「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・黒隠録 4
晴奈の話、第464話。
旅の始まりと終わり、の兆し。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
日上軍閥制圧案が出された翌日、晴奈はジーナを見舞いに来ていた。
「具合はどうだ?」
「ああ、良くなっておるよ」
古臭く、しかし楽しげに話すジーナを見て、晴奈はクスッと笑う。
「どうした?」
「ああ、いや。ネロも奇妙な男だが、ジーナもなかなか不思議だな、と。
何故そのような、老人のような話し方を?」
「老人、とな? いや、わしは平常通りに話しているつもりじゃが」
「それが古臭い。私の言葉遣いも堅いと良く言われているが、お主の話し方はそれを上回る」
「そうかの……」
ジーナは戸惑ったような顔をして、うつむいてしまう。
(あ、まずかったか?)
晴奈は悪いことを言ってしまったかと反省し、付け加える。
「いや、おかしいことは無い。良く言えば、個性的と言える」
「そうか……。いや、わしも少なからず、周りと言葉が合わぬとは思うておった。じゃがの、わしは20年以上もこの話し方をしとったもんでな。
時代が変わったからと言って話し方もガラリと変えるのは、難しいもんじゃて」
「時代?」
奇妙な言い回しに、晴奈は首をかしげる。
「あ、いや。何でもない。……まあ、その。良ければセイナ、今風の言葉遣いを教えてほしいんじゃが」
そう頼まれて、晴奈はうなる。
「私に、か? うーむ……」
「ダメかの」
「いや、私は央南人だからな。北方や央北で使われている言葉は、あまり得意ではないのだ」
「うむー……」
「だが、同じ央南人でも小鈴なら語学に長けている。小鈴なら分かりやすく教えてくれるだろう」
「ふむ。コスズは、何でも知っておるのじゃな」
感心するジーナに、晴奈も同意する。
「ああ。政治経済から風土史、魔術、料理、裁縫と、あの人は何にでも通じている。私の師匠と同じくらい、尊敬している人だよ」
「ほう……」
そうして取り留めも無く会話していると、うわさをしていた張本人――小鈴がやってきた。
「どもー」
「ああ、小鈴」
「今日はこっちにいたのね、晴奈。……っと、ジーナ。あの話、考えてみてくれた?」
「あの話?」
晴奈が尋ねると、小鈴はニヤニヤしながら説明してくれた。
「あたしたちと一緒に、旅しないかってコト」
「ほう、それは……」
晴奈は一瞬、それもいいなと思いかけた。
しかし同時に、自分が今北方にいる理由を思い出し、返事に詰まった。
「どしたの?」
「……いや。もしかしたら、私の方が、旅を終わりにするかも知れぬ」
「えっ?」
小鈴は意外そうな顔で、晴奈を見つめた。
「……あー、そっか。アンタの旅って元々、日上を追いかけてたんだもんね。一杯、寄り道しちゃったけど」
「そうだ。そして北方、奴の本拠地に到着したのだ。もう旅は、終わりを迎えようとしている」
「そっか、そーよね。……そっかー」
その時、小鈴はひどく寂しそうな表情を見せた。
晴奈も、同じ気持ちだった。
「……あれ?」
と、また小鈴が表情を変える。
「どうした?」
「アンタの旅って、厳密に言えば日上の『バニッシャー』が狙いじゃなかった?」
「そうだが」
「こないだネロが提案した、克との取引って……」
「あ」
「ふーん……」
晴奈から話を聞いたネロは、短くうなった。
「問題はないんじゃない?」
「何故だ?」
「元々、そのエルスさんが『バニッシャー』を奪ったのだって、北方の戦争回避が目的だったんだし、それならタイカに引き渡すのも戦争の終結につながることだから、エルスさんも納得するだろう」
「あ、なるほど」
「トマスが今、軍本部で会議に参加している。恐らく軍閥解体に関しての意見調整、具体策の検討と言ったところだろう。
人手がいるだろうから、君も参加してみたらどうだろう?」
ネロの提案に、晴奈は深くうなずいた。
「ああ。その話が出たら是非、参加させてもらうとしよう」
と、玄関の扉が開く音がする。少し間を置いて、トマスが居間に入ってきた。なぜか、その顔は意気消沈したように暗い雰囲気を帯びている。
「ただいま……」
「おかえり。……どうした?」
「遅かったよ……。ヒノカミ軍閥は既に、王国と袂を分かった。
もうとっくに、北方にはいなかったんだ」
「なん……、だって?」
思いも寄らないその話に、晴奈もネロも愕然とした。
@au_ringさんをフォロー
旅の始まりと終わり、の兆し。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
日上軍閥制圧案が出された翌日、晴奈はジーナを見舞いに来ていた。
「具合はどうだ?」
「ああ、良くなっておるよ」
古臭く、しかし楽しげに話すジーナを見て、晴奈はクスッと笑う。
「どうした?」
「ああ、いや。ネロも奇妙な男だが、ジーナもなかなか不思議だな、と。
何故そのような、老人のような話し方を?」
「老人、とな? いや、わしは平常通りに話しているつもりじゃが」
「それが古臭い。私の言葉遣いも堅いと良く言われているが、お主の話し方はそれを上回る」
「そうかの……」
ジーナは戸惑ったような顔をして、うつむいてしまう。
(あ、まずかったか?)
晴奈は悪いことを言ってしまったかと反省し、付け加える。
「いや、おかしいことは無い。良く言えば、個性的と言える」
「そうか……。いや、わしも少なからず、周りと言葉が合わぬとは思うておった。じゃがの、わしは20年以上もこの話し方をしとったもんでな。
時代が変わったからと言って話し方もガラリと変えるのは、難しいもんじゃて」
「時代?」
奇妙な言い回しに、晴奈は首をかしげる。
「あ、いや。何でもない。……まあ、その。良ければセイナ、今風の言葉遣いを教えてほしいんじゃが」
そう頼まれて、晴奈はうなる。
「私に、か? うーむ……」
「ダメかの」
「いや、私は央南人だからな。北方や央北で使われている言葉は、あまり得意ではないのだ」
「うむー……」
「だが、同じ央南人でも小鈴なら語学に長けている。小鈴なら分かりやすく教えてくれるだろう」
「ふむ。コスズは、何でも知っておるのじゃな」
感心するジーナに、晴奈も同意する。
「ああ。政治経済から風土史、魔術、料理、裁縫と、あの人は何にでも通じている。私の師匠と同じくらい、尊敬している人だよ」
「ほう……」
そうして取り留めも無く会話していると、うわさをしていた張本人――小鈴がやってきた。
「どもー」
「ああ、小鈴」
「今日はこっちにいたのね、晴奈。……っと、ジーナ。あの話、考えてみてくれた?」
「あの話?」
晴奈が尋ねると、小鈴はニヤニヤしながら説明してくれた。
「あたしたちと一緒に、旅しないかってコト」
「ほう、それは……」
晴奈は一瞬、それもいいなと思いかけた。
しかし同時に、自分が今北方にいる理由を思い出し、返事に詰まった。
「どしたの?」
「……いや。もしかしたら、私の方が、旅を終わりにするかも知れぬ」
「えっ?」
小鈴は意外そうな顔で、晴奈を見つめた。
「……あー、そっか。アンタの旅って元々、日上を追いかけてたんだもんね。一杯、寄り道しちゃったけど」
「そうだ。そして北方、奴の本拠地に到着したのだ。もう旅は、終わりを迎えようとしている」
「そっか、そーよね。……そっかー」
その時、小鈴はひどく寂しそうな表情を見せた。
晴奈も、同じ気持ちだった。
「……あれ?」
と、また小鈴が表情を変える。
「どうした?」
「アンタの旅って、厳密に言えば日上の『バニッシャー』が狙いじゃなかった?」
「そうだが」
「こないだネロが提案した、克との取引って……」
「あ」
「ふーん……」
晴奈から話を聞いたネロは、短くうなった。
「問題はないんじゃない?」
「何故だ?」
「元々、そのエルスさんが『バニッシャー』を奪ったのだって、北方の戦争回避が目的だったんだし、それならタイカに引き渡すのも戦争の終結につながることだから、エルスさんも納得するだろう」
「あ、なるほど」
「トマスが今、軍本部で会議に参加している。恐らく軍閥解体に関しての意見調整、具体策の検討と言ったところだろう。
人手がいるだろうから、君も参加してみたらどうだろう?」
ネロの提案に、晴奈は深くうなずいた。
「ああ。その話が出たら是非、参加させてもらうとしよう」
と、玄関の扉が開く音がする。少し間を置いて、トマスが居間に入ってきた。なぜか、その顔は意気消沈したように暗い雰囲気を帯びている。
「ただいま……」
「おかえり。……どうした?」
「遅かったよ……。ヒノカミ軍閥は既に、王国と袂を分かった。
もうとっくに、北方にはいなかったんだ」
「なん……、だって?」
思いも寄らないその話に、晴奈もネロも愕然とした。



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
国破れて山河あり。
・・・まるでそんな展開になりそうですね。
帰りました。
またよろしくお願いします。
・・・まるでそんな展開になりそうですね。
帰りました。
またよろしくお願いします。
- #1745 LandM
- URL
- 2013.09/21 20:48
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
おかえりなさい。
こちらこそよろしくです。