「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・狐騒録 3
晴奈の話、第487話。
金火公安チーム出動。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
ラルフの入院から以後、ミッドランドでは奇怪な現象が頻発した。
「ねぇねぇ、次はあっちのお店見よーよぉ」
「おう。それじゃ、……う……っ」
「どしたの? ……ね、ねぇ? ねえってば!?」
突然、人が倒れるのだ。場所、人種、性別を問わず、バタバタと人が倒れていく。その数は1週間で、50人にも上った。
それも不思議なことに、数分前まで健康だった者が、急に顔を青ざめさせて倒れてしまう。倒れた者は例外なく、極度の衰弱状態で病院に運ばれた。
「声が、声が聞こえるんだ……」
「……きつね……」
続いて、住民から「不気味な声がどこからか聞こえ、ラーガ邸に向かうよう指示してくる」と言う相談が多数寄せられた。
中には精神的に参ってしまう者もおり、それも病院行きとなった。
極めつけは――。
「な、何だあれは!?」
「逃げろ、逃げろーッ!」
湖とその周辺に、神話の時代に滅びてしまったと思われていた異形の獣――モンスターが現れ、人を襲い始めたのだ。
安全そのものだったはずの湖上の航行ルート、そして湖周辺で軒並み襲撃され、ミッドランド周辺における観光資源と貿易網は、著しく打撃を受けた。
「……そんなワケで、ちょっと原因を調べてきてほしいんですわ」
金火狐財団の総帥、ヘレン女史はラーガ家からの救援要請を受け、彼女直属の調査チーム、すなわちジュリアたちを派遣することにした。
「私もその話は聞いています。今やミッドランドの経済は、壊滅的だとか」
「そうなんですわ。このまんま放っとったら、ウチにも影響出ますからな」
狼と狐と言う関係とは言え、ラーガ家とゴールドマン家は遠い親戚に当たり、何よりお互いに大口の取引相手でもある。水仙狼が金火狐を頼ってくるのは、当然の流れとも言える。
「しかし調査と言っても、モンスターなんて一体何をどうすれば……」
相変わらず頼りなさげなエランを、フォルナが後ろから小突く。
「ここ数週間で突然、ミッドランド周辺にだけモンスターが現れたと言うのなら、ここ数週間に何らかの事件なり変化なりが、その街にあったはずですわ。
それを突き止めれば、解決の糸口になると思いますわ」
「ええ、その通りね。……それでは早速、調査に向かいます」
ヘレンの指令により、ジュリアたちのチームはミッドランドへと向かった。
途中、モンスターに襲われたりもしたものの、そこは修羅場をくぐった面々である。その都度撃退し、全員無事にミッドランドの土を踏むことができた。
「……ひっでぇなぁ」
昏倒騒ぎとモンスター襲来により、一大観光地・交易地であったミッドランドはすっかり静まり返り、閑散としていた。
「ものの見事に、人っ子一人いないっスね」
「もっとにぎわっている時に、来てみたかったわね」
公安チームはまず、ラーガ邸を訪れることにした。
と――。
「……?」
エランがきょろ、と辺りを見回した。
「どうした?」
「今、何か言いませんでした?」
「いや?」
「……気のせいかな」
エランはもう一度辺りを見回したが、やはり何も見当たらない。
「ボケっとすんな。置いてくぞ」
「あ、すみません」
既に歩き出していたバートたちに気付き、エランは慌てて駆け出した。
「本当に、困り果ててしまいまして」
公安チームを出迎えた水仙狼の当主、トラム・ナルキステイル・ラーガ氏は、丁寧に現在の状況を説明してくれた。どうやら彼なりに、この異変を解決しようと四苦八苦していたらしい。
「人が倒れ始めたのは、およそ2ヶ月前です。それからいくつかの異変が起こり、皆さん逃げるように、……いえ、本当に逃げられてしまったわけですが。ともかく島民以外の方は軒並み島を離れまして、現在のところ、旅行者及び交易関係者は、入院中の者を除くと0人です。
今のところ市街地及び住宅地、そしてこの屋敷には、元々からこの島に住んでいる者しかいません」
「なるほど。入院中の非島民は、何名ほどですか?」
「およそ80名近くに上っています。昏倒された方が51名と神経が衰弱された方11名、それに湖上で襲われた方が14名ですね。幸い、今のところ死者はいません」
「ここ数ヶ月で、現在の異変に関連すると思われる変化はありましたか? 例えば、モンスターが集まってくるようなものが運び込まれたとか」
「いえ……。交易品と旅行者の持ち物は原則、島に入った時点で登記・管理していますが、それらしいものは、特には」
「ふむ……」
ジュリアとトラムが原因を突き止めようと相談している間、エランは窓の方にずっと目をやっていた。
(何かございますの?)
(あ、いえ)
(それなら、ちゃんと話をお聞きなさい)
フォルナにたしなめられ、エランはジュリアたちの方に視線を戻した。
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金火公安チーム出動。
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ラルフの入院から以後、ミッドランドでは奇怪な現象が頻発した。
「ねぇねぇ、次はあっちのお店見よーよぉ」
「おう。それじゃ、……う……っ」
「どしたの? ……ね、ねぇ? ねえってば!?」
突然、人が倒れるのだ。場所、人種、性別を問わず、バタバタと人が倒れていく。その数は1週間で、50人にも上った。
それも不思議なことに、数分前まで健康だった者が、急に顔を青ざめさせて倒れてしまう。倒れた者は例外なく、極度の衰弱状態で病院に運ばれた。
「声が、声が聞こえるんだ……」
「……きつね……」
続いて、住民から「不気味な声がどこからか聞こえ、ラーガ邸に向かうよう指示してくる」と言う相談が多数寄せられた。
中には精神的に参ってしまう者もおり、それも病院行きとなった。
極めつけは――。
「な、何だあれは!?」
「逃げろ、逃げろーッ!」
湖とその周辺に、神話の時代に滅びてしまったと思われていた異形の獣――モンスターが現れ、人を襲い始めたのだ。
安全そのものだったはずの湖上の航行ルート、そして湖周辺で軒並み襲撃され、ミッドランド周辺における観光資源と貿易網は、著しく打撃を受けた。
「……そんなワケで、ちょっと原因を調べてきてほしいんですわ」
金火狐財団の総帥、ヘレン女史はラーガ家からの救援要請を受け、彼女直属の調査チーム、すなわちジュリアたちを派遣することにした。
「私もその話は聞いています。今やミッドランドの経済は、壊滅的だとか」
「そうなんですわ。このまんま放っとったら、ウチにも影響出ますからな」
狼と狐と言う関係とは言え、ラーガ家とゴールドマン家は遠い親戚に当たり、何よりお互いに大口の取引相手でもある。水仙狼が金火狐を頼ってくるのは、当然の流れとも言える。
「しかし調査と言っても、モンスターなんて一体何をどうすれば……」
相変わらず頼りなさげなエランを、フォルナが後ろから小突く。
「ここ数週間で突然、ミッドランド周辺にだけモンスターが現れたと言うのなら、ここ数週間に何らかの事件なり変化なりが、その街にあったはずですわ。
それを突き止めれば、解決の糸口になると思いますわ」
「ええ、その通りね。……それでは早速、調査に向かいます」
ヘレンの指令により、ジュリアたちのチームはミッドランドへと向かった。
途中、モンスターに襲われたりもしたものの、そこは修羅場をくぐった面々である。その都度撃退し、全員無事にミッドランドの土を踏むことができた。
「……ひっでぇなぁ」
昏倒騒ぎとモンスター襲来により、一大観光地・交易地であったミッドランドはすっかり静まり返り、閑散としていた。
「ものの見事に、人っ子一人いないっスね」
「もっとにぎわっている時に、来てみたかったわね」
公安チームはまず、ラーガ邸を訪れることにした。
と――。
「……?」
エランがきょろ、と辺りを見回した。
「どうした?」
「今、何か言いませんでした?」
「いや?」
「……気のせいかな」
エランはもう一度辺りを見回したが、やはり何も見当たらない。
「ボケっとすんな。置いてくぞ」
「あ、すみません」
既に歩き出していたバートたちに気付き、エランは慌てて駆け出した。
「本当に、困り果ててしまいまして」
公安チームを出迎えた水仙狼の当主、トラム・ナルキステイル・ラーガ氏は、丁寧に現在の状況を説明してくれた。どうやら彼なりに、この異変を解決しようと四苦八苦していたらしい。
「人が倒れ始めたのは、およそ2ヶ月前です。それからいくつかの異変が起こり、皆さん逃げるように、……いえ、本当に逃げられてしまったわけですが。ともかく島民以外の方は軒並み島を離れまして、現在のところ、旅行者及び交易関係者は、入院中の者を除くと0人です。
今のところ市街地及び住宅地、そしてこの屋敷には、元々からこの島に住んでいる者しかいません」
「なるほど。入院中の非島民は、何名ほどですか?」
「およそ80名近くに上っています。昏倒された方が51名と神経が衰弱された方11名、それに湖上で襲われた方が14名ですね。幸い、今のところ死者はいません」
「ここ数ヶ月で、現在の異変に関連すると思われる変化はありましたか? 例えば、モンスターが集まってくるようなものが運び込まれたとか」
「いえ……。交易品と旅行者の持ち物は原則、島に入った時点で登記・管理していますが、それらしいものは、特には」
「ふむ……」
ジュリアとトラムが原因を突き止めようと相談している間、エランは窓の方にずっと目をやっていた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ここまでくるとそれこそ陰陽師の出番になってきますね。
なんだか、陰陽師の価値が分かってきそうな回ですね。
魔法の概念があれば余計に。
まあ、今回は違いますが。
なんだか、陰陽師の価値が分かってきそうな回ですね。
魔法の概念があれば余計に。
まあ、今回は違いますが。
- #1862 LandM
- URL
- 2014.03/31 10:18
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