「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・狐狩録 4
晴奈の話、第501話。
克の名を持つ狐。
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4.
「あれ?」
他の3組と同じく、同じ所をグルグルと回らされていた小鈴たちは、周囲の景色の変化に気が付いた。
「ここ……、新しい道ね?」
「そう、だな。散々付けたマークが、無くなった」
ジュリアの問いかけにうなずきながら、バートが柱を調べる。
「……間違いない。ループを抜けたぜ」
「何なのかしらね」
小鈴は柱を「鈴林」でつつきながら、口をとがらせている。
「散々ぐるぐる回らせといて、いきなり?」
「不可解ね、本当に」
十数歩歩くごとに周囲に印を付けていくが、依然ワープさせられる気配は無い。
「もしかしてさ……」
ふと、バートがこんなことを言った。
「敵さんのテンコだか何だかが、他の飛ばされた奴らと戦ってるとか」
「ソレとコレが、どー関係すんの?」
「戦ってる最中で、俺たちに構ってらんない、……てのはどーよ」
「ないわー」
小鈴がプルプルと首を振り、否定する。
「いくら何でも、ソコまでヒマ人じゃないでしょ。飛ばしたあたしらとか他のみんなの後、一々つけてたりすんの?」
「そーだよなー……」
と、次に印を付けようとした柱を見て、三人はがっかりした。
「印が付いてるわね」
「……まーた、ループかよ」
「はっ……、はっ……」
エルスが左肩を押さえ、息を荒くしている。
「なかなか……、手強いなぁ……」
押さえている左肩からは、ボタボタと血がこぼれていた。
「やっぱり見込んだ通りだな、ケケ……。そーとー魔力が強いな、お前は」
エルスから少し離れた場所に立っている、フサフサとした尻尾を九つ生やした異形の狐獣人は、見下したようにニヤニヤと笑っている。
「……それに、しても」
ようやく息が整ってきたエルスが、不敵に笑う。
「まさかこんな可愛い女の子とは、思ってもみなかった。こんな、湖の底に封じられているような、ものが」
可愛いと言われ、その狐獣人は元から吊り上がった目を、さらに尖らせる。
「あ……? オレを何だと思ってやがる!?」
狐獣人は声を荒げ、右手を挙げる。
「この克天狐サマを……」
挙げた右手から、バチバチと紫に光る電撃がほとばしった。
「なめてんじゃねーぞッ! 『スパークウィップ』!」
狐獣人――天狐の右手から放たれた幾筋もの電撃が、エルスを狙って飛んでいく。
「……っ」
エルスは持っていた旋棍を、その電撃に向かって投げつける。金属製の旋棍に引っ張られる形で電撃が軌道を曲げ、エルスから逸れた。
「お……っ?」
それを見た天狐が、驚いたような声を上げる。
「このままやられるわけには、行かないからね」
エルスは天狐の前から姿を消した。
いや、厳密に言えば、まだエルスはその場にいる。天狐の視界に入らないよう、彼女の視線を読んで移動しているのだ。
(雰囲気はどことなく幽霊みたいな感じだけど、多分攻撃は通る。物理的な存在じゃなきゃ、柱のマークをわざわざ『拭く』なんて行為はしないし、できない。足音も聞こえてたし。
虚を突いて、通打かなんかの急所攻撃が最善かな)
エルスの動きは傍で見守っていたフォルナにも、明奈にも捉えられない。
「エルスさん、一体どちらへ……?」
天狐もきょろきょろと、周囲に鋭い目を向けている。
「あのテンコと言う子も、見失っているのかしら……」
と、天狐は動きを止め、やや前屈みになって立ち止まる。前傾姿勢になったことで、天狐の九つある尻尾が一斉に上を向いた。
「ケ、ケケッ。かくれんぼでもするつもりか? オレの目をごまかそうなんて甘ぇぜ、銀髪野郎ッ」
呪文を唱えた途端、天狐の尻尾は一房残らずにピンと毛羽立ち、赤い瞳がギラリと輝いた。
「『ナインアイドチャーミング』、……そこかッ!」
天狐はぐるりと振り向き、電撃を放った。
「ぐあ……ッ」
いつの間にかそこに立っていたエルスに、図太い稲妻が直撃した。
ブスブスと煙を上げて倒れ伏すエルスに、天狐がニヤニヤしながら近付いてきた。
「ケケケ……。逃がしゃしねーぜ? お前はこのオレの、獲物なんだからな」
「……カツミ・テンコ、……だっけ」
うつ伏せになったまま、エルスは力無く尋ねた。
「カツミ姓って、ことは……、君は、タイカ・カツミと、何か関係が……?」
「大火あああぁ?」
その名を聞いて、天狐はまた目を吊り上がらせた。
「聞きたくもねぇ……! オレの前で、その名を口にすんじゃねえぇぇッ!」
天狐は鬼のような形相で、エルスを踏みつけた。
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克の名を持つ狐。
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「あれ?」
他の3組と同じく、同じ所をグルグルと回らされていた小鈴たちは、周囲の景色の変化に気が付いた。
「ここ……、新しい道ね?」
「そう、だな。散々付けたマークが、無くなった」
ジュリアの問いかけにうなずきながら、バートが柱を調べる。
「……間違いない。ループを抜けたぜ」
「何なのかしらね」
小鈴は柱を「鈴林」でつつきながら、口をとがらせている。
「散々ぐるぐる回らせといて、いきなり?」
「不可解ね、本当に」
十数歩歩くごとに周囲に印を付けていくが、依然ワープさせられる気配は無い。
「もしかしてさ……」
ふと、バートがこんなことを言った。
「敵さんのテンコだか何だかが、他の飛ばされた奴らと戦ってるとか」
「ソレとコレが、どー関係すんの?」
「戦ってる最中で、俺たちに構ってらんない、……てのはどーよ」
「ないわー」
小鈴がプルプルと首を振り、否定する。
「いくら何でも、ソコまでヒマ人じゃないでしょ。飛ばしたあたしらとか他のみんなの後、一々つけてたりすんの?」
「そーだよなー……」
と、次に印を付けようとした柱を見て、三人はがっかりした。
「印が付いてるわね」
「……まーた、ループかよ」
「はっ……、はっ……」
エルスが左肩を押さえ、息を荒くしている。
「なかなか……、手強いなぁ……」
押さえている左肩からは、ボタボタと血がこぼれていた。
「やっぱり見込んだ通りだな、ケケ……。そーとー魔力が強いな、お前は」
エルスから少し離れた場所に立っている、フサフサとした尻尾を九つ生やした異形の狐獣人は、見下したようにニヤニヤと笑っている。
「……それに、しても」
ようやく息が整ってきたエルスが、不敵に笑う。
「まさかこんな可愛い女の子とは、思ってもみなかった。こんな、湖の底に封じられているような、ものが」
可愛いと言われ、その狐獣人は元から吊り上がった目を、さらに尖らせる。
「あ……? オレを何だと思ってやがる!?」
狐獣人は声を荒げ、右手を挙げる。
「この克天狐サマを……」
挙げた右手から、バチバチと紫に光る電撃がほとばしった。
「なめてんじゃねーぞッ! 『スパークウィップ』!」
狐獣人――天狐の右手から放たれた幾筋もの電撃が、エルスを狙って飛んでいく。
「……っ」
エルスは持っていた旋棍を、その電撃に向かって投げつける。金属製の旋棍に引っ張られる形で電撃が軌道を曲げ、エルスから逸れた。
「お……っ?」
それを見た天狐が、驚いたような声を上げる。
「このままやられるわけには、行かないからね」
エルスは天狐の前から姿を消した。
いや、厳密に言えば、まだエルスはその場にいる。天狐の視界に入らないよう、彼女の視線を読んで移動しているのだ。
(雰囲気はどことなく幽霊みたいな感じだけど、多分攻撃は通る。物理的な存在じゃなきゃ、柱のマークをわざわざ『拭く』なんて行為はしないし、できない。足音も聞こえてたし。
虚を突いて、通打かなんかの急所攻撃が最善かな)
エルスの動きは傍で見守っていたフォルナにも、明奈にも捉えられない。
「エルスさん、一体どちらへ……?」
天狐もきょろきょろと、周囲に鋭い目を向けている。
「あのテンコと言う子も、見失っているのかしら……」
と、天狐は動きを止め、やや前屈みになって立ち止まる。前傾姿勢になったことで、天狐の九つある尻尾が一斉に上を向いた。
「ケ、ケケッ。かくれんぼでもするつもりか? オレの目をごまかそうなんて甘ぇぜ、銀髪野郎ッ」
呪文を唱えた途端、天狐の尻尾は一房残らずにピンと毛羽立ち、赤い瞳がギラリと輝いた。
「『ナインアイドチャーミング』、……そこかッ!」
天狐はぐるりと振り向き、電撃を放った。
「ぐあ……ッ」
いつの間にかそこに立っていたエルスに、図太い稲妻が直撃した。
ブスブスと煙を上げて倒れ伏すエルスに、天狐がニヤニヤしながら近付いてきた。
「ケケケ……。逃がしゃしねーぜ? お前はこのオレの、獲物なんだからな」
「……カツミ・テンコ、……だっけ」
うつ伏せになったまま、エルスは力無く尋ねた。
「カツミ姓って、ことは……、君は、タイカ・カツミと、何か関係が……?」
「大火あああぁ?」
その名を聞いて、天狐はまた目を吊り上がらせた。
「聞きたくもねぇ……! オレの前で、その名を口にすんじゃねえぇぇッ!」
天狐は鬼のような形相で、エルスを踏みつけた。



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。。。ん。
タイカ様に血縁者がいるのですかね。
それはそれで驚きですが。
あまりそういう臭いを感じさせないキャラクターでしたからね。
タイカ様は悪役だけど、
そういう雰囲気がないのが好きでしたが。
まあ、私のところの魔王が節操なしすぎるのか。。。
タイカ様に血縁者がいるのですかね。
それはそれで驚きですが。
あまりそういう臭いを感じさせないキャラクターでしたからね。
タイカ様は悪役だけど、
そういう雰囲気がないのが好きでしたが。
まあ、私のところの魔王が節操なしすぎるのか。。。
- #1898 LandM
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- 2014.05/12 18:58
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落語で言う、「桂」とか「笑福亭」と言った亭号みたいなもの。
克天狐も「『克一門』の一員である天狐」です。