「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・狐狩録 2
晴奈の話、第499話。
それぞれの対処。
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2.
「今のところ……、わしらの他には、人や獣などはおらぬようじゃ」
「それなら状況を整理するくらいの余裕はありそうかな」
辺りの様子を伺うジーナに、ネロがいつものように、泰然とした様子で応じる。
「しかし、聞いた通りの構造だね。一見、古代めいた神殿のように見える。でも、全体を眺めると……」
ネロの手元には、ラルフ教授から受け取った地下神殿の地図の写しが握られている。
「地図で分かるのは地下1階と、2階の一部。……それだけでも、この神殿が何のために作られたのか、はっきりする」
「何かを閉じ込めるためにある、って言ってたアレっスか」
フェリオの言葉に、ネロは短くうなずく。
「うん。この幾何学的な柱と壁の配置と部屋の形、これはどう見ても魔法陣そのものだ。
僕もあまり魔術には詳しく無いけれど、聞いた話では魔法陣の効力と言うのは、その密度と直径に比例するらしい」
「つまり、でっかくて呪文やら術式やらがびっしり描かれてるような魔法陣は、相当威力が出るってコトっスね」
「そう言うこと」
「それに、じゃ」
話の輪に、魔術に詳しいジーナも加わる。
「この魔法陣が封印用とすれば、その膨大な魔力を使うに値するテンコと言うモンスターなり何なりが、閉じ込められておると言うことじゃ。
わしらは地下へ、その何者かを求めて進んで行かねばならぬ。到底、2人や3人で立ち向かえる相手ではないじゃろうな」
「早いところ、他のみんなと合流しなきゃいけないね」
ネロはそう言いながら布を手にしつつ、黒眼鏡を外す。
「……ん」
と、ネロの視線が眼鏡やジーナたちを通り越し、部屋の出口の一つに留まる。
「どしたんっスか?」
「何か……、赤いものが、あの裏側から見える」
「赤いもの?」
「ジーナ、フェリオさん、構えて。多分、モンスターだ」
「えっ」
ネロの言う通り、出口の裏手から「グルル……」と、何かがうなる声が聞こえてくる。
「わ、わっ……」
慌て、怯えるフェリオに対し、ネロは淡々と分析している。
「すぐに姿を表さないと言うことは、向こうも警戒しているらしい。
フェリオさん、威嚇射撃を」
「は、はいっ」
フェリオは言われるがままに銃を構え、出口に向かって弾を放つ。チュン、と跳ね返る音を立て、弾は出口の外に飛んで行く。
「グル、……ルルル」
うなっていた声が遠ざかっていく。どうやら、離れていったらしい。
「襲ってこない……?」
「威嚇が功を奏したみたいだね。でも多分、撃ってきたのが自分より強そうな獣じゃなく、ただの人間3人だって分かったら、迷わず襲ってくるだろうね。今のうちに、ここを離れよう。
みんなも恐らく、僕らを探しつつ下へ降りようとするだろう。となれば、階段の周辺で再会できる可能性は高い。地図によればそう遠くないところに階段があるから、ともかくそこを目指そう」
冷静に状況分析と行動方針を定めていくネロに対し、フェリオはほっとした。
(この人がいれば、何とかなるかも知れないな。……他のみんなは無事かな)
ネロたちがモンスターを退けた一方、エルスたちは今まさに交戦中だった。
「はッ!」
正確にはエルスたちが、と言うよりも、エルス一人が戦っている状態だった。明奈とフォルナは、エルスの後ろで半ば援護しつつ、離れて見ている。
「……っと、これで終わりかな」
エルスの正拳突きを眉間に喰らった、非常に肉厚な四足歩行のモンスターは、うめき声すら上げずに倒れた。
「二人とも、ケガはない?」
「ええ、どこも」
「大丈夫です」
「なら、良かった」
エルスはにっこりと二人に笑いかけながら、今倒したモンスターを観察する。
「顔と体は虎だけど、爪が凶悪だなぁ。まるで牙だよ。……うひゃ」
「どうしたんですか?」
「尻尾見てよ、まるでツノみたいなトゲがある」
「まあ……」
三人でその、虎状のモンスターを観察する。
「生物学者じゃ無いから詳しくは何がどう、って言うのは分かんないけど、明らかに普通の猛獣じゃなさそうだね。
聞いた話だけど、モンスターって人間から造れるんだってね。じゃあもしかしたら、これも人間からできてるのかな」
「そうとも限りませんわ」
フォルナが反論する。
「わたくし、以前に元人間だったモンスターを間近で見たことがございますが、どれも人間の名残を残しておりました。この虎に、それらしいものはどこにも……」
「私も昔、元は人だったらしい竜と戦ったことがあります。その際、その竜に乗っていた人と意思疎通ができている節がありました。
先程の戦いの感じでは、この虎に人語を解せるような気配はありませんでしたよ。それに人間から造れると言うのなら、他の動物を素材にすることも、できなくは無いのでは……?」
「ふむ……。まあ、そこら辺の考察は後でもいいや。ともかく、凶暴ってことには変わりない」
エルスは首をコキコキと鳴らし、モンスターに背を向けた。
小鈴たちも、モンスターと遭遇していた。こちらも、虎のような姿に尻尾のトゲを有した、エルスたちが戦っていたのと同じものである。
「おらッ!」
バートの放った散弾銃で、虎の背筋から首にかけての肉が弾ける。
「グオ、ゴ……ッ」
ばたりと倒れ、動かなくなったところで、三人は安堵のため息を漏らした。
「はあ……」
「あー、焦ったぁ」
小鈴はちょいちょいと、「鈴林」の先で虎をつつく。
「コレってさー、やっぱ外から入って来たのかしらね?」
「……にしては、気になる点があるわ」
ジュリアは虎の側にしゃがみこみ、その毛並みを調べる。
「湖から侵入したにしては、藻や泥土などの汚れが見られないわ。それに、密閉されたこの空間で何匹もずぶ濡れのモンスターが入って来たのなら、空気がもう少し湿っていてもいいはず。
むしろ、逆のような気がするわね」
「逆……、って言うと?」
尋ねるバートに、小鈴が胸の前で腕を組んだまま答える。
「この神殿から湖の方に、モンスターが出たんじゃないかってコト、でしょ?」
「ええ」
「じゃあ、わざわざモンスターをバラ撒いてるってことなのか? 一体、何のためにだ?」
「さあ、ね。それは敵に聞かなければ、分からないことだわ」
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それぞれの対処。
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「今のところ……、わしらの他には、人や獣などはおらぬようじゃ」
「それなら状況を整理するくらいの余裕はありそうかな」
辺りの様子を伺うジーナに、ネロがいつものように、泰然とした様子で応じる。
「しかし、聞いた通りの構造だね。一見、古代めいた神殿のように見える。でも、全体を眺めると……」
ネロの手元には、ラルフ教授から受け取った地下神殿の地図の写しが握られている。
「地図で分かるのは地下1階と、2階の一部。……それだけでも、この神殿が何のために作られたのか、はっきりする」
「何かを閉じ込めるためにある、って言ってたアレっスか」
フェリオの言葉に、ネロは短くうなずく。
「うん。この幾何学的な柱と壁の配置と部屋の形、これはどう見ても魔法陣そのものだ。
僕もあまり魔術には詳しく無いけれど、聞いた話では魔法陣の効力と言うのは、その密度と直径に比例するらしい」
「つまり、でっかくて呪文やら術式やらがびっしり描かれてるような魔法陣は、相当威力が出るってコトっスね」
「そう言うこと」
「それに、じゃ」
話の輪に、魔術に詳しいジーナも加わる。
「この魔法陣が封印用とすれば、その膨大な魔力を使うに値するテンコと言うモンスターなり何なりが、閉じ込められておると言うことじゃ。
わしらは地下へ、その何者かを求めて進んで行かねばならぬ。到底、2人や3人で立ち向かえる相手ではないじゃろうな」
「早いところ、他のみんなと合流しなきゃいけないね」
ネロはそう言いながら布を手にしつつ、黒眼鏡を外す。
「……ん」
と、ネロの視線が眼鏡やジーナたちを通り越し、部屋の出口の一つに留まる。
「どしたんっスか?」
「何か……、赤いものが、あの裏側から見える」
「赤いもの?」
「ジーナ、フェリオさん、構えて。多分、モンスターだ」
「えっ」
ネロの言う通り、出口の裏手から「グルル……」と、何かがうなる声が聞こえてくる。
「わ、わっ……」
慌て、怯えるフェリオに対し、ネロは淡々と分析している。
「すぐに姿を表さないと言うことは、向こうも警戒しているらしい。
フェリオさん、威嚇射撃を」
「は、はいっ」
フェリオは言われるがままに銃を構え、出口に向かって弾を放つ。チュン、と跳ね返る音を立て、弾は出口の外に飛んで行く。
「グル、……ルルル」
うなっていた声が遠ざかっていく。どうやら、離れていったらしい。
「襲ってこない……?」
「威嚇が功を奏したみたいだね。でも多分、撃ってきたのが自分より強そうな獣じゃなく、ただの人間3人だって分かったら、迷わず襲ってくるだろうね。今のうちに、ここを離れよう。
みんなも恐らく、僕らを探しつつ下へ降りようとするだろう。となれば、階段の周辺で再会できる可能性は高い。地図によればそう遠くないところに階段があるから、ともかくそこを目指そう」
冷静に状況分析と行動方針を定めていくネロに対し、フェリオはほっとした。
(この人がいれば、何とかなるかも知れないな。……他のみんなは無事かな)
ネロたちがモンスターを退けた一方、エルスたちは今まさに交戦中だった。
「はッ!」
正確にはエルスたちが、と言うよりも、エルス一人が戦っている状態だった。明奈とフォルナは、エルスの後ろで半ば援護しつつ、離れて見ている。
「……っと、これで終わりかな」
エルスの正拳突きを眉間に喰らった、非常に肉厚な四足歩行のモンスターは、うめき声すら上げずに倒れた。
「二人とも、ケガはない?」
「ええ、どこも」
「大丈夫です」
「なら、良かった」
エルスはにっこりと二人に笑いかけながら、今倒したモンスターを観察する。
「顔と体は虎だけど、爪が凶悪だなぁ。まるで牙だよ。……うひゃ」
「どうしたんですか?」
「尻尾見てよ、まるでツノみたいなトゲがある」
「まあ……」
三人でその、虎状のモンスターを観察する。
「生物学者じゃ無いから詳しくは何がどう、って言うのは分かんないけど、明らかに普通の猛獣じゃなさそうだね。
聞いた話だけど、モンスターって人間から造れるんだってね。じゃあもしかしたら、これも人間からできてるのかな」
「そうとも限りませんわ」
フォルナが反論する。
「わたくし、以前に元人間だったモンスターを間近で見たことがございますが、どれも人間の名残を残しておりました。この虎に、それらしいものはどこにも……」
「私も昔、元は人だったらしい竜と戦ったことがあります。その際、その竜に乗っていた人と意思疎通ができている節がありました。
先程の戦いの感じでは、この虎に人語を解せるような気配はありませんでしたよ。それに人間から造れると言うのなら、他の動物を素材にすることも、できなくは無いのでは……?」
「ふむ……。まあ、そこら辺の考察は後でもいいや。ともかく、凶暴ってことには変わりない」
エルスは首をコキコキと鳴らし、モンスターに背を向けた。
小鈴たちも、モンスターと遭遇していた。こちらも、虎のような姿に尻尾のトゲを有した、エルスたちが戦っていたのと同じものである。
「おらッ!」
バートの放った散弾銃で、虎の背筋から首にかけての肉が弾ける。
「グオ、ゴ……ッ」
ばたりと倒れ、動かなくなったところで、三人は安堵のため息を漏らした。
「はあ……」
「あー、焦ったぁ」
小鈴はちょいちょいと、「鈴林」の先で虎をつつく。
「コレってさー、やっぱ外から入って来たのかしらね?」
「……にしては、気になる点があるわ」
ジュリアは虎の側にしゃがみこみ、その毛並みを調べる。
「湖から侵入したにしては、藻や泥土などの汚れが見られないわ。それに、密閉されたこの空間で何匹もずぶ濡れのモンスターが入って来たのなら、空気がもう少し湿っていてもいいはず。
むしろ、逆のような気がするわね」
「逆……、って言うと?」
尋ねるバートに、小鈴が胸の前で腕を組んだまま答える。
「この神殿から湖の方に、モンスターが出たんじゃないかってコト、でしょ?」
「ええ」
「じゃあ、わざわざモンスターをバラ撒いてるってことなのか? 一体、何のためにだ?」
「さあ、ね。それは敵に聞かなければ、分からないことだわ」



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双月千年世界 目次 / あらすじ

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短編・掌編

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雑記

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
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狐狩りの録。。。
誰を指しているのか。興味ぶかいですね。
そして誰もいなくなった、。。。ではないですが、
人数が少なくなるのは怖いものですね。
誰を指しているのか。興味ぶかいですね。
そして誰もいなくなった、。。。ではないですが、
人数が少なくなるのは怖いものですね。
- #1893 LandM
- URL
- 2014.05/06 21:25
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それとも狩られるために誘い込まれたか。
一人、また一人と姿を消す。
広い密室サスペンスですね。