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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・騒心録 4

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    晴奈の話、第494話。
    ざわめく心と、でこぼこデート。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     どう言うわけか、晴奈の心はゴールドコーストを訪れてからずっと、ざわついていた。
     表面的には普段と変わらなかったし、晴奈も平静に過ごしていたが、心の奥底ではずっと、形容しがたい感情が渦を巻いていた。
    「……どうしたの?」
     ミッドランドへ向かう準備を整えるため市場に出かけていた晴奈は、一緒についてきたトマスから、心配そうに声をかけられた。
    「うん?」
    「何か、難しい顔をしてるけど」
    「そうか?」
     言われて、晴奈は自分の顔がこわばっていることに気付いた。
    「……むう」
    「眉間にしわ寄せて、通りをずっとにらんでたけど」
    「そうか」
    「何かあった? 大丈夫?」
    「いや、何も」
     晴奈は内省し、特にこれと言った出来事が無かったと再確認し、素直にそう言った。
    「それならいいけど」
    「ああ」
    「何かあったら、何でも言ってよ。君がそんな顔をしてると、心配になる」
    「心配?」
     晴奈は聞き慣れない言葉に、きょとんとする。
    「私を、心配するのか?」
    「え、ああ、うん。……まあ、それに。あんまりにらんでると、可愛い顔が台無しだよ」
    「は?」
    「い、いや、……何でもない。忘れて」
    「ああ」
     トマスはばつが悪そうな顔をし、うつむいた。その間にまた、晴奈の眉間にしわが寄っていく。
    (何もない。ああ。何も、ない。
     気にしていることも、気になることもなし。困りごともなし。強いて言えば、ミッドランドへの準備がまだ整っていないことくらいだが、それも1時間あれば済む。
     一体、私は何を悩んで、……悩んで? 悩んでいたか?)
    「セイナ」
    「うん?」
    「また、しわが寄ってる」
     トマスがちょんと、晴奈の眉間をつついた。
    「何をするか」
    「いや、……触りたくなっただけ、なんだけど」
    「気味の悪いことを」
     晴奈は眉間をコリコリとかき、立ち止まった。
    「大体トマス、お主は何故、私に付いてくる?」
    「えっ」
     途端に、トマスはそっぽを向く。
    「いや……、特に用がってわけじゃないけど」
    「無いなら付いてくるな」
    「そう言わないでよ、邪魔しないからさ」
    「……まあ、付いてこられて、害になることもないか。勝手にしろ」
     晴奈は元通り、歩き出した。トマスも、それに付いてくる。
    「ねえ、セイナ」
    「何だ?」
    「僕、その……」
    「うん?」
    「……何でもない。あ、えっと」
    「何だ、と聞いている」
     晴奈はまた立ち止まり、トマスの方を向く。
    「えっと、……僕のこと、どう思う?」
    「どう、とは?」
    「え、っと、……どんな奴に見える?」
    「妙なことを聞くな。……そうだな」
     晴奈はトマスをじっと眺め、考えを素直に述べた。
    「やはり、童顔だな。背も低いし、一向に二十歳を過ぎた男と見えぬ」
    「……そう」
     がっくりとうなだれるトマスに苦笑しつつ、晴奈は言葉を続けようとした。
    「それから……」
     眺めているうち、晴奈の心がまた、ざわめきだした。
    「……それから」
    「それから?」
    「……何だろうな」
    「え?」
     晴奈はくる、とトマスに背を向け、歩きだした。
    「……まあ、学者な面構えをしている。それなりに聡明な雰囲気はある。そんなところか」
    「ああ、うん。ありがとう」
     トマスは早足で歩く晴奈に、駆け足で寄っていった。
    「ちょっと、早いよセイナ」
    「うん? ああ、失敬。……と言うか、お主が勝手に付いて来ているだけだろう」
    「それはそうなんだけど」
    「付いて来られなければ、放っていくぞ」
     晴奈は速度を落とさず、ぐいぐいと道を進む。
    「は、早いって。……ねえ、セイナ」
    「何だ?」
    「僕のことは、嫌い?」
    「は?」
     三度、晴奈は立ち止まる。
    「何だかさ、出会ってから怒らせてばっかりだし、嫌われてるかもとは思ってる。でもさ……」
    「でも?」
    「……その、君には、嫌われたくないんだ。僕の嫌いな点があったら、言ってくれないか?」
    「率直に言うぞ」
    「う、うん」
     晴奈はトマスを軽くにらみ、素直に述べた。
    「すぐ自慢げに、己の聡明さをひけらかすところ。他者の考えを理解せず、頭からけなすところ。そして、自信がない時はない時で、ウジウジと振舞うところだな。自信のある時とない時で、お主は極端すぎる」
    「な、るほど」
    「……とは言え」
     晴奈はにらんでいた目を和らげ、わずかに微笑んだ。
    「嫌っている、と言うことはない。頭に来る振舞いはしばしばあるが、それでもその都度反省してくれるからな、お主は。
     そこは本当に、頭の澄んだ素直で聡明な男だとそう思うし、好ましいとも思っている」
    「……そ、そっか。うん、……ありがとう」
    「それでトマス」
     晴奈はまた、歩き出した。
    「多少小腹も空いた。どこかで休まないか?」
    「あ、うん」



     晴奈とトマスはこの後、買い物したり、食事を楽しんだりと、一日のどかに過ごした。
     この日はもう、晴奈の心がざわめくことはなかった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    百人集まれば、百通りの悩みがあるものです。
    ちなみに自分の場合、顔やら外見やらが年齢不詳らしく、
    年齢をピタリと当てられたことが生まれてこの方、一度もありません。

    NoTitle 

    まあ、童顔は童顔で悩みは尽きないでしょうね。
    私ぐらいの年齢になるとそれぐらいの方が良いのですが。
    まあ、年齢相応が一番なのかもしれませんが。
    私はそれか。。。
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