「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・回北録 4
晴奈の話、第456話。
晴奈の逆鱗、二回目。
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4.
双月暦4世紀の初めまで、北方の大部分を支配していたのは「ノルド」と言う王家だった。
神代の戦争、二天戦争で中央軍に協力した豪族、ノルド家が治めていた王国だったが、他聞に漏れずこの王家も、長年に渡る巨大な権力の掌握によって腐敗。北方各地に広がる数多の軍閥を抑えきれず、北方は荒れに荒れていた。
それらの不穏な勢力とノルド王家を排除しようとしたのが、現在の王家であるジーン家である。彼らは北方各地から密かに兵力を集め、各地の軍閥を攻撃して回っていた。しかし寄せ集めの兵隊と、鉄壁の要塞に護られた軍閥とではまともな戦いになるはずもなく、長い間成果を挙げられないまま、戦いは泥沼化していた。
それを急転直下解決させ、さらにはノルド家を打倒し、ジーン王国の成立にまで導いたのが――。
「ジーン王国初代の国王、『地星』クラウス・ジーンとファスタ卿、『黒い悪魔』、そして、『猫姫』イール・サンドラ、……ですねぇ」
「また黒炎殿か……」
晴奈はあちこちの逸話・寓話に大火が登場してくることに苦笑した。
(まったく『神出鬼没』とは、この人そのものだな)
「んで、その『猫姫』さんと3つ目のルートと、どう言う関係があるの?」
尋ねた小鈴に、ミラはやはり、たどたどしげに説明する。
「えっとですねぇ、そのサンドラさんが住んでた村とぉ、首都の近くとにぃ、抜け道があったって話なんですよぉ。
その抜け道を使ってぇ、『猫姫』さんたちはぁ、軍閥さんたちと遭わずに沿岸部と首都とを行き来できたって話ですよぅ」
「ほう」
晴奈たちは真剣に話を聞いているが、トマスだけは懐疑的な目を向けている。
「だからそれって逸話、架空の話だろう? そんなものがあるとは、到底思えないなぁ」
「そうですかねぇ……?」
トマスの強い口調に、ミラは不安げな表情を浮かべる。
「考えてもみなよ、この山深い国じゃそんな峠、街道って言うのは非常に貴重なものだ。キルシュ峠だって、巨額と四半世紀以上の時間を投じて山を切り拓き、造成したものなんだからね。
もし本当にそんな抜け道があるんなら、使われないわけがないじゃないか。なのに、現代においてまったくうわさを聞かないってことはつまり、無いってことになるよ」
「……そうですよねぇ」
しゅんとした顔になるミラを見て、トマスは得意げな顔になった。
「だろう? もっと理知的に考えてほしいね」
「トマス」
晴奈は思わず、トマスの襟をつかんでいた。
「な、何?」
「わずかな可能性をろくに検討もせず、口先だけであしらって実も蓋も無く潰すのが、お前にとってはそんなに顔がニヤつくほど、楽しいことか?」
晴奈の頭の中は、怒りで熱く煮え立っている。語調を抑えるのがやっとであり、依然襟を握り締める拳は緩もうとしない。
「いや、そんなことは……。でもさ、常識的に」「貴様の他人を省みぬ無神経さ、流石に癇に障る。黙っていろ」「……そんな言い方しなくても。僕はただ……」
言い訳しようとするトマスを、晴奈はさらににらみつけた。
「黙れと言ったのだ」
「……」
吊り上がった目で怒りを訴える晴奈に、トマスは無言でうなずくしかなかった。
トマスを話の輪から外し、晴奈たちは改めてミラの示した可能性を論じることにした。
「それでミラ、その『猫姫』殿の住んでいた村とは、どの辺りなのだ?」
「えっとですねぇ、えーと……」
ミラは地図を眺めるが、困ったような顔をする。
「ドコ、って言うのは、聞いたコトないですぅ……。お話の中では、『ブラックウッド』って言う村だったって聞いたんですけどぅ……」
「ブラックウッド、ねぇ」
地図を眺めてみるが、そんな地名は見当たらない。
「だから無いんだって……。みんなどうかしてるよ」
後ろでつぶやくトマスを無視し、小鈴は詳しく尋ねる。
「まー、名前から考えて、森とか林とかが近くにありそうな名前よね。この辺りの森って言うと、この辺り?」
小鈴は沿岸部の南側に広がる平野を指し示す。
「そうですねぇ。あ、そうだ。その辺りってぇ、その『猫姫』さんがぁ、自分たちを裏切った『黒い悪魔』とぉ、最期に戦った場所らしいですよぉ」
「そなの?」
「ほら、この辺りに『ライオットヒル』って丘がありますぅ。『猫姫』さんが率いた反乱軍が全滅した丘だから、そう名付けられたって聞いたコトが……」
それを聞き、小鈴は思索にふける。
「ってコトはー……、その『猫姫』、この近くに本拠地を構えてたって可能性があるわね。となると、その本拠地がブラックウッドだってコトも、十分考えられるわ。
んじゃこの辺り、調べてみましょ」
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晴奈の逆鱗、二回目。
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双月暦4世紀の初めまで、北方の大部分を支配していたのは「ノルド」と言う王家だった。
神代の戦争、二天戦争で中央軍に協力した豪族、ノルド家が治めていた王国だったが、他聞に漏れずこの王家も、長年に渡る巨大な権力の掌握によって腐敗。北方各地に広がる数多の軍閥を抑えきれず、北方は荒れに荒れていた。
それらの不穏な勢力とノルド王家を排除しようとしたのが、現在の王家であるジーン家である。彼らは北方各地から密かに兵力を集め、各地の軍閥を攻撃して回っていた。しかし寄せ集めの兵隊と、鉄壁の要塞に護られた軍閥とではまともな戦いになるはずもなく、長い間成果を挙げられないまま、戦いは泥沼化していた。
それを急転直下解決させ、さらにはノルド家を打倒し、ジーン王国の成立にまで導いたのが――。
「ジーン王国初代の国王、『地星』クラウス・ジーンとファスタ卿、『黒い悪魔』、そして、『猫姫』イール・サンドラ、……ですねぇ」
「また黒炎殿か……」
晴奈はあちこちの逸話・寓話に大火が登場してくることに苦笑した。
(まったく『神出鬼没』とは、この人そのものだな)
「んで、その『猫姫』さんと3つ目のルートと、どう言う関係があるの?」
尋ねた小鈴に、ミラはやはり、たどたどしげに説明する。
「えっとですねぇ、そのサンドラさんが住んでた村とぉ、首都の近くとにぃ、抜け道があったって話なんですよぉ。
その抜け道を使ってぇ、『猫姫』さんたちはぁ、軍閥さんたちと遭わずに沿岸部と首都とを行き来できたって話ですよぅ」
「ほう」
晴奈たちは真剣に話を聞いているが、トマスだけは懐疑的な目を向けている。
「だからそれって逸話、架空の話だろう? そんなものがあるとは、到底思えないなぁ」
「そうですかねぇ……?」
トマスの強い口調に、ミラは不安げな表情を浮かべる。
「考えてもみなよ、この山深い国じゃそんな峠、街道って言うのは非常に貴重なものだ。キルシュ峠だって、巨額と四半世紀以上の時間を投じて山を切り拓き、造成したものなんだからね。
もし本当にそんな抜け道があるんなら、使われないわけがないじゃないか。なのに、現代においてまったくうわさを聞かないってことはつまり、無いってことになるよ」
「……そうですよねぇ」
しゅんとした顔になるミラを見て、トマスは得意げな顔になった。
「だろう? もっと理知的に考えてほしいね」
「トマス」
晴奈は思わず、トマスの襟をつかんでいた。
「な、何?」
「わずかな可能性をろくに検討もせず、口先だけであしらって実も蓋も無く潰すのが、お前にとってはそんなに顔がニヤつくほど、楽しいことか?」
晴奈の頭の中は、怒りで熱く煮え立っている。語調を抑えるのがやっとであり、依然襟を握り締める拳は緩もうとしない。
「いや、そんなことは……。でもさ、常識的に」「貴様の他人を省みぬ無神経さ、流石に癇に障る。黙っていろ」「……そんな言い方しなくても。僕はただ……」
言い訳しようとするトマスを、晴奈はさらににらみつけた。
「黙れと言ったのだ」
「……」
吊り上がった目で怒りを訴える晴奈に、トマスは無言でうなずくしかなかった。
トマスを話の輪から外し、晴奈たちは改めてミラの示した可能性を論じることにした。
「それでミラ、その『猫姫』殿の住んでいた村とは、どの辺りなのだ?」
「えっとですねぇ、えーと……」
ミラは地図を眺めるが、困ったような顔をする。
「ドコ、って言うのは、聞いたコトないですぅ……。お話の中では、『ブラックウッド』って言う村だったって聞いたんですけどぅ……」
「ブラックウッド、ねぇ」
地図を眺めてみるが、そんな地名は見当たらない。
「だから無いんだって……。みんなどうかしてるよ」
後ろでつぶやくトマスを無視し、小鈴は詳しく尋ねる。
「まー、名前から考えて、森とか林とかが近くにありそうな名前よね。この辺りの森って言うと、この辺り?」
小鈴は沿岸部の南側に広がる平野を指し示す。
「そうですねぇ。あ、そうだ。その辺りってぇ、その『猫姫』さんがぁ、自分たちを裏切った『黒い悪魔』とぉ、最期に戦った場所らしいですよぉ」
「そなの?」
「ほら、この辺りに『ライオットヒル』って丘がありますぅ。『猫姫』さんが率いた反乱軍が全滅した丘だから、そう名付けられたって聞いたコトが……」
それを聞き、小鈴は思索にふける。
「ってコトはー……、その『猫姫』、この近くに本拠地を構えてたって可能性があるわね。となると、その本拠地がブラックウッドだってコトも、十分考えられるわ。
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