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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・回北録 3

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    晴奈の話、第455話。
    ハインツの襲撃。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     気が付けば既に、晴奈たち五人の周りに十数名の兵士が並んでいた。
    「う……っ」
     だが、まずトマスを拘束しようとしていた兵士が晴奈に牽制され、出鼻をくじかれてしまう。
    「その様子からすると、我々が騒いでいたから収めようとした、と言うわけでもないらしいな」
     囲んでいる兵士たちも晴奈同様、武器を構えている。どう見ても臨戦態勢であり、騒ぎの収拾に当たるつもりではなかったのが分かる。
     と、トマスがほっとした顔をしつつ、推察する。
    「ともかく、まあ、喧嘩してる場合じゃなくなったわけだ。いや、……えーと、察するに皆は、ウインドフォートの兵士たち、かな」
    「はい、皆さん見覚えありますよぅ」
     ミラが困った顔で応え、隣のバリーも無言でうなずく。
     と、固まる兵士たちの間から、背の高い口ひげの短耳――ハインツ・シュトルム中尉が姿を現した。
    「あ、シュトルム中尉さぁん」
    「さん付けはよしてもらおうか、トラックス少尉」
     ハインツは苦虫を噛み潰したような顔で、晴奈たちをにらみつける。
    「トマス・ナイジェル博士! 並びにミラ・トラックス少尉とバリー・ブライアン曹長! そしてそこの紅白女と三毛猫!
     軍管轄下からの無許可離脱及びその幇助の罪により、ここで拘束させてもらうぞ!」
    「何を勝手な……!」
     トマスが珍しく声を荒げ、ハインツを非難する。
    「君たちこそ度々、重大な軍務規定違反を犯しているじゃないか! 僕には拘束されるいわれは無い!」
    「ええい、うるさい! とにかく我々の縛に付いてもらうぞ!」
     ハインツが怒鳴り、号令をかけた。
    「全員、かかれッ! 多少ケガを負わせても構わん!」
    「はッ!」
     固まっていた兵士たちは武器を構え直し、晴奈たちに襲い掛かった。

     だが、屈強な兵士たちといえども、修羅場を何度も潜り抜けた晴奈と小鈴の敵ではない。
     警棒を振り上げて晴奈を攻撃しようとした兵士をひらりとかわし、晴奈は足払いをかける。
    「おわっ!?」
    「ぬるい!」
     倒れこんだ兵士の頭に峰打ちし、気絶させる。
    「『ホールドピラー』!」
    「あっ!?」
     小鈴が兵士2名の足を土の術で止め、動けなくなったところを杖でひっぱたく。
     勿論、フーの側近を何年も勤め上げたミラとバリーも負けてはいない。
    「『グレイブファング』ぅ~!」
     ミラは土の術で石の槍を作り出し、兵士たちに放つ。
    「わ、わっと!」
     間一髪でかわしたところに、バリーのタックルが入る。
    「だあッ!」
    「むぎゅっ」
     兵士が3名、折り重なって民家の壁に叩きつけられる。
     あっと言う間に、ハインツの率いた兵士たちは全員打ちのめされた。
    「ぬ、う……!」
     ハインツはますます顔をしかめ、剣を抜いた。
    「残るはお前だけか」
     晴奈は刀を構え直し、ハインツと対峙する。
    「なめるな、田舎者の三毛猫風情が! このハインツ・シュトルム、『猫』如きに後れを取ったりはせんぞ!」
     ハインツは怒涛の如く踏み込み、嵐のように剣を振り回す。
    「ほら、ほら、ほらあッ! どうした、『猫』!」
     対する晴奈は攻撃せず、ギリギリのところでかわし続ける。それを見た小鈴がミラたちに耳打ちした。
    「晴奈の得意パターンよ、アレ」
    「得意パターン?」
    「相手をヘトヘトになるまで振り回して、さくっと叩く。ま、すぐ決着するわ」
     小鈴の言う通り、晴奈を追い回し続けたハインツの顔が、息苦しさのために真っ赤になっていく。
    「ぜっ、ぜっ、……この雌猫め、っ」
    「先程から聞いていれば、『三毛猫風情』だの、『雌猫』だの……」
     晴奈はここでようやく、ハインツを峰打ちした。肩で息をし、汗だくになって疲弊しきったハインツは避けきれず、まともに額を割られた。
    「ぐふう……ッ!」
    「私にはセイナ・コウと言うまともな名前があるのだ。覚えておくがいい、粗忽者」
    「な、に……? き、貴様が、あの……」
     ハインツは顔を、今度は血で赤く染めて、そのまま前のめりに倒れた。

     他の兵士が目を覚まさないうちに、晴奈たちは市場から去った。
    「しかし、参ったね」
     落ち着いたところで、トマスが眼鏡を直しながら――ちなみに先程の戦いの間ずっと、頭を抱えて縮こまっていた――地図を広げて見ている。
    「僕たちが逃げたことに、軍閥はもう気付いてしまっている。恐らく沿岸部の主要都市すべてに、捜査網が広がっているだろう。当然、ノルド峠にもね」
    「今考えたらぁ、中佐の部屋メチャクチャにしたのってぇ、まずかったかも知れませんねぇ」
    「うー聞こえない聞こえなぁい」
     小鈴は長い耳を押さえ、そっぽを向いている。
    「うん、あれは失策だった。どう考えてもあれで異状が発覚したんだろうし」
    「聞こえないったら聞こえないー」
    「それでは今後、どうやって首都まで進むつもりだ?」
    「そこなんだよねぇ……」
     トマスはもう一度、地図に視線を落とす。
    「前にも言った通り、沿岸部から山間部へとつながる道は二つしかない。そして、そのどちらにも軍閥の手は伸びている。
     それを考えると、どうやっても首都へ向かうのは不可能だ」
    「それじゃこれから、どうするんですかぁ?」
    「……首都に向かうのは諦めて、どこかに亡命するしか」
    「それも難しいでしょ」
     現実逃避していた小鈴が戻ってきて意見する。
    「戦争中の今、港はほとんど封鎖されてるはずよ。仮に便があったとしても、軍閥がそこら辺に目を付けないワケ無いし」
    「となると我々はここに足止め、敵の包囲網にじわじわ落ちるのを待つばかり、となるな。……いただけぬ話だ」
     五人は一様にうなり、ため息をついた。
    「……あ」
     と、ミラが顔を上げる。
    「そう言えばぁ、首都に向かう道ってぇ、キルシュ峠とノルド峠って言ってましたけどぉ、もういっこ、ありませんでしたかぁ?」
    「え? いや、この2ヶ所しかないはずだよ。王立図書館発行の公式地図だから、漏れも無いだろうし」
    「でもぉ、おとぎ話とかで、もういっこあるの聞いたような……」
    「おとぎ話って、君ねぇ……」
     トマスは呆れ、またため息をつく。
     が、他の三人はその話に食いついた。
    「ソレ、どんな話?」
    「えっとぉ、200年くらい前のぉ、『猫姫』さんのお話なんですけどぉ……」
     ミラはたどたどしく、その「おとぎ話」を話し始めた。

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    2016.10.16 修正
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