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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・帰郷録 2

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    晴奈の話、第472話。
    北方と央南の関係修復。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「……ふむ。話は良く分かりました」
     晴奈の仲介で、トマスと央南連合主席の紫明、そしてエルスの三人は、央南と北方との関係修復について討議を行っていた。
    「しかし私の一存だけでは、連合を動かすことはできません。
     何しろ、こちらとしても日上騒乱のために、央北との交流をすべて絶たざるを得なかったのですからな。その被害たるや、あなた方ジーン王国がこれから受けるものの、何倍にもなるのです。
     この混乱の責任をどこが取る、と言う話になれば、それは日上氏本人か、彼が属していたジーン王国軍、ひいては王室政府に、となるでしょう?
     その話もまだ立っていない段階で、『もう一度友好関係を』と言う話をするのは到底、不可能です」
    「責任は必ず、ヒノカミ氏本人と彼の軍閥に取らせるつもりです」
    「つもり、では困ります。彼が央北で守りを固め、侵入不可能にしてしまった現在、どうやって彼と交渉、もしくは彼を拘束するおつもりですか?」
    「……きっと彼は、近い内に何らかの対外的行動を起こします。
     そうなればいつまでも、閉じこもっているわけには行きません。必ず、交渉ないし拘束のチャンスはあるはずです」
    「『きっと』や『はず』で話をされましてもなぁ……」
     紫明は苦い顔をするばかりで、トマスの説明にうなずこうとはしない。
     そこで、エルスがトマスを援護した。
    「いや、確かにそうした動きは既に出ているとのことです。
     詳しい意図は不明ですが、先日ヒノカミ氏は央中ネール公国の大公を招いたと言う情報もあります。支配圏を央北から伸ばそうとしている意志は、明確に現れています」
    「ふむ……」
    「それにシメイさん、央北との貿易網が潰れた現在、さらに北方との貿易も閉じてしまったら、黄商会としても、連合としても、かなり困ることになるんじゃないですか?」
    「確かに、それは言える。
     ……だがなぁ、それだけでは連合の人間を納得させられまい。やはり日上への責任をどうつけるか、が明確に説明できねば」
     エルスはしばらく考え込み、やがてこう提案した。
    「それなら、単に関係修復だけではなく、今後の侵略に備えて軍事的にも同盟を結ぶ、と言う名目ではどうでしょうか?
     ヒノカミ氏が支配圏を拡げるのなら、北方は勿論、央南にも手を伸ばしてくる可能性は0ではないでしょうから」
    「そう、か……?」
     まだ懐疑的な様子を見せる紫明に、エルスが畳み掛ける。
    「特に央南東部となると、我々の本拠であるコウカイからも、軍事拠点である紅蓮塞やテンゲンからも離れていますからね。
     それに攻撃を受けた場合、恐らく敵の進路は西大海洋から南中湾にかけて。北方からの海上支援がなければ、守るのは容易では無いでしょう。
     もし侵略が現実になれば、連合が大打撃を受けるのは間違いないでしょうし、それに備えて軍事同盟を結んでおくのは、悪い話では無いでしょう」
    「……なるほど、一理ある。それなら皆も納得するだろう」
     紫明は深くうなずき、トマスの要請を受諾した。



     紫明が同盟の話を受け、央南連合とジーン王国との同盟はほぼ現実的になった。
    「後は連合と王室政府とで協議を重ねて、実現に持っていくだけだ。……はぁ、一段落ってところかな」
    「おつかれさん」
     晴奈の帰郷に付いてきていたネロが、ネクタイを緩めつつ座布団に座り込むトマスを労った。
    「ありがとう。……はは、すっかり囲碁にはまったみたいだね」
    「うん。なかなか面白いよ、このゲーム」
     ネロの相手をしているのは、晴奈の実妹の明奈である。
    「……投了します」
     明奈は愕然とした顔で、敗北を宣言した。
    「ありがとうございました」
     それに合わせ、ネロがぺこりと頭を下げた。
     明奈は呆然とした顔のまま姉を手招きし、こしょこしょと耳打ちする。
    「お姉さま、この方ってもしかして、名のある棋士さんなの?」
    「いや、実は石を握って2ヶ月もない奴だ」
    「それは嘘でしょう、いくらなんでも。……でないとわたし、立つ瀬がありません。
     これでも黄海では囲碁四段、女流棋士になったと言うのに」
    「ほう……」
     妹のすねた顔を見て、晴奈は心の中の緊張がようやくほぐれた気がした。
    (……うん、私は本当に、弟妹たちが好きなんだな。こうして3年ぶりに明奈の顔を見たら、何だか穏やかな気持ちになれた。
     そう言えば元気にしているのかな、良太やフォルナ、シリンは)
    「あ、そうだ。お姉さま、お手紙がいくつか届いてますよ」
    「手紙?」
    「はい。……本当に色んなところを旅してらしたようで。
     青江からウエストポートまで、様々な消印がずらりと並んでますよ」
     そう言って明奈は席を立ち、封筒がたっぷり入った箱を抱えて戻ってきた。

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    2016.10.30 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    緊張緩和に向かってはいますが、
    まだまだ根気強い話し合いが必要ですね。
    「蒼天剣」ももうそろそろ、終わりの形が仄見える頃です。

    NoTitle 

    現実と状況把握、及び向かっていく理想。
    その辺のジレンマが難しいですよね。
    個人なら簡単にいくことですけど、国体や政治の世界ということになると・・・。ですね。
    しかし、良い方向には向かっていますね。
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