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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・蒼天録 9

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    晴奈の話、第484話。
    How done it?

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    9.
     突如目の前に戻ってきた晴奈とジーナを見て、リストは目を丸くした。
    「……! あ、アンタたち、ドコ行ってたのよ!?」
    「あ」
     晴奈はきょろきょろと辺りを見回し、自分たちが黄海に戻ってきたことを確認した。
    「……はぁ。ちゃんと戻してくれたようだ」
    「何なのよ……」
     リストは何が何だか分からず、目を白黒させていた。
     と、騒ぎを聞きつけてトマスと、小鈴が部屋に入ってきた。
    「セイナ! ジーナ!」
    「ああ、トマス。どうした、そんなに慌てて」
    「慌てもするさ……。心配してたんだから」
    「……心配? ジーナを?」
     きょとんとする晴奈に、トマスはプルプルと首を振った。
    「ジーナも心配だったけど、君もだよ。突然いなくなったって言うから」
    「私を、心配? ……心配、してくれたのか」
    「そうだよ」
     と、そのやり取りを見ていた小鈴が、んふふ……、と笑う。
    「ね、言ったでしょ? 心配なんか、いらないって」

    「これが、その刀か……」
     エルスは「蒼天」を眺め、ため息を漏らす。
    「確かにセイナの言う通り、これは見惚れてしまうなぁ」
    「そーねぇ」
     小鈴やリスト、明奈、トマスも、刀に見入っている。
     が、ネロは刀には目を向けず、晴奈とジーナから「麒麟の山」での出来事を聞いていた。
    「ふーん……。白い女、か」
    「ああ。不思議な女だったな……」
    「不思議って言えばさ」
     ネロがあごを撫でながら、こう尋ねてきた。
    「その人、タイカから『刀を渡すように指示された』って言った後に、それは嘘だと明かしたんだよね?」
    「ああ、そうだ」
    「じゃあさ、何でその人、……えーと、『麒麟の山』だっけ? そこの場所を知ってたんだろう?」
     その言葉に、晴奈とジーナは黙り込んだ。
    「……そう言えば、そうじゃな?」
    「それは、黒炎殿の弟子だからでは?」
    「それも胡散臭いんだよね。だってさ、タイカがそんなタイプに見えるかい? 独立独歩、唯我独尊のあのタイカが」
    「……まあ、それは言えるのう」
    「でもさー」
     小鈴がシャラシャラと「鈴林」を鳴らし、反論する。
    「この鈴の精、『レイリン』も克のコト、師匠って言ってるわよ」
    「杖の精? はは、まさか」
     トマスは鼻で笑ったが、小鈴は無視して話を続ける。
    「案外、克は取るんじゃない?」
    「うーん……、確かに自分の知識や神器を渡した話も、良く聞くなぁ。それを考えると、否定しきれない」
     それ以上推測する材料がなく、大火の弟子についての話はそこで途切れた。



     一方、北方と央南の関係修復・連携は順調に進んでいた。
     双方の橋渡しをしたトマスはその功績を高く評価され、今回の同盟に関する北方側の全権を委任されるまでになった。
     また、「バニッシャー」を持って亡命し、北方から追われていたエルスも、その「バニッシャー」が日上軍閥の暴走の一因となった事実から、エルスと博士の考えが正しかったことが証明されたため、追われることはなくなった。
    「ようやく、ほっとしたよ」
    「そーね。……コレでじーちゃんも、故郷に帰れるわね」
     しんみりしているエルスとリストをよそに、トマスは上機嫌になっている。
    「さ、後は央中との連携だ。セイナが送った手紙、そろそろ返事が来てもいいはずだけど」
     央南との交渉の直前頃に、トマスは晴奈に頼んで央中の権力者、金火狐財団のヘレン総帥に手紙を送ってもらい、会談を要請していた。
     それから既に二ヶ月経っており、交通の便を考えればそろそろ、返事が返ってきてもおかしくなかったのだが――。
    「まだ来ていないようだ」
    「そっか」
    「って言うかさー」
     小鈴がひょいと、晴奈とトマスの間に割り込む。
    「それどころじゃないかもよ」
    「え?」
    「ちょっとさ、実家に戻って色々話聞いてきたんだけど」
     小鈴はパラパラと、メモを机に並べる。
    「央中、大恐慌が起こりかかってるらしいわよ」
    「大恐慌?」
     小鈴は肩をすくめ、順を追って説明し始めた。
    「何でも、ミッドランドを中心としてモンスターが――それも、野犬とか程度の、単なる獣程度じゃなくて、ふつーは森の奥、山の奥に潜んでるよーなヤバいのが――大量発生したんだって。
     んで、そのミッドランド自体も、異変が起きてるとか」
    「異変、と言うと?」
    「突然、人がバタバタ倒れるようになったんだって。そのせいでミッドランドから人がドンドン逃げちゃって、商業活動も停止状態。
     央中の主要交易地がストップしちゃったもんだから、深刻な物資不足と物価高騰が予想されてて、央中経済はかなり冷え込んできてるらしいわ」
    「それはまた……。とすると、ヘレン総帥は今頃、大慌てだろうな」
    「そーねぇ。少なくとも、手紙に返事出せるよーな状態じゃ……」
     と、そこに明奈が手紙を持って、部屋に入って来た。
    「お姉さま。央中のファイアテイルと言う方から、お手紙が」
    「ファイアテイル? ……フォルナからか」
     晴奈は手紙を受け取り、封を切って中を確かめた。
    「……何だって?」
     晴奈は手紙の内容を読み、首をかしげた。

    蒼天剣・蒼天録 終

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    明日の更新は北方地図の予定。
    それに関連して、以前に掲載した央南地図の記事を読み返していたんですが、
    央北や央中の時みたいな説明が無いですね。
    明後日くらいの更新で追記し、改めて掲載しようかと思います。

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    2016.10.30 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    絶対的、恒久的な安定は存在しないものですからね……。

    NoTitle 

    世界にはバランサーが存在していて、まあ、それは何十人もいるものなんですが、どっかの派閥がまるごとなくなったりすると、それが崩れて戦争・・・という形になったりすることがありますよね。恐慌の場合は、飽和状態からの爆発というのもありますが。。。
    なんにしても、飽和状態から爆発するときはありますからね。
    それとどう立ち向かうかが大切になりますよね。
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