「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・蒼天録 8
晴奈の話、第483話。
道化師の最後の抵抗。
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8.
白虎に導かれ、晴奈とジーナは祠の外に出た。
「……何じゃ、あの大きな影は」
ジーナが顔を挙げ、ポツリとつぶやく。晴奈の目にも最初、それは巨大な黒い影にしか見えなかった。
「少しばかり、霧が深うございますね。えい」
白虎は手をぱたっと振り、風を起こした。
霧が払われ、改めてその巨大な影の正体が眼に映る。
「……これはまた」
現れたのは、先程のゴーレムよりもさらに一回り大きい、黒光りしたゴーレムだった。
「岩石の中でも相当の硬度と帯魔力性を持つ、黒耀石で作ったオブシダンゴーレムでございます。
わたくしが腕によりをかけて製造しましたゆえ」
白虎は先程の折れた刀をぽい、とその黒いゴーレムに投げつける。ところが刀は刺さることなく、火花を散らしてどこかへ飛んでいってしまった。
「このように生半可な切れ味の刀では、傷をつけることすら適いません。また、戦闘力もそれなりに設定してございます。半端な腕では、1分も経たずにすり潰されてしまうでしょう。
さ、晴奈様。存分に、試し斬りをなさいませ」
この期に及んでまだ、白虎は晴奈が「蒼天」を手にすることに不満があるらしい。
往生際の悪いその妨害を受けて、ジーナは憤った口調で詰め寄ろうとする。
「お主、いい加減に……」「いい、ジーナ」
それをさえぎり、代わりに晴奈が言い返す。
「後悔するなよ、白虎」
「後悔、ですか」
晴奈は黒ゴーレムに向かって「蒼天」を構えつつ、白虎を横目でにらむ。
「お前の力作、原形を留めさせるつもりは毛頭無いからな」
「クスクスクスクス」
白虎が黒ゴーレムに向かって手をかざす。
「さ、起動しなさい」
「……グゴ……ゴ……ゴッ」
重たげな音を立てて、黒ゴーレムが動き出す。
「さてと。お前は1分と言ったが」
晴奈は深呼吸し、「蒼天」に火を灯した。
「1分もかけて、ダラダラと長く戦うつもりは無い。いい加減、疲れてきたからな」
「左様でございますか」
「……一撃だ」
晴奈は刀を振り上げて跳び上がり、黒ゴーレムとの距離を一気に詰めた。
「『火射』ッ!」
その瞬間、「蒼天」は青白い火を噴き、刃が黒ゴーレムの頭に激突した。
「……お、おお」
その結果に、飄々と振舞っていた白虎も驚いたらしい。先程晴奈が突っかかった時のように、呆気に取られたような声を漏らした。
晴奈の放った「火射」は黒ゴーレムの頭から首、胸、胴を一直線に割り、一瞬で真っ二つにした。
「さて、と。これで『試し斬り』もできたことであるし」
晴奈は刀を納め、白虎に声をかけた。
「そろそろ帰らせてもらおうか」
「……はい」
白虎はうつむき、短く答える。
流石にこの時ばかりは、彼女も悔しそうな様子を見せていた。
白虎は黙々と魔法陣を描き、晴奈たちを帰す準備を整える。
「白虎」
「……」
晴奈が声をかけるが、白虎は答えない。
「一つ聞いておきたい」
「……」
「黒炎殿とお主は、どんな関係にあったのだ?」
「……」
白虎はまたフードで顔を隠している。いつの間にか、尻尾も消えていた。
「答えたくないのなら、それで構わぬが」
「……克大火は」
白虎は――いや、女は晴奈に背を向けたまま、ぽつぽつと返答した。
「わたくしの、……師匠、で、ございました。もっとも水が合わず、すぐにお膝元を離れましたけれども。
わたくし、今でもあのお方が大嫌いでございます。どんな人間に対しても斜に構え、自分こそが世界の頂点とうそぶき、有り余る魔力をでたらめに使い、ろくでもない人間たちにバラバラと神器を撒き、世界を引っ掻き回す、わたくしがこの世で最も憎むお方」
「そんなに、カツミが嫌いなのか?」
ジーナの問いに、女は深くうなずいた。
「ええ、ええ。傲慢で、ぶっきらぼうで、出しゃばりで、無駄に誇り高く、己を慕う者に優しく、みだりにものを教えたがる、あげたがる、世間や常識にとらわれない、己が取り交わした契約やルールをどこまでも守る、超然としたあの素晴らしき、愛しきお方が――」
女はそこで言葉を切り、魔法陣を完成させた。
「――わたくし、大嫌いでございます。
さ、元の場所にお送りいたしましょう」
「ああ。
……そうだ、白虎。もう一つ聞いてもいいか?」
魔法陣に乗ろうとしたところで、晴奈の頭にもう一つ、疑問が浮かんだ。
「何でございましょう」
「黒炎殿は死んだ、と世間では言っているが、本当だと思うか?」
「まさか」
女はクスクスと笑い、その風説を否定した。
「あのお方は死にません。それは月や太陽を壊した、とうそぶくのと同義でございます」
「その、根拠は?」
「わたくしが絶対に入るな、と念押しした部屋がございましたでしょう」
女は祠を指差し、とうとうと語る。
「あの中には、克大火の『力の根源』がございます」
「麒麟が眠っている、と?」
「その通りでございます。あのお方はそれを核にして、常に莫大な魔力を得ているのです。その魔力により、あのお方はどれほど傷つこうとも、いずれ復活するように備えていらっしゃるのです。
さらに申せば、そうした魔力供給の『システム』は世界のあちこちにございます。ちょっとやそっと痛めつけるくらいでは、殺すことなどとてもとても」
「なるほど……」
「もっとも、今回の騒ぎは半ば本当、と言っても過言ではございませんでしょう」
そう言って女は、チラ、とジーナの方を見た。
「うん?」
「いえいえ。さ、お話は以上でございます。そろそろ、お帰りくださいませ」
女は深々と頭を下げ、晴奈たちに帰るよう促した。
晴奈もそれ以上は聞かず、魔法陣に乗った。
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道化師の最後の抵抗。
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白虎に導かれ、晴奈とジーナは祠の外に出た。
「……何じゃ、あの大きな影は」
ジーナが顔を挙げ、ポツリとつぶやく。晴奈の目にも最初、それは巨大な黒い影にしか見えなかった。
「少しばかり、霧が深うございますね。えい」
白虎は手をぱたっと振り、風を起こした。
霧が払われ、改めてその巨大な影の正体が眼に映る。
「……これはまた」
現れたのは、先程のゴーレムよりもさらに一回り大きい、黒光りしたゴーレムだった。
「岩石の中でも相当の硬度と帯魔力性を持つ、黒耀石で作ったオブシダンゴーレムでございます。
わたくしが腕によりをかけて製造しましたゆえ」
白虎は先程の折れた刀をぽい、とその黒いゴーレムに投げつける。ところが刀は刺さることなく、火花を散らしてどこかへ飛んでいってしまった。
「このように生半可な切れ味の刀では、傷をつけることすら適いません。また、戦闘力もそれなりに設定してございます。半端な腕では、1分も経たずにすり潰されてしまうでしょう。
さ、晴奈様。存分に、試し斬りをなさいませ」
この期に及んでまだ、白虎は晴奈が「蒼天」を手にすることに不満があるらしい。
往生際の悪いその妨害を受けて、ジーナは憤った口調で詰め寄ろうとする。
「お主、いい加減に……」「いい、ジーナ」
それをさえぎり、代わりに晴奈が言い返す。
「後悔するなよ、白虎」
「後悔、ですか」
晴奈は黒ゴーレムに向かって「蒼天」を構えつつ、白虎を横目でにらむ。
「お前の力作、原形を留めさせるつもりは毛頭無いからな」
「クスクスクスクス」
白虎が黒ゴーレムに向かって手をかざす。
「さ、起動しなさい」
「……グゴ……ゴ……ゴッ」
重たげな音を立てて、黒ゴーレムが動き出す。
「さてと。お前は1分と言ったが」
晴奈は深呼吸し、「蒼天」に火を灯した。
「1分もかけて、ダラダラと長く戦うつもりは無い。いい加減、疲れてきたからな」
「左様でございますか」
「……一撃だ」
晴奈は刀を振り上げて跳び上がり、黒ゴーレムとの距離を一気に詰めた。
「『火射』ッ!」
その瞬間、「蒼天」は青白い火を噴き、刃が黒ゴーレムの頭に激突した。
「……お、おお」
その結果に、飄々と振舞っていた白虎も驚いたらしい。先程晴奈が突っかかった時のように、呆気に取られたような声を漏らした。
晴奈の放った「火射」は黒ゴーレムの頭から首、胸、胴を一直線に割り、一瞬で真っ二つにした。
「さて、と。これで『試し斬り』もできたことであるし」
晴奈は刀を納め、白虎に声をかけた。
「そろそろ帰らせてもらおうか」
「……はい」
白虎はうつむき、短く答える。
流石にこの時ばかりは、彼女も悔しそうな様子を見せていた。
白虎は黙々と魔法陣を描き、晴奈たちを帰す準備を整える。
「白虎」
「……」
晴奈が声をかけるが、白虎は答えない。
「一つ聞いておきたい」
「……」
「黒炎殿とお主は、どんな関係にあったのだ?」
「……」
白虎はまたフードで顔を隠している。いつの間にか、尻尾も消えていた。
「答えたくないのなら、それで構わぬが」
「……克大火は」
白虎は――いや、女は晴奈に背を向けたまま、ぽつぽつと返答した。
「わたくしの、……師匠、で、ございました。もっとも水が合わず、すぐにお膝元を離れましたけれども。
わたくし、今でもあのお方が大嫌いでございます。どんな人間に対しても斜に構え、自分こそが世界の頂点とうそぶき、有り余る魔力をでたらめに使い、ろくでもない人間たちにバラバラと神器を撒き、世界を引っ掻き回す、わたくしがこの世で最も憎むお方」
「そんなに、カツミが嫌いなのか?」
ジーナの問いに、女は深くうなずいた。
「ええ、ええ。傲慢で、ぶっきらぼうで、出しゃばりで、無駄に誇り高く、己を慕う者に優しく、みだりにものを教えたがる、あげたがる、世間や常識にとらわれない、己が取り交わした契約やルールをどこまでも守る、超然としたあの素晴らしき、愛しきお方が――」
女はそこで言葉を切り、魔法陣を完成させた。
「――わたくし、大嫌いでございます。
さ、元の場所にお送りいたしましょう」
「ああ。
……そうだ、白虎。もう一つ聞いてもいいか?」
魔法陣に乗ろうとしたところで、晴奈の頭にもう一つ、疑問が浮かんだ。
「何でございましょう」
「黒炎殿は死んだ、と世間では言っているが、本当だと思うか?」
「まさか」
女はクスクスと笑い、その風説を否定した。
「あのお方は死にません。それは月や太陽を壊した、とうそぶくのと同義でございます」
「その、根拠は?」
「わたくしが絶対に入るな、と念押しした部屋がございましたでしょう」
女は祠を指差し、とうとうと語る。
「あの中には、克大火の『力の根源』がございます」
「麒麟が眠っている、と?」
「その通りでございます。あのお方はそれを核にして、常に莫大な魔力を得ているのです。その魔力により、あのお方はどれほど傷つこうとも、いずれ復活するように備えていらっしゃるのです。
さらに申せば、そうした魔力供給の『システム』は世界のあちこちにございます。ちょっとやそっと痛めつけるくらいでは、殺すことなどとてもとても」
「なるほど……」
「もっとも、今回の騒ぎは半ば本当、と言っても過言ではございませんでしょう」
そう言って女は、チラ、とジーナの方を見た。
「うん?」
「いえいえ。さ、お話は以上でございます。そろそろ、お帰りくださいませ」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
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すげえ切れ味ですね。
・・・というよりかは、この辺は技量もあるでしょうね。
集中力というか、断裂するだけの力量と修練があるからこそできるのであって、それについていける刀が存在することの喜びはそうそうたるものでしょうね。
・・・というよりかは、この辺は技量もあるでしょうね。
集中力というか、断裂するだけの力量と修練があるからこそできるのであって、それについていける刀が存在することの喜びはそうそうたるものでしょうね。
- #1853 LandM
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- 2014.03/15 20:04
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最早、大抵の兵士や武芸者では相手にならないでしょう。