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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・狐狩録 5

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    晴奈の話、第502話。
    煮え切らない会話と、二番目の襲撃。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
    「ねえ、セイナ」
    「何だ?」
     晴奈とトマスの二人は依然、静かに歩き続けていた。
    「こんな時にする話じゃないかも知れないけど……」
    「何を話す気だ」
     トマスは立ち止まり、晴奈から手を離す。
    「その……、こんなことを聞いたらまた、君は僕のことを『無神経な奴』とか、『道理の分からぬ朴念仁』とか言うかも知れないけど」
    「だから、何の話なんだ?」
    「……聞いたけどさ、リロイから告白されたんだって?」
     思いもよらない、確かに場違いな話に、晴奈は面食らった。
    「……ああ。確かに、ミッドランドへの道中の馬車で、そう言う話を切り出された」
    「それで、その、……セイナは、どう答えたの? 付き合うって、……言ったの、かな」
    「いいや、……私がまごついているうちに馬車が港に着いてしまって、話はそれきりになった」
    「そうなんだ」
     一瞬トマスの顔が明るくなったが、また神妙な顔に戻る。
    「……あー、と。セイナはさ、どうするの? この仕事終わったら、返事するんだろ?」
    「まあ、しなければ失礼だからな」
    「何て、返事する?」
    「何故それを、お主に言わなければならぬのだ?」
     キッとにらむ晴奈に、トマスは口をつぐんでしまう。
    「あ……、いや……」
    「そこが無神経だ。人の込み入った事情や思想に、ずけずけと立ち入って勝手に振舞う。それを他人を省みぬ無神経と言わずして、何と言うのだ」
    「……だったら」
     トマスは足元に眼線を落とし、小さな声でこう反撃した。
    「セイナも大概無神経って言うか……」
    「……私が?」
    「気付いてくれたっていいじゃないか、ちょっとくらいは」
    「何を……?」
     晴奈には、トマスの言わんとすることが把握できない。
    「私が、何を気付いていないと?」
    「……いいよ、もう。リロイとでも誰とでも、勝手に結婚しちゃえばいい」
    「はあ……?」
     拗ねてみせるトマスに、晴奈は首をかしげるしかない。
    「いい加減にはっきりと言え、トマス」
    「……」
    「でないと、何が何だか分からぬ。これではまるで、目隠しされて『箱の中に入っているのはなんだ』と問われているようなものだ」
     晴奈の追求に、トマスはゆっくりと振り返った。
    「……僕は、その」
     と、口を開きかけたトマスの表情が凍りついた。
    「……もっ」
    「も?」
    「う、うし、うしろっ」
    「うん?」
     振り返った晴奈の目に、尻尾に太いトゲを生やした虎が映った。



    「……っ」
     ジーナが唐突に立ち止まった。
    「どうしたの?」
    「……来ておる」
    「何がっスか?」
     ジーナの耳と尻尾は毛羽立ち、額には汗が浮いている。
    「前方、少しした所に……、異様な者が」
    「前方?」
     ネロは黒眼鏡を外し、ジーナの示した方向を眺めた。
    「……確かに。……異様なオーラだ」
    「オーラ?」
    「……フェリオ君。銃を構えていた方がいい。ジーナも、いつでも魔術を使えるように」
    「う、うむ」
     ネロの指示に従い、二人は武器を構えた。
    「……」「……」「……」
     三人とも、息を殺して前方の暗がりを凝視する。
    「そんなに見つめてんじゃねーよ、ケケッ」
     やがて黒い袴装束に身を包んだ天狐が、暗闇の中から姿を現した。
    「この尻尾がそんなに珍しいか? この黒装束がそんなに印象的か? それともオレがまさか、女だと思ってなかったか?」
    「……いいや、そのオーラの方がもっと、奇異に見えるね。
     ほとんど赤に近い、その褐色のオーラは、目一杯その存在を主張している尻尾に負けず劣らず、君の背中を彩っている」
    「へーぇ、お前はオーラが見えんだな。……でもお前、大したコトなさそーだな」
     天狐はニヤニヤ笑いながら、自分の左目を指差す。
     その目はネロと同じオッドアイ――右側は真っ赤な瞳だが、左側はまるで穴を穿たれたかのような、底なしの真っ黒な瞳だった。
    「オレの目には、お前のオーラはめちゃめちゃしょぼっちく見えるぜ。いかにも頭でっかちそーな、青白くてフニャフニャした、ひ弱なオーラだ」
    「ご明察だよ。僕に戦闘能力はまったく無い。皆無と言っていい。……ずっと、彼女に助けられてきたからね」
     ネロはすまなさそうにジーナの肩を叩き、そっとささやいた。
    (ジーナ、相手はかなり強い。とても正攻法では相手にならないだろう。……だから、僕が囮になる。ジーナは隙を見て、攻撃してくれ)
     ジーナはうなずかない。うなずけば、相手に悟られると考えての行動だろう。
    「さて、と。君の名前は、テンコで良かったのかな」
    「そうだ。……誰から名前を聞いたんだ?」
    「君が最初に襲った、ホーランドと言う兎獣人の教授からだ。……テンコって言うのは、どう言う意味なのかな。央中や央北によくあるような名前じゃないし」
    「聞きたいか……、ケケ。んじゃあ、聞かせてやるよ。
     古い伝説に存在する瑞獣、天狐。数百年、千年も生きた妖狐が変化・昇華した、金毛九尾の狐。あらゆるものを見通す、天翔ける素晴らしきオキツネサマだ。
     お前らの目論見なんざ、この克天狐サマは全部お見通しだぜ……?」
     そう言って、天狐は右手を挙げた。
    「……ジーナ!」
     ネロが合図を送る。ジーナはすぐに反応し、魔術を放った。
    「『サンダースピア』!」
    「おおっと、お前も雷使いか? んじゃあ変更――『スプラッシュパイク』」
     天狐は途中まで唱えていた雷の魔術を止め、水の魔術に切り替えた。
     途端に横の壁にヒビが走り、湖の深層水を固めたと思われる、水の槍が飛んできた。
    「うっ……!」
     ジーナの放った雷の槍が水の槍に触れた途端、パチ……、と乾いた音を残して消滅した。
    「雷魔術の『電気』は、水魔術の『液体』に吸収される。残念だったな、猫女」
    「あ、うっ……」
     ジーナの魔術を吸収した水の槍は、そのままジーナを弾き飛ばした。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    魔術や属性などは、密かに色んな設定を作っています。
    ただ、大部分は秘密です。後々のために。

    NoTitle 

    この辺の魔法の属性の相性の描写はさすがですね。
    雷と水というのも。
    ファンタジー書きの私としてはこういう描写をできるのがうらやましいですね。
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