「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・狐騒録 6
晴奈の話、第490話。
賢将の未来展望。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
エルスの発言に、トマスが目を丸くする。
「乗るって、……どう言う意味?」
「行くってことさ。セイナと一緒に、僕も央中へ」
「何を言うんだよ、リロイ?」
当然、トマスは反発する。
「央南の軍事最高責任者である君が、何で央中へ? どう言うつもりさ?」
「どうってこれは、セイナの手助けと、央南・央中親交の一プランの提案さ。
トマスが提案してる北方と央南・央中の交流強化だけど、単に北方が軸になるだけじゃ、多分北方の目的――『ヘブン』を倒したらそれで終わり、になっちゃうんじゃないかな。
でも、『ヘブン』が央北・中央政府に成り代わり、中央大陸のパワーバランスの一角を担っている今現在の世界情勢を考えれば、単純に『ヘブン』を倒しただけじゃ、きっとその後に大混乱が起こる。
それを抑え、秩序をもたらせられるだけの、確固たる政治組織が無いとダメだと思うんだ。それを今後構築していくためにも、今から根回しや下地作りを行っておいた方がいいんじゃないかなって」
「うーん……」
トマスは腕を組み、うなりだす。
「まあ、確かに一つの国が崩壊した後、その地に混乱が起きる例は多いけれど……。
しかし、個人的にはあんまり大きすぎる政治組織が存在してちゃ、後々の腐敗につながると思うんだよ。第一・第二中央政府も巨大な政治共同体だったけれど、その内情は広大な土地のあらゆる利権を巡る、政治腐敗の温床だった。
もしその『北方・央南・央中』の三角関係が、従来の中央政府のような巨大組織へと変貌したら、一体どれだけの……」「その理屈はさ」
トマスの反対に、ネロが口を挟んできた。
「『花はいずれ枯れて腐るから、咲かせてはいけない』と言ってつぼみを引っこ抜くのと、そう変わらないよ。
まだ起こってもいない問題を挙げて、目の前の問題をどうこうしようとしても仕方ないんじゃないかい?」
「うん、僕もそう思う。それに……」
エルスは壁にかかった世界地図の前に立ち、中央大陸を指差す。
「何もせず放っておいたら、その腐敗はもっと早く訪れると思う。大陸全体を巻き込んだ混乱の末に、ね。
ともかく、僕の意見としてはここでヘレン総帥と直接的な関係を作り、連携を密にしておきたい。ま、それに……」
エルスはへら、と笑って軽口を叩いた。
「ヘレン総帥はなかなかの美人だと聞いてるからねぇ。親密になれる絶好のチャンスじゃないか、はは……」
「結局それかっ」
リストはすかさず突込み、口をとがらせる。
「ホントもう、アンタはそんなトコだけ変わってないわね」
「はは……」
と、エルスは少し真面目な顔を作る。
「……でもさリスト、君は来ちゃダメだよ」
「えっ?」
その言葉に、リストはきょとんとする。
「なんでよ?」
「何でって……。君、怪談は好きな方だったっけ?」
「キライに決まってんでしょ」
「だよね。でもそれだとさ、辛いんじゃない?
行くとなるとくらーい神殿の中を、モンスターがうじゃうじゃいる中をかき分けながら探索することになるけど、それでもいいの?」
「……うっ」
エルスに諭され、リストは口をつぐむ。
「ま、それにさ、軍の現場司令官なんだし、長期不在になっちゃ色々問題もある。そうだろ?」
「……そう、ね。……うん」
リストはしゅんとした顔になり、渋々諦めた。
と、傍観していたネロが手を挙げた。
「僕らは付いていって構わないかい?」
「え?」
この言葉には、今度は晴奈が反応した。
「何故だ?」
「何故って、興味半分ってとこだけど」
「危険な任務になる。興味だけで付いてこられては……」
渋る晴奈に対し、ネロは押してくる。
「ま、残り半分は確認ってとこかな。どうしても確かめてみたいことがあるんだ」
「確認? 何をだ?」
「それは言えない。でも、僕とジーナにとって、非常に大事なことなんだ。ね、頼むよ」
ネロは深々と頭を下げ、頼み込んでくる。
「……何度も言うが、危険だ。自分の身は、自分で守ってくれ」
「ああ、そのつもりさ。それに僕には、ジーナがいる」
「えっ」
ネロの言葉に、彼の背後にいたジーナは顔を赤らめた。
「セイナも知ってるだろ、彼女の強さは。ジーナがいれば、その点は心配ないさ」
「……う、うむ。わしに任せておれ」
「むう……、分かった」
渋々承諾した晴奈に、明奈も手を挙げた。
「わたしも付いて行きますよ」
「明奈まで……」
「わたしは予定が空いてますし、自衛手段も持っています。迷惑にはなりませんよ。それにわたし、そのフォルナと言う人に会ってみたくなりましたし」
「……分かった、分かった。付いて来い」
晴奈はため息をつき、これも承諾した。
そして半月後。
「お待ちしとりましたで、皆さん」
晴奈たちはゴールドコーストを、再び訪れた。
蒼天剣・狐騒録 終
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6.
エルスの発言に、トマスが目を丸くする。
「乗るって、……どう言う意味?」
「行くってことさ。セイナと一緒に、僕も央中へ」
「何を言うんだよ、リロイ?」
当然、トマスは反発する。
「央南の軍事最高責任者である君が、何で央中へ? どう言うつもりさ?」
「どうってこれは、セイナの手助けと、央南・央中親交の一プランの提案さ。
トマスが提案してる北方と央南・央中の交流強化だけど、単に北方が軸になるだけじゃ、多分北方の目的――『ヘブン』を倒したらそれで終わり、になっちゃうんじゃないかな。
でも、『ヘブン』が央北・中央政府に成り代わり、中央大陸のパワーバランスの一角を担っている今現在の世界情勢を考えれば、単純に『ヘブン』を倒しただけじゃ、きっとその後に大混乱が起こる。
それを抑え、秩序をもたらせられるだけの、確固たる政治組織が無いとダメだと思うんだ。それを今後構築していくためにも、今から根回しや下地作りを行っておいた方がいいんじゃないかなって」
「うーん……」
トマスは腕を組み、うなりだす。
「まあ、確かに一つの国が崩壊した後、その地に混乱が起きる例は多いけれど……。
しかし、個人的にはあんまり大きすぎる政治組織が存在してちゃ、後々の腐敗につながると思うんだよ。第一・第二中央政府も巨大な政治共同体だったけれど、その内情は広大な土地のあらゆる利権を巡る、政治腐敗の温床だった。
もしその『北方・央南・央中』の三角関係が、従来の中央政府のような巨大組織へと変貌したら、一体どれだけの……」「その理屈はさ」
トマスの反対に、ネロが口を挟んできた。
「『花はいずれ枯れて腐るから、咲かせてはいけない』と言ってつぼみを引っこ抜くのと、そう変わらないよ。
まだ起こってもいない問題を挙げて、目の前の問題をどうこうしようとしても仕方ないんじゃないかい?」
「うん、僕もそう思う。それに……」
エルスは壁にかかった世界地図の前に立ち、中央大陸を指差す。
「何もせず放っておいたら、その腐敗はもっと早く訪れると思う。大陸全体を巻き込んだ混乱の末に、ね。
ともかく、僕の意見としてはここでヘレン総帥と直接的な関係を作り、連携を密にしておきたい。ま、それに……」
エルスはへら、と笑って軽口を叩いた。
「ヘレン総帥はなかなかの美人だと聞いてるからねぇ。親密になれる絶好のチャンスじゃないか、はは……」
「結局それかっ」
リストはすかさず突込み、口をとがらせる。
「ホントもう、アンタはそんなトコだけ変わってないわね」
「はは……」
と、エルスは少し真面目な顔を作る。
「……でもさリスト、君は来ちゃダメだよ」
「えっ?」
その言葉に、リストはきょとんとする。
「なんでよ?」
「何でって……。君、怪談は好きな方だったっけ?」
「キライに決まってんでしょ」
「だよね。でもそれだとさ、辛いんじゃない?
行くとなるとくらーい神殿の中を、モンスターがうじゃうじゃいる中をかき分けながら探索することになるけど、それでもいいの?」
「……うっ」
エルスに諭され、リストは口をつぐむ。
「ま、それにさ、軍の現場司令官なんだし、長期不在になっちゃ色々問題もある。そうだろ?」
「……そう、ね。……うん」
リストはしゅんとした顔になり、渋々諦めた。
と、傍観していたネロが手を挙げた。
「僕らは付いていって構わないかい?」
「え?」
この言葉には、今度は晴奈が反応した。
「何故だ?」
「何故って、興味半分ってとこだけど」
「危険な任務になる。興味だけで付いてこられては……」
渋る晴奈に対し、ネロは押してくる。
「ま、残り半分は確認ってとこかな。どうしても確かめてみたいことがあるんだ」
「確認? 何をだ?」
「それは言えない。でも、僕とジーナにとって、非常に大事なことなんだ。ね、頼むよ」
ネロは深々と頭を下げ、頼み込んでくる。
「……何度も言うが、危険だ。自分の身は、自分で守ってくれ」
「ああ、そのつもりさ。それに僕には、ジーナがいる」
「えっ」
ネロの言葉に、彼の背後にいたジーナは顔を赤らめた。
「セイナも知ってるだろ、彼女の強さは。ジーナがいれば、その点は心配ないさ」
「……う、うむ。わしに任せておれ」
「むう……、分かった」
渋々承諾した晴奈に、明奈も手を挙げた。
「わたしも付いて行きますよ」
「明奈まで……」
「わたしは予定が空いてますし、自衛手段も持っています。迷惑にはなりませんよ。それにわたし、そのフォルナと言う人に会ってみたくなりましたし」
「……分かった、分かった。付いて来い」
晴奈はため息をつき、これも承諾した。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
エルスの権謀指数とへらっとした笑いはいい味出してますよね。
ここまで読んできたからなのか、、、エルスも感慨深いものがありますね。( ;∀;)。
グッゲンハイムでも出してみたいキャラの一人ですね。
ここまで読んできたからなのか、、、エルスも感慨深いものがありますね。( ;∀;)。
グッゲンハイムでも出してみたいキャラの一人ですね。
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NoTitle
お気に入りのキャラです。
こちらはキャラの貸し出し、受け付けてますよ。