「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・騒北録 2
晴奈の話、第467話。
無神経、ここに極まる。
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2.
(どこで時間を潰そうかな……)
軍本部を出たトマスは街をぶらつき、時間が過ぎるのを待っていた。
(図書館にでも行こうかな。このまま家に戻るのも、もったいないし。
ん? あれは……)
そこに、通りを挟んだ反対側を、晴奈とジーナが仲良く歩いているのが目に入った。
「おーい、セイナ!」
「うん?」
トマスの声に、晴奈とジーナが振り向く。
「ああ、トマスか。奇遇だな、こんなところで会うとは」
「ああ、ちょっと野暮用があったから。セイナたちこそ、こんなところでどうしたの?」
「ジーナに杖を買ってやった。その使い心地を試すために、こうして歩いていたのだ」
「そっか」
ここで、ジーナがなぜかワクワクしたような顔を向けてくるが、トマスにはその真意が分からない。
「……? 何?」
「え、……いや、何でも、ない」
ジーナはしゅんとした顔になり、晴奈の手を引いた。
「……と、それではもう少し、散策することにする。ではまた、夕方に……」「あ、待って」
トマスは踵を返しかけた晴奈を呼び止め、こう提案した。
「良かったらさ、お茶なんかどうかな。
その、ネロが夕方まで調べものするからって言うんで、僕は夕方まで暇なんだ。それまでの時間つぶしに、一緒にどうかなって。散策するんなら、どうせ暇だろ?」
「……」
トマスの言葉になぜか、晴奈は一瞬むっとしたような表情を浮かべたが、了承してくれた。
「……まあ、いいだろう」
近くの喫茶店に足を運んだ三人は、ケーキと紅茶を注文した。料理が来るまでの間に、トマスはあれこれと二人に話を聞かせた。
「それでね、リロイと対局してたら祖父が割り込んできて、『もっと攻めんか』って口出しして来るんだよ。本当に、口うるさくって……」
「はは、博士らしい」
「……」
トマスは楽しい話をしているつもりだが、エルス(リロイ)とエド博士のことを知っている晴奈には受けても、二人を知らないジーナには何がなんだか分からない。つまらなそうに、杖をいじっていた。
その様子を見て、トマスは声の調子を落とした。
「……ん、つまんないかな、この話は」
「あ、いや」
ジーナは顔を挙げ、小さく首を振る。
「いや、いいんだ。どうせ囲碁とか興味ないよね」
「え」
ジーナの顔に、嫌そうな色が浮かぶ。
「そうだな、もっと女の子が興味あるような話って言うと……」
「……」
続いて、晴奈もむかむかと怒りを覚える。
「あ、そうだ。その杖、可愛いね」
この言葉で、二人の顔から一瞬、険が消えた。
「そ、そうじゃろ? セイナに『可愛いのを』と頼んだんじゃ」
「ふーん」
だが次の一言で、二人の不快感はより強さを増した。
「何で目が見えないのに、デザインにこだわったの?」
「……っ」
途端に、ジーナがぽろっと涙をこぼす。
「え? あれ、僕なんか、変なこと言っちゃったかな」
この言葉で晴奈の怒りに火が点き、トマスの襟をぐいっとつかんだ。
「トマスッ!」
「な、何? 痛いよ、セイナ」
「痛い? 貴様これだけ他人に暴力を振るって、これしきのことが痛いと言うのか!」
「暴力? 振るってないよ? 僕、ひ弱だし。どっちかって言うなら、セイナの方が今、振るってるじゃないか」
「暴力が腕力だけと思うな、この朴念仁が!」
晴奈はトマスをグイグイと引っ張り、店の外へと連れ出す。
「貴様の口は立派な凶器だ! これ以上私に、そしてジーナに、その不躾な口を開くなッ!」
そう言うなり、晴奈はトマスを投げ飛ばした。
「うわっ!?」
トマスは受身を取ることもできず、ぼてっと道端に転がされた。
「ま、待ってよセイナ、僕が一体何したって……」「消えろッ!」
晴奈はトマスをにらみつけ、そのまま店の扉を閉めた。
夕方。
資料室の扉を開けると、机に座っていたネロがいぶかしげな顔を向けてきた。
「……どうしたの、その服? 泥だらけじゃないか」
「ちょっとね、うん」
「何があったんだい?」
心配そうに尋ねるネロに、トマスは力なく手を振って応える。
「いや、何でもない」「無いわけないだろ? 何があったの?」
ところが、ネロは食い下がってくる。
「いや、だから何でもないよ。大丈夫だって」「そうは思えない。何があった?」「……何でもないったら」「何でもないなら、言えるはずだろ?」「本当に何でもないし、言うほどのことじゃ」「言うほどのことがなくて、何で泥だらけになる必要があるんだい? ちゃんと説明しなよ」
しつこく尋ねてくるネロに根負けし、トマスは喫茶店での出来事を話した。
「君、……本当に、何でセイナが怒ったのか分からないのかい?」
「うん。僕は特に、変なこと言ったつもりはないんだけど」
「……あのね、トマス」
ネロはため息を吐きながら、トマスに座るよう促した。
「君は祖父が亡くなったと聞いたけれど、いや、それ以前に亡命したと聞いたけれども、何でおじいさんの部屋、そのままにしておいたんだい?」
「それは、いずれ戻ってくるかも知れないと思って」
「そう言うものだろ?
人間、過ぎ去ったものには多かれ少なかれ執着心を抱く。いなくなった人のことを思って部屋を潰さずにおくことと、無くなった視力がもしかしたら戻るかもと希望を抱いてデザインにこだわることは、根底では同じ理屈だよ。
君は他人から『君のおじいさん、とっくに死んだのに、何で部屋を残しておくの?』って言われて、平然としていられるのかい?」
「それは……」
「こんな風に言われたら、君は失礼だと思うだろう? 同じことだよ。
君は自分の祖父を侮辱されたのと同じくらいに失礼なことを、ジーナに言ったんだ。そりゃ、セイナも激怒するさ」
ネロに諭され、トマスはうなだれた。
「……そうだね。そう言われたら、確かに僕だって怒る」
「そうだろう? 謝ってきなよ、セイナとジーナに」
「……うん」
トマスは小さくうなずき、立ち上がった。
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無神経、ここに極まる。
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(どこで時間を潰そうかな……)
軍本部を出たトマスは街をぶらつき、時間が過ぎるのを待っていた。
(図書館にでも行こうかな。このまま家に戻るのも、もったいないし。
ん? あれは……)
そこに、通りを挟んだ反対側を、晴奈とジーナが仲良く歩いているのが目に入った。
「おーい、セイナ!」
「うん?」
トマスの声に、晴奈とジーナが振り向く。
「ああ、トマスか。奇遇だな、こんなところで会うとは」
「ああ、ちょっと野暮用があったから。セイナたちこそ、こんなところでどうしたの?」
「ジーナに杖を買ってやった。その使い心地を試すために、こうして歩いていたのだ」
「そっか」
ここで、ジーナがなぜかワクワクしたような顔を向けてくるが、トマスにはその真意が分からない。
「……? 何?」
「え、……いや、何でも、ない」
ジーナはしゅんとした顔になり、晴奈の手を引いた。
「……と、それではもう少し、散策することにする。ではまた、夕方に……」「あ、待って」
トマスは踵を返しかけた晴奈を呼び止め、こう提案した。
「良かったらさ、お茶なんかどうかな。
その、ネロが夕方まで調べものするからって言うんで、僕は夕方まで暇なんだ。それまでの時間つぶしに、一緒にどうかなって。散策するんなら、どうせ暇だろ?」
「……」
トマスの言葉になぜか、晴奈は一瞬むっとしたような表情を浮かべたが、了承してくれた。
「……まあ、いいだろう」
近くの喫茶店に足を運んだ三人は、ケーキと紅茶を注文した。料理が来るまでの間に、トマスはあれこれと二人に話を聞かせた。
「それでね、リロイと対局してたら祖父が割り込んできて、『もっと攻めんか』って口出しして来るんだよ。本当に、口うるさくって……」
「はは、博士らしい」
「……」
トマスは楽しい話をしているつもりだが、エルス(リロイ)とエド博士のことを知っている晴奈には受けても、二人を知らないジーナには何がなんだか分からない。つまらなそうに、杖をいじっていた。
その様子を見て、トマスは声の調子を落とした。
「……ん、つまんないかな、この話は」
「あ、いや」
ジーナは顔を挙げ、小さく首を振る。
「いや、いいんだ。どうせ囲碁とか興味ないよね」
「え」
ジーナの顔に、嫌そうな色が浮かぶ。
「そうだな、もっと女の子が興味あるような話って言うと……」
「……」
続いて、晴奈もむかむかと怒りを覚える。
「あ、そうだ。その杖、可愛いね」
この言葉で、二人の顔から一瞬、険が消えた。
「そ、そうじゃろ? セイナに『可愛いのを』と頼んだんじゃ」
「ふーん」
だが次の一言で、二人の不快感はより強さを増した。
「何で目が見えないのに、デザインにこだわったの?」
「……っ」
途端に、ジーナがぽろっと涙をこぼす。
「え? あれ、僕なんか、変なこと言っちゃったかな」
この言葉で晴奈の怒りに火が点き、トマスの襟をぐいっとつかんだ。
「トマスッ!」
「な、何? 痛いよ、セイナ」
「痛い? 貴様これだけ他人に暴力を振るって、これしきのことが痛いと言うのか!」
「暴力? 振るってないよ? 僕、ひ弱だし。どっちかって言うなら、セイナの方が今、振るってるじゃないか」
「暴力が腕力だけと思うな、この朴念仁が!」
晴奈はトマスをグイグイと引っ張り、店の外へと連れ出す。
「貴様の口は立派な凶器だ! これ以上私に、そしてジーナに、その不躾な口を開くなッ!」
そう言うなり、晴奈はトマスを投げ飛ばした。
「うわっ!?」
トマスは受身を取ることもできず、ぼてっと道端に転がされた。
「ま、待ってよセイナ、僕が一体何したって……」「消えろッ!」
晴奈はトマスをにらみつけ、そのまま店の扉を閉めた。
夕方。
資料室の扉を開けると、机に座っていたネロがいぶかしげな顔を向けてきた。
「……どうしたの、その服? 泥だらけじゃないか」
「ちょっとね、うん」
「何があったんだい?」
心配そうに尋ねるネロに、トマスは力なく手を振って応える。
「いや、何でもない」「無いわけないだろ? 何があったの?」
ところが、ネロは食い下がってくる。
「いや、だから何でもないよ。大丈夫だって」「そうは思えない。何があった?」「……何でもないったら」「何でもないなら、言えるはずだろ?」「本当に何でもないし、言うほどのことじゃ」「言うほどのことがなくて、何で泥だらけになる必要があるんだい? ちゃんと説明しなよ」
しつこく尋ねてくるネロに根負けし、トマスは喫茶店での出来事を話した。
「君、……本当に、何でセイナが怒ったのか分からないのかい?」
「うん。僕は特に、変なこと言ったつもりはないんだけど」
「……あのね、トマス」
ネロはため息を吐きながら、トマスに座るよう促した。
「君は祖父が亡くなったと聞いたけれど、いや、それ以前に亡命したと聞いたけれども、何でおじいさんの部屋、そのままにしておいたんだい?」
「それは、いずれ戻ってくるかも知れないと思って」
「そう言うものだろ?
人間、過ぎ去ったものには多かれ少なかれ執着心を抱く。いなくなった人のことを思って部屋を潰さずにおくことと、無くなった視力がもしかしたら戻るかもと希望を抱いてデザインにこだわることは、根底では同じ理屈だよ。
君は他人から『君のおじいさん、とっくに死んだのに、何で部屋を残しておくの?』って言われて、平然としていられるのかい?」
「それは……」
「こんな風に言われたら、君は失礼だと思うだろう? 同じことだよ。
君は自分の祖父を侮辱されたのと同じくらいに失礼なことを、ジーナに言ったんだ。そりゃ、セイナも激怒するさ」
ネロに諭され、トマスはうなだれた。
「……そうだね。そう言われたら、確かに僕だって怒る」
「そうだろう? 謝ってきなよ、セイナとジーナに」
「……うん」
トマスは小さくうなずき、立ち上がった。
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個人的に、最も癇に障る話し方は「決め付け」だと思います。
「~さんってさ、体育会系でしょ」とか、
「~君って、東京の人だから」とか、
「~さんはB型だからなぁ」とか。
お前の物差しで他人を計るな、と言いたい。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.10.23 修正
個人的に、最も癇に障る話し方は「決め付け」だと思います。
「~さんってさ、体育会系でしょ」とか、
「~君って、東京の人だから」とか、
「~さんはB型だからなぁ」とか。
お前の物差しで他人を計るな、と言いたい。
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