「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・蒼天録 4
晴奈の話、第479話。
魔剣の想起;懐かしき太刀筋。
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4.
「『蒼天剣』?」
晴奈が聞き返すと、白虎は握っていた刀を一振り差し出した。
「はい。克大火があなたのためだけに打った、紛れも無い神器でございます。
名を『晴空刀 蒼天』、またの名を『蒼天剣』と申します。素晴らしい刀ですよ。手にすれば必ずや、世界の頂点に立つ剣士になれましょう。
ですが」
晴奈に刀を渡したところで、白虎は刀を佩いた。
「あなたのために打ったとは言え、真(まこと)の神器が凡人の手に渡れば、決して良い結果とはなりません。
ましてや、悪人・俗人の手に渡りでもすれば、必ずや世界に災禍が訪れましょう。
真の神器は、真に聖人・偉人たる者の手に渡らねばなりません。
黄晴奈様、あなたは」
白虎は刀を抜き払い、晴奈に向けて構える。
「己が聖人君子、もしくは傑物、あるいは英雄であると、胸を張って仰ることができますか」
「それを、刀の腕を以って、お主を相手に証明する、と言うことか?」
晴奈も刀を佩き、白虎に向けて構えた。
「その通りでございます」
晴奈と白虎は刀を構えたまま、微動だにしない。危険を避けるため、ジーナは離れて様子を伺っている。
「……」
見えてはいないが、ジーナには二人の放つ猛烈な気迫が、ビリビリと伝わってくる。
(こんなにも、……セイナが『熱く』感じる。普段の五月晴れのようなからっとした雰囲気が、まるで灼熱の真夏日のようじゃ。
じゃが――白虎とやらも相当の腕前のようじゃ。こちらも形容しがたい、何とも言いがたい不気味さを秘めておる)
刀を構えた白虎は依然、ニコニコと笑っている。その笑顔自体や、素人丸出しの構え方には威圧感はまったく感じられず、平時ならばそこいらの町娘が戯れに棒切れを持ち、チャンバラめかして遊んでいるようにしか見えなかっただろう。
だが霧深い山の中で、何十ものゴーレムたちに囲まれたこの状況下では、その軽薄感が却って不気味に感じられる。
「……はッ!」
先に動いたのは、晴奈だった。間合いを一気に詰め、白虎に斬りかかる。
「クスクスクスクス」
白虎は小さく笑い、ぽつりとこう言った。
「まずは『魔剣』で攻めてみましょうか」
「……?」
白虎はすっと、構え方を変える。そして晴奈の刀が届く直前、目にも止まらぬ速さで斬り返して来た。
「……っと!」
晴奈も瞬時に対応し、その太刀を受ける。が――。
「……!」
受けたと思った太刀が、晴奈の肩に浅く食い込んでいた。あまりにも反撃が早く、晴奈の受けは完全に後れを取っていた。
「く、う……っ」
「まずは、一本。さあ晴奈様、まだまだ試験はこれからでございます」
白虎はすっと身を引き、構え直す。その構え方は先程までの素人同然のそれではなく、まるで十数年修行したような貫禄が漂っていた。
そしてその構えに、晴奈は既視感を覚えた。
「……? その構え、どこかで……?」
「クスクスクスクス」
白虎は答えず、ニコニコと笑っている。
「……だああッ!」
もう一度、晴奈は白虎に斬り込む。だが、これも白虎にひょいとかわされ、瞬時に切り返される。
「……ッ」
今度はギリギリでかわしたが、それでも晴奈の道着は、ざっくりと袖を裂かれてしまった。
(恐るべき切り返しの速さだ……。この反撃の素早さ、まるで、……!)
晴奈は先程の既視感の正体に気付く。
「……『魔剣』、か」
「その通りでございます」
白虎の構え方は、かつて晴奈が死闘の末に討ち果たした「魔剣」――篠原龍明のものとそっくりだったのだ。
白虎は篠原の構えを解き、芝居じみた口調で説明し始めた。
「わたくし、実を申しますれば刀は得手ではございません。
と言うよりも、戦うこと自体がそれほど身に付いておりません。ですから『わたくし自身の力』で戦うのには、ほとほと難儀してしまうのです。
そこで少しばかり、古の剣豪様方のお力を拝借させていただきました」
「力を、拝借? ふむ……」
晴奈はその言葉の意味が完全には理解できなかったが、それでも直感的に何を言っているのかは悟っていた。
(古の剣豪――つまり死んだ剣士たちの技を、彼奴は使えると言うことか。これはまた……、難敵と言える)
晴奈も構えを、普段の攻防両面に対応できる正眼から、攻撃重視の上段へと変える。
(エルスと霙子に聞いた話では、篠原の強さの正体は比類なき反撃の速さにあるとのことだった。であれば……)
上段に構えたまま、晴奈はじわじわと間合いを詰めていく。白虎ももう一度篠原の構えを見せ、迎撃体勢に入る。
「……たーッ!」
二、三歩分ほど進んだところで晴奈は一気に間合いを詰め、白虎に三度斬りかかる。先程と同様、白虎はそれを見切って反撃に出ようとした。
だが、晴奈の刀は白虎の鼻先で、くん、と飛び跳ね、同時に晴奈の体全体も一歩分、後ろに下がる。
「あ」
白虎の刀は、一瞬前まで晴奈の左二の腕があった場所を空振りした。
「それッ!」
もう一度、晴奈は踏み込む。
「……一本、でございます」
白虎の首筋にぴたりと、晴奈の刀が当てられていた。
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魔剣の想起;懐かしき太刀筋。
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「『蒼天剣』?」
晴奈が聞き返すと、白虎は握っていた刀を一振り差し出した。
「はい。克大火があなたのためだけに打った、紛れも無い神器でございます。
名を『晴空刀 蒼天』、またの名を『蒼天剣』と申します。素晴らしい刀ですよ。手にすれば必ずや、世界の頂点に立つ剣士になれましょう。
ですが」
晴奈に刀を渡したところで、白虎は刀を佩いた。
「あなたのために打ったとは言え、真(まこと)の神器が凡人の手に渡れば、決して良い結果とはなりません。
ましてや、悪人・俗人の手に渡りでもすれば、必ずや世界に災禍が訪れましょう。
真の神器は、真に聖人・偉人たる者の手に渡らねばなりません。
黄晴奈様、あなたは」
白虎は刀を抜き払い、晴奈に向けて構える。
「己が聖人君子、もしくは傑物、あるいは英雄であると、胸を張って仰ることができますか」
「それを、刀の腕を以って、お主を相手に証明する、と言うことか?」
晴奈も刀を佩き、白虎に向けて構えた。
「その通りでございます」
晴奈と白虎は刀を構えたまま、微動だにしない。危険を避けるため、ジーナは離れて様子を伺っている。
「……」
見えてはいないが、ジーナには二人の放つ猛烈な気迫が、ビリビリと伝わってくる。
(こんなにも、……セイナが『熱く』感じる。普段の五月晴れのようなからっとした雰囲気が、まるで灼熱の真夏日のようじゃ。
じゃが――白虎とやらも相当の腕前のようじゃ。こちらも形容しがたい、何とも言いがたい不気味さを秘めておる)
刀を構えた白虎は依然、ニコニコと笑っている。その笑顔自体や、素人丸出しの構え方には威圧感はまったく感じられず、平時ならばそこいらの町娘が戯れに棒切れを持ち、チャンバラめかして遊んでいるようにしか見えなかっただろう。
だが霧深い山の中で、何十ものゴーレムたちに囲まれたこの状況下では、その軽薄感が却って不気味に感じられる。
「……はッ!」
先に動いたのは、晴奈だった。間合いを一気に詰め、白虎に斬りかかる。
「クスクスクスクス」
白虎は小さく笑い、ぽつりとこう言った。
「まずは『魔剣』で攻めてみましょうか」
「……?」
白虎はすっと、構え方を変える。そして晴奈の刀が届く直前、目にも止まらぬ速さで斬り返して来た。
「……っと!」
晴奈も瞬時に対応し、その太刀を受ける。が――。
「……!」
受けたと思った太刀が、晴奈の肩に浅く食い込んでいた。あまりにも反撃が早く、晴奈の受けは完全に後れを取っていた。
「く、う……っ」
「まずは、一本。さあ晴奈様、まだまだ試験はこれからでございます」
白虎はすっと身を引き、構え直す。その構え方は先程までの素人同然のそれではなく、まるで十数年修行したような貫禄が漂っていた。
そしてその構えに、晴奈は既視感を覚えた。
「……? その構え、どこかで……?」
「クスクスクスクス」
白虎は答えず、ニコニコと笑っている。
「……だああッ!」
もう一度、晴奈は白虎に斬り込む。だが、これも白虎にひょいとかわされ、瞬時に切り返される。
「……ッ」
今度はギリギリでかわしたが、それでも晴奈の道着は、ざっくりと袖を裂かれてしまった。
(恐るべき切り返しの速さだ……。この反撃の素早さ、まるで、……!)
晴奈は先程の既視感の正体に気付く。
「……『魔剣』、か」
「その通りでございます」
白虎の構え方は、かつて晴奈が死闘の末に討ち果たした「魔剣」――篠原龍明のものとそっくりだったのだ。
白虎は篠原の構えを解き、芝居じみた口調で説明し始めた。
「わたくし、実を申しますれば刀は得手ではございません。
と言うよりも、戦うこと自体がそれほど身に付いておりません。ですから『わたくし自身の力』で戦うのには、ほとほと難儀してしまうのです。
そこで少しばかり、古の剣豪様方のお力を拝借させていただきました」
「力を、拝借? ふむ……」
晴奈はその言葉の意味が完全には理解できなかったが、それでも直感的に何を言っているのかは悟っていた。
(古の剣豪――つまり死んだ剣士たちの技を、彼奴は使えると言うことか。これはまた……、難敵と言える)
晴奈も構えを、普段の攻防両面に対応できる正眼から、攻撃重視の上段へと変える。
(エルスと霙子に聞いた話では、篠原の強さの正体は比類なき反撃の速さにあるとのことだった。であれば……)
上段に構えたまま、晴奈はじわじわと間合いを詰めていく。白虎ももう一度篠原の構えを見せ、迎撃体勢に入る。
「……たーッ!」
二、三歩分ほど進んだところで晴奈は一気に間合いを詰め、白虎に三度斬りかかる。先程と同様、白虎はそれを見切って反撃に出ようとした。
だが、晴奈の刀は白虎の鼻先で、くん、と飛び跳ね、同時に晴奈の体全体も一歩分、後ろに下がる。
「あ」
白虎の刀は、一瞬前まで晴奈の左二の腕があった場所を空振りした。
「それッ!」
もう一度、晴奈は踏み込む。
「……一本、でございます」
白虎の首筋にぴたりと、晴奈の刀が当てられていた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
全ての装備には資格がいる・・・。ということですね。
そういうのがはっきりしていると地球も良いのですけどね。
あまり世の中そういうわけではなくて。
私もグッゲンハイムの世界は、強い装備はそれ相応の相性と強さがないと装備できない設定にしていますね。。。。
そういうところは共感できます。
そういうのがはっきりしていると地球も良いのですけどね。
あまり世の中そういうわけではなくて。
私もグッゲンハイムの世界は、強い装備はそれ相応の相性と強さがないと装備できない設定にしていますね。。。。
そういうところは共感できます。
- #1796 LandM
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- 2013.11/09 19:35
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それが成されていないことは、確かに多いと感じます。