「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・帰郷録 3
晴奈の話、第473話。
これまでと、これから。
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3.
「ほう……」「へぇ……」「あらあら」
最も長いもので1年半ほども封を開けていない手紙の山を読み返しながら、晴奈と明奈、小鈴、そしてリストにジーナと言った女性陣は騒いでいた。
「『黄さん、またウチの店に寄ってくださいねっ / 風虎亭主人 橘風木』、……兄さんったら!」
「『コウ先生へ また遊びに来てくださいね 新しい弟のウィルはかわいいよ / トレノ・ウィアード』、……そうか、無事に産まれたのだな」
「『セイナさんセイナさんセイナさんまた会いたいよ / 雨宮』、……きもっ」「それは焼き捨てておこう」「そーね」
中には妙なものもあったが、そのほとんどは心温まるものばかりだった。
「晴奈、アンタ本当にいい旅をしたわね。こんなに、みんなからの手紙が来るなんて。あたしもあっちこっち旅したけど、こんなに山みたいになったコトは無いわよ」
「……ああ、そうだな」
晴奈はふと、明奈とリストの顔をしげしげと見つめた。
「……ん? どしたの、セイナ」
リストにいぶかしがられ、晴奈は小さく首を振る。
「あ、いや。……いや、何と言うか、随分成長したように見えたのでな」
「何ソレ?」
首を傾げたリストに笑みを返しつつ、晴奈はこう尋ねた。
「そうだ、私がいない2年の間、何か変わったことはあったか?」
「ん? うーん、そうね」
リストはチラ、と明奈の顔を見る。
「一番のニュースは、やっぱメイナが囲碁の先生になったコトね。
セイナが央南を離れた直後なんだけど、戦勝記念ってコトで、コウ商会主催で囲碁のトーナメントが開かれたのよ。で、メイナがそれで結構いい成績だして、みんなから『いっそ棋士を目指したらどうだ?』みたいな話になってね」
「それで試験を受けてみたら、合格してしまいまして。今は時々黄海を離れ、修行と普及のために央南各地で打っています」
「へぇ……。明奈らしいと言えば、らしい話だな」
続いて、リストが手を挙げる。
「それで、アタシもちょこっとニュース。
エルスが何だかんだで央南連合軍の最高司令官になっちゃったから、エルスが抗黒戦争の時に就いてた黄州自警軍のリーダーを、アタシが継ぐコトになったのよ。
それで今、銃士隊を大規模編成して、今後の防衛に活かそうとしてるトコ」
「それは大出世だな。……しかし、エルスに比べればあまり変わっている感じは無いな」
「そりゃ、一地方の軍責任者と央南全土の軍事司令とじゃ、激務っぷりは全然違うわよ。
……そりゃ、痩せもするわ」
そう言ったリストの顔は、少し寂しそうに見えた。
「あんまり、会えなくなっちゃったし。心配なのよね」
「ふむ……」
「んじゃさ」
横で聞いていた小鈴が、ニヤッと笑いかけた。
「アンタの職、晴奈に任せてさ。エルスさんのトコについてったらどう?」
「はぁ?」
リストは小鈴をにらみ、きつめの口調で切り返す。
「イヤよ、そんなの。折角アタシの本領が発揮できるって時に。もうちょい考えて物言いなさいよ」
「あーら、考えたつもりだけど? 晴奈もこっちに復帰するってコトになったらさ、ソレくらいの椅子は用意してあげてもいいんじゃないかなー、って」
「……うーん」
小鈴の言い分を聞き、リストは腕を組んで考え込む。
「確かに、セイナが側に付いてくれたら百人力だけど。
でもソレ言ったら、アタシのトコよりもエルスの近くの方が、もっと活躍できんじゃないかな」
「それもそーねぇ」
二人はくるりと晴奈の方を向き、同時に尋ねた。
「晴奈、アンタこれからどうすんの?」
「……これ、から」
その質問に、晴奈は黙り込んだ。
(そうか……。そろそろ『これから』を考えていかねば)
晴奈のこれまでの人生は、絶え間なく動き、流れ続けてきた。
雪乃に憧れて剣士となり、紅蓮塞での騒ぎに巻き込まれ、抗黒戦争に参加し、それが落ち着いたと思ったらフーを追うことになり、その間に闘技場での活躍や、殺刹峰との戦いがあり、そして北方に渡ったところでようやく、この2年に渡る旅が終わりを告げた。
13歳から27歳までのその半生はまさしく、「戦い続けた人生」だった。
だが、これからはどうなるのだろうか?
恐らく北方と央南・央中の交渉が終わり、フーと「ヘブン」に対する決着が付けば、恐らく平和が訪れる。そうなった時、彼女にはもう、戦う理由も、必要もなくなるのだ。
晴奈はこれまでずっと目の前の事柄を追いかけ、戦ってきた。だがそう遠くない将来、晴奈の身の回りは平和になり、戦うことはなくなる。
(む……?)
そこまで考えたところで、不意に晴奈はどこか、ほっとしたような気持ちを覚えた。
(何だろうか? この形容しにくい、穏やかな気持ちは……。
長いこと歩き続けて、ようやく腰を落ち着けたような、この安心感は一体……?)
27歳の晴奈は、目の前に現れたその感情に対し、そのまま考え込む。
その答えは、出てこなかった。
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これまでと、これから。
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「ほう……」「へぇ……」「あらあら」
最も長いもので1年半ほども封を開けていない手紙の山を読み返しながら、晴奈と明奈、小鈴、そしてリストにジーナと言った女性陣は騒いでいた。
「『黄さん、またウチの店に寄ってくださいねっ / 風虎亭主人 橘風木』、……兄さんったら!」
「『コウ先生へ また遊びに来てくださいね 新しい弟のウィルはかわいいよ / トレノ・ウィアード』、……そうか、無事に産まれたのだな」
「『セイナさんセイナさんセイナさんまた会いたいよ / 雨宮』、……きもっ」「それは焼き捨てておこう」「そーね」
中には妙なものもあったが、そのほとんどは心温まるものばかりだった。
「晴奈、アンタ本当にいい旅をしたわね。こんなに、みんなからの手紙が来るなんて。あたしもあっちこっち旅したけど、こんなに山みたいになったコトは無いわよ」
「……ああ、そうだな」
晴奈はふと、明奈とリストの顔をしげしげと見つめた。
「……ん? どしたの、セイナ」
リストにいぶかしがられ、晴奈は小さく首を振る。
「あ、いや。……いや、何と言うか、随分成長したように見えたのでな」
「何ソレ?」
首を傾げたリストに笑みを返しつつ、晴奈はこう尋ねた。
「そうだ、私がいない2年の間、何か変わったことはあったか?」
「ん? うーん、そうね」
リストはチラ、と明奈の顔を見る。
「一番のニュースは、やっぱメイナが囲碁の先生になったコトね。
セイナが央南を離れた直後なんだけど、戦勝記念ってコトで、コウ商会主催で囲碁のトーナメントが開かれたのよ。で、メイナがそれで結構いい成績だして、みんなから『いっそ棋士を目指したらどうだ?』みたいな話になってね」
「それで試験を受けてみたら、合格してしまいまして。今は時々黄海を離れ、修行と普及のために央南各地で打っています」
「へぇ……。明奈らしいと言えば、らしい話だな」
続いて、リストが手を挙げる。
「それで、アタシもちょこっとニュース。
エルスが何だかんだで央南連合軍の最高司令官になっちゃったから、エルスが抗黒戦争の時に就いてた黄州自警軍のリーダーを、アタシが継ぐコトになったのよ。
それで今、銃士隊を大規模編成して、今後の防衛に活かそうとしてるトコ」
「それは大出世だな。……しかし、エルスに比べればあまり変わっている感じは無いな」
「そりゃ、一地方の軍責任者と央南全土の軍事司令とじゃ、激務っぷりは全然違うわよ。
……そりゃ、痩せもするわ」
そう言ったリストの顔は、少し寂しそうに見えた。
「あんまり、会えなくなっちゃったし。心配なのよね」
「ふむ……」
「んじゃさ」
横で聞いていた小鈴が、ニヤッと笑いかけた。
「アンタの職、晴奈に任せてさ。エルスさんのトコについてったらどう?」
「はぁ?」
リストは小鈴をにらみ、きつめの口調で切り返す。
「イヤよ、そんなの。折角アタシの本領が発揮できるって時に。もうちょい考えて物言いなさいよ」
「あーら、考えたつもりだけど? 晴奈もこっちに復帰するってコトになったらさ、ソレくらいの椅子は用意してあげてもいいんじゃないかなー、って」
「……うーん」
小鈴の言い分を聞き、リストは腕を組んで考え込む。
「確かに、セイナが側に付いてくれたら百人力だけど。
でもソレ言ったら、アタシのトコよりもエルスの近くの方が、もっと活躍できんじゃないかな」
「それもそーねぇ」
二人はくるりと晴奈の方を向き、同時に尋ねた。
「晴奈、アンタこれからどうすんの?」
「……これ、から」
その質問に、晴奈は黙り込んだ。
(そうか……。そろそろ『これから』を考えていかねば)
晴奈のこれまでの人生は、絶え間なく動き、流れ続けてきた。
雪乃に憧れて剣士となり、紅蓮塞での騒ぎに巻き込まれ、抗黒戦争に参加し、それが落ち着いたと思ったらフーを追うことになり、その間に闘技場での活躍や、殺刹峰との戦いがあり、そして北方に渡ったところでようやく、この2年に渡る旅が終わりを告げた。
13歳から27歳までのその半生はまさしく、「戦い続けた人生」だった。
だが、これからはどうなるのだろうか?
恐らく北方と央南・央中の交渉が終わり、フーと「ヘブン」に対する決着が付けば、恐らく平和が訪れる。そうなった時、彼女にはもう、戦う理由も、必要もなくなるのだ。
晴奈はこれまでずっと目の前の事柄を追いかけ、戦ってきた。だがそう遠くない将来、晴奈の身の回りは平和になり、戦うことはなくなる。
(む……?)
そこまで考えたところで、不意に晴奈はどこか、ほっとしたような気持ちを覚えた。
(何だろうか? この形容しにくい、穏やかな気持ちは……。
長いこと歩き続けて、ようやく腰を落ち着けたような、この安心感は一体……?)
27歳の晴奈は、目の前に現れたその感情に対し、そのまま考え込む。
その答えは、出てこなかった。
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自分の年齢も、今年で27になります。
この時の晴奈と同い年。
同じこと、思わないわけには行かない。
彼女ほど数奇な人生を送っているわけでは無いですが。
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2016.10.30 修正
自分の年齢も、今年で27になります。
この時の晴奈と同い年。
同じこと、思わないわけには行かない。
彼女ほど数奇な人生を送っているわけでは無いですが。
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2016.10.30 修正



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無用の用を知れば、有用の用も知れるでしょう。