな」
「は、はぁい……」
きー、と音を立てて、扉が開く。トマスの予想していた通り、ミラが顔を出した。
「は、博士ですかぁ? 何でここに……」
ミラが入ってくる直前に扉の側に隠れていた小鈴が、ミラの体を羽交い絞めにする。
「ひゃあ!」「動かないでね」
ミラを拘束したところで、晴奈が素早く近寄り刀を抜く。
「まず名前を聞かせてもらおうか」
「あれ?」
真剣な晴奈たちとは逆に、トマスが緊張感の無い質問をする。
「央南人って自分から名乗るのがしきたりじゃなかったっけ」
「……一々、話の腰を折るな」
晴奈はイラついた目をトマスに向けながら、ミラに再度質問する。
「私はセイナ・コウだ。後ろの女性はコスズ・タチバナ。これで満足か、トマス?」
「あ、うん。変なこと言ってごめんね」
「……」
ミラが晴奈とトマスを交互に見ながら、恐る恐る口を開いた。
「あ、えっとぉ、アタシはミラ・トラックスですぅ。お二人さんとも、央南の方なんですかぁ?」
「そうだ。私は央南からはるばる、日上風が奪った剣を取り戻すためにここまで来たのだ」
「そうなんですかぁ……。その、えっと、何て言ったらいいのか、残念でした、って言えばいいのか……」
「何だ?」
「ヒノカミ中佐、北海に出ちゃってるんですよぉ」
「やはりそうか……」
晴奈は小鈴に目配せし、ミラの拘束を解かせた。無理矢理に腕を極めたせいか、ミラは痛そうに腕をさすっている。
「いた、た……」
「ゴメンね、ミラちゃん」
「いえ、お構いなくぅ」
ミラは豊かな胸元から杖を出し、ボソボソと呪文を唱え始める。どうやら治療術で痛みを和らげようとしているらしい。
「あ、あたしがやったげるわよ。ケガさせたのあたしだし」
「いえ、これくらいは……」
なぜか小鈴とミラは気さくに話し始める。
その間に、晴奈はトマスと今後のことを相談することにした。
「目的がここにいない以上、長居する理由は無い。
フーが北海から戻るのは、いつぐらいだろうか?」
「うーん……、早くても補給が切れる間際、6月半ばまでだろうなぁ。それまでは戻ってくる理由が無いと思うよ。万が一、フーが死んだりでもしない限り、だけど」
「なるほど。……では先に、お主をフェルタイルまで送るとするか。いい時間潰しにはなりそうだ」
「ありがとう、セイナ。
そうだ、もしフーが戻って来るまでにもっと時間がかかりそうなら、それまで僕の家でゆっくりしていくといい。元々祖父の邸宅だったから、部屋だけは一杯あるんだ」
「ふむ、ではお言葉に甘えるとしようか」
話がまとまったところで、晴奈は小鈴に声をかけた。
「小鈴、出発するぞ」
「あ、うん。ソレなんだけどさ、晴奈」
小鈴はミラの肩を持ち、もう一方の手で拝むような仕草を見せた。
「この子も一緒に連れてってあげましょうよ」
「は?」
思いもよらない提案に、晴奈は目を丸くした。
「この子最近、フーからの扱いが悪いらしいんだって。今回の戦いでも、同行させてもらえなかったって言うし」
「そう言えば、そうだよね。側近なのにこの砦に残ってるって言うのは……。
まだ側近のはずだよね、トラックスさん?」
トマスの言葉に泣きそうな顔をしながらも、ミラはうなずいた。
「まだちゃんと側近ですよぉ……。でも中佐、アタシのコトを陰で『とろくさい胸デブ』だって言ってるみたいでぇ……」
「ナニソレ」
小鈴の額に青筋が浮かぶ。
「信じらんない暴言ね、ソレ。そーゆーコト言う奴、ガツンと張り倒してやりたいわ!」
「さっきやっただろう、小鈴……」
晴奈に突っ込まれるが、小鈴の怒りは収まらない。
「ミラちゃん、あたしはアンタの味方だからねっ」
「ありがとうございますぅ、コスズさぁん」
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