「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・帰郷録 5
晴奈の話、第475話。
真っ黒な手紙。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
――クク……、いいとも。剣豪、黄晴奈の代名詞になるような逸品を約束しよう――
2年前、518年のワルラス卿暗殺の直後。大火は確かに、晴奈へ刀を贈ると約束した。
(そう言えば、どうなった……?)
克大火は「契約の悪魔」とも呼ばれている。彼はどんなことがあろうと、一度交わした契約・約束を自分から破ることは無いからだ。
(とは言え黒炎殿は、日上との戦いで討たれたと聞いている。流石の悪魔も、死んでしまってはその約束を、果たせはしないのではないか……?)
晴奈は無意識に、手紙の山から覗いていた黒い封筒に手を伸ばしていた。
その手紙に差出人の名前は無く、消印も押されていなかった。だがそのことが逆に、これを出したのが誰なのか、晴奈に理解させた。
「刀が完成し、届けに向かったのだが、旅に出ていると伝え聞き、持ち帰った。
俺も現在何かと立て込んだ身なので、二度も足を運ぶ暇は無い。だから、お前の方から取りに来い。
同梱してある魔法陣を使い、納めてある場所に行け」
晴奈は震える手で、明奈に魔法陣の描かれた便箋を差し出す。
「頼めるか……?」
「え、ええ。……」
明奈は便箋を受け取り、呪文を唱え始める。が――。
「……ぜー、ぜー」
「ちょ、息切れって」
呪文があまりにも長く、明奈がばてた。見かねた小鈴が便箋を受け取り、眺めてみる。
「……ながっ」
「ぜー、これ、ぜー、一体どこ、ぜー、なんでしょうか?」
「普通のテレポートじゃないわね……。あたしも前にソレ系の魔法陣見たコトあったけど、相当ヘンテコなトコに飛ばす気ね、コレ。全部唱えようと思ったら、相当魔力がいるわよ。
そりゃ、明奈ちゃんもバテちゃうって」
「以前に黒炎殿と共に飛んだ際は、一瞬だったのだが」
「そりゃ、克だし。……あたしが手伝っても、まだ足りないわよ」
「……どうしたものか」
晴奈はチラ、とリストの長い耳を見る。
「無理無理、魔術分かんないし」
「うーむ」
「……ちと、いいかの?」
ジーナがそっと手を挙げる。
「わしもそれなりに魔術の心得はある。三人なら何とかなるか、と」
「でもジーナ、この呪文見える?」
「ちと、貸してくれ」
ジーナは小鈴から便箋を受け取ろうと、手を伸ばす。が、見当違いの方向に手が伸び、晴奈の体をつかむ。
「む?」
「それは私の肩だ」
「んふふ、はい、コレ……」
小鈴が苦笑しながら、晴奈につかまったままのジーナに便箋を渡した。
その瞬間――。
「……ん? 空気が……、変わった?」
「え……っ」
晴奈とジーナは、見たことの無い場所に飛ばされていた。
「どうしたんじゃ、セイナ?」
「ど、どこだ……、ここは?」
そこは霧の深い、どこかの湿原だった。背後には岩山がそびえ、容易に乗り越えることはできそうにない。
「せ、セイナ?」
ジーナが晴奈の服を強くつかみ、怯えた声を出す。
「一体、どうなったんじゃ?」
「どうも、あの魔法陣のせいらしい。どこか別の場所に飛ばされたようだ」
深い霧のせいで、足元もぼやけて見える。
晴奈はジーナの手をしっかりとつかみ、トントンと軽く肩を叩いた。
「視界はひどく悪い。ともかく、どこかに落ち着ける場所を探そう。しっかりつかまっていろ」
「う、うむ」
と――遠くの方から、どん……、どん……、と、鈍く重々しい音が響いてくる。
「……何だ?」
音は次第に近付いてくる。晴奈は危険を察知し、ジーナの手を引いて走り出す。
「ジーナ! 逃げるぞ!」
「えっ? えっ?」
突然飛び出した晴奈に引っ張られる形で、ジーナはヨタヨタと走り出した。
その直後――晴奈とジーナが立っていた場所に、地響きを立てて巨大な岩の塊が飛び込んできた。
「……侵入者……」
続いてもう一個、いや、もう一体、岩の塊が飛んでくる。
「……侵入者……形跡あり……」
さらにもう一体。
「……『F5』……防衛……」
「……侵入者……排除……」
岩の塊たちは、ゴトゴトと音を立ててその場を離れていった。
蒼天剣・帰郷録 終
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真っ黒な手紙。
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――クク……、いいとも。剣豪、黄晴奈の代名詞になるような逸品を約束しよう――
2年前、518年のワルラス卿暗殺の直後。大火は確かに、晴奈へ刀を贈ると約束した。
(そう言えば、どうなった……?)
克大火は「契約の悪魔」とも呼ばれている。彼はどんなことがあろうと、一度交わした契約・約束を自分から破ることは無いからだ。
(とは言え黒炎殿は、日上との戦いで討たれたと聞いている。流石の悪魔も、死んでしまってはその約束を、果たせはしないのではないか……?)
晴奈は無意識に、手紙の山から覗いていた黒い封筒に手を伸ばしていた。
その手紙に差出人の名前は無く、消印も押されていなかった。だがそのことが逆に、これを出したのが誰なのか、晴奈に理解させた。
「刀が完成し、届けに向かったのだが、旅に出ていると伝え聞き、持ち帰った。
俺も現在何かと立て込んだ身なので、二度も足を運ぶ暇は無い。だから、お前の方から取りに来い。
同梱してある魔法陣を使い、納めてある場所に行け」
晴奈は震える手で、明奈に魔法陣の描かれた便箋を差し出す。
「頼めるか……?」
「え、ええ。……」
明奈は便箋を受け取り、呪文を唱え始める。が――。
「……ぜー、ぜー」
「ちょ、息切れって」
呪文があまりにも長く、明奈がばてた。見かねた小鈴が便箋を受け取り、眺めてみる。
「……ながっ」
「ぜー、これ、ぜー、一体どこ、ぜー、なんでしょうか?」
「普通のテレポートじゃないわね……。あたしも前にソレ系の魔法陣見たコトあったけど、相当ヘンテコなトコに飛ばす気ね、コレ。全部唱えようと思ったら、相当魔力がいるわよ。
そりゃ、明奈ちゃんもバテちゃうって」
「以前に黒炎殿と共に飛んだ際は、一瞬だったのだが」
「そりゃ、克だし。……あたしが手伝っても、まだ足りないわよ」
「……どうしたものか」
晴奈はチラ、とリストの長い耳を見る。
「無理無理、魔術分かんないし」
「うーむ」
「……ちと、いいかの?」
ジーナがそっと手を挙げる。
「わしもそれなりに魔術の心得はある。三人なら何とかなるか、と」
「でもジーナ、この呪文見える?」
「ちと、貸してくれ」
ジーナは小鈴から便箋を受け取ろうと、手を伸ばす。が、見当違いの方向に手が伸び、晴奈の体をつかむ。
「む?」
「それは私の肩だ」
「んふふ、はい、コレ……」
小鈴が苦笑しながら、晴奈につかまったままのジーナに便箋を渡した。
その瞬間――。
「……ん? 空気が……、変わった?」
「え……っ」
晴奈とジーナは、見たことの無い場所に飛ばされていた。
「どうしたんじゃ、セイナ?」
「ど、どこだ……、ここは?」
そこは霧の深い、どこかの湿原だった。背後には岩山がそびえ、容易に乗り越えることはできそうにない。
「せ、セイナ?」
ジーナが晴奈の服を強くつかみ、怯えた声を出す。
「一体、どうなったんじゃ?」
「どうも、あの魔法陣のせいらしい。どこか別の場所に飛ばされたようだ」
深い霧のせいで、足元もぼやけて見える。
晴奈はジーナの手をしっかりとつかみ、トントンと軽く肩を叩いた。
「視界はひどく悪い。ともかく、どこかに落ち着ける場所を探そう。しっかりつかまっていろ」
「う、うむ」
と――遠くの方から、どん……、どん……、と、鈍く重々しい音が響いてくる。
「……何だ?」
音は次第に近付いてくる。晴奈は危険を察知し、ジーナの手を引いて走り出す。
「ジーナ! 逃げるぞ!」
「えっ? えっ?」
突然飛び出した晴奈に引っ張られる形で、ジーナはヨタヨタと走り出した。
その直後――晴奈とジーナが立っていた場所に、地響きを立てて巨大な岩の塊が飛び込んできた。
「……侵入者……」
続いてもう一個、いや、もう一体、岩の塊が飛んでくる。
「……侵入者……形跡あり……」
さらにもう一体。
「……『F5』……防衛……」
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~ Comment ~
NoTitle
お、この辺は王道ですね。素晴らしいです。
私じゃ書けない発想なので、
そういえば、某少年誌のマンガを最近読んでないですね。。。
今読むと、また違った面白い味を感じるんでしょうね。
私じゃ書けない発想なので、
そういえば、某少年誌のマンガを最近読んでないですね。。。
今読むと、また違った面白い味を感じるんでしょうね。
- #1776 LandM
- URL
- 2013.10/21 06:23
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NoTitle
「まさに王道」と言っていただけると、非常に嬉しく思います。
自分も某少年誌、いずれもここ数年読んでませんね。
以前に一度目を通したことがありましたが、
「笑いのツボがなんか違う……」と落胆してしまった記憶があります。
僕が大人になったのか、雑誌の質が落ちたのか……。