「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・風砦録 6
晴奈の話、第452話。
大掛かりなイタズラ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
小鈴とミラ、二人が厚い友情を芽生えさせていたところに、のっそりとした声が投げかけられた。
「……あの、俺も、一緒に行って、いい、か?」
「あ、バリーですかぁ?」
「うん……」
扉を開け、非常に体格のいい、しかし妙に頼りなさげな顔の熊獣人が入ってきた。
その男に、晴奈は見覚えがあった。
「……む、貴様は!」
晴奈はバリーを指差し、きつい口調で尋ねる。
「貴様、2年前に央南のナイジェル邸……、エルスの家から、『バニッシャー』を盗み出した者の一人だな!」
「え? ……あ!」
バリーは元から垂れている眉をさらに下げて、深々と頭を下げた。
「すみません! 本当に、すみませんでした!」
「……え、あ、うむ」
素直に謝られ、晴奈はどう返していいのか分からず硬直する。
「本当に、あの時は、中佐の、その、わがままに……」
「……お主、名前は何と言うのだ?」
「あ、はい! その、バリー・ブライアンと、言います。階級は、その、一応、曹長で、はい」
「そうか。バリーとやら、お主はどうやら悪い奴ではなさそうだ。そこまで頭を下げる必要は無い」
「その、えっと、……はい」
晴奈はポリポリと猫耳をかきながら、今度はバリーに優しく尋ねた。
「それでバリー、お主は何故、私たちと同行したいと?」
「その……、俺もミラと同じように、あんまり、最近、待遇がその、よくなくって」
「バリーも『でかいだけのどもるグズ』って……」
「聞けば聞くほど、ムカついてくるわねー……」
怒り心頭の小鈴は、フーの部屋にある魔術を仕掛けることにした。
「コレでよし。15分くらいしたら、……クスクスクス」
その様子を離れて見ていたトマスは、晴奈に耳打ちした。
「どうもコスズさんって、あんまり怒らせたらいけないタイプの人みたいだね」
「ああ、長い間一緒に旅をしているが、怒ると見境が無い」
五人が砦を出てから数分後、砦の最上階からにょきにょきと何かが伸び始めた。
「な、何だぁ!?」
「モンスターか!?」
夜中のことで、兵士たちはそれが何なのか判別できなかった。そして朝になり、伸びた「それ」の正体がつかめた。
「これ……」
「巨大な、……木?」
小鈴が部屋に置いてあった観葉植物を土の術で伸長させ、大木にしたのだ。
「どうする? これ……」
あまりに巨大なため完全に伐ることはできず、かと言って砦に食い込んだこの木を焼いてしまえば、そのまま砦が焼けてしまう。
「どうするったって……」
「どうしようもないですよ、……ねぇ」
「じゃ、……とりあえず閣下が戻ってきてから考えようか。あの人の部屋だし」
「……そうだな」
「……そうしましょうか」
ところが結局、フーはこの部屋に戻ってくることは無かった。そのため大木も処理されることなく、そのまま砦に食い込んで成長し続けた。
後年、この大木はウインドフォートの名物になったと言う。
晴奈たちは知る由も無かったことだが――トマスを助け、ミラとバリーを伴って砦を離れたこの夜こそ、フーが大火を倒したその夜だったのだ。
そして、「大火がこの世界から姿を消した」と言うこのイレギュラーな事態が、晴奈たちにまたも数奇な運命を辿らせることなど、この時の彼女らにはまったく予想も付かなかった。
晴奈たちの、そして晴奈の運命は、急速に動き始めていた。
しかし――誰にも分かるはずはないが――運命が動いているその兆候に、晴奈も、他の四人も、気付いてはいなかった。
蒼天剣・風砦録 終
@au_ringさんをフォロー
大掛かりなイタズラ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
小鈴とミラ、二人が厚い友情を芽生えさせていたところに、のっそりとした声が投げかけられた。
「……あの、俺も、一緒に行って、いい、か?」
「あ、バリーですかぁ?」
「うん……」
扉を開け、非常に体格のいい、しかし妙に頼りなさげな顔の熊獣人が入ってきた。
その男に、晴奈は見覚えがあった。
「……む、貴様は!」
晴奈はバリーを指差し、きつい口調で尋ねる。
「貴様、2年前に央南のナイジェル邸……、エルスの家から、『バニッシャー』を盗み出した者の一人だな!」
「え? ……あ!」
バリーは元から垂れている眉をさらに下げて、深々と頭を下げた。
「すみません! 本当に、すみませんでした!」
「……え、あ、うむ」
素直に謝られ、晴奈はどう返していいのか分からず硬直する。
「本当に、あの時は、中佐の、その、わがままに……」
「……お主、名前は何と言うのだ?」
「あ、はい! その、バリー・ブライアンと、言います。階級は、その、一応、曹長で、はい」
「そうか。バリーとやら、お主はどうやら悪い奴ではなさそうだ。そこまで頭を下げる必要は無い」
「その、えっと、……はい」
晴奈はポリポリと猫耳をかきながら、今度はバリーに優しく尋ねた。
「それでバリー、お主は何故、私たちと同行したいと?」
「その……、俺もミラと同じように、あんまり、最近、待遇がその、よくなくって」
「バリーも『でかいだけのどもるグズ』って……」
「聞けば聞くほど、ムカついてくるわねー……」
怒り心頭の小鈴は、フーの部屋にある魔術を仕掛けることにした。
「コレでよし。15分くらいしたら、……クスクスクス」
その様子を離れて見ていたトマスは、晴奈に耳打ちした。
「どうもコスズさんって、あんまり怒らせたらいけないタイプの人みたいだね」
「ああ、長い間一緒に旅をしているが、怒ると見境が無い」
五人が砦を出てから数分後、砦の最上階からにょきにょきと何かが伸び始めた。
「な、何だぁ!?」
「モンスターか!?」
夜中のことで、兵士たちはそれが何なのか判別できなかった。そして朝になり、伸びた「それ」の正体がつかめた。
「これ……」
「巨大な、……木?」
小鈴が部屋に置いてあった観葉植物を土の術で伸長させ、大木にしたのだ。
「どうする? これ……」
あまりに巨大なため完全に伐ることはできず、かと言って砦に食い込んだこの木を焼いてしまえば、そのまま砦が焼けてしまう。
「どうするったって……」
「どうしようもないですよ、……ねぇ」
「じゃ、……とりあえず閣下が戻ってきてから考えようか。あの人の部屋だし」
「……そうだな」
「……そうしましょうか」
ところが結局、フーはこの部屋に戻ってくることは無かった。そのため大木も処理されることなく、そのまま砦に食い込んで成長し続けた。
後年、この大木はウインドフォートの名物になったと言う。
晴奈たちは知る由も無かったことだが――トマスを助け、ミラとバリーを伴って砦を離れたこの夜こそ、フーが大火を倒したその夜だったのだ。
そして、「大火がこの世界から姿を消した」と言うこのイレギュラーな事態が、晴奈たちにまたも数奇な運命を辿らせることなど、この時の彼女らにはまったく予想も付かなかった。
晴奈たちの、そして晴奈の運命は、急速に動き始めていた。
しかし――誰にも分かるはずはないが――運命が動いているその兆候に、晴奈も、他の四人も、気付いてはいなかった。
蒼天剣・風砦録 終
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

NoTitle
そこに冒険者が関わるというのは面白い展開だな・・・と思います。結構、ロジカルに考える方なので余計に面白いです。