「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・騒北録 1
晴奈の話、第466話。
ネロの調べものと、ジーナの買い物。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦520年6月上旬、世界が克大火の死と言う一大ニュースに騒然としていた頃。
「ねえ、トマス」
「ん?」
ネロが不意に、こんな頼みごとをしてきた。
「軍の資料室に連れて行ってほしいんだ。街の図書館には、いい資料が無くって」
「いいけど……、何を調べたいの?」
「ああ、うん。ちょっと、ね」
「……?」
言葉を濁すネロを不審に思いながらも、トマスはその頼みを承諾した。
資料室に着くなり、ネロは机の上にドサドサと資料を積み上げ始めた。
「手伝おうか? 何を持ってくればいいかな?」
「あ、いいよ。一人で調べたいことがあるから」
「そう? これ全部読むの、かなり手間じゃ……」
「いや、大丈夫。悪いけれど、夕方まで一人でいさせてほしいんだ」
やんわりと断られ、トマスは仕方なくネロを残し、資料室を出た。
(夕方まで、か。……あんまり本部でブラブラしてると、またお偉いさんに声をかけられそうだしなぁ)
状況が騒然としている今、声をかけられれば確実に面倒ごとに巻き込まれる。
トマスはそそくさと本部を後にし、街へと出て行った。
半月以上の入院を経て、ジーナの体調はすっかり回復した。
「おっと、と」
しかし結局、視力は十分には回復せず、ジーナは晴奈の手を頼りに歩いている。
「大丈夫か?」
「うむ、小石に足を引っ掛けたようじゃが、異常はない」
「そうか。……杖でも買っていくか?」
「そうじゃな、必要になる。見繕ってくれぬか?」
「私の見立てで良ければ」
晴奈とジーナは病院を出た足で、街へ向かった。
街に着き、晴奈はジーナの手を引いて店に入った。
「ふむ、杖と言っても色々あるな」
店の棚には、色とりどりの杖が並んでいる。と、ジーナが晴奈の横顔をぺたぺた触ってくる。
「な、何だ?」
「すまぬ、ちと……」
ジーナの手が晴奈のあごから頬、もみあげと上がり、猫耳へと行き着く。そこでジーナが顔を寄せ、耳打ちしてきた。
「できれば、あまり老人然としたものでないのが良いのじゃが」
「ああ……」
そこに、二人の様子を見ていたらしい店員が近寄ってきた。
「大丈夫ですよ。若い身障者さん向けのも、置いてありますから」
「そ、そうか? では……」
ジーナは声を頼りに店員の方を向き、おずおずと注文した。
「可愛らしくて、青い色の杖は、ありますかの?」
「え? ええ、ありますよ。……お客さん、お若く見えますけど、おいくつですか?」
店員はきょとんとした顔で、ジーナを眺めてきた。
「ん、……ああ、えっと、25、じゃ」
「どこにお住まいだったんですか? 何かすごく、落ち着いた話し方を……」
「ああ、うむ、その……」
返答に詰まるジーナを見かね、晴奈が助け舟を出した。
「彼女は事故で記憶と視力を失ってしまってな。自分の名前などは覚えているのだが、出身地など細かいことは、覚えていないそうだ」
「あ、そうでしたか。すみません、お客さん」
ぺこりと頭を下げられ、ジーナはパタパタと手を振る。
「あ、いや、そうかしこまらず」
「えっと、それじゃ、……青くて可愛い杖、でしたよね。これなんかどうでしょう?」
店員が棚から杖を一本取り出し、ジーナに渡す。
「ふむ……、セイナ、どうじゃろ?」
「ああ、可愛いと思うよ」
「そうか。ではこれを、……と」
ジーナはまた困った顔をしたが、晴奈にはその理由がすぐ分かったし、これにも助け舟を出してやった。
「ああ、私が立て替えておこう」
「すまぬ、セイナ」
「いい、いい。気にするな」
店を出た晴奈とジーナは、杖の使い心地を確かめるためにブラブラと歩いてみた。
「ふむ……、やはり杖があると違うのう。さっきよりは安心して歩ける」
「それは何より。……だが、まだやはり危なっかしい感じはある。一人で歩けるようになるのは、難しいかも知れぬな」
「うむ……。まあ、それでも構わぬ。こうして手をつないでおると……」
ジーナは晴奈の手を強く、しかし優しげに握り、にっこりと笑った。
「『自分は一人ではない』と言うことを、ひしひしと感じられるからの。
人の温かみは、まことに心地良い。このような寒い土地では特に、のう」
「はは、そうか。そうだな、確かに温かい」
晴奈も優しく握り返し、手で笑顔を示した。
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ネロの調べものと、ジーナの買い物。
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双月暦520年6月上旬、世界が克大火の死と言う一大ニュースに騒然としていた頃。
「ねえ、トマス」
「ん?」
ネロが不意に、こんな頼みごとをしてきた。
「軍の資料室に連れて行ってほしいんだ。街の図書館には、いい資料が無くって」
「いいけど……、何を調べたいの?」
「ああ、うん。ちょっと、ね」
「……?」
言葉を濁すネロを不審に思いながらも、トマスはその頼みを承諾した。
資料室に着くなり、ネロは机の上にドサドサと資料を積み上げ始めた。
「手伝おうか? 何を持ってくればいいかな?」
「あ、いいよ。一人で調べたいことがあるから」
「そう? これ全部読むの、かなり手間じゃ……」
「いや、大丈夫。悪いけれど、夕方まで一人でいさせてほしいんだ」
やんわりと断られ、トマスは仕方なくネロを残し、資料室を出た。
(夕方まで、か。……あんまり本部でブラブラしてると、またお偉いさんに声をかけられそうだしなぁ)
状況が騒然としている今、声をかけられれば確実に面倒ごとに巻き込まれる。
トマスはそそくさと本部を後にし、街へと出て行った。
半月以上の入院を経て、ジーナの体調はすっかり回復した。
「おっと、と」
しかし結局、視力は十分には回復せず、ジーナは晴奈の手を頼りに歩いている。
「大丈夫か?」
「うむ、小石に足を引っ掛けたようじゃが、異常はない」
「そうか。……杖でも買っていくか?」
「そうじゃな、必要になる。見繕ってくれぬか?」
「私の見立てで良ければ」
晴奈とジーナは病院を出た足で、街へ向かった。
街に着き、晴奈はジーナの手を引いて店に入った。
「ふむ、杖と言っても色々あるな」
店の棚には、色とりどりの杖が並んでいる。と、ジーナが晴奈の横顔をぺたぺた触ってくる。
「な、何だ?」
「すまぬ、ちと……」
ジーナの手が晴奈のあごから頬、もみあげと上がり、猫耳へと行き着く。そこでジーナが顔を寄せ、耳打ちしてきた。
「できれば、あまり老人然としたものでないのが良いのじゃが」
「ああ……」
そこに、二人の様子を見ていたらしい店員が近寄ってきた。
「大丈夫ですよ。若い身障者さん向けのも、置いてありますから」
「そ、そうか? では……」
ジーナは声を頼りに店員の方を向き、おずおずと注文した。
「可愛らしくて、青い色の杖は、ありますかの?」
「え? ええ、ありますよ。……お客さん、お若く見えますけど、おいくつですか?」
店員はきょとんとした顔で、ジーナを眺めてきた。
「ん、……ああ、えっと、25、じゃ」
「どこにお住まいだったんですか? 何かすごく、落ち着いた話し方を……」
「ああ、うむ、その……」
返答に詰まるジーナを見かね、晴奈が助け舟を出した。
「彼女は事故で記憶と視力を失ってしまってな。自分の名前などは覚えているのだが、出身地など細かいことは、覚えていないそうだ」
「あ、そうでしたか。すみません、お客さん」
ぺこりと頭を下げられ、ジーナはパタパタと手を振る。
「あ、いや、そうかしこまらず」
「えっと、それじゃ、……青くて可愛い杖、でしたよね。これなんかどうでしょう?」
店員が棚から杖を一本取り出し、ジーナに渡す。
「ふむ……、セイナ、どうじゃろ?」
「ああ、可愛いと思うよ」
「そうか。ではこれを、……と」
ジーナはまた困った顔をしたが、晴奈にはその理由がすぐ分かったし、これにも助け舟を出してやった。
「ああ、私が立て替えておこう」
「すまぬ、セイナ」
「いい、いい。気にするな」
店を出た晴奈とジーナは、杖の使い心地を確かめるためにブラブラと歩いてみた。
「ふむ……、やはり杖があると違うのう。さっきよりは安心して歩ける」
「それは何より。……だが、まだやはり危なっかしい感じはある。一人で歩けるようになるのは、難しいかも知れぬな」
「うむ……。まあ、それでも構わぬ。こうして手をつないでおると……」
ジーナは晴奈の手を強く、しかし優しげに握り、にっこりと笑った。
「『自分は一人ではない』と言うことを、ひしひしと感じられるからの。
人の温かみは、まことに心地良い。このような寒い土地では特に、のう」
「はは、そうか。そうだな、確かに温かい」
晴奈も優しく握り返し、手で笑顔を示した。
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