「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・狐狩録 6
晴奈の話、第503話。
「鈴林」の存在理由。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「まーた、かよ」
バートが苦虫を噛み潰したような顔で、柱を蹴る。
「ループしたりしなかったり、おちょくってんのかっつーの」
「ホントねぇ」
小鈴も「鈴林」で、印のついた柱を小突こうと右手を挙げた。
が――右手に重量が感じられない。
「……あれ?」
見てみると、さっきまで握っていたはずの「鈴林」が、どこにもない。
「……え、あれ? 『鈴林』、ドコやっちゃった?」
「え?」
「持ってたじゃねーか、さっきまで」
「そ、そうなんだけどさ、いつの間にか無くなったって言うか、……ドコ?」
家宝の魔杖が手元から消え、小鈴は狼狽している。
と――シャラ、と鈴の音が鳴る。小鈴は音のした方を振り返った。
「……レイリン、なの?」
「そっ」
そこには、かつてクラフトランドでアランと戦った際、瀕死の小鈴たちを助けてくれた「杖の精」、レイリンがいた。
「小鈴、ホントにアタシのコト、大事に思ってくれてるんだねっ。……嬉しいよっ」
「そ、そりゃ、まあ。いつも助けてくれるし。……でも何で、突然その姿に?」
レイリンはどこか寂しそうな笑顔で、小鈴に笑いかけた。
「小鈴、よく聞いてねっ。アタシの出自と、これからのコト」
「へ……?」
「う……く……」
弾き飛ばされたジーナは倒れたまま、動かない。残ったネロとフェリオは、緊張した面持ちで天狐と対峙していた。
「さて、と。大人しくしてくれるよな、お前らは。一々全員を相手すんのも、めんどくせーし」
「……だ、誰がッ!」
フェリオは散弾銃を構え、立て続けに撃ち込んだ。
「ヘッ、大人しくしてりゃいいものを」
天狐は左手をひょい、とかざし、魔術で壁を作る。その半透明の壁に阻まれ、散弾は一つも天狐を傷つけることができなかった。
「く、……くそッ!」
フェリオは諦めず、弾を再装填してもう一度、撃ち尽くす。だがこれも、天狐の壁を崩すことはできなかった。
「無駄、無駄ぁ……! いい加減、諦めろッ!」
天狐は壁を解き、右手を挙げて電撃を放った。
「……ッ!」
フェリオは立ちすくみ、迫り来る電撃を見ているしかなかった。
「『マジックシールド』!」
だが、フェリオに直撃するその直前、先程まで天狐が使っていたのと同様の半透明の壁が、フェリオの前に現れた。
「あ……?」
突然の妨害に、天狐は舌打ちした。
「チッ……、しぶといな」
フェリオを守ったのは、倒れたままのジーナだった。いや、ネロに抱きかかえられる形で、上半身を起こしている。
「負けやせんぞ……、これしきのことで……」
「言うじゃねーか、猫女。だったら……」
天狐は両手をジーナに向け、呪文を唱える。
「コレを喰らって、まだそんな減らず口が利けるかッ!? 『ナインヘッダーサーペント』!」
天狐の尻尾が、一斉に毛羽立つ。それと同時に、紫色に輝く九つの稲妻が、ジーナとネロに向かって放たれた。
「耐え切れ……っ、『マジックシールド』!」
ジーナはあらん限りの魔力を振り絞り、壁を作った。
「出自、……って」
そう言ってみて、小鈴はレイリンの素性をまったく知らないことに気が付いた。
「小鈴はアタシの――『橘果杖 鈴林』のコト、どのくらい知ってる?」
「えー、と……、あたしのひいばーちゃんが克に貢献して、その見返りにアンタをもらったってコトくらい、かな」
「じゃ、聞くけどっ。お師匠の克大火が、何でアタシを杖に込めたと思う?」
「へ?」
思ってもいなかったことを聞かれ、小鈴はきょとんとした。
「あたしが聞いたのは……、いつの間にかアンタが、入ってたって」
「小鈴、アンタが思ってるより、お師匠は思慮深いよっ。何の考えも無しにアタシを込めたりしないし、ましてや気が付いたら入ってたなんてコトもありえない。
こーゆー事態のために、アタシは世界中を回って知識と魔力を貯めてたんだよっ。情報屋一家の橘家なら、世界中を旅する人もいるしねっ」
「こーゆー、事態? モンスターが大量発生した時のために、ってコト?」
「違う違う、そうじゃないのっ。
……お師匠はね、あんまり弟子に恵まれない人だったの。アタシの前に、七人の弟子がいたんだけど、そのほとんどに死なれたり、裏切られたりしてたの。中には、お師匠の命を狙ってくるヤツもいたしっ。
そのうちの一人が、七番弟子の克天狐。お師匠の持つ魔術の奥義や秘伝を根こそぎ奪おうと、三日三晩に渡ってお師匠と戦った。でもお師匠も、天狐も、そうそう簡単に死ぬ体じゃない。どれだけ傷つけても、お互い死ぬコトは無かった。
だから結局、ギリギリで勝ったお師匠は、湖の底に天狐を沈め、封印したのよっ。でも、その封印だって永久的なものじゃないし、封印したお師匠本人にトラブルがあれば、解けてしまう可能性も少なくない。
そして今、お師匠はいない。……ココまで聞いたら、ピンと来たでしょっ?」
「つまり……、アンタの存在理由は、復活した裏切り者の弟子を?」
「そっ。……アタシが、封じなきゃならないの。本当なら、もっとずっと後の話になるかも知れなかったけどねっ」
レイリンはそう言って、ため息をついた。
「……正直な話、まだ足りない。知識も、魔力も。とてもじゃないけど、封印できそうにない。せめて後100年は、世界を回らなきゃ……」
そこで、レイリンは言葉を切った。
「……でも、やらなきゃ。それが、アタシの存在理由だもん」
「……い、おい?」
「……!」
バートに肩を叩かれ、小鈴は我に返った。
「杖、すぐそこに落ちてたぜ」
「え? ……あ」
バートから杖を受け取りながら、小鈴はきょろきょろと辺りを見回した。しかし、どこにもレイリンの姿は無かった。
蒼天剣・狐狩録 終
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「鈴林」の存在理由。
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「まーた、かよ」
バートが苦虫を噛み潰したような顔で、柱を蹴る。
「ループしたりしなかったり、おちょくってんのかっつーの」
「ホントねぇ」
小鈴も「鈴林」で、印のついた柱を小突こうと右手を挙げた。
が――右手に重量が感じられない。
「……あれ?」
見てみると、さっきまで握っていたはずの「鈴林」が、どこにもない。
「……え、あれ? 『鈴林』、ドコやっちゃった?」
「え?」
「持ってたじゃねーか、さっきまで」
「そ、そうなんだけどさ、いつの間にか無くなったって言うか、……ドコ?」
家宝の魔杖が手元から消え、小鈴は狼狽している。
と――シャラ、と鈴の音が鳴る。小鈴は音のした方を振り返った。
「……レイリン、なの?」
「そっ」
そこには、かつてクラフトランドでアランと戦った際、瀕死の小鈴たちを助けてくれた「杖の精」、レイリンがいた。
「小鈴、ホントにアタシのコト、大事に思ってくれてるんだねっ。……嬉しいよっ」
「そ、そりゃ、まあ。いつも助けてくれるし。……でも何で、突然その姿に?」
レイリンはどこか寂しそうな笑顔で、小鈴に笑いかけた。
「小鈴、よく聞いてねっ。アタシの出自と、これからのコト」
「へ……?」
「う……く……」
弾き飛ばされたジーナは倒れたまま、動かない。残ったネロとフェリオは、緊張した面持ちで天狐と対峙していた。
「さて、と。大人しくしてくれるよな、お前らは。一々全員を相手すんのも、めんどくせーし」
「……だ、誰がッ!」
フェリオは散弾銃を構え、立て続けに撃ち込んだ。
「ヘッ、大人しくしてりゃいいものを」
天狐は左手をひょい、とかざし、魔術で壁を作る。その半透明の壁に阻まれ、散弾は一つも天狐を傷つけることができなかった。
「く、……くそッ!」
フェリオは諦めず、弾を再装填してもう一度、撃ち尽くす。だがこれも、天狐の壁を崩すことはできなかった。
「無駄、無駄ぁ……! いい加減、諦めろッ!」
天狐は壁を解き、右手を挙げて電撃を放った。
「……ッ!」
フェリオは立ちすくみ、迫り来る電撃を見ているしかなかった。
「『マジックシールド』!」
だが、フェリオに直撃するその直前、先程まで天狐が使っていたのと同様の半透明の壁が、フェリオの前に現れた。
「あ……?」
突然の妨害に、天狐は舌打ちした。
「チッ……、しぶといな」
フェリオを守ったのは、倒れたままのジーナだった。いや、ネロに抱きかかえられる形で、上半身を起こしている。
「負けやせんぞ……、これしきのことで……」
「言うじゃねーか、猫女。だったら……」
天狐は両手をジーナに向け、呪文を唱える。
「コレを喰らって、まだそんな減らず口が利けるかッ!? 『ナインヘッダーサーペント』!」
天狐の尻尾が、一斉に毛羽立つ。それと同時に、紫色に輝く九つの稲妻が、ジーナとネロに向かって放たれた。
「耐え切れ……っ、『マジックシールド』!」
ジーナはあらん限りの魔力を振り絞り、壁を作った。
「出自、……って」
そう言ってみて、小鈴はレイリンの素性をまったく知らないことに気が付いた。
「小鈴はアタシの――『橘果杖 鈴林』のコト、どのくらい知ってる?」
「えー、と……、あたしのひいばーちゃんが克に貢献して、その見返りにアンタをもらったってコトくらい、かな」
「じゃ、聞くけどっ。お師匠の克大火が、何でアタシを杖に込めたと思う?」
「へ?」
思ってもいなかったことを聞かれ、小鈴はきょとんとした。
「あたしが聞いたのは……、いつの間にかアンタが、入ってたって」
「小鈴、アンタが思ってるより、お師匠は思慮深いよっ。何の考えも無しにアタシを込めたりしないし、ましてや気が付いたら入ってたなんてコトもありえない。
こーゆー事態のために、アタシは世界中を回って知識と魔力を貯めてたんだよっ。情報屋一家の橘家なら、世界中を旅する人もいるしねっ」
「こーゆー、事態? モンスターが大量発生した時のために、ってコト?」
「違う違う、そうじゃないのっ。
……お師匠はね、あんまり弟子に恵まれない人だったの。アタシの前に、七人の弟子がいたんだけど、そのほとんどに死なれたり、裏切られたりしてたの。中には、お師匠の命を狙ってくるヤツもいたしっ。
そのうちの一人が、七番弟子の克天狐。お師匠の持つ魔術の奥義や秘伝を根こそぎ奪おうと、三日三晩に渡ってお師匠と戦った。でもお師匠も、天狐も、そうそう簡単に死ぬ体じゃない。どれだけ傷つけても、お互い死ぬコトは無かった。
だから結局、ギリギリで勝ったお師匠は、湖の底に天狐を沈め、封印したのよっ。でも、その封印だって永久的なものじゃないし、封印したお師匠本人にトラブルがあれば、解けてしまう可能性も少なくない。
そして今、お師匠はいない。……ココまで聞いたら、ピンと来たでしょっ?」
「つまり……、アンタの存在理由は、復活した裏切り者の弟子を?」
「そっ。……アタシが、封じなきゃならないの。本当なら、もっとずっと後の話になるかも知れなかったけどねっ」
レイリンはそう言って、ため息をついた。
「……正直な話、まだ足りない。知識も、魔力も。とてもじゃないけど、封印できそうにない。せめて後100年は、世界を回らなきゃ……」
そこで、レイリンは言葉を切った。
「……でも、やらなきゃ。それが、アタシの存在理由だもん」
「……い、おい?」
「……!」
バートに肩を叩かれ、小鈴は我に返った。
「杖、すぐそこに落ちてたぜ」
「え? ……あ」
バートから杖を受け取りながら、小鈴はきょろきょろと辺りを見回した。しかし、どこにもレイリンの姿は無かった。
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双月千年世界 目次 / あらすじ

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他サイトさんとの交流

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短編・掌編

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雑記

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クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ポールさんのコメントではないですが。
私も文字数にすると少ないですからねえ。
黄輪さんの小説は文字数が多くて背景が浮かびやすいですから、膨大な文字数になりますよね。
未だに書き続けているからすごいと思います。
私も文字数にすると少ないですからねえ。
黄輪さんの小説は文字数が多くて背景が浮かびやすいですから、膨大な文字数になりますよね。
未だに書き続けているからすごいと思います。
- #1906 LandM
- URL
- 2014.05/19 20:20
- ▲EntryTop
NoTitle
以前、試しに「蒼天剣」全話を印刷してみたら、A4用リングファイル7冊分になりました。
改めて膨大な量だな、とびっくりした記憶があります。
改めて膨大な量だな、とびっくりした記憶があります。
NoTitle
一回ごとの更新、わたしが普通に書いて900~1500字くらいですから、黄輪さん、わたしの倍書いてるんですね。
それで数百話を。
頭が下がります。
それで数百話を。
頭が下がります。
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NoTitle
まだまだ続きますよ。