「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・回北録 6
晴奈の話、第458話。
古ぼけた若者。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
突然かけられた声に、晴奈たちは全員驚き、即座に武器を構えた。
「何者だ!?」
「そんな、警戒せんでくれ……」
現れたのは黒眼鏡をかけ、黒ずんだ古い官服に身を包んだ、金髪のエルフだった。
「何者だ、と聞いている! 答えろ!」
晴奈は刀をエルフに向け、威嚇する。
「すまぬが、もう少しゆっくり、話してくれぬか……」
男は妙に、古臭い話し方をする。それはまるで――。
「お、おにーさん、おいくつですかぁ? なんか、おじーちゃんみたいなしゃべり方ですけどぉ……」
「……? すまぬ、主らが何と言うておるのか、皆目理解できぬ」
男は困った顔でおろおろするばかりだった。
ともかく晴奈たちは近くの石や倒木に座り、自己紹介をした上で男の話を聞くことにした。
「それでお主、名は何と言う?」
晴奈は膝に狐を乗せたまま、男に尋ねた。
「わしは、……あ、いや、僕、は」
自分の話し方が非常に古風だと悟ったのか、男は晴奈たちの言葉を真似ている。
「らん、……いや、……その」
「うん?」
男は一瞬黙り込み、顔を上げた。
「ネロ、と呼んでくれ。……ネロ・ハーミットで」
その様子からすぐに偽名だと分かったが、誰も特にとがめなかった。
「……分かった、ネロ。それで、何故こんなところにいるのだ?」
「その前に、……その、良ければ教えてほしいことなんだけど」
ネロはまた一瞬黙り込み、ぽつりぽつりと尋ね始めた。
「今は、……えーと、今の日付を教えてほしいんだ。今は何年の、何月何日かな」
「520年の、5月29日だ」
日付を聞いたネロは驚いたような表情を浮かべる。
「ご、……そうか、520年、5月29日、ね。これ、双月暦だよね」
「勿論だ」
「それでその、変なことばかり聞いて申し訳ないんだけど、ここは北方のブラックウッド、で間違いないかい?」
「恐らく、そうだ。既に廃村になっており、詳しく確認はできぬが」
「そっか、そうだよね。……えーと、じゃあ、ここはジーン王国領、だよね?」
「そうだ」
「その、世界情勢とか、聞いておきたいんだけど」
「んじゃあたしが説明するわね、そーゆーのは詳しいし」
小鈴が手を挙げたところで、ネロは「あ……」と声を出し、さえぎった。
「ん? どしたの?」
「コスズさん、だっけ。彼女に話を聞いている間に、お願いしたいことがあるんだ」
ネロは立ち上がり、霧の向こうを指差す。
「あっちに古い山道があるんだけど、そこに僕の仲間を寝かせているんだ。ひどく衰弱しているから、動かせなくって。誰か、看病してくれないかい?」
「衰弱した仲間、か。相分かった、向かおう」
「ありがとう、セイナさん」
ネロは深々と頭を下げ、晴奈から狐を渡された後、小鈴との会話に移った。
余談だが、やはりこの狐はネロが飼っていたものらしい。小鈴が話をしている間ずっと、狐はネロの膝の上にちょこんと座っていた。
ネロが伝えた山道は、洞穴になっていた。
「なるほど、ここなら雨風をしのげるな」
「それにもしかしたら、ここが僕らの探していたルートかも知れない」
入ってすぐに、ネロが看病していたと思われる女性を見つけた。緑髪に黒い耳と尻尾を持った猫獣人で、ひどく顔色が悪い。
「大丈夫か?」
「……」
返事は無い。呼吸は聞こえるので、どうやら眠っているようだ。
「バリー、毛布を出してくれ。ともかく体を温めてやろう」
「分かった」
バリーが荷物を下ろしている間に、晴奈とトマス、ミラはその「猫」を観察した。
ネロと同様に、着ているものは非常に古めかしい。だが古着と言うわけではなく、デザインが異様に古臭いのだ。そして服だけではなく、アクセサリや装備しているものも、妙にレトロさを感じる。
「やけに古風な格好だな……?」
「単純にレトロファッションが好き、にしてもぉ、いくらなんでも古着すぎますよぉ。コレじゃまるで、仮装ですよぅ」
「ネロも、いやに古い服を着ていた。何でだろうね……?」
三人は一様に首を傾げるが、その理由は見当も付かなかった。
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古ぼけた若者。
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6.
突然かけられた声に、晴奈たちは全員驚き、即座に武器を構えた。
「何者だ!?」
「そんな、警戒せんでくれ……」
現れたのは黒眼鏡をかけ、黒ずんだ古い官服に身を包んだ、金髪のエルフだった。
「何者だ、と聞いている! 答えろ!」
晴奈は刀をエルフに向け、威嚇する。
「すまぬが、もう少しゆっくり、話してくれぬか……」
男は妙に、古臭い話し方をする。それはまるで――。
「お、おにーさん、おいくつですかぁ? なんか、おじーちゃんみたいなしゃべり方ですけどぉ……」
「……? すまぬ、主らが何と言うておるのか、皆目理解できぬ」
男は困った顔でおろおろするばかりだった。
ともかく晴奈たちは近くの石や倒木に座り、自己紹介をした上で男の話を聞くことにした。
「それでお主、名は何と言う?」
晴奈は膝に狐を乗せたまま、男に尋ねた。
「わしは、……あ、いや、僕、は」
自分の話し方が非常に古風だと悟ったのか、男は晴奈たちの言葉を真似ている。
「らん、……いや、……その」
「うん?」
男は一瞬黙り込み、顔を上げた。
「ネロ、と呼んでくれ。……ネロ・ハーミットで」
その様子からすぐに偽名だと分かったが、誰も特にとがめなかった。
「……分かった、ネロ。それで、何故こんなところにいるのだ?」
「その前に、……その、良ければ教えてほしいことなんだけど」
ネロはまた一瞬黙り込み、ぽつりぽつりと尋ね始めた。
「今は、……えーと、今の日付を教えてほしいんだ。今は何年の、何月何日かな」
「520年の、5月29日だ」
日付を聞いたネロは驚いたような表情を浮かべる。
「ご、……そうか、520年、5月29日、ね。これ、双月暦だよね」
「勿論だ」
「それでその、変なことばかり聞いて申し訳ないんだけど、ここは北方のブラックウッド、で間違いないかい?」
「恐らく、そうだ。既に廃村になっており、詳しく確認はできぬが」
「そっか、そうだよね。……えーと、じゃあ、ここはジーン王国領、だよね?」
「そうだ」
「その、世界情勢とか、聞いておきたいんだけど」
「んじゃあたしが説明するわね、そーゆーのは詳しいし」
小鈴が手を挙げたところで、ネロは「あ……」と声を出し、さえぎった。
「ん? どしたの?」
「コスズさん、だっけ。彼女に話を聞いている間に、お願いしたいことがあるんだ」
ネロは立ち上がり、霧の向こうを指差す。
「あっちに古い山道があるんだけど、そこに僕の仲間を寝かせているんだ。ひどく衰弱しているから、動かせなくって。誰か、看病してくれないかい?」
「衰弱した仲間、か。相分かった、向かおう」
「ありがとう、セイナさん」
ネロは深々と頭を下げ、晴奈から狐を渡された後、小鈴との会話に移った。
余談だが、やはりこの狐はネロが飼っていたものらしい。小鈴が話をしている間ずっと、狐はネロの膝の上にちょこんと座っていた。
ネロが伝えた山道は、洞穴になっていた。
「なるほど、ここなら雨風をしのげるな」
「それにもしかしたら、ここが僕らの探していたルートかも知れない」
入ってすぐに、ネロが看病していたと思われる女性を見つけた。緑髪に黒い耳と尻尾を持った猫獣人で、ひどく顔色が悪い。
「大丈夫か?」
「……」
返事は無い。呼吸は聞こえるので、どうやら眠っているようだ。
「バリー、毛布を出してくれ。ともかく体を温めてやろう」
「分かった」
バリーが荷物を下ろしている間に、晴奈とトマス、ミラはその「猫」を観察した。
ネロと同様に、着ているものは非常に古めかしい。だが古着と言うわけではなく、デザインが異様に古臭いのだ。そして服だけではなく、アクセサリや装備しているものも、妙にレトロさを感じる。
「やけに古風な格好だな……?」
「単純にレトロファッションが好き、にしてもぉ、いくらなんでも古着すぎますよぉ。コレじゃまるで、仮装ですよぅ」
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三人は一様に首を傾げるが、その理由は見当も付かなかった。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
「警戒せんでくれえ」とか、「俺は敵じゃない!!」とかって余計に警戒しますよね。。。。いや、本人は真面目に言っているんでしょうけど、余計に警戒してしまうのは心理なんでしょうかね。
- #1734 LandM
- URL
- 2013.09/05 17:59
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NoTitle
このシチュエーションだと何を言っても……。