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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・回北録 5

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    晴奈の話、第457話。
    ブラックウッド探索。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     グリーンプールでの襲撃から、1週間後。
     晴奈たちは小鈴の提案に乗り、ライオットヒル周辺の森を調べて回っていた。周りの木々は色の濃い針葉樹ばかりで、「ブラックウッド(黒い木)」と言う地名があっても、何ら不自然ではない。
    「くしゅっ」
     森の中は湿度が高く、あちこちに霧が発生している。それに体温を奪われたらしく、ミラがくしゃみをする。
    「寒い? 何か羽織るもの、出そっか?」
    「いえ、だいじょぶですぅ」
     仲のいい小鈴とミラに比べ、依然晴奈とトマスの間には険悪な空気が流れている。
    「ねえ、セイナ」
    「何だ?」
    「……何でもない」
     時折トマスが声をかけようとするが、晴奈と目が合った瞬間にそらしてしまう。
    「……あの、セイナ」
    「何だ、と何度も聞いている。何なんだ、一体?」
     何度か声をかけて、ようやくトマスは質問した。
    「その、……僕って、無神経なのかな」
    「少なくとも、私にはそう見える。他人の意見を得意げにこき下ろし、他人の欠点を嫌味ったらしく踏みにじる様は、どう見ても無神経そのものだ」
    「そっか。……そうだよね、うん」
     トマスは晴奈に背を向け、黙り込んだ。
     その様子があまりにも気落ちして見えたので、彼を叱咤した晴奈も少々罰が悪くなった。
    「まあ、何だな。……反省したのなら、それでいい。今後同じことをしなければ、何も悪く考えることなどない」
    「……うん」
     また、両者は無言で探索を再開した。

    「あ、あのっ」
     バリーの声がする。晴奈たちは声のした方に顔を向けた。
    「どうした?」
    「あの、なんか、それっぽいのが、あっちに」
    「本当か!?」
     四人は急いで、バリーの方に駆けつけた。
     そこには確かに、かつて農村があったらしい形跡が確認できた。
    「あっちに看板があったわ。ボロボロで十分には確認できなかったけど、『BL**K **ODS』って残ってたから、多分間違いないわね」
    「まさか本当にあるとは……」
     トマスはあごに手を当て、絶句する。
    「……あー、……その、ごめんね」
     一転、トマスは申し訳無さそうな顔をし、ミラに謝った。
    「いえいえ、気にしないでくださいよぅ」
     謝るトマスに、ミラは笑って返した。

    「後はここに、その抜け道があれば上々なのだが」
     五人は廃村の中に入り、霧の中を慎重に進んでいった。
    「何だか不気味だなぁ」
     トマスが難儀したような声を出す。
    「……そゆコト、言わないでくださいよぅ」
     ミラが怯えた声を出し、バリーにしがみつく。
    「あ、あの、ミラ。……あんまり、くっつかないで」
    「やですぅ。アタシ、いかにも『オバケが出ますよー』って言うところ、キライなんですよぉ」
    「そうは言っても、あの、……当たってるから」
    「そんなコト気にしてる場合じゃないですよぅ~」
     二人の様子は同僚と言うよりも、歳の近い兄妹のように見える。二人のやり取りを背中で聞いていた晴奈は、思わず苦笑した。
     と――。
    「……うん?」
     霧の向こうから、ガサガサと言う音がする。
    「きゃっ……」
     ミラが怯え、ますますバリーに強くしがみつく(そしてますます、バリーは顔を赤くする)。
    「……何だ、狐か」
     向こうからやってきたのは、灰色の毛並みをした野狐だった。
    「な、なぁんだ……」
     ようやく、ミラがバリーから体を離した。振り返ってそれを見た晴奈は、また苦笑する。
    「幽霊だの妖怪だのの正体は、ほとんどこんなものだ」
    「で、ですよねぇ」
    「もっとも、中には本物もいないことも無いが」
    「やめてくださいよぉ~……」
     そうこうしている内に、狐が晴奈の足元に寄ってきた。
    「おっと。……結構可愛いじゃないか」
     晴奈も実妹と同じくらい動物が好きなので、屈んで狐の頭を撫でてやる。
    「ほら、うりうりー」
    「……ぷっ」
     晴奈の様子を見ていた小鈴が、口元を押さえて吹き出した。
    「ぷ、くくく、んふふふふふ、……晴奈ぁ、アンタ毎度毎度、可愛いモノに会うとキャラ変わるわねぇ、んっふふふふふふ……」
    「あ、……私としたことが」
     晴奈は顔を赤くしながらも、狐を撫でるのをやめようとはしない。ミラも晴奈の横に屈み込み、一緒に狐を撫でた。
    「この子、人懐っこいですねぇ」
    「そうだな。まったく、怖がりもしない。……良く見れば、体を洗った節があるな?
     まさかこんなところに、この狐を飼っているような人間がいるのか?」
     と、その時。
    「人間、……か?」
     若い男の声が、どこからか響いてきた。

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    2016.10.16 修正
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    NoTitle 

    期待してます。
    頑張ってください。

    NoTitle 

    ・・・う~~~む。こうして、姿かたちの話をしていると、セイナも早く絵を付けたいなあ。。。と思う次第であり、その為は私が合作用のシナリオを書かないといけないわけであり。長い道のりだなあ・・・と思います。その前にユキノの話を早く!!・・・書きます。

    こんにちは 

    はじめまして。
    楽しく、見やすいブログですね。
    参考になります。

    私もがんばってブログをつづけています。
    よかったら、遊びに来てください。
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