「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・蒼天録 3
晴奈の話、第478話。
不気味な道化師。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「……ん?」
「何じゃ……?」
前方からヒタヒタと足音が近付いてくるのに、晴奈たちは気付いた。
「また、あの岩の塊か……?」
「いや、それにしては音が小さすぎる。……人のようじゃ」
ジーナの言う通り、晴奈たちに近付いてきたのは人間のようだった。
「クスクスクスクス」
「……?」
声からして、どうやら女性であるらしい。
やがて霧の向こうから、白いフードで顔を隠した、古風な魔術師風の女が歩いてきた。
「どうされたのです、こんなところで」
「人間、……か?」
「答えていただけませんか」
女は芝居じみた仕草で、悲しそうな素振りを見せる。
「ああ残念。折角お話ができるかしら、と思いましたのに」
「あ、失敬。……その、質問に答える前に、こちらからも尋ねていいか?」
「どうぞ」
女はまた、大仰な手振りで承諾の意を示す。
「ここはどこだ?」
「『システムF5』、と言ってもさっぱりでしょう。あえて名前を付けるなら、『麒麟の山』とでも申しましょうか」
「きりん、の山?」
ジーナはきょとんとした顔になる。
「きりんと言うのは、あの黄色い、首の長い動物の?」
「いえいえ、違います」
女は依然、大仰に返答する。
「央南の古い伝承にあり。世に起こる吉兆、凶兆を賢人や勇将、名君に知らしめる瑞獣の一。
この霧深き霊山には、麒麟様が深い深い眠りに就かれているのでございます」
「は、あ……」
女の芝居がかった話し方と身振り手振りに、二人は呆気に取られている。
「それであなた方は、どこからこの山にいらしたのでしょう」
「黒炎殿、……克大火から、手紙を受けて」
それを聞いた女は、またも大仰に驚く仕草を見せた。
「おお、あの名高き剣鬼、悪魔、奸雄たる克大火様から直々のご招待とは恐れ入りました。
とは言っても、あのお方から招待でもされなければ、このような場所にはおいそれとは参れないでしょうけれども」
「(馬鹿にしているのか、敬っているのか……)それでお主、名前は何と?」
「わたくしですか」
女はくるりと一回転し、大仰に自己紹介した。
「わたくし、以前に名前をいただいたことがございますが、理由あって捨ててしまいました。今のわたくしには、なんにも名前はございません。
どうぞ、あなた様方のお好きなようにお呼びくださいませ」
「……」
晴奈は無言でジーナの方に目をやる。ジーナも無言で、短く首を振って返した。
「……では瑞獣つながりと言うことで、白虎とでも」
「承知いたしました」
そう言うなり、女はフードを下げた。
その頭には白と薄い灰の縞が伸びた、丸っこい虎耳が付いていた。
「それではご案内しましょう、黄晴奈様」
名前を呼ばれ、晴奈は面食らう。
「私の名を?」
「ええ。存じておりますよ」
白虎はにっこり笑い、深々と頭を下げた。
「お通しするように言われておりました。あなたのために打った刀を、お渡しするようにと」
白虎の案内で、晴奈とジーナは霧の中を歩いていた。
時折、先程のゴーレムと出くわしたが、白虎がゴーレムの出す赤い光に手をかざす度、「……データ確認……」とつぶやいてどこかに行ってしまう。
「助かったのう、本当に」
「そう言っていただけると、クスクスクスクス」
白虎はわざとらしく、虎耳といつの間にか出した縞模様の尻尾をピコピコ揺らす。
10分も歩いたところで、晴奈たちは小さな祠の前で立ち止まった。
「さて、到着でございます。この中に、刀やら何やらが仕舞われております」
「何やら、とは?」
ジーナが尋ねるが、白虎は反応しない。
「さて、晴奈様。実は謝罪したいことがございます」
「謝罪?」
唐突な発言に、晴奈は首をかしげた。
「はい。実を申しますと、克大火から刀を渡す役を命じられた、と言うのは真っ赤な嘘でございます」
「は……?」
「続いて申しますと、あの岩の塊、ゴーレムをばら撒いたのはわたくしでございます。
克大火は自分の所有地にこのような、奇妙奇天烈な護衛が付けられていることなど、まったく存じないでしょう」
「何だと? では私たちを襲ったのは、つまり……」
「さらに忌憚(きたん)無く申しますれば」
白虎はにっこりと笑い、どこからか刀を二振り取り出した。
「わたくしはあなたに『蒼天剣』を扱う資格があるのか、甚だ疑問なのでございます。
そこでわたくしの方で、その資格がおありかどうか、試させていただこうかと」
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不気味な道化師。
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「……ん?」
「何じゃ……?」
前方からヒタヒタと足音が近付いてくるのに、晴奈たちは気付いた。
「また、あの岩の塊か……?」
「いや、それにしては音が小さすぎる。……人のようじゃ」
ジーナの言う通り、晴奈たちに近付いてきたのは人間のようだった。
「クスクスクスクス」
「……?」
声からして、どうやら女性であるらしい。
やがて霧の向こうから、白いフードで顔を隠した、古風な魔術師風の女が歩いてきた。
「どうされたのです、こんなところで」
「人間、……か?」
「答えていただけませんか」
女は芝居じみた仕草で、悲しそうな素振りを見せる。
「ああ残念。折角お話ができるかしら、と思いましたのに」
「あ、失敬。……その、質問に答える前に、こちらからも尋ねていいか?」
「どうぞ」
女はまた、大仰な手振りで承諾の意を示す。
「ここはどこだ?」
「『システムF5』、と言ってもさっぱりでしょう。あえて名前を付けるなら、『麒麟の山』とでも申しましょうか」
「きりん、の山?」
ジーナはきょとんとした顔になる。
「きりんと言うのは、あの黄色い、首の長い動物の?」
「いえいえ、違います」
女は依然、大仰に返答する。
「央南の古い伝承にあり。世に起こる吉兆、凶兆を賢人や勇将、名君に知らしめる瑞獣の一。
この霧深き霊山には、麒麟様が深い深い眠りに就かれているのでございます」
「は、あ……」
女の芝居がかった話し方と身振り手振りに、二人は呆気に取られている。
「それであなた方は、どこからこの山にいらしたのでしょう」
「黒炎殿、……克大火から、手紙を受けて」
それを聞いた女は、またも大仰に驚く仕草を見せた。
「おお、あの名高き剣鬼、悪魔、奸雄たる克大火様から直々のご招待とは恐れ入りました。
とは言っても、あのお方から招待でもされなければ、このような場所にはおいそれとは参れないでしょうけれども」
「(馬鹿にしているのか、敬っているのか……)それでお主、名前は何と?」
「わたくしですか」
女はくるりと一回転し、大仰に自己紹介した。
「わたくし、以前に名前をいただいたことがございますが、理由あって捨ててしまいました。今のわたくしには、なんにも名前はございません。
どうぞ、あなた様方のお好きなようにお呼びくださいませ」
「……」
晴奈は無言でジーナの方に目をやる。ジーナも無言で、短く首を振って返した。
「……では瑞獣つながりと言うことで、白虎とでも」
「承知いたしました」
そう言うなり、女はフードを下げた。
その頭には白と薄い灰の縞が伸びた、丸っこい虎耳が付いていた。
「それではご案内しましょう、黄晴奈様」
名前を呼ばれ、晴奈は面食らう。
「私の名を?」
「ええ。存じておりますよ」
白虎はにっこり笑い、深々と頭を下げた。
「お通しするように言われておりました。あなたのために打った刀を、お渡しするようにと」
白虎の案内で、晴奈とジーナは霧の中を歩いていた。
時折、先程のゴーレムと出くわしたが、白虎がゴーレムの出す赤い光に手をかざす度、「……データ確認……」とつぶやいてどこかに行ってしまう。
「助かったのう、本当に」
「そう言っていただけると、クスクスクスクス」
白虎はわざとらしく、虎耳といつの間にか出した縞模様の尻尾をピコピコ揺らす。
10分も歩いたところで、晴奈たちは小さな祠の前で立ち止まった。
「さて、到着でございます。この中に、刀やら何やらが仕舞われております」
「何やら、とは?」
ジーナが尋ねるが、白虎は反応しない。
「さて、晴奈様。実は謝罪したいことがございます」
「謝罪?」
唐突な発言に、晴奈は首をかしげた。
「はい。実を申しますと、克大火から刀を渡す役を命じられた、と言うのは真っ赤な嘘でございます」
「は……?」
「続いて申しますと、あの岩の塊、ゴーレムをばら撒いたのはわたくしでございます。
克大火は自分の所有地にこのような、奇妙奇天烈な護衛が付けられていることなど、まったく存じないでしょう」
「何だと? では私たちを襲ったのは、つまり……」
「さらに忌憚(きたん)無く申しますれば」
白虎はにっこりと笑い、どこからか刀を二振り取り出した。
「わたくしはあなたに『蒼天剣』を扱う資格があるのか、甚だ疑問なのでございます。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
そういえば、ゴーレムに人形師はつきものですね。
マリオネットではないですが、師事は必要ですからね。
今回からタイトルが出てきましたね。
楽しみです。
マリオネットではないですが、師事は必要ですからね。
今回からタイトルが出てきましたね。
楽しみです。
- #1793 LandM
- URL
- 2013.11/05 20:05
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NoTitle
「蒼天録」は剣豪・晴奈の、「完成」となる話です。
長かったこの話も、ようやく終わりが見えてきます。