「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・回北録 8
晴奈の話、第460話。
山道を登って。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
洞穴は30分ほど続き、抜けたところで険しい山道がその姿を見せた。
「うはぁ……」
体力の無いトマスは、その荒れた道を見てため息をつく。
「これはなかなか、骨が折れそうだな」
「仕方あるまい。気をつけて進むぞ」
山道を歩くのに慣れている晴奈や小鈴、一端の兵士であるミラとバリーは平然と進んでいくが、監禁されていた上に普段から机に着いていることの多いトマスは顔を真っ赤にして、ゼェゼェと荒い息をしながら歩いている。
「きゅ、きゅう、けい……」
「何を馬鹿な。まだ30分も登っていないではないか」
「えぇ……? も、もう、2時間くらいは登ってた気、したんだけど……」
「……はぁ。背中を押してやるから、もう少し根性をひねり出せ」
「せ、セイナさん、僕も休憩をお願いしたい」
トマスよりはまだ前を歩いていたネロも、汗だくになった顔を上げて休憩を申し出た。
「むう、お主もか」
「それに、しっかり固定している、とは言え、ジーナの体調も、心配なんだ。この辺りで、休ませてあげて、ほしいんだ」
「……そうだな、ここで一息つくとしようか」
晴奈たちはなだらかな場所に布を敷き、休憩することにした。
トマスはうつむき、肩で息をしている。
「ゼェ……ゼェ……げほ、げほっ」
見かねた晴奈が、トマスの背中をさすってやる。
「私の、かつての弟弟子くらいに体力が無いな。もう少し鍛えねば、後々苦労するぞ」
「いや、でも僕は、デスクワークが主、だから」
「そうは言っても、お主の祖父殿は毎朝1時間半は外を回って、体を動かしていたぞ。少しは運動せねば、頭への血の巡りも悪くなるだろうに」
「……善処、しておくよ」
一方、小鈴とミラ、バリーは、ネロと一緒にジーナの看病をしていた。とは言え、最初に会った時よりは若干顔色も良く、意識もはっきりしている。
「ちゃんと食事を取れたのが良かったのかもね。軽い栄養失調だったみたいだ」
「それでもさー、まだ目ぇ見えないんでしょ? 起き上がるのもきついみたいだし」
「うむ……。若干、手足がしびれておる」
「やっぱりぃ、早めに病院へ連れてってあげないといけませんねぇ」
「そうだね……」
ネロは黒眼鏡を外し、裸眼でジーナを見つめている。山の中は薄暗く、はっきりとは確認できないが、片方は澄み渡った青い目であるのが確認できた。
と、小鈴はネロのもう一方の目に気が付いた。
「……あれ? ネロ、アンタ……」
「うん?」
「左目は青だけど、右目は黒。オッドアイなのね」
「えっ?」
ネロは右目を触り、きょろきょろと辺りを見回している。
「……? 今まで、自分で気付いてなかったの?」
「いや……、元々、両方とも青だったはずなんだけど」
「んじゃ、いつの間にか黒くなっちゃったってコト? ふーん……」
小鈴は興味深くネロの目を見つめ、場に一瞬沈黙が流れる。
すると横になっていたジーナが心配そうに、小鈴の巫女服をくいくいと引っ張ってきた。
「……ん? どしたの?」
「あ、……何でもない。その、もうそろそろ気分も良くなってきたからの、出発してはどうか、と思ってな」
「ん、分かった。ネロ、アンタは大丈夫?」
「ああ、問題ない」
「そっちの方は?」
小鈴は顔を晴奈に向け、尋ねてみる。
「大丈夫だ。呼吸も落ち着いているようだし、もう30分は頑張ってもらおう」
「うへぇ……」
トマスの苦しそうなため息が聞こえたが、一行は構わず登山を再開した。
休んでは登り、登っては休みを繰り返し、2日かけて晴奈たちは山道を登り切った。
着いた頃には、辺りは既に夕闇が迫り、その空は――。
「……ほう。これは見事な」
「なーるほど、『雪と星の世界』、ね」
満天の星空が、晴奈たちを出迎えてくれた。
「標高も高く、空気も冷えて、澄み切っているから、こうして、美しい空が、見られるんだ。この景色は、この北方大陸、最高の、宝だよ」
トマスは得意げに、空を見上げる晴奈と小鈴に説明する。が、息切れしながらの説明なので、感心されるどころか心配されてしまう。
「早いところ、街に向かおう。いい加減、三人の体力も限界だろうからな」
「……うん。早く横になりたい」
得意げになっていたトマスは、途端にへたり込んだ。
不思議な二人、ネロとジーナを迎え、晴奈の旅はさらににぎやかになっていく。
しかし、その旅ももうすぐ、終わりを告げることになる。
蒼天剣・回北録 終
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山道を登って。
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8.
洞穴は30分ほど続き、抜けたところで険しい山道がその姿を見せた。
「うはぁ……」
体力の無いトマスは、その荒れた道を見てため息をつく。
「これはなかなか、骨が折れそうだな」
「仕方あるまい。気をつけて進むぞ」
山道を歩くのに慣れている晴奈や小鈴、一端の兵士であるミラとバリーは平然と進んでいくが、監禁されていた上に普段から机に着いていることの多いトマスは顔を真っ赤にして、ゼェゼェと荒い息をしながら歩いている。
「きゅ、きゅう、けい……」
「何を馬鹿な。まだ30分も登っていないではないか」
「えぇ……? も、もう、2時間くらいは登ってた気、したんだけど……」
「……はぁ。背中を押してやるから、もう少し根性をひねり出せ」
「せ、セイナさん、僕も休憩をお願いしたい」
トマスよりはまだ前を歩いていたネロも、汗だくになった顔を上げて休憩を申し出た。
「むう、お主もか」
「それに、しっかり固定している、とは言え、ジーナの体調も、心配なんだ。この辺りで、休ませてあげて、ほしいんだ」
「……そうだな、ここで一息つくとしようか」
晴奈たちはなだらかな場所に布を敷き、休憩することにした。
トマスはうつむき、肩で息をしている。
「ゼェ……ゼェ……げほ、げほっ」
見かねた晴奈が、トマスの背中をさすってやる。
「私の、かつての弟弟子くらいに体力が無いな。もう少し鍛えねば、後々苦労するぞ」
「いや、でも僕は、デスクワークが主、だから」
「そうは言っても、お主の祖父殿は毎朝1時間半は外を回って、体を動かしていたぞ。少しは運動せねば、頭への血の巡りも悪くなるだろうに」
「……善処、しておくよ」
一方、小鈴とミラ、バリーは、ネロと一緒にジーナの看病をしていた。とは言え、最初に会った時よりは若干顔色も良く、意識もはっきりしている。
「ちゃんと食事を取れたのが良かったのかもね。軽い栄養失調だったみたいだ」
「それでもさー、まだ目ぇ見えないんでしょ? 起き上がるのもきついみたいだし」
「うむ……。若干、手足がしびれておる」
「やっぱりぃ、早めに病院へ連れてってあげないといけませんねぇ」
「そうだね……」
ネロは黒眼鏡を外し、裸眼でジーナを見つめている。山の中は薄暗く、はっきりとは確認できないが、片方は澄み渡った青い目であるのが確認できた。
と、小鈴はネロのもう一方の目に気が付いた。
「……あれ? ネロ、アンタ……」
「うん?」
「左目は青だけど、右目は黒。オッドアイなのね」
「えっ?」
ネロは右目を触り、きょろきょろと辺りを見回している。
「……? 今まで、自分で気付いてなかったの?」
「いや……、元々、両方とも青だったはずなんだけど」
「んじゃ、いつの間にか黒くなっちゃったってコト? ふーん……」
小鈴は興味深くネロの目を見つめ、場に一瞬沈黙が流れる。
すると横になっていたジーナが心配そうに、小鈴の巫女服をくいくいと引っ張ってきた。
「……ん? どしたの?」
「あ、……何でもない。その、もうそろそろ気分も良くなってきたからの、出発してはどうか、と思ってな」
「ん、分かった。ネロ、アンタは大丈夫?」
「ああ、問題ない」
「そっちの方は?」
小鈴は顔を晴奈に向け、尋ねてみる。
「大丈夫だ。呼吸も落ち着いているようだし、もう30分は頑張ってもらおう」
「うへぇ……」
トマスの苦しそうなため息が聞こえたが、一行は構わず登山を再開した。
休んでは登り、登っては休みを繰り返し、2日かけて晴奈たちは山道を登り切った。
着いた頃には、辺りは既に夕闇が迫り、その空は――。
「……ほう。これは見事な」
「なーるほど、『雪と星の世界』、ね」
満天の星空が、晴奈たちを出迎えてくれた。
「標高も高く、空気も冷えて、澄み切っているから、こうして、美しい空が、見られるんだ。この景色は、この北方大陸、最高の、宝だよ」
トマスは得意げに、空を見上げる晴奈と小鈴に説明する。が、息切れしながらの説明なので、感心されるどころか心配されてしまう。
「早いところ、街に向かおう。いい加減、三人の体力も限界だろうからな」
「……うん。早く横になりたい」
得意げになっていたトマスは、途端にへたり込んだ。
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しかし、その旅ももうすぐ、終わりを告げることになる。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
体を動かして地道に移動するシーンは、
確かに冒険モノによく出てきますね。
ただ、過程を描く作業は地味にしんどかったりします。
今もそれで難航中です(´・ω・)
確かに冒険モノによく出てきますね。
ただ、過程を描く作業は地味にしんどかったりします。
今もそれで難航中です(´・ω・)
NoTitle
うむ・・・今の私が山登りなんてしたら死んじゃうんじゃないか・・ということを感じます。こういう山登りの過程などを描くのが冒険もの見所だなと思うと、やはりかなりグッドジョブな描写だな・・・と思います。こういう過程の話は大好きです。
- #1742 LandM
- URL
- 2013.09/16 18:38
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