「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・帰郷録 1
晴奈の話、第471話。
親友との再会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
央南へと向かう、船の上。
甲板に、晴奈が立っている。
(……むう……)
その心中には、強い不安が渦巻いていた。
「やあ、セイナ」
そんな晴奈のところへ、トマスがやってくる。
「うん? ……何だ、トマスか」
「何だはひどいなぁ。……どうしたの?」
「何がだ」
「難しい顔してるなと思って」
「ああ」
晴奈は海に顔を向け、ため息をついた。
「やはり、不安があってな」
「不安?」
「エルスは、……私の行動をどう思っているだろうか、と。
私が『バニッシャー』を追うと知って、期待しただろうか。それとも『余計なことを』と思ったのだろうか。
いっそ、そう思ってくれていた方が、どれだけ気が楽か」
晴奈は両手を胸の高さに挙げ、その掌をじっと見つめる。
「私は結局、何も持って帰ることができなかった。『バニッシャー』も取り戻せず、日上も倒せず、……エルスに、何と言えばいいのか」
「何も、ってコトは無いわよ」
小鈴がやって来て、晴奈の肩をポンポンと叩く。
「色々やったじゃん、アンタ。
お姫様と旅して、闘技場に参加して準優勝して、犯罪組織を潰して、……この2年、本当に色々頑張ったんだし。世界平和にも貢献したんだし。
エルスさんも、きっと許してくれるわよ」
「そうだといいが……」
不安がる晴奈の手を、トマスが握り締めた。
「大丈夫だよ。リロイなら、きっと笑って許すさ」
「……そう願おう」
晴奈はもう一度、海に視線を向け――間を置いてトマスに向き直った。
「いつまで私の手を握っている?」
「あ、ごめん」
8月末、晴奈たちを乗せた船は央南、黄海に到着した。
「変わって……、ないな」
晴奈の目に、2年前とまったく変わらない黄海の港が映る。晴奈はそっと、地面に降り立った。
「……とうとう、帰ってきてしまったな」
自分の足を見つめ、ぼそっとそうつぶやいた。
すると前の方から、穏やかな声が聞こえてくる。
「とうとう、だね。おかえり、セイナ」
「……っ」
顔を挙げると、そこには2年前より若干痩せた親友、エルス・グラッドの姿があった。
「……エルス」
「元気にしてた?」
「……ああ」
「前よりずっと、強くなったみたいだね」
「……うむ」
「おつかれさん、かな。戻ってきてくれて嬉しいよ」
「……その、エルス。私は……」
晴奈は鼻の奥に鈍い刺激を感じ始め、慌ててうつむく。
「『バニッシャー』のことなら、もういいんだ」
エルスが晴奈の肩に手を回し、優しく抱きしめた。
「……あ……」
「剣なんかより、君が帰ってきてくれて本当に良かった。この2年、気がかりでならなかったんだよ?」
「私は……、わ、たし、は……っ」
「もう気にしないでいいから。いいからね、セイナ」
「……うん……」
優しい友からの言葉と抱擁に、晴奈はボロボロと涙を流していた。
二人の様子を離れて見ていた小鈴は、クスクスと笑っている。
「あらら、珍しいわね。晴奈が泣くなんて」
「そう、……だね」
小鈴はチラ、とトマスの方を眺める。トマスは複雑な表情で、晴奈とエルスを見つめていた。
「……妬いた?」
「へっ?」
トマスは慌てて顔を振り、否定した。
「そんっ、そんなわけないじゃないか。いや、単にあの二人は男女なのに、恋愛より友情で結びついてるんだなって、うん」
「あー、そー、ふーん」
下手な言い訳を、小鈴はニヤニヤしながら聞いていた。
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親友との再会。
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1.
央南へと向かう、船の上。
甲板に、晴奈が立っている。
(……むう……)
その心中には、強い不安が渦巻いていた。
「やあ、セイナ」
そんな晴奈のところへ、トマスがやってくる。
「うん? ……何だ、トマスか」
「何だはひどいなぁ。……どうしたの?」
「何がだ」
「難しい顔してるなと思って」
「ああ」
晴奈は海に顔を向け、ため息をついた。
「やはり、不安があってな」
「不安?」
「エルスは、……私の行動をどう思っているだろうか、と。
私が『バニッシャー』を追うと知って、期待しただろうか。それとも『余計なことを』と思ったのだろうか。
いっそ、そう思ってくれていた方が、どれだけ気が楽か」
晴奈は両手を胸の高さに挙げ、その掌をじっと見つめる。
「私は結局、何も持って帰ることができなかった。『バニッシャー』も取り戻せず、日上も倒せず、……エルスに、何と言えばいいのか」
「何も、ってコトは無いわよ」
小鈴がやって来て、晴奈の肩をポンポンと叩く。
「色々やったじゃん、アンタ。
お姫様と旅して、闘技場に参加して準優勝して、犯罪組織を潰して、……この2年、本当に色々頑張ったんだし。世界平和にも貢献したんだし。
エルスさんも、きっと許してくれるわよ」
「そうだといいが……」
不安がる晴奈の手を、トマスが握り締めた。
「大丈夫だよ。リロイなら、きっと笑って許すさ」
「……そう願おう」
晴奈はもう一度、海に視線を向け――間を置いてトマスに向き直った。
「いつまで私の手を握っている?」
「あ、ごめん」
8月末、晴奈たちを乗せた船は央南、黄海に到着した。
「変わって……、ないな」
晴奈の目に、2年前とまったく変わらない黄海の港が映る。晴奈はそっと、地面に降り立った。
「……とうとう、帰ってきてしまったな」
自分の足を見つめ、ぼそっとそうつぶやいた。
すると前の方から、穏やかな声が聞こえてくる。
「とうとう、だね。おかえり、セイナ」
「……っ」
顔を挙げると、そこには2年前より若干痩せた親友、エルス・グラッドの姿があった。
「……エルス」
「元気にしてた?」
「……ああ」
「前よりずっと、強くなったみたいだね」
「……うむ」
「おつかれさん、かな。戻ってきてくれて嬉しいよ」
「……その、エルス。私は……」
晴奈は鼻の奥に鈍い刺激を感じ始め、慌ててうつむく。
「『バニッシャー』のことなら、もういいんだ」
エルスが晴奈の肩に手を回し、優しく抱きしめた。
「……あ……」
「剣なんかより、君が帰ってきてくれて本当に良かった。この2年、気がかりでならなかったんだよ?」
「私は……、わ、たし、は……っ」
「もう気にしないでいいから。いいからね、セイナ」
「……うん……」
優しい友からの言葉と抱擁に、晴奈はボロボロと涙を流していた。
二人の様子を離れて見ていた小鈴は、クスクスと笑っている。
「あらら、珍しいわね。晴奈が泣くなんて」
「そう、……だね」
小鈴はチラ、とトマスの方を眺める。トマスは複雑な表情で、晴奈とエルスを見つめていた。
「……妬いた?」
「へっ?」
トマスは慌てて顔を振り、否定した。
「そんっ、そんなわけないじゃないか。いや、単にあの二人は男女なのに、恋愛より友情で結びついてるんだなって、うん」
「あー、そー、ふーん」
下手な言い訳を、小鈴はニヤニヤしながら聞いていた。



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今日の旅岡さん

NoTitle
2年で出来る冒険というのも限られますが。
ひとまず、お帰りなさい。・・・ですね。