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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・蒼天録 2

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    晴奈の話、第477話。
    盲目の大魔法使い。

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    2.
     四方八方から、ゴトゴトと重たげな音が響いてくる。
    「まずい、囲まれる……!」
     ジーナを背負って走る晴奈は、ゴーレムたちとの遭遇を回避しようと試みる。だが、辺りは深い霧に閉ざされ、どこから来るのかも分からない。
    「右じゃ、右から来る!」
     しかし盲目のためか、ジーナは耳でゴーレムたちを感知できる。背負ったジーナの助言を受け、晴奈は左に方向転換した。
    「今度はまっすぐ来ておる!」
    「分かった!」
     晴奈は右足に力を入れ、もう一度左に方向転換する。
    「……まずい」
    「え?」
    「前からも来ておる。囲まれた……!」
    「くっ……」
     ジーナの言う通り、前方からゴトゴトと音が響いてくる。背後からも、先程撒いたゴーレムが近付いてくる音が聞こえてきた。
    「くそ……!」
    「……セイナ、しゃがんで耳をふさいでおれ!」
    「え?」
     ジーナの言葉に戸惑ったが、晴奈は言われた通りにする。
    「効けばよいが……、『サンダースピア』!」
     晴奈の頭上を、きな臭い何かが青白い尾を引いて飛んでいった。
     次の瞬間、前方にいたと思われるゴーレムから、ガラガラと言う音が響いてきた。
    「グ……ゴア……ッ」
    「……効く、ようじゃの。……セイナ、ここはわしに任せるが良い!」
     ジーナは晴奈の背から降り、呪文を唱え始めた。
    「ジーナ、大丈夫か?」
    「任せておれ! 魔術の腕には覚えがある!」
     ジーナは周囲のゴーレムに向け、雷の槍を発射し始めた。
    「撃ち抜けーッ!」
     ばぢ、ばぢっと言う鋭く甲高い音がゴーレムを次々と貫き、ただの岩へと変えていく。
    「侵入者……武器を所持……電撃……魔術の模様……」
    「防衛強化……パターンB……増員……」
    「増員……増員……」
     だが、ゴーレムの数は段々多くなってくる。
    「増員……増員……」
    「増員……増員……」
    「増員……増員……」
     最初の一体が発したのと同じ鈍い警笛の音が、あちこちから届く。
    「ジーナ、このままここにいては、いずれ奴らに押し潰される! 突破口を開き、そこから全力で逃げるぞ!」
    「分かった!」
     ジーナは構えを変え、雷の槍の時よりも長い呪文を唱え始めた。その間にもゴーレムたちは警笛を鳴らしながら、じりじりと近付いてくる。
    「ま、まだか……!?」
    「もう少しじゃ、もう少し……!」
     やがて、深い霧の中でもはっきりと見えるくらいの位置までゴーレムが近付き、壁のように並んで晴奈たちを囲み始めた。
    「く……っ」
    「よし、間に合うた! 食らえ……!」
     ジーナは地面に向け、両手をかざした。
    「『アーススパーク』!」
     ジーナの足元からゴーレムたちに向かって、青白い光が地面を走る。その光はバリバリと音を立てて地面を突き進んでいく。
     そして光がゴーレムたちの足元に届いた瞬間、地面が横一線に割れる。
    「ゴ……」
     ほのかに紫じみた稲妻が、地の割れ目から一斉に噴き出し、空へと向かって飛んでいく。
     その光景はまるで、滝が下から上に遡ったかのようだった。
    「ガアア……ッ」
     その莫大な量の電流をまともに食らったゴーレムたちは、一斉に崩れていった。
    「……ふ、う」
     ジーナは深いため息をつき、その場にへたり込んだ。晴奈は目の前の光景に驚き、声も出せないでいる。
     だが、平静を取り戻し始めた晴奈の耳には、依然ゴトゴトと言う音が入ってくる。
    「……っ、ジーナ! グズグズしてはいられぬ、早く逃げるぞ!」
    「す、すまん。また、背負うてくれんか?」
    「分かった!」
     ぐったりとしたジーナを背負い、晴奈はその場から逃げ去った。



     どうにかゴーレムたちを撒き、晴奈とジーナは岩陰に座り込んだ。
    「ハァ、ハァ……」
    「ひとまず、安心と言うところか」
     晴奈はそうつぶやいたが、落ち着いて考えてみれば状況が好転したわけではない。
     依然濃い霧の中に閉ざされたままであるし、耳を澄ませばゴーレムたちの足音が、あちこちから聞こえてくるのだ。
    「何故、このような場所に……」
    「恐らくは、わしのせいかも知れんの」
    「何?」
     ジーナは晴奈の道着の裾をぎゅっと握り締め、顔を伏せて謝ってきた。
    「すまぬ……。わしが不用意に、あの魔法陣に触ったりせねば」
    「どう言うことだ?」
    「あの魔法陣、恐らくは呪文を唱えて魔力を蓄積するか、強力な魔力源に触れれば発動するものなのじゃろう。わしが、その魔力源になってしまったんじゃ」
    「意味が……」
     言いかけて、晴奈は先程のジーナの戦いぶりを思い出す。
    (……なるほど。魔力は確かに、有り余っているようだった。と言うことは……)
     晴奈は小さく咳払いし、ジーナに確認する。
    「コホン。その……、豊富に魔力を持つジーナがあの魔法陣に触れたことで、魔術が発動してしまったと、そう言うことなのか?」
    「恐らくは、そうじゃろうな」
    「……戻ることはできるのか?」
    「……」
     三角座りしていたジーナは膝に顔をうずめ、「……できん」とつぶやいた。
    「ここに、あれと同じ魔法陣があれば別じゃが」
    「恐らくは、あるだろう。何しろ黒炎殿が、『ここに行って取って来い』と言ったのだからな。戻る手段を用意しないと言うことはあるまい」
    「分からんぞ……。あの男、妙なところで意地が悪いからの」
    「うん?」
     晴奈はジーナの言い回しに違和感を感じ、尋ねてみた。
    「ジーナ? お主、黒炎殿に会ったことがあるのか?」
    「う? ……あ、いや。無い。無いぞ」
    「会ったことがあるような口ぶりだったが……」
    「無い」
    「本当にか?」
     ジーナは膝にうずめていた顔を上げ、プルプルと首を振った。
    「無いっ。本当の本当に、無いっ!」
    「……そうか」
     微妙な空気になったので、晴奈はそれ以上聞かずに置いた。

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    2016.10.30 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    厳重警備にはとある理由があります。
    それはまた、後ほど。

    「双月千年世界」の別の作品、「火紅狐」にて、
    この世界におけるゴーレムについての説明を記載しています。
    機会があればそちらも、お読みください。

    NoTitle 

    う~~む、ゴーレムがそこまで配属されているとなるとそこまでの価値があるということになりますね。
    ゴーレムの場合は、電流がつながりやすそうで効果的ですね。敵とその魔法の相性を考えるのもファンタジーの醍醐味ですね。
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