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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・帰郷録 4

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    晴奈の話、第474話。
    鉄の悪魔。

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    4.
    「それにしても、久しぶり……、だね」
     雑務が一段落したエルスは、トマスを自分の執務室に呼んだ。
    「そうだね。6年、いや、7年ぶりくらいかな」
    「僕が王国を出た時は、トマスは南海の大学にいたんだっけ」
    「ああ、うん。1年だけだけど。本国からの召還が無かったら、もうちょっといたかも」
    「召還されてからは、エドさんの跡を?」
    「そうなんだ。いやぁ、大変だったよ」
     それを聞いて、エルスは頭をポリポリとかく。
    「悪かった、本当に。僕とエドさんが亡命したりしなきゃ、もしかしたら大学教授になって、のんびりできたかも知れないのにね」
    「あ、いや、別に謝ることなんか。今の職も充実してるし、楽しいよ。……まあ、トラブルに巻き込まれることは多々あるけれど」
    「聞いたよ、フーに閉じ込められてたんだってね」
     エルスの笑顔が、寂しげな陰を帯び始めた。
    「……本当に、どうかしちゃったんだろうか、フーは。
     まさか君に危害を加えるなんて、想像もしなかった。それどころか、国を裏切って――もっとも、結果的には僕もそうなんだけど――央北を侵略するなんて。
     悪魔が憑いてるとしか思えないよ」
    「悪魔、……か。それはきっと、グレイ氏だろうな」
    「グレイ氏?」
    「うん。数年前から、フーの参謀を名乗って活動している人物だ。軍閥の形成にも、深く関わっていた。
     恐らく今回の『ヘブン』騒乱も、グレイ氏の指示によるものだろう」
    「何者なのかな……?」
    「さっぱり、分からない」
     エルスとトマスは、同時に肩をすくめた。



    「ん?」
     悩む晴奈を放って手紙を見ていた小鈴は、一通の封筒が見慣れたものであることに気が付いた。
    「コレ、朱海のトコからのじゃん」
    「アケミ? 誰じゃ?」
    「あたしの従姉妹の虎獣人。兄さんのトコと同じく、情報屋やってんの」
     小鈴は勝手に、晴奈宛の封筒を開く。
    「なになに……、『黄晴奈様へ A・グレイ氏の身辺調査結果を送付します』」



    「名前(公称):アラン・グレイ(Arran Glay)
     性別:男性の可能性高いが確認できず 年齢:不明 種族:不明 出身地:不明
     職歴:日上軍閥の参謀 それ以前の経歴は不明

     調べてみたけど、一言でまとめると『何が何だか』って感じだ。
     日上と会う以前に、こいつがどこで何をしてたかは、どこからもさっぱり出てこなかった。まるで突然、日上の目の前に現れたような感じだ。
     あちこちの筋に、手がかりになりそうなものを聞き込んでみたが、それもほぼ空振り。ただ、いっこだけ気にかかる情報があった。

    『Arr』――アルと呼ばれる、歴史に隠れた悪魔の伝説が、こいつの特徴といくつか符合した。
     その『アル』ってのは、フードと鉄仮面で体を覆い隠し、有能な若者を発掘しては『御子』と崇め奉って世界征服を行わせてたって言う、物騒な奴だったそうだ。
     その方面に詳しい学者やら何やらに問い合わせてみたら、アランがコイツである可能性は非常に高いんだそうだ。(まあ、本当かどうかは眉唾モノだけどな)
     もしアランが本当に『アル』って悪魔だとすると、相当手強い奴のはずだ。過去、克大火と戦ったことも何度かあるらしい。もっとも克と比べりゃ遥かに格下らしいが、それでも『悪魔』と呼ばれるだけはあって、並の奴が相手じゃすぐに殺されるだろうとも言っていた。

     アンタが並の剣士じゃないコトは十分分かってるが、それでも敵には回さない方がいい。真っ向から戦って、一回死にかけたんだろ?
     もしもう一度敵に回すつもりなら、真っ向から戦うよりも搦手(からめて)を考えた方がいいだろう」



    「……だってさ」
    「ふむ」
     朱海の手紙を読んだ晴奈は、かつてモールが言っていたことを思い出す。
    ――アランってのはね、正真正銘の悪魔なんだ――
    ――二天戦争の頃から、何度も何度も名前を変えて政治・戦争に干渉している――
    ――復活するのさ。何度殺しても、ね――
    (……モール殿の言っていた通りか。となると、確かに相手が悪すぎる)
     晴奈は思考をアランへの対策に切り替え、また悩み始めた。
    (日上を相手にする以上、奴と戦うのは必至。だが、どうすれば勝てるものか……。
     モール殿は奴のことを、鉄で身を固めた『鉄の悪魔』と呼んでいた。となると、生半可な刀では文字通り太刀打ちできぬだろう。
     少なくとも『大蛇』か、それ以上の刀がなければ……)
     晴奈はチラ、と壁にかけた刀――ちなみにこれは、楢崎の形見の刀である。殺刹峰でのフローラとの戦いの際、彼女が楢崎から奪ったものを奪い返し、そのまま使っていた――を見て、小さく首を振る。
    (いかに剣豪・楢崎殿の形見といえど、質は並の物。到底、アランには通らぬだろう。もう一度、ゴールドコーストの刀匠ミツオのところに行って、打ってもらうか?
     ……いや、その性能も甚だ怪しい。何しろフローラとの戦いで折れてしまったのだ。アランとの戦いは恐らく、それよりも苛烈なものになるだろう。とても、耐えてくれるとは……)
     と、悩む晴奈の視界の端に、まだ山盛りになっている手紙の中の、ある一通が映った。
     それを見た瞬間、晴奈に奇妙な直感が走った。
    (黒い封筒……、黒……、黒炎殿? そう言えば――刀を)
     晴奈は2年前の、大火との約束を思い出した。

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    2016.10.30 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    うちの作品で黒と言えば、大火のイメージカラーですからね。
    遺品扱いでしょうね。現時点では。

    今作、いや、現時点まで書いてきた双月シリーズ中、
    最高峰の武器が間もなく登場します。
    この作品も終盤ですから、そろそろ最強武器のお披露目です。

    NoTitle 

    ああ、ここタイカの話が絡んでくるんですね。
    なるほど。・・・遺品?の部類になるんでしょうかね。
    刀の最大の問題はその耐久性ですからね。少なくとも今回の類では技だけで乗り切れるものではなくなりますからね。
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