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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・騒心録 6

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    晴奈の話、第496話。
    戸惑う晴奈と小鈴の指摘。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     晴奈の心が一向に落ち着かないまま、一行はミッドランドに到着した。(やはりモンスターは出たものの、晴奈たちの敵ではなかったのは言うまでもない)

    「お待ちしておりました」
     まっすぐラーガ邸に向かい、当主のトラムと会談した。
    「状況は変化なし、です。
     あの扉からモンスターが出ることもなく、と言って街に人が戻ったわけでもなく、依然モンスターは湖とその周辺を徘徊し、旅人は寄り付こうとしない状態のまま、です」
    「そうですか。……ラーガ卿、頼んでいた件はどうなりましたか?」
     ジュリアの問いに、トラムは従者に合図をして答えた。
    「ええ。調べてみたところ、やはりこの丘が造成されたのは4世紀、ニコル3世の時代でした。……が、妙な点がありました」
     トラムは従者が持ってきた書物を開き、いくつかのページを開いて指し示した。
    「ホーランド教授の弁では、造成はニコル3世の子供たちが親元を離れてからではないか、とのことでした。
     しかし当家の記録によれば、それよりもっと早く――ニコル3世がランニャ1世と結婚されてそう経っていない頃に、造成が行われたようです」
    「ふむ。その話が本当なら、ホーランド教授の説――丘の造成はニコル3世の子供たちのために用意されたものである、と言う考えとは矛盾しますね。子供がまだ生まれてもいない頃に、造成が行われたと言うことになりますから」
    「ええ、その通りです。しかし……」
     トラムは書物を閉じ、首を横に振る。
    「結局のところ、中に何があるのかは、どこにも記述されていませんでした。したがって、テンコが何者なのかも、さっぱり」
    「そうですか……。やはり、中に入って確かめるしかありませんね」



     晴奈は明奈とフォルナ、小鈴を伴って街の端、湖を見渡せる崖に立っていた。
    「どしたの、相談って」
     小鈴の問いかけに、晴奈はためらいつつ、ゆっくりと答えた。
    「その……、何と言うか。……告白された」
    「へっ?」
    「どなたからですの?」
    「……エルスから」
     それを聞き、明奈とフォルナは「まあ」と声を挙げる。
    「意外ですね、エルスさんがお姉さまになんて」
    「い、意外? そうか?」
    「ええ。エルスさんなら、きっとリストさんと結ばれるだろうと思ってましたから」
    「あ……、そうか」
     明奈の言葉に、晴奈もそっちの方が自然だなと共感した。
    「そう言えば、そうだな。……となると、あれはやはり冗談だったのか」
    「とも言い切れませんけど」
     途端に、明奈が意見を翻す。
    「ここ最近、エルスさんとリストさんは会う機会が減ってしまったので、気持ちが醒めてしまったのかも知れませんよ。
     それに元々、エルスさんは『リストは自分にとっては部下であり、妹みたいにしか思ってない』と言ってましたから、恋愛の類ではなかったのかも」
    「ふ、む」
    「……」
     小鈴は複雑な顔をして、押し黙っている。
    「どうされましたの、コスズさん?」
    「ん、何でも。……でも、そっか。エルス・グラッドって言えば、今や央南有数の権力者だもんね。玉の輿じゃん、うまく行けば」
    「そうですわね。連合軍のトップでもありますし、そう考えるとセイナにぴったりの相手かも」
     皆からの反応は悪くない。晴奈も、「そうだな……」とつぶやいた。
    「でもさー」
     と、ここで小鈴が指摘する。
    「アンタ自身はどーなのよ? エルスさんのコト、恋人にしたいと思ってるワケ?」
    「ん、……それは、まあ。長い付き合いではあるし、悪い相手ではないなと」
    「そーじゃなくて」
     小鈴はビシ、と晴奈の額をつつく。
    「アンタは、エルスさんを愛せるかって聞いてんのよ」
    「……そうだな。そう言う話だからな、これは。……分からない」
    「分からないってアンタ、自分の話でしょーが」
    「それはそうだが、でも、……私は、恋愛事の経験がないのだ。どうすればいいか、皆目見当がつかぬ」
    「……ああ、そーよね」
     小鈴はぷい、と晴奈に背を向ける。
    「お、おい、小鈴?」
    「アンタ恋バナくらいで動揺しすぎよ、もう27の癖に。もうそろそろ、そこら辺と真正面に向き合ってみた方がいーわよ」
    「あ、……うむ」
     硬直する晴奈を尻目に、小鈴はその場を離れた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    個人的には、ファンタジー世界においても、
    恋愛感情や恋愛話は現実世界と同様に描きたいな、と考えています。
    いわゆる「リアリティ」、言い換えれば「人が起こす行動としての自然性」を重視したいので。
    神の啓示で付き合うことになった、とか言うのは基本的に無いです。

    頑固だけど流されやすい(ちょろい)晴奈と、
    人をリードするのが上手なエルス。
    個人的にはこの組み合わせもアリだなと言う気はします。

    NoTitle 

    ううむ。好きの感情は微妙ですけどね。
    恋と好きは違いますからね。
    ・・・なんて言うことはあまりファンタジーの世界で出さないのがあれですかね。
    まあ、その辺は私の考えであって主観ですが。

    しかし、意外な組み合わせなのは私も同感です。
    あの二人がねえ。。。
    まあ、どうなるかはこれからですね。
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