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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・騒北録 3

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    晴奈の話、第468話。
    トマスの謝罪。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     トマスは自分の家の玄関に立ち止まり、恐る恐る扉を開いた。
    「た、ただいま……」
     中の様子を探るが、晴奈の姿は無い。
     と、ポンと肩を叩かれ、続いて声をかけられた。
    「どしたの?」「ひゃっ」
     振り返ると、小鈴が立っていた。
    「ひゃっ、って何よ。オバケじゃあるまいし」
    「あ、ご、ごめん」
    「んで、何してんの? 自分の家をそーっと覗くとか、傍から見てたらすっごい怪しいわよ」
    「あ、うん。その……」
     言葉を濁すトマスに、ネロが代わりに答える。
    「セイナを怒らせて、ジーナを泣かせちゃったから、謝ろうとしてるんだ」
    「へー」
    「ちょ、ちょっと」
     涼しい空気にも関わらず、トマスは額に汗を浮かべる。
    「……もしもアンタが結婚したら、絶対お嫁さんの尻に敷かれるタイプね」
     小鈴はニヤニヤしながら、トマスの困り果てた顔を眺めていた。

     ともかく、玄関先をウロウロしていても埒は明かない。トマスは小鈴とネロに促され、家の中に入った。
    「あ、セイナとジーナのコートだ。もう帰ってきてるみたいだね」
     ネロの言葉に、トマスはゴクリと唾を飲む。
    「ぷ、くくく……」
     その様子を面白がって、小鈴が壁をバンバン叩きながら笑っている。
    「何が面白いんだよ……」
    「い、いやー、だってさ、ビビリすぎじゃん、んふ、ふふふ……」
     だが、玄関口で騒いでも、晴奈たちが反応している様子は無い。
    「……寝てるかな?」
    「かもね」
     トマスはまた恐る恐る、リビングに足を運ぶ。
     と、庭に向けてあるソファの頭から、黒髪と三毛の猫耳が覗いている。
    「あ、……セイナ、さっきは、その……」
     声をかけてみるが、返事は無い。
    「……セイナ」
     トマスは先程にも増しておずおずと、ソファの正面へと回り込む。
     やはり、晴奈は眠っていた。眠っている顔は、先程の形相とは打って変わって穏やかである。猫耳も、ソファの隙間から見えている尻尾も、呼吸に合わせてピクピクと動き、少々ユーモラスに見える。そして吊り気味の目を閉じ、うつむいた顔も――。
    (……綺麗だ)
     トマスにはそう、感じられた。
     と、気配に気付いたのか、晴奈が「ん……」と短くうなり、顔を挙げた。
    「……」
     おどおどしたトマスと、不機嫌そうな晴奈の視線が合う。
    「……」
     トマスはゴク、とのどを鳴らし、深く頭を下げた。
    「ごめん」
    「……」
    「その、本当に、僕は、その、ひどいことを言ってしまって」「トマス」
     晴奈がトマスの弁明をさえぎり、静かに、だが強い口調で尋ねた。
    「ひどいことを言ったのは、私にか?」
    「……いや、ジーナに、だけど」
    「ならば私に謝る必要など無い。ジーナのところに行け」
    「う、うん」
     トマスはもう一度頭を下げ、晴奈の前から離れようとした。
    「……トマス」
     だが、晴奈がそれを止める。
    「な、何、かな」
    「反省したのか?」
    「う、ん」
    「ならばもう、怒りはしない。そんなにビクビクするな」
     そう言って、晴奈はまた目を閉じた。
    「……うん」
     トマスは三度頭を下げ、ジーナのところに向かった。

     ジーナは晴奈が借りている部屋にいた。
    「ジーナ、入るよ……」
    「……」
     トマスは扉をノックし、晴奈の時と同様に、恐る恐る中の様子を確認する。
    「あ……」
     入るなり、沈んだ顔のジーナと目が合い――と言っても恐らく、ジーナにはトマスの顔は見えていないだろう――トマスは言葉に詰まった。
     ジーナの目は真っ赤に充血しており、先程まで泣いていたのが一目で分かった。晴奈の部屋に一人でいたのは恐らく、晴奈が落ち着かせようとしたからだろう。
    「その、ジーナ、……さっきはごめん」
    「……」
    「あんまりにも無神経なことを言ってしまって、本当に悪かった。折角、いい杖を買ったのに、それを台無しにしてしまって」
    「……」
     ジーナは手の甲で顔をぬぐい、ぼそっとつぶやいた。
    「……許してほしくば」
    「えっ?」
    「ケーキ、買ってこい。すっぱいベリーがたっぷり乗った、甘いショートケーキじゃ」
     ジーナはそう言って、ぷいとそっぽを向いた。
    「……分かった。……本当に、ごめんね」
    「……ふん」

     その夜はトマスが買ったケーキを囲み、仲直りのパーティが開かれた。
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