「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・狐狩録 3
晴奈の話、第500話。
無限ループの網。
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3.
他の3組がモンスターと遭遇していた一方で、晴奈とトマスは依然、それらに出会っていなかった。
「静か、……だね」
「ああ」
晴奈たちの足音と声の他には、何の音も聞こえてこない。
「みんな、大丈夫かな」
「分からぬ」
「一体テンコって、何者なんだろうね」
「さあな」
その話し声も、ほぼ一方通行――トマスが問い、晴奈が短く答えるばかりで、弾む様子はまったく無い。
「それにしても、真っ暗……」「トマス」
いい加減うんざりし、晴奈が止める。
「少し黙っていろ」
「あ、うん。ゴメン」
二人はそこで立ち止まり、周囲に静寂が訪れた。
静かになったところで、晴奈はふと、あることに気付く。
「トマス、地図は持っているか?」
「地図? えっと……、はい」
地図を広げ、晴奈は首をかしげた。
「……ここが、入口だったな。……そこから、私たちはまっすぐ、3分か4分ほど進んでいる」
「実際は、もっと短いかも知れないよ。暗闇の中では、緊張のせいで普段より早く時間を計測しやすい」
「そうか。……それを念頭に入れても、この曲がりくねった神殿の通路をずっと、『まっすぐ』歩いていられるのは……」
「……そう考えると、確かに妙だね」
「私たちも、どこかに飛ばされているのかも知れぬな」
そう言って晴奈は地図をたたみ、もう一度トマスの手を握った。
「えっ」
「何だ?」
「あ、何でも」
モジモジするトマスを見て、晴奈は軽く呆れた。
「あのな、トマス。もし私から離されたら、お主はどうやって自分の身を守る?」
「それは……」
「もう一度言うが、私の側から離れるなよ」
「……う、うん」
晴奈の一言にトマスは顔を真っ赤にしたが、晴奈はそれに構わず、歩を進めた。
分断されてからしばらく経ち、晴奈以外の組も、神殿の構造と自分たちの進むルートとに明らかなズレ、差異があることに気付いていた。
「おかしいなぁ」
地図を眺めていたネロが、短くうなった。
「どうした?」
「最低限迷わないよう、僕らは壁に沿って進んでいた。10分もすれば、この辺りの階段に到着するはずなんだけど……」
ネロが指し示した地図を見て、フェリオも首をかしげた。
「……この部屋辺りから出発、したつもりっスよね」
「うん。最初に2、3曲がった角から、この辺りから出発したと見当を付けたんだけど、……いや、そもそも今まで通ったルートを省みると、どう考えてもこの地図と合わないんだ。あちこちでちょくちょく、飛ばされているのかも知れない」
「となると、壁に沿って歩く方法は無意味じゃな」
「そうなるね」
ネロとジーナは身を寄せ合って相談している。
それを眺めていたフェリオはふと思いたち、こんな質問をしてみた。
「お二人って」
「次の案としては、自分たちでマッピングしつつ柱や壁に印を……、ん、何かな?」
「付き合い、長いんスか?」
「うん、出会ってから、……そうだな、5年くらいは経つんじゃないかな」
「そうじゃな」
それを聞いて、フェリオはニヤッと笑う。
「じゃあ、結婚とかはされないんスか?」
「なっ、なにを」
慌てるジーナに対し、ネロは平然と返す。
「ああ、付き合いって言っても、仕事上でだよ。恋愛関係のそれじゃない」
「あ、そうなんスか。失礼しました」
フェリオは早合点したと思い、ぺこりと頭を下げた。
が――。
「……」
ジーナがネロの背後でむくれていることに気付き、フェリオは取り繕おうとする。
「え、あー、と、……あのー」「そう言えば」
しかしネロは、まったく気付いていないらしい。
「指輪してるってことはフェリオさん、既婚者かな」
「え、ええ、へへ、そうなんスよ。今年の初めに」
「じゃ、新婚なんだね」
「ええ、まあ、……ええ」
ネロはにっこり笑っており、背後でにらむジーナには依然、気付く素振りは無い。
(な、何なんだよネロさん? こんだけ鋭いのに、ジーナさんのコト、全然気付いてないのか?
うう……。この人マジで気付いてねーのか、気付いてねー振りして焦らしてんのか、さっぱり分かんねえ。言うに言えねぇよ……)
もやもやとした思いを胸中に漂わせつつも、結局、フェリオは何も言えなかった。
「おかしいねぇ」
エルスたちの組も、地図を眺めて首をかしげていた。
「一向に、階段が見つからない。と言うか、同じ所ばかり歩かされてるみたいだ」
「え?」
そう言われて、明奈とフォルナは辺りを見回す。
「さっきトゲ虎を倒した時に、その血をちょっと拝借したんだ。それでそっと、印を付けてたんだけどね」
エルスは近くにあった柱に近寄り、根元を足で示す。
「さっき、柱の一つに印を付けてみたんだけど……」
そこで言葉を切り、エルスはしゃがみ込む。
「ほら、ここ。拭いた跡があるけど、まだほんの少し残ってる」
「え……」
明奈とフォルナも、その柱に近寄って確認する。
「……確かに、赤い筋がうっすら残ってますね」
「と言うことはエルスさん、わたくしたちは同じ所をずっと歩かされていたと、そう言うことですの?」
「そうなるね。……しかも、拭いたってことは」
そこでまた、エルスが言葉を切る。
「誰かが、わたくしたちの」
「すぐ、側にいると?」
「……そうなる」
エルスは腰に提げていた旋棍を取り出し、構えた。
「教えてもらってもいいかな、テンコさん。何で、僕たちを分断したの?」
虚空に投げかけられたはずのその言葉に、何者かが応えた。
「簡単なこった。小分けにした方が、喰いやすいからさ」
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3.
他の3組がモンスターと遭遇していた一方で、晴奈とトマスは依然、それらに出会っていなかった。
「静か、……だね」
「ああ」
晴奈たちの足音と声の他には、何の音も聞こえてこない。
「みんな、大丈夫かな」
「分からぬ」
「一体テンコって、何者なんだろうね」
「さあな」
その話し声も、ほぼ一方通行――トマスが問い、晴奈が短く答えるばかりで、弾む様子はまったく無い。
「それにしても、真っ暗……」「トマス」
いい加減うんざりし、晴奈が止める。
「少し黙っていろ」
「あ、うん。ゴメン」
二人はそこで立ち止まり、周囲に静寂が訪れた。
静かになったところで、晴奈はふと、あることに気付く。
「トマス、地図は持っているか?」
「地図? えっと……、はい」
地図を広げ、晴奈は首をかしげた。
「……ここが、入口だったな。……そこから、私たちはまっすぐ、3分か4分ほど進んでいる」
「実際は、もっと短いかも知れないよ。暗闇の中では、緊張のせいで普段より早く時間を計測しやすい」
「そうか。……それを念頭に入れても、この曲がりくねった神殿の通路をずっと、『まっすぐ』歩いていられるのは……」
「……そう考えると、確かに妙だね」
「私たちも、どこかに飛ばされているのかも知れぬな」
そう言って晴奈は地図をたたみ、もう一度トマスの手を握った。
「えっ」
「何だ?」
「あ、何でも」
モジモジするトマスを見て、晴奈は軽く呆れた。
「あのな、トマス。もし私から離されたら、お主はどうやって自分の身を守る?」
「それは……」
「もう一度言うが、私の側から離れるなよ」
「……う、うん」
晴奈の一言にトマスは顔を真っ赤にしたが、晴奈はそれに構わず、歩を進めた。
分断されてからしばらく経ち、晴奈以外の組も、神殿の構造と自分たちの進むルートとに明らかなズレ、差異があることに気付いていた。
「おかしいなぁ」
地図を眺めていたネロが、短くうなった。
「どうした?」
「最低限迷わないよう、僕らは壁に沿って進んでいた。10分もすれば、この辺りの階段に到着するはずなんだけど……」
ネロが指し示した地図を見て、フェリオも首をかしげた。
「……この部屋辺りから出発、したつもりっスよね」
「うん。最初に2、3曲がった角から、この辺りから出発したと見当を付けたんだけど、……いや、そもそも今まで通ったルートを省みると、どう考えてもこの地図と合わないんだ。あちこちでちょくちょく、飛ばされているのかも知れない」
「となると、壁に沿って歩く方法は無意味じゃな」
「そうなるね」
ネロとジーナは身を寄せ合って相談している。
それを眺めていたフェリオはふと思いたち、こんな質問をしてみた。
「お二人って」
「次の案としては、自分たちでマッピングしつつ柱や壁に印を……、ん、何かな?」
「付き合い、長いんスか?」
「うん、出会ってから、……そうだな、5年くらいは経つんじゃないかな」
「そうじゃな」
それを聞いて、フェリオはニヤッと笑う。
「じゃあ、結婚とかはされないんスか?」
「なっ、なにを」
慌てるジーナに対し、ネロは平然と返す。
「ああ、付き合いって言っても、仕事上でだよ。恋愛関係のそれじゃない」
「あ、そうなんスか。失礼しました」
フェリオは早合点したと思い、ぺこりと頭を下げた。
が――。
「……」
ジーナがネロの背後でむくれていることに気付き、フェリオは取り繕おうとする。
「え、あー、と、……あのー」「そう言えば」
しかしネロは、まったく気付いていないらしい。
「指輪してるってことはフェリオさん、既婚者かな」
「え、ええ、へへ、そうなんスよ。今年の初めに」
「じゃ、新婚なんだね」
「ええ、まあ、……ええ」
ネロはにっこり笑っており、背後でにらむジーナには依然、気付く素振りは無い。
(な、何なんだよネロさん? こんだけ鋭いのに、ジーナさんのコト、全然気付いてないのか?
うう……。この人マジで気付いてねーのか、気付いてねー振りして焦らしてんのか、さっぱり分かんねえ。言うに言えねぇよ……)
もやもやとした思いを胸中に漂わせつつも、結局、フェリオは何も言えなかった。
「おかしいねぇ」
エルスたちの組も、地図を眺めて首をかしげていた。
「一向に、階段が見つからない。と言うか、同じ所ばかり歩かされてるみたいだ」
「え?」
そう言われて、明奈とフォルナは辺りを見回す。
「さっきトゲ虎を倒した時に、その血をちょっと拝借したんだ。それでそっと、印を付けてたんだけどね」
エルスは近くにあった柱に近寄り、根元を足で示す。
「さっき、柱の一つに印を付けてみたんだけど……」
そこで言葉を切り、エルスはしゃがみ込む。
「ほら、ここ。拭いた跡があるけど、まだほんの少し残ってる」
「え……」
明奈とフォルナも、その柱に近寄って確認する。
「……確かに、赤い筋がうっすら残ってますね」
「と言うことはエルスさん、わたくしたちは同じ所をずっと歩かされていたと、そう言うことですの?」
「そうなるね。……しかも、拭いたってことは」
そこでまた、エルスが言葉を切る。
「誰かが、わたくしたちの」
「すぐ、側にいると?」
「……そうなる」
エルスは腰に提げていた旋棍を取り出し、構えた。
「教えてもらってもいいかな、テンコさん。何で、僕たちを分断したの?」
虚空に投げかけられたはずのその言葉に、何者かが応えた。
「簡単なこった。小分けにした方が、喰いやすいからさ」
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ついに500話。
一日辺り、1600~2400字程度で進めているので、
単純計算で100万文字書いてきたことになります。
wordファイルにして、およそ8MB。
未掲載分やスピンオフを合わせると130万文字、10MBを超えます。
数字にすると、とんでもないことをしている気がしてきますね。
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2016.11.20 修正
ついに500話。
一日辺り、1600~2400字程度で進めているので、
単純計算で100万文字書いてきたことになります。
wordファイルにして、およそ8MB。
未掲載分やスピンオフを合わせると130万文字、10MBを超えます。
数字にすると、とんでもないことをしている気がしてきますね。
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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

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未分類

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雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
新婚で戦闘に参加するのは死亡フラグが多いですが。。
まあ、黄輪様の作品はそういうのは少ないですからね。
その辺は安心して見れますね。
・・・と言ってもどうなるかは読んでからのお楽しみですが。
まあ、黄輪様の作品はそういうのは少ないですからね。
その辺は安心して見れますね。
・・・と言ってもどうなるかは読んでからのお楽しみですが。
- #1896 LandM
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- 2014.05/09 20:34
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NoTitle
少なくともこのご夫婦に湿っぽい話は似合わない。
この2人は不幸なことにはならない、と断言します。