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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・黒隠録 2

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    晴奈の話、第462話。
    囲碁と女心。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     晴奈はふと思い立ち、ネロに声をかけた。
    「ネロ。囲碁は知っているか?」
    「イゴ? いや、知らないな」
     きょとんとするネロに、晴奈は簡単に説明した。
    「石を交互に置き、陣地を競う遊戯だ。
     トマス、祖父殿は北方一の名人と聞いていたが、碁盤や碁笥は置いてあるか?」
    「多分まだ、祖父の部屋にあると思う」
    「案内してもらっていいか?」
    「いいよ」
     晴奈とトマスは居間に碁盤を運び、ネロにルール説明をした。
    「……と言う訳だ」
    「なるほど。……セイナ、相手をお願いしてもいいかい?」
    「喜んで」
     晴奈とネロは碁盤を囲み、打ち始めた。

     一方、小鈴とミラは病院に入院したジーナを見舞いに来ていた。
    「どう? 目、ちょっとは良くなってきた?」
    「うーむ……。まだ、ほとんど見えぬ」
     医者の話では、ジーナの症状は急激に魔力を消費したために起こったものではないかと言うことだった。
     しかし、ジーナはブラックウッドの洞穴で目を覚ます前のことを、何も覚えていないと言う。それどころか、自分が以前に何をしていたのか、どこに住んでいたのかも、分からないと言うのだ。
    「退院したら、どーすんの?」
    「トマスの方から、しばらく住んでも構わぬとは言うてくれたが……」
    「いつまでもご厄介に、ってワケには行きませんよねぇ」
    「そうじゃな……」
     神妙な顔になって考え込むジーナを見て、小鈴は人差し指を立ててこう提案した。
    「んじゃさ、元気になったらあたしたちと旅する、ってのはどーよ?」
    「旅、か?」
    「そ。ネロも一緒に来てもらってさ、四人で。楽しいかもよ」
    「ふうむ……」
     ジーナはまた考え込む。その顔は先程とは違い、心なしか楽しそうだった。

    「……むう、投了」
    「はは、ありがとう」
     晴奈は腕を組み、自分が負けた盤面をにらむ。
    「たった4、5局で、異様に手ごわくなったな」
    「そうかな? まだヒヤヒヤものだけどね」
     経験の差で、一局目、二局目は晴奈の圧勝で終わった。
     ところが三局目から風向きが変わり、あっと言う間に晴奈は三連敗を喫してしまったのだ。
    「どうする? もう一局付き合うか?」
    「ああ、望むところだ」
     晴奈の申し出を、ネロはにっこり笑って受ける。
     と、横で見ていたトマスがニヤニヤしているのに気付く。
    「……何だ?」
    「さっきから見てたけど」
     トマスが得意そうに口を開く。
    「セイナ、ちょくちょく失手があるよ。攻めが多いから、よくその隙を突かれている感じがする。もうちょっと守りに入った方がいいんじゃない?」
    「そうか? ……と言うかお主、囲碁を知っているのか?」
    「うん。祖父が名人、だしね」
     それを聞いて、ネロがトマスの方に顔を向ける。
    「じゃあ、打ってみようか」
    「いいとも。それじゃ、セイナ。席変わって」
     トマスは晴奈と交代し、碁石を握った。

    「そー言えばさ」
     小鈴がニヤッと笑い、ジーナに尋ねる。
    「ジーナとネロって、どーゆー関係なの?」
    「む?」
     そう問われ、ジーナの猫耳はぴくんと直立する。
    「関係、か。ううむ、何と言えばよいやら」
    「恋人?」
    「ちっ、違うわ!」
     ジーナはバタバタと手を振り、慌てて否定する。
    「なっ、何と言うかの、その、一緒に、その、仕事をしていた仲間じゃ」
    「あら、そーなんだ」
     ジーナの反応に、小鈴もミラも黙ってニヤニヤしている。
     ジーナにはその様子は見えてはいないようだったが、雰囲気は伝わったらしい。
    「……何じゃい」
    「それじゃあ、ジーナさんってネロさんのコト、どう思ってるんですかぁ?」
    「どう、って」
    「好きなんじゃない?」
    「いや、別に、そんな……」
     ジーナはうつむき、もごもごとつぶやいている。小鈴は依然ニヤニヤしながら、ジーナの猫耳につぶやいた。
    「いーじゃん、正直に言っても。今、ここにはあたしたち3人だけなんだから」
    「……う、む。その、まあ、好きではないと言えば、嘘になる。……いや、素直に言えば、……その、……好き、じゃ」
    「やっぱり」
     小鈴とミラは、口を揃えてうなずいた。

    「そんな……」
     トマスは目を見開き、終局した盤上を見つめていた。
    「いや、なかなか手厳しかった。ヒヤヒヤしたよ」
    「圧倒的じゃないか……」
     トマスはあごに手を当てつつ、自分の敗因を探ろうとしている。
    「途中まで、僕の方が勝っていたはず、……なのに」
    「仕掛けが功を奏した、って感じかな。失敗してたら、きっと大敗北を喫していただろうね」
    「ネロ、お主本当に打ったことが無かったのか? あまりにも強すぎるぞ」
    「ははは……」
     屈託無く笑うネロに、晴奈は半ば呆れ、半ば感心していた。
    (不思議な男だな……。
     このあっけらかんとした爽やかさと、それでいてどっしりとした安定感を併せ持つ、性根と知性。エルスやトマスとも違う質の、優れた智者だ。
     一体、この男は何者なのだ?)

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    2016.10.23 修正
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