「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・騒北録 5
晴奈の話、第470話。
晴奈、ついに帰郷。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「ほーう」
話を聞かされた晴奈は、非常に嫌そうな顔をしてトマスに応えた。
「確かに私は、その二人と親しい。が、ヘレン女史とはそうそう何度も会えるわけではないし、父上に借りを作りたいとも思わぬ」
「そこを何とかさ……」
「断る」
晴奈はぷい、とそっぽを向く。と、ここで小鈴が間に割って入った。
「そー言わないで、さ。世界平和もかかってるんだし、助けてあげなって」
「いや、そうは言うが……」
晴奈はばつが悪そうな顔をし、コリコリと猫耳をしごいている。
「ま、2年も会ってないお父さんにいきなり『この人を助けてあげて』なんて、言いにくいわよねぇ」
「いや、そうでは、……うーむ、似たようなものか。確かに国際的な問題となると、いくら私と父上の関係でも、相談はしにくい。
そもそも、まだ『バニッシャー』も取り戻していないのに、故郷に帰るわけにはいかぬ」
晴奈の返答を聞き、ネロも話の輪に加わってきた。
「そう言うことならさ、むしろ帰らないといけないんじゃないかな」
「何?」
「中佐が『バニッシャー』を持ったまま、央北に入ってしまったからさ。
央北への道が完全に閉ざされた今、個人レベルの力じゃ最早、央北に足を踏み入れることすらできない。国際的協力が無ければ、彼を追うことは不可能だよ」
「だから父上に泣きつけ、と?」
「そうは言ってない。交渉を行うのはあくまでトマスであり、君はその橋渡し、仲介を行うだけだ。それなら何てことないだろ?」
「ふむ……、仲介、か。……しかし……」
晴奈は一瞬うつむき、こう返した。
「……しばらく、考えさせてくれ」
晴奈は小鈴を連れて、一旦部屋に戻った。
「小鈴。……どうすればいい?」
「どう、って。あたしの意見を率直に言えば、『帰ったらいいじゃん』なんだけど」
「だろうな。私も同意見だ。……でも」
晴奈は顔を両掌でこすりながら、ボソボソと話す。
「何と言うか、どうにも……、な」
「何ソレ?」
「確かにネロの言う通り、『バニッシャー』を取り戻すには私一人ではもう、どうしようもない。父上とヘレン女史に会う必要はある。……頭では、納得している。
でも、……まだ、申し訳が立たないと、そう感じているんだ」
「申し訳って、誰に?」
晴奈は顔を上げ、ぽつりと答える。
「エルスだ。あいつには何かと手助けしてもらったし、今も我が故郷のために尽力してくれている。何より、私の大切な親友だ。
そんなあいつに、私は何にも持って帰って来られず、あまつさえ『お前の剣を取り戻すため、力を貸してくれ』などと頼むのは、あまりにも情けない。
私はまだあいつに、何もしていないのだ。その上で頼み込むなど……」
「……はー」
腕組みをして聞いていた小鈴は、ひょいと晴奈の額に手を伸ばし、デコピンした。
「このっ」「あいたっ?」
突然額を叩かれ、晴奈は困惑する。
「な、何だ?」
「あのねー晴奈。ソレ、違うって。親友に対してそんな言い訳ぐちゃぐちゃ続けて結局会わない方が、それこそ申し訳ないでしょーが。
大体さ、そのエルスさんに黙って旅に出ちゃったんでしょ? ホントに親友なら、ものすごーく心配してるわよ、きっと。
だからさ、いっぺん帰ってみなって。それともさ、ずーっと心配かけるのが、アンタ流の親友との付き合い方なの?」
「……む、う」
小鈴の言葉に、晴奈は短くうなった。
「……そうだな。もう随分、会っていない。心配もさせているだろうな。小鈴の言う通りだ。
そろそろ潮時、か」
「そーよ。戻りましょ、晴奈」
微笑む小鈴に、晴奈は深々とうなずいた。
「ああ。戻ろう、我が故郷に」
双月暦520年8月。
晴奈の2年に及ぶ、長い旅が終わりを告げた。
蒼天剣・騒北録 終
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晴奈、ついに帰郷。
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5.
「ほーう」
話を聞かされた晴奈は、非常に嫌そうな顔をしてトマスに応えた。
「確かに私は、その二人と親しい。が、ヘレン女史とはそうそう何度も会えるわけではないし、父上に借りを作りたいとも思わぬ」
「そこを何とかさ……」
「断る」
晴奈はぷい、とそっぽを向く。と、ここで小鈴が間に割って入った。
「そー言わないで、さ。世界平和もかかってるんだし、助けてあげなって」
「いや、そうは言うが……」
晴奈はばつが悪そうな顔をし、コリコリと猫耳をしごいている。
「ま、2年も会ってないお父さんにいきなり『この人を助けてあげて』なんて、言いにくいわよねぇ」
「いや、そうでは、……うーむ、似たようなものか。確かに国際的な問題となると、いくら私と父上の関係でも、相談はしにくい。
そもそも、まだ『バニッシャー』も取り戻していないのに、故郷に帰るわけにはいかぬ」
晴奈の返答を聞き、ネロも話の輪に加わってきた。
「そう言うことならさ、むしろ帰らないといけないんじゃないかな」
「何?」
「中佐が『バニッシャー』を持ったまま、央北に入ってしまったからさ。
央北への道が完全に閉ざされた今、個人レベルの力じゃ最早、央北に足を踏み入れることすらできない。国際的協力が無ければ、彼を追うことは不可能だよ」
「だから父上に泣きつけ、と?」
「そうは言ってない。交渉を行うのはあくまでトマスであり、君はその橋渡し、仲介を行うだけだ。それなら何てことないだろ?」
「ふむ……、仲介、か。……しかし……」
晴奈は一瞬うつむき、こう返した。
「……しばらく、考えさせてくれ」
晴奈は小鈴を連れて、一旦部屋に戻った。
「小鈴。……どうすればいい?」
「どう、って。あたしの意見を率直に言えば、『帰ったらいいじゃん』なんだけど」
「だろうな。私も同意見だ。……でも」
晴奈は顔を両掌でこすりながら、ボソボソと話す。
「何と言うか、どうにも……、な」
「何ソレ?」
「確かにネロの言う通り、『バニッシャー』を取り戻すには私一人ではもう、どうしようもない。父上とヘレン女史に会う必要はある。……頭では、納得している。
でも、……まだ、申し訳が立たないと、そう感じているんだ」
「申し訳って、誰に?」
晴奈は顔を上げ、ぽつりと答える。
「エルスだ。あいつには何かと手助けしてもらったし、今も我が故郷のために尽力してくれている。何より、私の大切な親友だ。
そんなあいつに、私は何にも持って帰って来られず、あまつさえ『お前の剣を取り戻すため、力を貸してくれ』などと頼むのは、あまりにも情けない。
私はまだあいつに、何もしていないのだ。その上で頼み込むなど……」
「……はー」
腕組みをして聞いていた小鈴は、ひょいと晴奈の額に手を伸ばし、デコピンした。
「このっ」「あいたっ?」
突然額を叩かれ、晴奈は困惑する。
「な、何だ?」
「あのねー晴奈。ソレ、違うって。親友に対してそんな言い訳ぐちゃぐちゃ続けて結局会わない方が、それこそ申し訳ないでしょーが。
大体さ、そのエルスさんに黙って旅に出ちゃったんでしょ? ホントに親友なら、ものすごーく心配してるわよ、きっと。
だからさ、いっぺん帰ってみなって。それともさ、ずーっと心配かけるのが、アンタ流の親友との付き合い方なの?」
「……む、う」
小鈴の言葉に、晴奈は短くうなった。
「……そうだな。もう随分、会っていない。心配もさせているだろうな。小鈴の言う通りだ。
そろそろ潮時、か」
「そーよ。戻りましょ、晴奈」
微笑む小鈴に、晴奈は深々とうなずいた。
「ああ。戻ろう、我が故郷に」
双月暦520年8月。
晴奈の2年に及ぶ、長い旅が終わりを告げた。
蒼天剣・騒北録 終
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旅に出たのが163話、518年の7月。
307話分、2年1ヶ月間の長旅でした。
現実の時間でも、163話が掲載されたのが2008年の12月9日。
1年以上をかけた、相当長い旅行記になりました。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.10.23 修正
旅に出たのが163話、518年の7月。
307話分、2年1ヶ月間の長旅でした。
現実の時間でも、163話が掲載されたのが2008年の12月9日。
1年以上をかけた、相当長い旅行記になりました。
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NoTitle
2年…私にとっては短いようにも思えます。
その世界の寿命にも寄りますけどね。
私は10年ぐらい実家と距離を置いていましたからね。
年月の重みってその人しか分からないですよね。
その世界の寿命にも寄りますけどね。
私は10年ぐらい実家と距離を置いていましたからね。
年月の重みってその人しか分からないですよね。
- #1759 LandM
- URL
- 2013.10/05 23:03
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NoTitle
自分は寿命と言うより、経験だと考えています。
307話分、約60万文字にも及ぶ長旅を、短いと言えるかどうか。
現実世界の1年、2年も、思い返せばあっと言う間に感じたとしても、
決して短いものでは無かったと、自分自身の経験ですが感じています。