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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・回北録 1

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    晴奈の話、第453話。
    晴奈と巴景、交わりつつある因縁。

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    1.
     ウインドフォートを離れた五人は、グリーンプールへの途上で今後の進路を考えつつ、世間話に興じていた。
    「そう言えばコスズさんとセイナさんってぇ」
     晴奈の後ろで小鈴と話していたミラが、ポンと晴奈の肩を叩いた。
    「うん?」
    「央南の人なんですかぁ?」
    「ああ、そうだ」
    「やっぱりそうですかぁ。アタシが知ってる央南の人と同じような発音されてましたしぃ、そうかなーってぇ」
    「ふむ……」
     晴奈と小鈴は、ウインドフォートの酒場で聞いた情報を思い出した。
    「あの街の酒場でも、央南人が生活していると言う話を聞いたな」
    「ミラちゃん、その人知ってるの?」
    「はぁい、お友達ですよぉ」
    「へぇ……。どんな人なの? その……、仮面をしてる、って聞いたんだけど」
     そう尋ねながら、小鈴は一瞬、晴奈に目をやる。晴奈も小鈴と視線を交わす。
    (やっぱ、……そー思う?)
    (まさか、とは思うがな)
     晴奈も小鈴も――常識的にはあり得ないとは思いつつも――やはり、「彼女」なのではないかと考えていたのだ。
    「いろんな意味ですっごく強い人でぇ、いっつもツンツンした感じでしたけどぉ、気は結構合ってたんでぇ、良くご飯一緒に食べたりぃ、服を買ったりしてましたよぅ」
    「そうか。……その、ちなみに、名は何と言うのだ?」
     晴奈の問いに、ミラは素直に答えた。
    「えーと、トモエさんですぅ」
     それを聞き、晴奈と小鈴は顔を見合わせる。
    「トモエ? トモエ・ホウドウ、か?」
    「あ、はぁい。あれ、ご存知なんですかぁ?」
     うなずくミラを見て、晴奈と小鈴は同時にため息をついた。
    「はぁ……、やっぱり」「まさか、まさか、……と思っていたのに」
     二人の様子に、ミラは戸惑っている。
    「どうしたんですかぁ? アタシ、何か変なコト……?」
    「いや……」
     晴奈はミラに、巴景との確執を語った。
    「じゃああの仮面かぶってる原因は、セイナさんだったんですねぇ」
    「そうなる。そして巴景は、それを深い恨みに変えているのだ」
    「確かにトモエさん、セイナさんにライバル心以上のもの、抱いてた感じがありましたねぇ。
     街で『央南の猫侍』のうわさを聞いたコトがあったんですけどぉ、その時トモエさん、ものっすごぉく不機嫌になっちゃってぇ。すごく気まずくなっちゃったコトがありましたもん」
    「やれやれ……、だ」
     晴奈は星空を仰ぎ見ながら、深いため息をついた。



     ほぼ、同時刻。
     北海第3島、ブルー島。
    「は……っ、は……っ」
     巴景の前に、精根尽き果てた様子のフーがへたり込んでいた。
     いや、巴景自身も疲労しきっており、気を抜けば即座に倒れこんでしまいそうだった。
    「終わった、……わね」
    「だと、いい、けど、な、……はっ、はぁっ」
     声を出すことも困難なほど、二人は疲れ果てていた。
     目の前には小さく盛られた土と、墓標代わりに立てた「彼」の刀があった。
    (あの刀も神器――できれば、欲しいところだけど)
     巴景はその刀に強い興味を抱いてはいたが、それを我が物にすれば流石に祟られそうな気がしたため、どうしても手は伸びなかった。
    「……なあ、トモエ」
     フーが背を向けたまま、巴景に尋ねた。
    「死んだよな? こいつ、死んだよな?」
    「……少なくとも、まともな人間なら絶対に生きていないはずよ。あれだけ痛めつけて、もうピクリとも動かなかったんだから」
    「……だよな」
     フーはふらふらと立ち上がり、巴景に顔を向ける。
    「トモエぇ……」
    「な、何よ?」
     フーはいきなり、巴景に抱きついた。
    「何するのよ!?」
    「悪い……。しばらく、このままでいさせてくれ……っ」
    「……?」
     巴景に抱きついたまま、フーはガタガタと震えだした。
    「怖かった……! 人間じゃねえよ、あいつは……!
     何で『あんなに』なって動いてられたんだ!? 何でまだ、しゃべれたんだよ!? その上、バカスカ攻撃までしてきやがって……!
     今でもまだあいつが、土の中から出てきそうで怖ええんだよ……!」
     巴景は震えるフーの肩を叩き、やんわりと声をかけた。
    「閣下、落ち着いてちょうだい。
     生きているわけが無いじゃない。どんなモンスターであろうと四肢を絶ち、首を裂き、心臓を突き刺しては、生きてはいられないわ。
     死んだのよ、『黒い悪魔』は」
     諭す巴景に、フーはうんうんと首を振っている。
    「ああ、ああ……。そうだよな、死んだよな……」
     敵が死んでなお怯えるフーに対し、巴景は冷静だった。
    (やれやれ……、ね)
     巴景は星空を仰ぎ見ながら、深いため息をついた。



     共振(シンクロニシティ)――離れたものが偶然、あるいは隠れた因果関係によって、同じ動きをすること。
     この時、この瞬間、晴奈と巴景はまったく同じ行動を取った。
     だが、そのことを知る者は彼女らを含めて、誰もいない。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.10.16 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    世の英雄譚も、半分は搦手によって勝利を得ていますしね。
    敵を知ることは勝利に少なからず貢献します。

    NoTitle 

    ま、人間でなく怪物であればそれはそれで滅する方法を考えるべきであって。真正面から戦うのは馬鹿を通り越して、勝つための方法を考えるのを怠った怠惰な人になってしまうわけであり。そういった意味では戦術はかなり必要ですね。・・・特にアレと戦うときはね。
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