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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・蒼天録 6

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    晴奈の話、第481話。
    剛剣の想起;無理を通す。

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    6.
     白虎の構えを見て、晴奈の目は思わず潤んだ。
    (楢崎殿……!)
     白虎のそれは、悲運の剣豪・楢崎瞬二の剛胆な構え、そのものだった。
    「先のお二人方は『技』をお借りいたしましたが、『剛剣』は読んで字の如く剛の剣、怪力の剣でございます。
     一切の小細工・小技を排した、どこどこまでも一本気な戦い方――実を申しますれば、わたくし、あなたに最も足りないものは、これでは無いだろうかと考えております」
    「と言うと……?」
    「往々にしまして勝負と言うものは、あらゆる手練手管を用いて行うものでございます。ですが、そればかりではいずれ手詰まりになることもしばしば。
     やはり一直線に、一気呵成に敵陣を突っ切る剛直さ、剛胆さが肝要でございましょう」
     白虎から、ビリビリと気迫が伝わってくる。
    「晴奈様。あなたにははっきり言って、『力』が足りません」
    「それは……」
     仕方ないだろう、と言いかけて、晴奈は口をつぐんだ。
    「ええ、ええ。猫獣人でございますから。女でございますから。力が付かない理由は何でもご用意できますでしょう。
     ですが神器を手にする人間に、戦いで最も使うことになる、純然たる力が無いと言うのはまことに滑稽。そんな人間が手にしては、神器に振り回されるのは目に見えております。
     もう一度言います。あなたに、何よりも必要なのは」
     白虎は駆け出し、晴奈との間合いを一気に詰める。
    「この一太刀を受け切れるだけの、力」
    「……~ッ!」
     晴奈は避けることもせず、流すこともせず、真正面からの打ち下ろしに、真正面から向き合った。

    「セイナ!」
     ゴイン、と言う鈍い音の直後、どさ、と言う音がジーナの耳に伝わった。それはどうやら、人間がゴロゴロと転がっていった音らしい。
    「大丈夫か、セイナ!?」
    「……だい、じょうぶ、だ」
     晴奈の返事が聞こえる。だが、その声はひどく弱々しい。
    「クスクスクスクス」
     白虎の笑い声がする。
    「まあ、及第点をお付けいたしましょう。腕を折ってまで、『剛剣』に正面から向き合ったその根性、評価に値します。
     それに少し、見誤った点がございましたね。あなたは」
     白虎は刀を地面に突き刺し、うずくまる晴奈に近付いていく。
    「あなたは、思った以上に『無茶のできる』人ですね。凡人なら、今の攻撃に怯えて避けるなり何なりされるでしょうが、あなたはそうされなかった。わたくしの言葉を真摯に受け止め、十二分にそれにお応えくださいました。
     さ、回復して差し上げましょう。お手をどうぞ」
     そう言って白虎は、晴奈に手を差し伸べた。
     だが、晴奈は応じようとしない。フラフラと立ち上がり、刀を構えた。
    「……講釈はそれで終わりか」
    「……え」
    「もう一度だ。もう一度、今のを放て」
     白虎の笑みが凍りつく。
    「何を……、仰っていらっしゃるのです」
    「聞こえぬのか、そのハリボテの耳は?
     もう一度、『剛剣』の一撃を私に放てと、そう言ったのだ」
     晴奈の言葉に、今まで飄々と振舞っていた白虎も流石に面食らったらしい。
    「え、えっ、と……」
    「早くしろ……っ」
     晴奈の目はギラギラと、攻撃的に光っている。
    「な、……何故です。もう、試験は……」「お前の勝手で試験を受けさせられて、はい合格だ、はい落第だ、などと、いいように弄ばれてたまるか! 私の納得が行くまで、続けろ!」
    「……承知いたしました。どうなっても、知りませんよ」
     白虎は無表情になり、すたすたと刀のところまで戻った。
    「では、今一度『剛剣』を」
     白虎はもう一度上段に構え、ふたたび晴奈を見据えた。
    「来い、白虎……ッ」
     晴奈は折れた腕を無理矢理に挙げ、同じく上段に構える。
    「参ります」
     白虎は先程と同様、一気に間合いを詰めて晴奈に斬りかかった。
    「おお、……おお、りゃああああーッ!」
     刀が晴奈に届くかと言うその刹那、晴奈も斬りかかった。

     ジーナの耳に、先程と同じような人の転がる音が、今度は2つ聞こえた。
    「もう一度、謝らなければなりませんね」
     少し間を置いて、白虎の声が聞こえてきた。
    「晴奈様、あなたを二度も量り違えるとは。わたくしとしたことが」
     晴奈の声は無い。
    「まさかそこまで無茶をされる方とは、思いもよりませんでした。やはりわたくしには、戦いは向いていないようでございますね」
     白虎の足音が聞こえてくる。だが、先程の聞こえるか聞こえないかの、ヒタヒタと言うものではなく、ずるずると引きずり気味の音を立てている。
    「腕を犠牲にしてまで、立ち向かわれるとは。正直な話、理解に苦しみます」
     ジーナの目にはうっすらとしか見えなかったが、それでも白虎が刀より太い、棒のようなものを握っているのは確認できた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    自分もそうですが、晴奈も強制されるのが嫌いなタイプ。
    そんな彼女がこんな「試験」を受けさせられては、
    相当イライラしたことだろうと思います。

    じっくり読んでいただけて、ありがたい限りです。
    もうすぐ「蒼天剣」も終わりが見えてくる頃です。
    最後までお付き合いいただければ幸いです。

    NoTitle 

    確かに。この辺はごもっとなご意見で。修練というのは他人にやらされるものではなくて、自分の満足する領域までするものですね。

    読むのが遅れて申し訳ございません。
    パソコンが壊れた関係で、どこまで読んだのか今まで探しておりました。

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