「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・蒼天録 7
晴奈の話、第482話。
晴奈と「蒼天剣」の邂逅。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
対決から30分後、晴奈は目を覚ました。
「う……ん」
「お目覚めになられましたか」
うっすらと目を開けると、白虎のニコニコとした顔が映った。
「あ、れ……?」
「試験は合格でございます。今度は及第点などとお茶を濁さず、満点にしておきましょう」
「……ふん」
晴奈は立ち上がろうとしたところで、左腕に違和感を覚える。
「いた……っ」
何故か、左腕の袖が無い。そしてその千切れた部分が、真っ赤に染まっている。
「あまり動かされない方が賢明かと。何しろ、このようになっておりましたから」
そう言って、白虎は自分が使っていた刀を見せる。刀はねじ切れ、真っ二つになっていた。
「……そうか」
「それにしても、晴奈様。あなたは不思議な方ですね」
「え?」
「激昂すると、異様に強くなる。
実を申しますとあの二太刀目、恥ずかしながらわたくしも若干腹に据えかねておりましたので、少しばかり魔術で手を加えていたのです。一太刀目の、倍くらいの力が加わるように。
それなのに非力なはずのあなたは、力で無理矢理押し切ってしまわれた。それが今一つ、理解いたせません。一体、何をされたのですか」
「……さあな。私にも分からぬ」
白虎は晴奈から顔を離し、くるりと背を向けてこう言った。
「もしかしたら晴奈様は、『剛剣』と似ていらっしゃるのかも知れませんね」
白虎は祠の前に立ち、何やら呪文を唱えた。
「********。はい、開きました」
きい……、と軋む音を立てて、祠の入り口が開く。白虎に促される形で、晴奈とジーナは奥へと進んでいく。
途中まで進んだところで、白虎が立ち止まった。
「通路をまっすぐ進んで、突き当たったら右に、進んでくださいませ。
くれぐれも、突き当たりを左には進まないよう」
「お前は来ないのか?」
「ええ。お帰りの準備などを、整えさせていただきます」
「そうか。すまぬな」
「いえいえ」
晴奈とジーナは言われた通りに、通路を進んでいった。
突き当たりを右に進んでしばらくしたところで、扉を見つける。
「ここか。……失礼」
晴奈はそっと、ドアノブを回して中に入った。
部屋の中は、金気臭さと薬品の臭いで満ちていた。どうやら、大火が使っていた工房らしい。
「刀はあったか、セイナ?」
「……ああ。台の上に置いてある」
晴奈は作業台の前で立ち止まり、ゴクリとのどを鳴らした。
「これが、神器……。真の、神器か」
台の上に、柄の付いていない裸身の刀が置いてある。
その刀身には、「克大火謹製 晴空刀 蒼天」と彫られている。鍔元の部分には小さく雲と猫が美麗に彫られており、単に美術品として見ても、身が震えるほど美しい。
そして何より、その刀身はほんのり青白く輝いており、ただの刀で無いことを雄弁に物語っている。その雰囲気はどこか、ずっと前に大火が見せてくれた、大火の愛刀「妖艶刀 雪月花」に似ている。
晴奈の目に映るそれは、これまでに見たどんな刀よりも、まばゆい輝きを見せていた。
(あの『大蛇』でさえも、これと比べれば鈍にしか見えぬ)
晴奈は震える手で、その刀を手に取った。
「う……っ」
「どうした、セイナ?」
「この、刀……!」
手に取った瞬間、晴奈の目に青が広がった。
晴奈の意識は、空を飛んでいた。
(何と言う……)
刀の青い光が晴奈の目、頭、体中を突き抜け、部屋中、いや、世界中に満ちていくような錯覚を覚える。
(これは、何と言えばいいのか……)
視界のすべてが、真っ青な空と鮮やかに白い雲で満たされていく。
(この刀はまるで空を、蒼い空を、そのまま固めたようだ。
鮮やかで、爽やかで――何と気持ちの晴れ渡る刀だ……!――)
「……? セイナ?」
「……!」
ジーナに何度か呼ばれて、晴奈はようやく我に返った。
「あ、ああ。すまぬ、少し気を取られた」
現実に帰ってきてもまだ、晴奈の脳裏にはしびれるような感動が残っている。
「……しかし、何と言う刀だ。
手にして眺めただけで、これほどまでに心の中が満たされるとは」
「ほう……」
晴奈は近くにあった柄を取り付け、改めて握り締める。
「……見れば見るほど、心惹かれる刀だ。……一度、試し斬りもしておきたいところだ」
「そう思いまして」
いつの間にか、白虎が工房の中に来ていた。
「外に試し斬りの素材をご用意してございます。どうぞ、お使いくださいませ」
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晴奈と「蒼天剣」の邂逅。
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7.
対決から30分後、晴奈は目を覚ました。
「う……ん」
「お目覚めになられましたか」
うっすらと目を開けると、白虎のニコニコとした顔が映った。
「あ、れ……?」
「試験は合格でございます。今度は及第点などとお茶を濁さず、満点にしておきましょう」
「……ふん」
晴奈は立ち上がろうとしたところで、左腕に違和感を覚える。
「いた……っ」
何故か、左腕の袖が無い。そしてその千切れた部分が、真っ赤に染まっている。
「あまり動かされない方が賢明かと。何しろ、このようになっておりましたから」
そう言って、白虎は自分が使っていた刀を見せる。刀はねじ切れ、真っ二つになっていた。
「……そうか」
「それにしても、晴奈様。あなたは不思議な方ですね」
「え?」
「激昂すると、異様に強くなる。
実を申しますとあの二太刀目、恥ずかしながらわたくしも若干腹に据えかねておりましたので、少しばかり魔術で手を加えていたのです。一太刀目の、倍くらいの力が加わるように。
それなのに非力なはずのあなたは、力で無理矢理押し切ってしまわれた。それが今一つ、理解いたせません。一体、何をされたのですか」
「……さあな。私にも分からぬ」
白虎は晴奈から顔を離し、くるりと背を向けてこう言った。
「もしかしたら晴奈様は、『剛剣』と似ていらっしゃるのかも知れませんね」
白虎は祠の前に立ち、何やら呪文を唱えた。
「********。はい、開きました」
きい……、と軋む音を立てて、祠の入り口が開く。白虎に促される形で、晴奈とジーナは奥へと進んでいく。
途中まで進んだところで、白虎が立ち止まった。
「通路をまっすぐ進んで、突き当たったら右に、進んでくださいませ。
くれぐれも、突き当たりを左には進まないよう」
「お前は来ないのか?」
「ええ。お帰りの準備などを、整えさせていただきます」
「そうか。すまぬな」
「いえいえ」
晴奈とジーナは言われた通りに、通路を進んでいった。
突き当たりを右に進んでしばらくしたところで、扉を見つける。
「ここか。……失礼」
晴奈はそっと、ドアノブを回して中に入った。
部屋の中は、金気臭さと薬品の臭いで満ちていた。どうやら、大火が使っていた工房らしい。
「刀はあったか、セイナ?」
「……ああ。台の上に置いてある」
晴奈は作業台の前で立ち止まり、ゴクリとのどを鳴らした。
「これが、神器……。真の、神器か」
台の上に、柄の付いていない裸身の刀が置いてある。
その刀身には、「克大火謹製 晴空刀 蒼天」と彫られている。鍔元の部分には小さく雲と猫が美麗に彫られており、単に美術品として見ても、身が震えるほど美しい。
そして何より、その刀身はほんのり青白く輝いており、ただの刀で無いことを雄弁に物語っている。その雰囲気はどこか、ずっと前に大火が見せてくれた、大火の愛刀「妖艶刀 雪月花」に似ている。
晴奈の目に映るそれは、これまでに見たどんな刀よりも、まばゆい輝きを見せていた。
(あの『大蛇』でさえも、これと比べれば鈍にしか見えぬ)
晴奈は震える手で、その刀を手に取った。
「う……っ」
「どうした、セイナ?」
「この、刀……!」
手に取った瞬間、晴奈の目に青が広がった。
晴奈の意識は、空を飛んでいた。
(何と言う……)
刀の青い光が晴奈の目、頭、体中を突き抜け、部屋中、いや、世界中に満ちていくような錯覚を覚える。
(これは、何と言えばいいのか……)
視界のすべてが、真っ青な空と鮮やかに白い雲で満たされていく。
(この刀はまるで空を、蒼い空を、そのまま固めたようだ。
鮮やかで、爽やかで――何と気持ちの晴れ渡る刀だ……!――)
「……? セイナ?」
「……!」
ジーナに何度か呼ばれて、晴奈はようやく我に返った。
「あ、ああ。すまぬ、少し気を取られた」
現実に帰ってきてもまだ、晴奈の脳裏にはしびれるような感動が残っている。
「……しかし、何と言う刀だ。
手にして眺めただけで、これほどまでに心の中が満たされるとは」
「ほう……」
晴奈は近くにあった柄を取り付け、改めて握り締める。
「……見れば見るほど、心惹かれる刀だ。……一度、試し斬りもしておきたいところだ」
「そう思いまして」
いつの間にか、白虎が工房の中に来ていた。
「外に試し斬りの素材をご用意してございます。どうぞ、お使いくださいませ」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
刀の魅力というのはすさまじいものらしいですが。
武器と言うのは確かにロマンを感じるものがありますね。
特にアクション系のゲームをやっていると、
強い武器が手に入ってその特別なエフェクトがかかると最高に楽しいですからね。そこはとても良いですよね。
ようやく帰ってきました。
また読ませていただきます。
よろしくお願いします。
武器と言うのは確かにロマンを感じるものがありますね。
特にアクション系のゲームをやっていると、
強い武器が手に入ってその特別なエフェクトがかかると最高に楽しいですからね。そこはとても良いですよね。
ようやく帰ってきました。
また読ませていただきます。
よろしくお願いします。
- #1849 LandM
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- 2014.03/12 18:49
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NoTitle
また、よろしくお願いします。
刀に限らず、優れた道具には、
機能美という面での美しさ、芸術性も備わると思っています。
この名刀を手にした晴奈は、それはもう、
かつてないほどに感動したでしょうね。