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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・黒隠録 3

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    晴奈の話、第463話。
    ネロの過去。

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    3.
     ネロから授けられた策を持って、トマスは再び軍本部を訪れた。
    「なるほど……」
    「それなら確かに、手打ちになりうるだろうな」
    「軍全体への、はっきりとした見せしめにもなる」
     フーと「バニッシャー」を大火へ引き渡すと言うネロの案は、幹部たちから高い評価を得た。
    「早速、軍閥を叩くとしよう。ありがとう、ナイジェル博士。いつもながら君の頭脳には感服するばかりだ」
    「あ、いや。これは僕の案では……」
    「流石は博士だ。こんな上策が出てくるとは」
    「いや、だから……」
     トマスは自分の案ではなくネロのものだ、と訂正しようとしたが、幹部たちの関心は既に、軍閥をいかにして制圧するかに移ってしまっていた。

    「……そんなわけで、君の案は採用されたよ。一週間以内にも、キルシュ峠を下って軍閥解体に向かうそうだ」
    「そっか。それじゃ、近いうちに中央政府との交渉に入るかも知れないね。軍閥が解体されれば、相手も『向こうは何らかの交渉に入るつもりだろう』と考えるかも知れないし、少なくとも戦闘は停止するだろう」
    「だろうね。これでようやく、北方も落ち着くだろう。
     ……はぁ」
     元気の無いトマスを見て、ネロは首をかしげた。
    「どうしたんだい? 折角平和になるって言うのに、何か気になることでも?」
    「ああ、うん……」
     トマスはチラ、とネロの顔を見て、すぐに顔を背ける。
    「うん?」
     トマスはネロに背を向けたまま、こう尋ねた。
    「一つ聞きたい。ネロ、君は一体何者だったんだ?」
    「僕が、何者かって?」
     尋ねられて、ネロは腕を組んで黙り込む。少ししてから、ゆっくりと口を開いた。
    「……そうだな、全部は明かせないけれど。
     ある国の大臣をしていた。とても大きな国の、ね。ずっと、昔の話だけれど」
    「その若さで? エルフだからかも知れないけど、まだ20後半くらいにしか……」
    「そう、大臣職に就いたのは20代の頃だった。僕の後援に付いてくれた人の助力があったから、異例の大出世ができた。でも残念なことに、僕はそれを自分の力だと思ってしまっていたし、余計な正義感もあった。
     だから当時腐敗の極みにあったその国の王様に対して、単身で糾弾するなんて愚行を犯した。それで怒りを買って、投獄された」
    「へ、え……」
     思いもよらない昔話に、トマスは目を丸くする。
    「でもある人の力を借りて脱獄したんだ。丁度、君のように。
     それでその後いー、……ジーナや他の仲間たちの助けもあって、僕はその国を倒したんだ」
    「そんなことがあったのか……」
     トマスはそうつぶやきながら、頭の中で近年の政治事件を思い返す。
    (そんな事件、最近あったかな……?)
    「でも残念ながら、僕はその国を手に入れることは無かった。
     どう言うわけか、一番信頼していた仲間が裏切った、……いや、裏切ると言う言葉は適切じゃないか。彼は『契約』に則って動いただけなんだから」
    「良く分からない話だな……」
    「うん。当事者の僕でさえ、何がどうなっていたのか良く分からない。
     ともかく、その国を手に入れたのは僕じゃなく、彼だった。そして僕は、最後の最後でまたミスをして、この北方の地に飛ばされたってわけさ」
     ネロはため息をつきながら黒眼鏡を外し、服の裾で拭きだした。
    「自分に頼りすぎてもいけない。他人に頼りすぎてもいけない。今になってようやく、それが良く分かるようになったよ。
     考えが偏ると、倒れやすくなってしまう」
    「考えが偏ると……、か。参考にしておくよ」
     トマスはネロの寂しげな横顔を見て、素直な気持ちでそう返した。

     トマスとネロが話しているのを、晴奈たちは後ろで見ていた。
    「トマスは小鈴とミラが似ていると言ったが……」
    「んっ?」
     晴奈はトマスたちの後姿を眺めつつ、こうつぶやいた。
    「あの二人も良く似ているな。性格は、大分違うが」
    「そーね、そー言われると」
    「どっちも頭いいですもんねぇ。でも何て言うか……」
     ミラはネロに目を向け、こう評した。
    「ネロさんって、不思議な雰囲気ありますよねぇ。
     見た目若いのに、物腰とかおじいさんみたいにすごく落ち着いてますしぃ、それに何だか、優しい感じがしますよねぇ。ジーナさんが好きになっちゃうのも、分かる気がしますよぉ」
    「ほう?」
     思いもよらない話を聞き、晴奈は目を丸くする。
    「恋人同士だったのか、あの二人?」
    「あ、いえ。ジーナさんが好き、って言ってたんですよぉ。ネロさんはどうなのか、良く分かりませんねぇ」
    「そーねぇ。あの人、浮世離れしてる感じがプンプンするもん。人並みの恋愛感情とか、持ってそうな気がしないわ」
    「……うなずけるな」

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    2016.10.23 修正
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