「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・黒隠録 5
晴奈の話、第465話。
世界を揺るがすニュース。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
軍閥解体の話がまとまる2日前。
ウインドフォートの監視を行うため、軍本部からの斥候が密かに、沿岸部へと降りていた。
「え……?」
ところが市街地に足を踏み入れた途端、その異様にざわついた雰囲気に面食らった。
住民たちは呆然とした顔で砦を指差したり、小声でうわさし合ったりしている。
「……突然でしょ……」
「うんうん……」
「もぬけのから……」
小耳に挟んだその言葉に、斥候たちは慌てて砦へと走る。
街のうわさ通り、砦の入口には門番が一人もおらず、街の者たちが平然と進入していた。
「……どう言うことなんだ?」
「詳しく調べた結果、ヒノカミ軍閥はブルー島での戦いに勝利し、そのまま中央攻略に向かったそうです」
「馬鹿な!? いくらなんでも、無茶苦茶だ!」
軍幹部たちもトマスも、この報告に慌てふためいた。
「今回の作戦は、ブルー島までのはずでしょう!?
ましてや中央攻略となれば、あの『黒い悪魔』が黙っているわけが無い! このままでは取り返しの付かないことに……!」
「その、はずなのですが……」
報告した斥候は、恐る恐る一本の書簡を提出した。
「こちらが、我々に宛てて砦に残されておりました」
「送 ジーン王国軍本部
我らヒノカミ軍閥 ブルー島陥落 及び 克大火討伐に成功せり
難敵が不在たる現在 中央政府攻略に 何ら支障なきものと判断し 軍閥内全兵力を傾注して 当該組織への攻撃に向かう」
「か……」
「カツミが……」
「死んだ、だとぉ!?」
その情報は、天地が裂けたと報じられるのと何ら変わりない、世紀のニュースとなった。
ブルー島へ、そして央北へ軍閥の全兵力が――即ち、日上軍閥の全員が移ってしまったことで、軍本部はフーに手出しすることができなくなってしまった。
それだけでも軍にとっては大失態だったが、さらにメンツを潰す出来事が起こった。軍閥が北方を離れてから2ヵ月後、中央政府が陥落してしまったのである。さらには軍閥がその政治機能を奪い、新しい中央政府「ヘブン」として生まれ変わった。
自分たちの配下であった軍閥を管理・制御しきれず、さらには一つの大国を潰させ、乗っ取らせてしまったと言う、この政治的蛮行・大失態は、ジーン王国の世界的地位を大きく後退させることになった。
さらには――。
「『ヘブン』が、我々に宣戦布告だと……」
「冗談じゃない!」
かつての「親元」、ジーン王国に対して戦争を仕掛けてきたのだ。
「このままでは、世界の笑い者になるだけでは済まないぞ……」
「我々が『ヘブン』に倒されたら、国としては再起不能だ。我々が倒したとしても、『管理元』として莫大な責任を負わされる」
「どうすればいいんだ……?」
王国軍が、そしてジーン王国全体が、出口の見えないトンネルに取り残された。
時間はトマスが晴奈とネロに、日上軍閥が北方を出たことを報告した頃に戻る。
「嘘だろ……」
トマスから日上軍閥の暴走と大火の死を聞かされたネロは、呆然としていた。
「今現在、事実関係を洗っているけど、少なくともブルー島が陥落したのは確かだ。彼らが要塞を築いているのが、確認できたからね」
「タイカが死ぬわけが……」
どうやら、ネロは軍閥のことよりも、大火の方に関心が向いているらしい。
「何故そんなに、黒炎殿のことを気にかけているのだ?」
晴奈は不思議に思い、尋ねてみた。
「お主、黒炎教団の者か?」
「……うん? 黒炎教団? 何だい、それ?」
ネロは我に返り、晴奈に尋ね返す。
「違ったか」
「ねえ、黒炎教団って何だい?」
なぜか、ネロはしつこく聞いてくる。仕方なく、晴奈は説明した。
「……ふーん。タイカを崇める、宗教集団か。……じゃあこのニュースが伝わったら、きっと大混乱になるだろうね」
「だろうな」
「いや、もう世界中が大混乱になるだろうな。世界に影響を与えた人物が、亡くなったんだもの」
「んー」
と、狼狽するネロの背後から小鈴がやってきた。
「別に気にしてないんじゃない?」
「へ?」
「だって克、昔も復活したし」
「え? どう言う……」
「あ、そう言えば聞いたことがあるな」
トマスも大火の昔話を思い出し、ネロに聞かせた。
「……彼なら有り得そうだなぁ……」
説明されたネロは、いつもの冷静な彼には似合わない戸惑った笑顔を作って、それに応えた。
蒼天剣・黒隠録 終
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世界を揺るがすニュース。
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軍閥解体の話がまとまる2日前。
ウインドフォートの監視を行うため、軍本部からの斥候が密かに、沿岸部へと降りていた。
「え……?」
ところが市街地に足を踏み入れた途端、その異様にざわついた雰囲気に面食らった。
住民たちは呆然とした顔で砦を指差したり、小声でうわさし合ったりしている。
「……突然でしょ……」
「うんうん……」
「もぬけのから……」
小耳に挟んだその言葉に、斥候たちは慌てて砦へと走る。
街のうわさ通り、砦の入口には門番が一人もおらず、街の者たちが平然と進入していた。
「……どう言うことなんだ?」
「詳しく調べた結果、ヒノカミ軍閥はブルー島での戦いに勝利し、そのまま中央攻略に向かったそうです」
「馬鹿な!? いくらなんでも、無茶苦茶だ!」
軍幹部たちもトマスも、この報告に慌てふためいた。
「今回の作戦は、ブルー島までのはずでしょう!?
ましてや中央攻略となれば、あの『黒い悪魔』が黙っているわけが無い! このままでは取り返しの付かないことに……!」
「その、はずなのですが……」
報告した斥候は、恐る恐る一本の書簡を提出した。
「こちらが、我々に宛てて砦に残されておりました」
「送 ジーン王国軍本部
我らヒノカミ軍閥 ブルー島陥落 及び 克大火討伐に成功せり
難敵が不在たる現在 中央政府攻略に 何ら支障なきものと判断し 軍閥内全兵力を傾注して 当該組織への攻撃に向かう」
「か……」
「カツミが……」
「死んだ、だとぉ!?」
その情報は、天地が裂けたと報じられるのと何ら変わりない、世紀のニュースとなった。
ブルー島へ、そして央北へ軍閥の全兵力が――即ち、日上軍閥の全員が移ってしまったことで、軍本部はフーに手出しすることができなくなってしまった。
それだけでも軍にとっては大失態だったが、さらにメンツを潰す出来事が起こった。軍閥が北方を離れてから2ヵ月後、中央政府が陥落してしまったのである。さらには軍閥がその政治機能を奪い、新しい中央政府「ヘブン」として生まれ変わった。
自分たちの配下であった軍閥を管理・制御しきれず、さらには一つの大国を潰させ、乗っ取らせてしまったと言う、この政治的蛮行・大失態は、ジーン王国の世界的地位を大きく後退させることになった。
さらには――。
「『ヘブン』が、我々に宣戦布告だと……」
「冗談じゃない!」
かつての「親元」、ジーン王国に対して戦争を仕掛けてきたのだ。
「このままでは、世界の笑い者になるだけでは済まないぞ……」
「我々が『ヘブン』に倒されたら、国としては再起不能だ。我々が倒したとしても、『管理元』として莫大な責任を負わされる」
「どうすればいいんだ……?」
王国軍が、そしてジーン王国全体が、出口の見えないトンネルに取り残された。
時間はトマスが晴奈とネロに、日上軍閥が北方を出たことを報告した頃に戻る。
「嘘だろ……」
トマスから日上軍閥の暴走と大火の死を聞かされたネロは、呆然としていた。
「今現在、事実関係を洗っているけど、少なくともブルー島が陥落したのは確かだ。彼らが要塞を築いているのが、確認できたからね」
「タイカが死ぬわけが……」
どうやら、ネロは軍閥のことよりも、大火の方に関心が向いているらしい。
「何故そんなに、黒炎殿のことを気にかけているのだ?」
晴奈は不思議に思い、尋ねてみた。
「お主、黒炎教団の者か?」
「……うん? 黒炎教団? 何だい、それ?」
ネロは我に返り、晴奈に尋ね返す。
「違ったか」
「ねえ、黒炎教団って何だい?」
なぜか、ネロはしつこく聞いてくる。仕方なく、晴奈は説明した。
「……ふーん。タイカを崇める、宗教集団か。……じゃあこのニュースが伝わったら、きっと大混乱になるだろうね」
「だろうな」
「いや、もう世界中が大混乱になるだろうな。世界に影響を与えた人物が、亡くなったんだもの」
「んー」
と、狼狽するネロの背後から小鈴がやってきた。
「別に気にしてないんじゃない?」
「へ?」
「だって克、昔も復活したし」
「え? どう言う……」
「あ、そう言えば聞いたことがあるな」
トマスも大火の昔話を思い出し、ネロに聞かせた。
「……彼なら有り得そうだなぁ……」
説明されたネロは、いつもの冷静な彼には似合わない戸惑った笑顔を作って、それに応えた。
蒼天剣・黒隠録 終
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作中の「昔話」の内容はこちら。
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2016.10.23 修正
作中の「昔話」の内容はこちら。
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2016.10.23 修正



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
偉人をどう扱うかは結構綿密ですよね。
予定調和ではないですが、今のご時世、先が読める世界になってきているのも確かで。どの首相や大統領がいつ辞めそうとか認知していないと経済や国交にも響くので、その辺は結構突然になると動乱が広がりますよね。リーマンショックもそれに近いですが。
予定調和ではないですが、今のご時世、先が読める世界になってきているのも確かで。どの首相や大統領がいつ辞めそうとか認知していないと経済や国交にも響くので、その辺は結構突然になると動乱が広がりますよね。リーマンショックもそれに近いですが。
- #1747 LandM
- URL
- 2013.09/26 17:27
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