「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・狐騒録 5
晴奈の話、第489話。
ヘレンの妙案。
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5.
「……君は……」
まだ衰弱状態にはあったが、公安チームはラルフと話をすることができた。
「そうだ……確か2年前……うん……あの時、私を助けてくれた……」
「覚えていただけて光栄ですわ、ホーランド教授。いくつか伺いたいことがございますが、よろしいでしょうか?」
「……何かな……」
ラルフの顔は血色が悪く、目も淀んでいる。非常に衰弱しているのは明らかだったが、それでも自分の知っていることを答えてくれた。
「現在、ミッドランドとその周辺で起こっている異変について、何かご存知でしょうか?」
「……異変……人が倒れると言う、あれか……。
私は……大変な扉を……開いてしまったらしい……。私は……ラーガ邸の地下に……忍び込んで……そこに……巨大な神殿が存在しているのを……確認した……」
「神殿?」
「そうだ……。その構造自体が、巨大な……魔法陣となった……湖中の神殿……。その最下層に……奴が……」
「奴?」
バートが尋ねたが、ラルフは答えない。
「私は……良く分からないうちに……地上に出ていた……。その時には既に……力が……」
「教授、あなたは一体、何と出遭ったと……?」
「……狐だ……九尾の……禍々しく輝く……金毛の……狐獣人……」
そして、ラルフはこれだけ言って、そのまま気を失ってしまった。
「……テンコ……奴は……そう名乗った……」
ラルフの話から、どうやら異変の元凶は丘内部の神殿に潜む「テンコ」と言う狐獣人らしいと分かったが、地下に降りるのはあまりにも危険だと判断された。
入ってまもなく、爛々と目を光らせる、いかにも凶悪そうなモンスターと出くわしたからである。
「無理無理、無理っスって、あんなの……」
地下からラーガ邸へと慌てて逃げ帰った公安チームは、その場で対策を講じた。
「応援がいるわね。それも腕の立つ兵士か、傭兵の類が」
「だな。丘の面積、体積から考えると相当広いだろうし、数を揃えなきゃならないだろう」
「……ここは一旦戻って、総帥に増員を要請した方がよろしいかと」
「賛成」
ミッドランドから戻ったジュリアたちに話を聞いたヘレンは、扇子を口に当てて「んー……」とうなった。
「それでしたら今さっき、丁度こんなお手紙さんをいただきましてな」
「手紙?」
「フォルナちゃん、読んでみ」
ヘレンから手紙を受け取ったフォルナは、目を通した途端「まあ」と声を上げた。
「お姉さま……、セイナから?」
晴奈がトマスに頼まれて書いた、央中と北方の関係回復を講じる会議の場を設けてほしいと言う旨の手紙である。
「それでな、私にえー考えがあるんですわ」
「……何だって?」
話は現在、520年の初秋に戻る。
フォルナからの手紙を受け取った晴奈は、その内容に首をかしげていた。
「何が書いてあったの?」
「……トマス、ちょっとこっちに来てくれ」
晴奈はトマスを呼び、手紙を見せた。
「どうしたの?」
「応援要請だ。王国軍への」
「は?」
「さっき話していたミッドランドの異変だが、その解決のためにヘレン女史は、軍の出動を要請してきた。
それが、関係回復の会議の場を設けるための条件だそうだ」
「そっか、うーん……」
トマスは手紙を読みながら、頭をボリボリとかきむしる。
「まあ、多分できる。できる、とは思うけど」
トマスは壁にかけてある世界地図を眺め、肩をすくめた。
「北方から軍を出すとなると、央南東部の港に着いて、それから陸地でミッドランドへ、ってなるよね。到着までに時間が、かなりかかると思う」
「ふむ……」
「まあ、リロイとコウ主席に協力をお願いして連合の港を使わせてもらえれば、多少は早くなると思うけど。それでも二ヶ月はかかるだろうね」
「それは向こうが納得しないわよ、きっと」
小鈴がここで、口を挟んでくる。
「異変が起きたのって、二ヶ月くらい前じゃん? そこからさらに二ヶ月かけて軍がやってきて、その上解決までにさらに時間を食ったりしたら、央中経済がホントに大恐慌になっちゃうわよ。
そーなったら総帥、『アンタんトコとは取引せーへんっ』って怒るかもよ」
「それは困るな……」
「それよりもさ、晴奈」
小鈴は晴奈の肩を叩き、親指を立てて見せた。
「アンタが直で行った方が早いんじゃない? 相手は異変が解決したら、それでいいんだろうし」
「ふむ」
「アンタとあたしの『晴鈴コンビ』がいりゃ、すーぐ解決するわよ」
小鈴のこの発言に、リストと明奈が立ち上がる。
「それなら、わたしも行きましょう」
「同じくっ」
名乗りを上げた二人に、晴奈は目を丸くした。
「えっ?」
「コンビなんて聞いちゃ、黙ってらんないわ。アタシとメイナだって、抗黒戦争ん時はセイナと一緒に戦ってたんだからね」
「んふふ」
小鈴はニヤニヤ笑いながら、晴奈の脇腹を肘で小突く。
「妬かれてるわよ、焼餅」
「なっ……」
小鈴にからかわれ、リストは顔を真っ赤にしてわめく。
「ちょっ、な、何バカなコト言ってんのよ!?」
「……クスクス」
やり取りを見ていたエルスが、たまらず笑い出した。
「本当に君はいじられやすいなぁ、リスト。……と、まあ、それはおいといて。
その話、僕が乗ろうか?」
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ヘレンの妙案。
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「……君は……」
まだ衰弱状態にはあったが、公安チームはラルフと話をすることができた。
「そうだ……確か2年前……うん……あの時、私を助けてくれた……」
「覚えていただけて光栄ですわ、ホーランド教授。いくつか伺いたいことがございますが、よろしいでしょうか?」
「……何かな……」
ラルフの顔は血色が悪く、目も淀んでいる。非常に衰弱しているのは明らかだったが、それでも自分の知っていることを答えてくれた。
「現在、ミッドランドとその周辺で起こっている異変について、何かご存知でしょうか?」
「……異変……人が倒れると言う、あれか……。
私は……大変な扉を……開いてしまったらしい……。私は……ラーガ邸の地下に……忍び込んで……そこに……巨大な神殿が存在しているのを……確認した……」
「神殿?」
「そうだ……。その構造自体が、巨大な……魔法陣となった……湖中の神殿……。その最下層に……奴が……」
「奴?」
バートが尋ねたが、ラルフは答えない。
「私は……良く分からないうちに……地上に出ていた……。その時には既に……力が……」
「教授、あなたは一体、何と出遭ったと……?」
「……狐だ……九尾の……禍々しく輝く……金毛の……狐獣人……」
そして、ラルフはこれだけ言って、そのまま気を失ってしまった。
「……テンコ……奴は……そう名乗った……」
ラルフの話から、どうやら異変の元凶は丘内部の神殿に潜む「テンコ」と言う狐獣人らしいと分かったが、地下に降りるのはあまりにも危険だと判断された。
入ってまもなく、爛々と目を光らせる、いかにも凶悪そうなモンスターと出くわしたからである。
「無理無理、無理っスって、あんなの……」
地下からラーガ邸へと慌てて逃げ帰った公安チームは、その場で対策を講じた。
「応援がいるわね。それも腕の立つ兵士か、傭兵の類が」
「だな。丘の面積、体積から考えると相当広いだろうし、数を揃えなきゃならないだろう」
「……ここは一旦戻って、総帥に増員を要請した方がよろしいかと」
「賛成」
ミッドランドから戻ったジュリアたちに話を聞いたヘレンは、扇子を口に当てて「んー……」とうなった。
「それでしたら今さっき、丁度こんなお手紙さんをいただきましてな」
「手紙?」
「フォルナちゃん、読んでみ」
ヘレンから手紙を受け取ったフォルナは、目を通した途端「まあ」と声を上げた。
「お姉さま……、セイナから?」
晴奈がトマスに頼まれて書いた、央中と北方の関係回復を講じる会議の場を設けてほしいと言う旨の手紙である。
「それでな、私にえー考えがあるんですわ」
「……何だって?」
話は現在、520年の初秋に戻る。
フォルナからの手紙を受け取った晴奈は、その内容に首をかしげていた。
「何が書いてあったの?」
「……トマス、ちょっとこっちに来てくれ」
晴奈はトマスを呼び、手紙を見せた。
「どうしたの?」
「応援要請だ。王国軍への」
「は?」
「さっき話していたミッドランドの異変だが、その解決のためにヘレン女史は、軍の出動を要請してきた。
それが、関係回復の会議の場を設けるための条件だそうだ」
「そっか、うーん……」
トマスは手紙を読みながら、頭をボリボリとかきむしる。
「まあ、多分できる。できる、とは思うけど」
トマスは壁にかけてある世界地図を眺め、肩をすくめた。
「北方から軍を出すとなると、央南東部の港に着いて、それから陸地でミッドランドへ、ってなるよね。到着までに時間が、かなりかかると思う」
「ふむ……」
「まあ、リロイとコウ主席に協力をお願いして連合の港を使わせてもらえれば、多少は早くなると思うけど。それでも二ヶ月はかかるだろうね」
「それは向こうが納得しないわよ、きっと」
小鈴がここで、口を挟んでくる。
「異変が起きたのって、二ヶ月くらい前じゃん? そこからさらに二ヶ月かけて軍がやってきて、その上解決までにさらに時間を食ったりしたら、央中経済がホントに大恐慌になっちゃうわよ。
そーなったら総帥、『アンタんトコとは取引せーへんっ』って怒るかもよ」
「それは困るな……」
「それよりもさ、晴奈」
小鈴は晴奈の肩を叩き、親指を立てて見せた。
「アンタが直で行った方が早いんじゃない? 相手は異変が解決したら、それでいいんだろうし」
「ふむ」
「アンタとあたしの『晴鈴コンビ』がいりゃ、すーぐ解決するわよ」
小鈴のこの発言に、リストと明奈が立ち上がる。
「それなら、わたしも行きましょう」
「同じくっ」
名乗りを上げた二人に、晴奈は目を丸くした。
「えっ?」
「コンビなんて聞いちゃ、黙ってらんないわ。アタシとメイナだって、抗黒戦争ん時はセイナと一緒に戦ってたんだからね」
「んふふ」
小鈴はニヤニヤ笑いながら、晴奈の脇腹を肘で小突く。
「妬かれてるわよ、焼餅」
「なっ……」
小鈴にからかわれ、リストは顔を真っ赤にしてわめく。
「ちょっ、な、何バカなコト言ってんのよ!?」
「……クスクス」
やり取りを見ていたエルスが、たまらず笑い出した。
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九尾のキツネはまた・・・日本ではラスボス級のボスですね。
それの獣人となると・・・またこれはずいぶんな敵でありそうです。ドキドキですね。
それの獣人となると・・・またこれはずいぶんな敵でありそうです。ドキドキですね。
- #1868 LandM
- URL
- 2014.04/07 19:13
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相当の強敵です。